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第27話

ありがとうございます!

「そうだ」


藤野はニヤリと笑いながら言った。


「『身体強化』って何ですか?」


和葉がみんなの思いを代弁したかのように尋ねる。


「それについて説明するには、先にある物について説明しなければならない。それは魔素だ。お前らの体内にある魔素……それは何も能力だけにしか使えないわけじゃないんだ」


「えっと……すみませんどう言うことですか?」


和葉はよく意味がわからなかったのか、首を傾げている。他にも同じようなポーズをとっている生徒が何人かいた。


「何も不思議なことじゃない。そもそもお前らは何故自分が能力者でない一般人に比べて遥かに優れた身体能力を持っていると思う?」


「何故って……僕たちが能力者だからじゃないんですか?」


いつの間にか和葉が代表のようになっているが、みんなの答えも似たり寄ったりなのか、他に発言する者はいなかった。


「まあ間違ってはいない。ただその答えだと50点だな。もっと詳しく言えば、お前らを超人たらしめている要因は魔素にある」


「魔素に……」


「そうだ。お前らは無意識のうちに何かの動作を起こす時、魔素を使っている。それにより、お前らは一般人のラインを遥かに超えた身体能力を発揮しているんだ」


「そんな理由が……でも無意識のうちに出来てるんなら、今から覚える必要なんてないんじゃ……」


「必要ならある。無意識に行なうものと意識して行うものとではレベルが違う。『身体強化』を習得できれば、今より数段上の動きができるだろう」


「それって身体能力を底上げするタイプの能力と何が違うんですか?」


藤野の話に対して、光輝が疑問を呈した。光輝の「地獄耳(サウンドスティール)」のように身体能力を強化することそのものを能力としている者もいる。そう言った能力者と何が違うのかを光輝は聞いているのだ。


「いい質問だ坂織。確かに私が言った『身体強化』と能力としてのそれは似たようなものだ。ただひとつ違う点がある。それは効力だ。あくまで今からやる『身体強化』は技術にすぎず、能力には到底及ばん。その効力は能力者と比べて半分もないだろうな」


「なるほど、『身体強化』を覚えたからといって、自分達が身体強化系の能力者と同じ動きが出来るってわけじゃないんですね」


光輝は少し安心したようにほっと溜息をついた。光輝の能力も分類的には身体強化系には入るので、自分の能力が誰にでもできるかもしれないと言う不安が払拭されたからだろう。


「でもそれならその『身体強化』ってのを覚える必要あるのか?」


火神が興味なさそうに藤野に尋ねる。


「確かに能力者と比べたら見劣りするだろう。だがやるとやらないのでは雲泥の差だ」


「うーん……」


5組の生徒は乗り気ではなさそうだ。あまり必要性を感じていないからかもしれない。


「そうかそうかやりたくないか……。残念だなぁ、これをマスターすればBクラス、もしかしたらAクラスにも勝てるかもしれないのに」


藤野が思わせぶりに言った言葉にピクピクっと生徒達の耳が動いた。今まで興味なさそうだった者も顔を上げる。


「勝てる……俺たちが?」

「それって本当ですか!?」


「ああもちろんだ」


藤野は口角を上げながら、軽く頷いた。


「そもそもお前らが5組(ここ)にいるのは、戦闘という分野においてお前らの能力は劣っていると言う判断に基づいてだ。つまり能力だけ見ると勝ち目はほぼない。なら他のところでその差を埋めるべきだ。ひとつでも勝てるところがあるなら、勝率はぐっと上がるはずだ」


「なるほど……俺やってみるぜ!」


真っ先に声を上げたのは火神だった。


1人が先陣を切ると、他の面子も次々にそれに続く。最終的にはその場にいた全員が挑戦するということで話がまとまった。


「なるほど、全員やるってことでいいんだな?」


「「「はい!」」」


5組の生徒は先程までとは違い、やる気に満ちた顔つきをしていた。


「現金なやつらめ……まあ良いだろう。というより今日はこのために特別に講師を呼んであるからやってもらわんと困る」


そう言うと、藤野は隣にいた日清水に顔を寄せて何か耳打ちする。藤野が顔を離すと、日清水は溜息をつきながら、


「全く……あやちんは人使いが荒いんだから」


そう言い、懐から携帯を取り出し、どこかに電話をかける。日清水は電話を切ると、藤野に、すぐ来るってさ、と告げる。


「えっと……今から誰が来るんですか?」


「その質問は最もだが、実際見た方が早いだろう。何より説明するのが面倒だ」


教師としてあるまじき理由を最後に藤野はぶっちゃけた。だめだこの人……と悠里達が思っていると、不意に生徒達の間を後ろから強い突風が吹き抜けた。しっかりと持っていなかったためか、生徒達が持っていた紙が何枚か風に乗り舞い上がる。それを追いかけ、生徒達が視線を上に上げると、その視界を何かが横切った。いや、何か……ではなくそれは人だった。ふわりと綿のように静かな着地をしたその人物は、土を払いながら生徒達の方を振り返る。


「やっほー、殆どの人は初めましてかな?対魔士してます、蒼乃空です。よろしくね!」


そこに現れたのは蒼乃空だった。空は5組の面々を見渡しながら、挨拶する。途中で悠里と目が合い、パチンとウインクしたのに対し、悠里は反応に困った挙句、軽く頭を下げると言う無難な返しをした。


「蒼乃空って……あの蒼乃空!?」

「今日は空さんが教えてくれるんですか!?」


先程までの藤野の話を聞いていた時とは比べ物にならない程、興奮したように生徒達は騒いでいた。空の人気は5組でも健在らしい。


「なあ、あいつら一回締めていいか?」


「気持ちは分かるけど、だめだよあやちん。それに何だか無邪気で可愛いじゃないか」


自分の時とは打って変わった反応に、怒りを覚える藤野を日清水がなだめる。


その甲斐あってか、落ち着きを取り戻した藤野が口を開く。


「お前ら浮かれるのは分かるが、ちょっと落ち着け。あんまりうるさいとぶっ殺すぞ」


日清水の行為はあまり意味がなかったようだ。


「というわけで今日は特別講師として蒼乃に来てもらった。忙しい中時間を作ってくれてるのであんまり迷惑かけないようにな」


「「「はい!!!」」」


少し前に藤野の問いに答えた時より3倍くらい声が大きかった。その事実に藤野は再びこめかみに青筋を浮かべそうになるが、このままでは話が進まないと、なんとか我慢する。


「それにしても今日は本当によく来てくれたな。声をかけたのは駄目元だったんだが……」


「まあ都合よく仕事も入ってなかったですし。それに……少し気になることもありまして」


意味ありげな空の言葉に藤野は眉を寄せるが、変に追求して機嫌を損ねたくなかったーーただ面倒だったという意見もあるーーため、スルーすることにした。


「まあ何にせよ今日は助かった。じゃあ早速だが頼む」


「はーい」


自分の仕事は終わったとばかりに藤野は一歩引いた。そして藤野とは逆に一歩前に出た空に視線が集まる。


「よし、じゃあ始めようか。『身体強化』を覚えるためにまずはじめにやることそれは……体内の魔素を感じることだね」


そう言って目を瞑り、両腕を広げる。


「『身体強化』で一番大事な事は魔素をコントロールするってこと。意識を自分の内側に向けるんだ。心臓の鼓動、筋肉の動き、そして魔素の流れ。この魔素の流れを感じることが第一歩だよ」


そこで一旦言葉を区切り、目を開ける。


「それにね、この魔素をコントロールするっていうのは、『身体強化』だけじゃなくて色んな面で役に立つんだ。例えば私の能力って風を操る事なんだけど、まあぶっちゃけて言えば、魔素の流れなんて感じてなくても突風を起こす事くらいできるよ?でも、魔素をコントロールできると……見てて」


そう空が口にした途端空を中心として、旋風が巻き起こる。その風は、人をどうこう出来る程の力はなかったが、先程風に飛ばされてそのまま地面に落ちていた紙を舞いあげる。


宙に舞い上がった紙はバラバラに飛んでいく……事はなく、空が操った風によって一つに束ねられ、空の手に集まる。空はその紙の束を掴むと能力を止めた。


「ね?こんな事も出来るんだ。だから今から教える事は覚えて損はないよ」


空の一連の行動を食い入るように見ていた悠里達は、その空の一言でふと我に返る。


「みんなには、魔素をコントロールすることの大切さを少しでも分かってくれたら嬉しいかな。よし、じゃあ今度はみんなの番だね」


空の見せた能力の使い方は、悠里達に新しい可能性を感じさせるものだった。そのため悠里達5組の面々は、今までにない興奮を覚える。そんな悠里達は、空の言葉に対し強い頷きで返した。

ありがとうございました!



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