第10話
「じゃ、次は私の番ね」
横から聞こえてきた声に対して、数時間前より明らかに老けて見える顔を悠里が向ける。
「なんて顔してんのよ……。このぐらいで疲れてたら後持たないわよ?まだ半分も来てないんだから」
「あ、ああ……。ちょっとこのクラスを甘く見てたみたいだ……。よし、いいぞ。始めてくれ」
「まったく…しっかりしてよね」
木原は一言そう言うと、呆れたように目を伏せて小さく息を吐いた。そして再び悠里を見た。
「名前は木原杏里。能力名は「妖精たちの囁き」。改めてよろしく」
「ああ、よろしくな木原。じゃあ能力を詳しく説明してもらっていいか?」
「ええ分かったわ」
木原はそう言うなり悠里の方へ一歩近づき、ずいっとその顔を寄せた。
腰の辺りまで伸びた艶のある緑髪をなびかせ、木原がその端正な顔を近づけると、悠里は自分の頬が熱くなるのを自覚した。
<もしもし、聞こえる?>
「いや、聞こえるも何もこの距離で聞こえないわけが………」
質問の意味が分からず、悠里は思ったことをそのまま言おうとしたが、悠里はあることに気づいた。
ーーー木原の口が動いていない……?
<ふふっ、その感じだと気づいたみたいね?>
「もしかして……念話ってやつか?」
<そうそうその通りよ。いわゆるテレパシーってやつね>
「へぇ……面白いな。これって俺もそっちに話しかけられるのか?」
「ええ、可能よ。私に伝えるっていう意思を持ちながら、何か頭の中で言ってみて」
悠里が言われた通りにすると、
<スカートのチャック開いてるぞ>
悠里がさっきからずっと思っていたことを伝えると木原の顔がかぁっと赤くなった。
ドスッ!
「ん?何今の音?」
「さて、何かしらね?」
角度的に光輝から木原が悠里に腹パンをしたのは見えなかったらしい。
お腹を押さえながら呻く悠里を尻目に、木原はコソコソとチャックを直した。
<デリカシーのない男はもてないわよ>
「お……おお……本当に聞こえてたんだな……。それにしてもこの能力は便利そうだな。しっかし、なんでこんなに使えそうな能力なのにこのクラスにいるんだ?」
「悠里………それはフリかい?」
光輝がため息をつきながら、悠里に問いかける。
「やっぱりなんかあるんだな………」
「当たり前でしょ?」
なぜかドヤ顔の木原に悠里は突っ込む気力すら湧かなかった。
「で、結局なんなんだ?お前の欠点」
「なんかその言い方だと私自身に欠点があるみたいだからやめてほしいんだけど……」
「そんなに間違ってないだろ。木原の能力なんだから」
「能力の欠点よ、能力の。ちょっと話が逸れちゃったわね。私の能力の欠点は、話したい人だけじゃなく周りの人全員にも聞こえることよ」
「周りの人?具体的にはどこにいる人まで聞こえるんだ?」
「えっとね……私自身と、私が念話で話したい相手の人までの距離より、私に近いところにいる人には全員聞こえるわ」
「つまり、木原を中心として相手までの距離を半径とした円の中にいる人には聞こえるってことで良いか?」
「ええ、その認識で構わないわ。だから特定の人とだけ内密な話をしたい時とか使えないのよ。相手がすぐ近くにいるなら使えるんだけど……そんな時なら使わなくていい場合がほとんどなのよね」
「そうだな……戦ってる最中とかも難しいよな……。相手の方が近い時もあるだろうし……」
「そゆこと。とまあそんなわけで、このクラスにいるってわけ」
「ああ……超納得したよ」
はははっと乾いた笑みを浮かべている悠里に、同情の眼差しが多数寄せられた。
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その後も自己紹介は順調……とは言えず、悠里のライフをゴリゴリ削りながら進んだ。
「次は誰だ?」
「次は、私の番ですね」
「お、あんたは……」
声につられて悠里が目を動かすと、最初に教室に入ってきた時に悠里を助けてくれた女子生徒が目に入った。
「さっきはありがとうな。えっと……」
「愛品雫です。好きなように呼んでください」
愛品と名乗った垂れ目がちな目つきとおっとりした雰囲気が特徴的なその少女に、悠里は違和感を覚えた。
「よろしくな愛品。それはそうと、なんかさっきと口調変わってないか?」
「ああ、そのことですか。実は私、能力を使ってる最中人格が変わるんです。それに伴って口調も変わるんです」
「へぇ、そうだったのか……ってそれ結構大事じゃねぇ!?」
「そうですか?あまり気にしたことはありませんが……」
「あんたがそれでいいなら別にいいんだけど……そういえばまだ能力を聞いてなかったな、教えてくれるか?」
「ええ、構いませんよ。でも私の能力はやってみたほうが早いかもね」
「急に口調が変わったな……。あれ?口調変わったってことはもしかして今能力使ってるのか?」
「うーん、ちょっと違うかな。正しくはいつでも使える状態ってところかしら……。今から私が指示する通りに行動してくれる?」
「別にいいけど……?」
「じゃあ…こほん。『その場で跳びなさい』」
「わ、わかった」
突然の要求…というか命令に戸惑いながらも、言われた通りにその場でジャンプすると、軽く跳んだはずが、全力で跳んだ様に体が浮き上がった。
ちなみに、能力者の身体能力は馬鹿にならないので、飛んだ拍子に天井に頭をぶつけるのは当然の結果だった。
「痛っててて………。なんかめっちゃ跳べたんだけど……?」
「私の能力名は聖女の導き。私が能力を使った相手が指示した行動をした場合に限り、その能力を引き上げることができるの。自分には使えないんだけどね」
「なるほど……支援に特化した能力ってわけだな。今のところ使い勝手の良さそうな能力に聞こえるけど……」
「まあそうはいかないのがこのクラスだよね」
悠里はしたり顔で言う光輝にデコピンをお見舞いしながら、愛品の方を見る。
「残念ながらお察しの通りよ。まずこの指示しなきゃならないっていうのがネックよね。使いたい相手の人が今から何をしたいのか分かってないと使えないのよ。まあ一番の欠点はそこじゃないけど」
「その欠点とやらは何なんだ?」
「うーん、もうそろそろじゃないかしら?」
何がだ?と言おうとした瞬間、悠里は目眩に襲われた。鼻に違和感を感じ、擦ってみると手に血が付いていた。
「あなたの場合は、鼻血みたいね」
「どういう事だ?」
「私の能力を受けた人は力を上げた反動か、何かしらの副作用が出るのよ」
「それは使う前に言っておいて欲しかったよ!」
「あらごめんなさい。ついうっかり」
「誠意が微塵も感じられないんですけど!?」
悠里がジト目を向けるも、愛品は涼しげな顔をしていた。
「はぁ……もういい。気を取り直して次行くか」
「悠里、悠里。愛品さんで最後だよ」
横から光輝が教えてくれる。
「そうか、全員分終わったのか。予想より時間がかかったな……」
「何勝手に終わらせてんのよ」
「まだ一人残ってるじゃん!」
その場にいた全員の視線が悠里に突き刺さった。
「あれ、やっぱり聞きたい?」
「「「いいから早く言え(いなさい)」」」
「あ、はい」
悠里は周囲の圧力に押され、喋り始めた。
次話の投稿日は未定です。




