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第12話

ありがとうございます!

「「「「「か、神さまぁ!?」」」」」


5組の面々が驚くのも無理のないことだ。何せそこにいたのは、紛れもなく始業式の時挨拶していた神さまその人なのだから。

ましてやここは落ちこぼれの呼び声高い5組である。1組ならまだしもこんな所に来るなんて予想できるはずもない。


「で、学園長。なぜこんなところに?」


軽く目と目の間あたりをつまみながら疲れた口調で藤野が問う。


「ん、今言ったじゃないか藤野。そこの編入生の彼に能力名を与えに来たって」


見た目中学生ぐらいの女の子が大人の藤野を呼び捨てにする光景は違和感を与えて余りあるが、そのことを口にするものはいなかった。


「で、本音は?」

「あははは、まー藤野にはバレちゃうか。それなりに長い付き合いだしね」


呆れたような目を神さまに向ける藤野に対し、

からかうような笑みを浮かべて舌を出している姿は年相応に見える。


「ちょっと彼に興味があってねぇ?」


先程までの茶化すような雰囲気は鳴りを潜め、

射竦めるような視線が悠里を捉えた。悠里は自分の事を余り物怖じしない性格だと思っているが、この状況では首筋を伝う自己主張の強い汗を自覚せずにいられなかった。


「お、俺ですか?」

「そう、君。えっと……幼女趣味の変態く「違えよ!いつまでそれ引っ張んだよ!ちょっとみんなもそんな目で見ないで!」」


一瞬ピリッとした空気が一気に弛緩するのを感じながら、このままではいつまで経っても話が進まないと藤野が口を挟む。


「それで学園長。なぜ彼にご興味が?」

「ん?それはね……いや、ここでする話でもないかな。近くで見れた事でひとまず満足しておくとするよ。そんな事より彼の能力名の話に戻ろうか」


露骨な話の逸らし方だったが、藤野は今までの経験から、生徒達は能力名の方に興味が移り、追求する者はいなかった。


「彼の能力名は…………「詳細不明(アンノウン)」」

「「詳細不明」………これはまた分からない名前が来たわね」

「テレポーターとかそんな感じの名前かなって思ってたんだけどなー」


そんな俄かに騒めき出す生徒達の間を悠々と通り抜け、神さまは悠里の下まで行き、少し屈むようにジェスチャーした。

悠里が屈むのを確認した後、その耳へ小ぶりな唇を近づける。


「君達の事は応援してるよ。それはそうと君は……本当にこの世界(・・・・)の人間なのかな?……ま、いいや。それじゃ、まったねー」


そう悠里の耳元で囁くとその身を翻し、入り口まで行き、子供のように無邪気な笑みを浮かべながら、「バイバーイ」と教室から去っていった。


「今神様に何言われたの!?」

「え、いや、俺達の事応援してるって……」

「え、嘘!?神さまからも期待されてるならなおさら頑張らなきゃだね!」


周りが騒ぎ浮かれる中で悠里は神さまに言われた事が頭から離れなかった。


ーーーこの世界?それじゃあまるで別の世界があるみたいじゃないか。いや待て、そう言えば神さま達の出身って……?


ぐぅ〜〜〜


真剣に考え込んでいた悠里の思考をぶち壊すかのように聞こえて来た気の抜けた音の正体を探ろうと悠里が目をやると、赤くなった顔でぷるぷるとお腹を抑えながら震えている如月の姿があった。


悠里はチラッと横目で時計を見て、午後2時近くである事を確認し、何かを察したように一つ頷くと


「そうだな、もうお昼時もだいぶ過ぎちゃってるからな。お腹も空くよな」


とデリカシーのかけらも無い言葉を口走った。悠里としてはフォローのつもりで言ったが、結果としては如月の顔が耳まで真っ赤になっただけだった。


「ダメだよ悠里。花音ちゃんも女の子なんだからそこはスルーしてあげないと」

「それ言ったらおしまいだよ!」


和葉の言葉に対しての光輝のツッコミは皆の心を代弁していただろう。

如月は伏せた頭の頭頂部に憐れみの視線がグサグサと突き刺さるのを感じた。


「何、もうこんな時間か。本当は12時過ぎぐらいには解散する予定だったんだが、予定を大幅に超えてしまったな。自己紹介もひと段落したし、今日はこれで解散にしよう。下校する者は寄り道せずまっすぐ帰れ。まだ学校に残る者は長居せず早めに帰宅するように。では解散」


悠里と同じく時計を確認した藤野は、クラスの皆に帰宅を促した。周りを見渡してみると、帰る者と残る者で半々ぐらいのようだ。


「悠里はもう帰るの?」


と悠里が忘れ物がないかチェックしてる背中にに和葉は問いかけた。


「ん、ああ。すぐ帰るつもりだ……っと一個しないといけない事があったんだった。和葉はこいつの事知らないか?」


と悠里は話しながら鞄の中に手をやり、一冊の生徒手帳を取り出した。


「それ、悠里のじゃないの?」

「ああ、ちょっと道で拾ってな。持ち主に返したいんだが……」

「ふーん、ちょっと名前見せてね」


そう言って和葉は悠里の手元を覗き込む。そこには「蒼乃可憐」の文字があった。


「あ、この人!」

「誰だか知ってるのか?」

「知ってるも何も、同学年でこの人を知らない人なんて居ないよ!」

「ふーん、そんなに有名なのか?」

「有名だよ、何せこの人はこの学校の1年生の中で2番目に強い人だからね!」

「2番目……ってことは」

「そう実力者揃いの1組の中でもトップクラスの能力者だよ。確か能力名は……「重力支配(グラビティマスター)」だったかなぁ」

「なんだか凄そうな能力名だな……。まあそんな有名人なら渡すのも楽そうだな。」

「それはどうかしらね」


悠里と和葉との会話に口を挟んだのは木原である。


「ん、何か問題でもあるのか?」

「蒼乃可憐さん…だったかしら。彼女はその容姿の綺麗さでも有名だけど、近寄りづらいことでも有名なのよね」

「何か近寄りがたい理由でもあるのか?」

「自分から他人と話そうとしないっていうのもそうなんだけど、笑ったところどころか表情を変えたところを見たことないのよね……。クラスが違うからって言われたらそれまでなんだけど」

「あーそう言えば確かに気難しそうな顔してたな」

「あれ、悠里は蒼乃さんに会ったことあるの?」

「いや、ちょっと道で見かけただけだ。その後にこの生徒手帳が落ちてるのを見つけたんだよ」

「そうだったんだ、まあ何にせよ返すなら早いうちの方がいいよね。それに話して見たら意外といい人かもしれないよ?」

「だな、じゃあ1組まで行くか」

「じゃあ僕も行くよ。この後することもないし」

「私もご一緒させてもらうわ。おもし……心配だし」

「おい、今面白そうって言いかけただろ。はぁ、じゃあ3人で行くか」


悠里は二人を連れて心に比例し若干重くなった足を動かしながら、教室のドアをくぐった。


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