第14話
ありがとうございます!
ここで少し魔物のランクについて説明しよう。魔物のランクはEからAまでの5段階で定められている。
Eランクは1番低位の魔物であり、最も討伐が簡単だと言われている。
ただしだからと言って油断できる訳ではない。一般人は勿論、能力者でさえも油断すれば負ける事がある。
対魔士の世界において、Eランクを一人で狩れるかというのが一つの山場となる。
能力だけを見れば負けることは考えにくいのだが、どうしても魔物の殺気に当てられ、臆してしまう者が毎年何人もでる。
そう言った意味でEランクとは新人にとっての登竜門なのだ。ちなみに対魔士の方にもランクが設けられている。
これは同ランク帯の魔物を一人で討伐できるという証である。もし、1人ではなく、2から5人の複数人で討伐に成功した場合は、準○ランクといった風な呼ばれ方をする。
次にDランクだが、これを一人で討伐できると、やっと一人前として認められるといったところだ。
そして戦力としても数えられるようになる。何故かと言うと、最も個体数として多いのがDからEランク帯の魔物だからである。
それらの魔物を討伐できるとなれば戦力として上々だろう。
そしてCランク。ここまで来るとかなりのベテラン、もしくは実力者といってもいいだろう。
Cランク以上の能力者は隊の中でも数が少なく、尊敬される立場にある。
それは何故か?
理由としてはCランク以上の能力者は全員もれなくかなりの実力を持った猛者であること。
そしてもう一つの理由が、Bランク以上の魔物の数がCランク以下と比べて圧倒的に少ないことにある。
Aランクに至っては過去1度しか出現したことがない。
そのAランクの魔物を一言で表すなら、ドラゴン、といった言葉が使われるだろうか。
魔物名「双龍」と呼ばれる二つの首を携えた魔物は、近隣の街を襲った。
人々の心には確かに恐怖があったが、何処かで結界があるから大丈夫だろうと楽観視していた部分があったのは否めない。
しかしその怪物は、結界内に入る際かなり弱体化したが、その歩みを止める事はなかった。
家やビルを砂の城でも崩すかのように破壊し、厄災を撒き散らした。人々の目には壊れゆく街がどこか現実感の乏しい情景として映った。
その間対魔士達は何もしなかった訳じゃない。むしろ彼らは頑張った方だろう。
結果として、討伐には成功した。
その代償として街は半壊し、死傷者はその街の人口のおよそ半分。能力者も数十人が犠牲となった。
しかし、対魔士達の奮闘がなければ全滅もありえただろう。それどころか他の街にまで被害が及んだだかもしれない。
そういった意味では、被害は軽微だったと言えるのかもしれない。当事者達は絶対に首を縦に振らないだろうが。
このようにランクAともなると天災のような存在なのだ。そんな物がポンポン出てくれば、とうに人類は滅んでいるだろう。
Bランクにしても、Aランクとまではいかないが、人々に絶望を与えるには十分な存在である。
並みの能力者では、出会った瞬間に死を覚悟しなければいけないだろう。
それを単独で討伐せしめるBランク能力者は、とても貴重な存在なのである。
現在旧日本領土で見てみると、朱雀の国には2人、青龍に2人、他の国には1人ずつしかいない。
このように魔物は強さによってランクが定められており、それが戦いにおいての指標となっている。
ちなみに、まだ対魔士になっていない学校の生徒はFランク、つまり見習い扱いである。
「蒼乃は対魔士になりたいのか?」
という悠里の推測を交えた質問に対して、
「ええ、まあね 」
と、少し目線を下に下げながら蒼乃は返答した。
その様子を少し怪訝に思いはしたが、そこまで親しいわけでもないため、悠里は特に言及しなかった。
その言葉を境に少しの間、場を沈黙が支配したが、不意に蒼乃が視線を下の高さまで戻すと、視線を横に動かした。
「ところで、そっちの2人は誰なのかしら?」
「ん、ああ、紹介するよ。左が朝比奈和葉、右が木原杏里。俺のクラスメートなんだ。生徒手帳を届けるのについて来てくれたんだよ」
「あらそうだったの。それは失礼したわね。では改めて、蒼乃可憐よ。朝比奈さんに木原さんね?よろしくお願いするわ」
蒼乃は2人を交互に見た後軽く頭を下げた。
「杏里でいいわ。私も可憐って呼ぶから。よろしくね可憐」
木原が手を差し出しながら話し掛ける。しかし、握手に応じる手は出てこなかった。
やはり落ちこぼれと握手するのは嫌なのかと木原が落胆とも納得とも取れるようなため息をつくと、固まっていた蒼乃が慌てたようにその手を取った。
「あ、いえごめんなさい。なんて言うかその……下の名前で呼ばれるの慣れてなくて……」
よくよく見れば蒼乃の顔には少し赤みが差していた。
凛とした雰囲気を持っている蒼乃が照れて赤くなっている様子に悠里が少し見惚れていると視界の端に木原のからかうような笑みが見えた。
「ふーん……可憐って結構可愛いとこあるわね」
「な!か、可愛いだなんて私には似合わないわ。そんなこと言うならそこに居る朝比奈さんの方がずっと可愛いわよ!」
「……僕、一応男なんだけど……」
ずーんと言う言葉が目に見えそうなほどわかりやすく落ち込んでいる和葉に、ご、ごめんなさい!と蒼乃が一生懸命謝っている。
その様子が可笑しく、悠里と木原はつい噴き出してしまった。
蒼乃が2人に、笑ってないで助けてよ!と言う抗議の目を向けると、さすがに悪いと思ったのか和葉を慰める輪に加わる。ただしその肩は小刻みに震えていた。
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数分後、悠里達はなんとか和葉を慰めることに成功した。と共にどこか弛緩した空気が流れる。その空気を終わりにするように蒼乃が口を開く。
「さて、もうそろそろ行かないと」
蒼乃につられて時計を見ると結構な時間が経っていた。
「この後何かあるのか?」
「ええ、ちょっとね」
「そうか、引き止めて悪かったな」
「そんな事ないわ、もともと私の責任だもの。後ありがとう、生徒手帳の事もそうだけど、久々に楽しい時間が過ごせたわ」
「そっか、それなら良かったよ」
「うん、僕のせいで時間取らせちゃってごめんね?」
「いやいや、朝比奈さんは何も悪くないじゃない。こちらこそごめんなさい、朝比奈さんがあんまりにも可愛……綺麗な顔をしてたものだから」
「う、今可愛いって言おうとしたでしょ?ふん、いいもん、どうせ僕は女顔ですよーだ」
和葉がぷいっと再び不貞腐れたような態度をとってみせると蒼乃はまたオロオロし始める。
その様子を横目にチラッと確認した和葉は、態度を一変し、悪戯が成功した子供のような笑顔で、蒼乃に向き直る。
「冗談だよ冗談!後、朝比奈さんなんて他人行儀な呼び方じゃなくて、和葉でいいよ。僕も可憐ちゃんって呼ぶから!」
「そ、そう?じゃあ、こほん。これからよろしくね、和葉くん……これでいいかしら?」
「バッチリだよ!こちらこそよろしくね、可憐ちゃん!」
「可憐、まだ時間大丈夫なの?」
木原は水を差すようで悪いと思いながらも蒼乃に問いかけた。
「あ、もうあまり余裕がないわね。早く行かないと。じゃあこの辺りで失礼するわ」
「うん、またね可憐ちゃん」
「う、うんまたね」
和葉は蒼乃に手を振る。蒼乃は少し恥じらうようにためらった後、小さく手を振り、去っていった。
蒼乃を見送った後、悠里達もこの後特に予定などはないため、校門へと向かった。
「俺あっちなんだけど2人は?」
校門に到着したところで悠里は2人に問いかける。
「あ、そうなんだ。私と和葉はこっち。じゃあここでお別れね。今日は面白かったわ、明日からよろしくね」
「僕も今日は楽しかったよ、また明日ね」
「ああ、俺も楽しかったよ。こちらこそよろしくな。じゃ、また明日」
その言葉を皮切りに悠里は右、木原と和葉は左へと歩き出した。
下校する彼らを……いや、彼を見下ろす視線があった事に3人が気付くことはなかった。
遅くても1週間おきに投稿します!
後、前話を少し改稿しました。
よろしくお願いいたします!




