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第24話

ありがとうございます!

悠里の言葉に対して返ってきた反応は様々だった。


「記憶が……ない?」


火神や光輝のように、呆然とするもの。


「……………」


美嘉はどこか悲痛そうな感情をその表情に覗かせる。


空と可憐は、同じような態勢で顎に手をやり、何かを考え込んでいた。


その2人の姿はやっぱり姉妹だなぁと、そんな思いを悠里に抱かせる。


少し微妙な空気になってしまったと感じて、悠里は口を開く。


「まあ、記憶を失ったからといってそこまで不便な思いをしたことはないんですけどね」


悠里が笑いながら話したことで、張り詰めていた空気が少し緩んだ。


「それにしても記憶喪失か………悠里も苦労してるんだな、分かるぜ」


うんうん、と頷いている火神に、いやお前に何が分かるんだよと思ったのは悠里だけではなかったが、空気がより和んだのを感じたのか、ツッコミを入れるものは居なかった。


「少し話を戻すけど、黒羽くんは記憶がないからもしかすると昔に魔物と戦ったことがあるのかも知れないと思ったわけだね?」

「そう言うことになりますね」


空は再び顎に手をやる。


「そういえば黒羽くんと可憐は知り合いなんだよね?」

「ええ……といっても知り合ったのは今日だけどね。黒羽くんとは同学年なのよ」

「そっかあ、遂に可憐にも春が来たんだね。何だか嬉しいような寂しいような……。でもお姉ちゃん応援するよ!」

「………1人盛り上がっているところ悪いのだけど、私と黒羽くんはそんな関係じゃないわ」

「そうですよ、蒼乃みたいな綺麗な人には俺なんかじゃ釣り合わないですよ」

「………」

「ほほーん」

「こほん、姉さん話がずれてるわよ」


悠里の言葉に対して可憐は表情を変えなかったが、空には長年の経験から可憐が照れていることが分かった。


面白い玩具を見つけたかのようにニンマリと笑顔を浮かべ、空は可憐の顔を覗き込む。


可憐は、そんな姉をじろっと睨んでから、一つ咳払いをして話を元に戻す。


「そ、そうだね、話を戻そうか。可憐と同学年ってことは黒羽くんは今高校一年生ってことだよね?じゃあ中学生ぐらいの時から前の記憶がないのか……。でもそんな幼い頃に魔物と戦ったって言うのも信じられないなあ」


空がそう言うのも無理はない。他の人に言っても信じてもらえないだろう。


「うーん、でも初めて戦ったって言うには良い動きすぎたよね……。まあわからない事をあれこれ考えても仕方ないか。有望な新人はいつでも大歓迎だしね!」


空は色々悩んだ挙句どうやら自己完結したらしい。


「そうね。何にせよ黒羽くんが無事でよかったわ」

「ほんとだよ!悠里が魔物に突っ込んでいった時はどうなることかと思ったよ」

「みんなにも心配かけたな、ごめん」


悠里はそう言い頭を下げる。


会話がひと段落したと判断し、空が口を開く。


「いつまでも外にいるのもあれだし、境界の中に戻ろうか」


悠里達は空の言葉で境界の中に戻った。


「リーダー、もう良いのか?」


そう戻って来た悠里達……正確には空に向かって声をかけて来たのは、空と同じローブを羽織った男だった。空のパーティメンバーだろう。男の後ろには他のメンバーもいた。


「ん、ああもう大丈夫だよ。ごめんね、時間取らせちゃって」

「いや、元々は俺たちのせいでもあるしな。それよりもそこの少年、本当に申し訳なかった。俺たちが油断したせいで君を危険な目に合わせてしまった」

「いやいや頭を上げてください!全然気にしてませんから」


男達は悠里の方へ向き直り、頭を下げる。目上の人、それも複数に同時に頭を下げられると言うのは悠里に何だか申し訳なさを感じさせ、体の前で手を振りながらやめるように言った。


「そうか、ありがとう。それにしても先ほどの戦闘は見事だった。君は良い対魔士になるだろうな」

「すごいよ悠里!岩瀬さんに褒められるなんて!」


この時悠里は知らなかったが、朱雀最強の空を擁するこのシルフィードというパーティは一流のメンバーのみによって構成されていた。シルフィードというパーティは全ての対魔士達の憧れなのだ。この岩瀬という男もCランクだが、一線級の実力を持っている。


「あ、ありがとうございます」

「うむ、素直なのは良いことだ。これからも精進したまえ」


岩瀬は厳つい顔をしており、気難しそうな雰囲気を感じるが、実際話してみるとそうでもないようだと悠里は思った。


「さて、私たちはこれから報告に行かないといけないね」


空が周りを見渡しながら言った。


「そうですか、じゃあここでお別れですね」

「うん、そうだね。特に黒羽くんは早く帰って休む事をお勧めするよ。無理は禁物だし、疲れっていうのは知らず知らずのうちに溜まっているものだからね」

「そうですね、そうすることにします」


悠里自身は特に疲れているというのは感じていなかったが、先達の言葉は素直に聞くことにした。


「じゃあ私たちはそろそろ行くよ。また機会があればよろしくね」

「はい、今日はありがとうございました」


立ち去る空達を悠里達は見送る。


「蒼乃はこの後どうするんだ?」

「私は少し離れたところに車を待たせてあるから、それで帰るわ」

「そうか、じゃあまたな」

「ええ、じゃあまた」

「ま、また!」

「また会おうぜ!」


空達と同じように可憐も見送る。可憐が少し歩くと、燕尾服を着こなしたいかにも執事ですと言った紳士風の男性が現れ、可憐をエスコートしているのが見えた。


「蒼乃の家ってお金持ちなのか?」

「うん。良い家柄の出っていうのは聞いたことあるよ」

「へぇ……」


執事など物語の中でしか見たことがなかったため、悠里は少し感動した。


蒼乃の姿が見えなくなり、悠里は光輝と火神の方に向き直る。


「じゃあ空さんにも言われたし、俺達も帰るよ」

「うん、わかった。じゃあまたね!」

「また明日学校でな!」


光輝と火神と別れて、悠里と美嘉は帰路につく。特に寄り道したり、問題が起きたりすることもなく家に辿り着いた。


時計を見ると、夕方の6時を少し回ったところだった。


「そろそろ晩御飯の用意をしないといけない」

「いや、今日は適当に惣菜とか買ってきたから特に何かする必要はないぞ」

「そう。じゃあお風呂沸かしてくるね」

「いや、俺がやるよ」

「ダメ。悠兄は疲れてるんだから休んでて」


そう言われては悠里は何も言い返せず、お言葉に甘えてリビングで寛ぐことにした。ソファに横になると、どっと眠気が押し寄せてきた。


いつの間にか、悠里の意識は暗闇に沈んでいった。


「んん……ふわぁ」


悠里が目を覚ますと、悠里の身体に毛布がかけられていた。目をこすりながら時計に目をやると8時を指していた。どうやら2時間ほど寝ていたらしい。


「あ、悠兄起きた?」


なぜかエプロンをした美嘉がキッチンから顔を出しながら尋ねた。

心なしかいい匂いがした。


「なんだかいい匂いがするな……。この匂いはカレーか?」

「正解。もうすぐできるから待ってて」

「今日は作らなくていいっていったのにどうして……?」

「今日悠兄は頑張ったから……。悠兄カレー好きでしょ?だから作ってみた」

「美嘉……ありがとう」

「ん、はい、できたよ」


疲れているのは美嘉も同じはずなのに、悠里のためにカレーを作ってくれた美嘉の優しさに悠里は心が温かくなるのを感じた。


「おお、美味い!」

「ふふっ、ありがとう」


普段作っているカレーと味は変わらないはずだったが、悠里にはいつもよりずっと美味しいと感じられた。


あまりの美味しさに普段はほとんどしないおかわりまでしてしまったほどである。


「あー美味しかった」

「お粗末様」


悠里が食べ終わった食器を洗おうとすると、


「悠兄はしなくていいよ。私が洗っておくから、先お風呂はいっちゃって」

「いや、流石にそれは悪い。俺が洗うよ」

「いいよ私が洗う」

「俺がやるよ」


このままだといつまでもこの問答が続くと判断した美嘉がある提案をする。


「じゃあこのお皿は悠兄が洗ってもいい。その代わり条件がある」

「条件?」

「お風呂で悠兄の背中を流させてほしい」

「え、マジ?」

「まじ」


突然美嘉から出された提案に対し、ぐぬぬっと悠里が悩んだ末出した結論は、


「………風呂はいってくる」


悠里はどうやらヘタレだったらしい。


美嘉にとっては最初の希望が通った形だったが、どこかその顔は不満そうだった。悠里は全力でその顔を見なかったことにして、さっさと風呂に入ってしまおうと思った。


悠里は長風呂するタイプではないので、髪と身体を洗い、お湯に浸かって十分温まったと感じたらすぐにお風呂から上がる。


悠里が身体を拭いて髪を乾かしリビングに戻ると、再び眠気が襲ってきた。


普段はまだ寝る時間ではなかったがこの眠気には抗えないと感じると、悠里は美嘉にもう寝るとだけ伝え、自室に行きベッドに潜り込む。


どうやら相当疲れていたらしい、今日は色んなことがあった、そんなことを考えている暇もなく、悠里は深い眠りに落ちていった。

ありがとうございました!

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