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第26話

ありがとうございます!

悠里達が第二グラウンドに到着したのは、授業開始30秒前となかなかギリギリだった。


辺りを見渡してみると、もう他の生徒は揃っていた。


「ふう、なんとか間に合ったな」


「お、遅かったな」


悠里が息を整えていると、火神が声をかけてきた。


「まさか1時間目を教室でやらないなんて思ってなかったんだよ。結構余裕を持ってきたつもりだったんだが」


「あー、まあ俺たちのクラスって入り口から結構遠いしな。思ってるよりも早めの行動を心がけた方がいいぞ」


「和也からそんなためになる意見を聞けるとは……遅刻の最有力候補だと思ってたんだが」


「おい、どういう意味だコラ。へへっ、聞いて驚け!俺は一学期皆勤賞なんだよ!」


「ナ、ナンダッテー」


「こらそこ、下手な漫才はやめろ授業を始めるぞ」


雑談に興じていた生徒達の前に姿を現した藤野は、悠里と火神をチラッと一瞥しながらそう言い、注目を集めるように手拍子をした。


「今日は突然集まってもらってすまなかったな」


「それは別にいいんですけど、今から何するんです?」


「身体能力テストだな」


「身体能力テスト?」


「そうだ、お前らがどの程度の身体能力を持っているかを測る。能力の使用は禁止だ。何か質問はあるか?」


藤野が生徒を見渡しながら問う。


「どのようなことをするのですか?」


おずおずと手を挙げたのは愛品だった。能力を使っていないため、上品な言葉遣いをしている。


「そうだな、やる事は普通の高校と変わらない。お前らもやったことがあるだろう50メートル走や、ボールの遠投なんかだ」


「なるほど、分かりましたわ」


「他には?」


ほかに質問したいものはいなかったのか、手は上がらなかった。


「よし、じゃあ早速やって行くぞ。そうだな、とりあえず男子と女子に分かれるか」


そう言い、藤野はクラスを半分に分ける。5組は男女比が半々なのでこれで丁度いいだろう。


「じゃあ男子は向こうに集合しといてくれ。女子はこっちだ」


藤野は目印に置いていたのであろうコーンを指差す。そして女子を引き連れて違う方向へ歩いて行った。


「最初は何するんだろうね?」


「さあな。ただあそこに引いてるラインからして走ったりするんじゃないか?」


生徒達は各々雑談しながら藤野に言われたポイントまで歩く。


「こっちだよこっち〜」


悠里は和葉と話していたため横に向けていた顔を正面に向けると、見覚えのある女性が立っていた。


「あれ?日清水先生?なんでこんなところに?」


白衣を着て気怠そうにしているのは昨日ぶりとなる日清水だった。


「あやちんの手伝いでねぇ。じゃあやることも多いし、早速始めようか。2人ずつ並んでくれるかい?」


日清水は10人の生徒を2人ずつに並べる。


「50メートル先にコーンが置いてあるのが見えるだろう?最初はここの引いてあるラインからあそこまで全力で走って欲しいんだよねぇ」


どうやら最初は50メートル走らしい。悠里の予想は的中していたということだ。


「よし悠里!俺と勝負しようぜ」


悠里と二人組になったのは、和也だった。その楽しそうな顔から察するに、和也はこういった勝負ごとが好きなのだろう。


「いいぜ、負けた方は今度学食奢りな」


「乗った!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そ、そんなバカな……」


「はっはっは!これが勝ち組と負け犬の差なんだぜ悠里」


膝をつきながら現実を受け入れられないでいるのは悠里で、勝ち誇った顔をしているのは和也である。


「く、たかが0.1秒速かっただけで偉そうに……っ」


「0.1秒だろうがなんだろうが勝ちは勝ちだ。ただ悠里もなかなか速かったぜ。いい勝負だった」


火神が悠里に向かって手を差し出す。


「はぁー、そうだな。いい勝負だったよ、楽しかった」


悠里もその手を握り返した。男と男の友情が生まれた瞬間である。


「あ、学食の件忘れんなよ?」


「くそっ覚えてたのかよ!なんかいい雰囲気で誤魔化せたと思ったのに!」


どうやら男と男の友情とは、築かれるのも早いが壊れるのも早いらしい。


その後も、特に問題が起きるわけでもなく悠里達は順調に予定を消化していった。


「はい、お疲れ様。これで最後だね」


最後の種目だった反復横跳びを終えると、悠里達男子は女子達とも合流し、最初に集まった場所へ戻ってきた。


「はい、あやちん」


「あやちんって呼ぶなと何度も言ってるだろう」


日清水が藤野に紙の束を手渡し、藤野はため息をつきながらそれを受け取る。


それは悠里達男子が測定を行っている間に結果を書き込んでいたこのテストの結果である。

女子の方は藤野が記録していたのだろう。


「ふむ、朝比奈は瞬発力はあるが、持久力にかけるようだな。坂織は走るのは速いが瞬発力が弱いな」


もらった紙の束にさーっと目を通すと、簡単に分析して述べる。


「このように今回のテストだけでも自分に何が足りないかがうっすらとでも分かるだろう。ぜひ今後の参考にしてくれ」


そう言い、生徒一人一人の名前を呼びながら、紙を手渡していく。


「次、黒羽」


「あ、はい」


藤野に呼ばれ、悠里は藤野の下まで行く。


「お前は………なんと言うか普通だな。これと言って特徴がない」


「それ何気に酷くないですか!?」


若干涙目になりながら、藤野から手渡された紙を受け取る。


そこにはすべての数値が平均と微差なTHE普通といった成績が載っていた。


悠里は自分の成績に少し複雑な気持ちを抱きながら、元いた位置に戻る。


全員に配り終えたことを確認すると、藤野は再び口を開く。


「全員行き渡ったな?渡し漏れはないな。よし、これにて身体能力テストは終了だ」


「ふぅ、やっと終わりかぁ」


「さっさと教室に戻ろうぜ」


「ちょっと待て。誰が教室に戻れと言った?」


踵を返し、教室に戻ろうとした生徒を藤野が呼び止めた。


「え、でもこれで終わりなんじゃあ……?」


「確かに身体能力テストはこれで終わりだ。ただ今日はまだ予定があってだな。寧ろそっちが本番と言っていい」


「何をするんですか?」


藤野はその質問に対して、一泊溜めを作ると口を開いた。


「今からお前らには『身体強化』を覚えてもらう」


「「「『身体強化』?」」」


生徒を見つめる藤野は悪そうな笑みを浮かべていた。


ありがとうございました!

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