第1話
投稿日は不規則です。
百年前。確実に人類の歴史に刻まれるであろうある出来事が起こった。
能力者、と呼ばれる者が人類史上に登場したのもこの時からである。ただこの出来事のメインは能力者の登場ではない。
時間は夜だった。突然上空に強い輝きを放つ光が生まれた。人々は急な出来事に困惑するしかなかった。
神々しい光を放つそれは凄まじい速さで地上に降りて来た。そして空中でピタッと静止する。
人々が呆気に取られていると、輝きが徐々に輪郭を形作り始めた。
それは4人の人の形をしていた。
辺り一帯を昼間のように照らす輝きを放ち、純白の翼を携え、荘厳な雰囲気を醸し出しているそれらを形容する言葉があるとすればそれは、
「神様………」
「神様の誕生」と何の比喩でも冗談でもなく、歴史に刻まれたのである。
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ー20XX年、8月27日ー
「ふっふふんふふ〜ん」
夏の暑さも峠を越え、蝉の合唱もそろそろクライマックスを迎えるだろう夏休みも今日を入れて後5日といった日、1人の黒髪の少年ーー身長は165センチほどで、やや小柄な体格をしており、幼さの残る顔つきではあるが、比較的イケメンの部類に入るであろうーーが鼻歌交じりに東京の……いや、元東京の道を歩いている。
あの「神さまのお誕生日」というふざけた名前のつけられた日から100年が経った。当時から今に至るまで、世界中が大きく変わった。
日本における変化としてはまず、日本という国がなくなった。そして4つに分けられた。それぞれ白虎の国、朱雀の国、玄武の国、そして青龍の国と呼ばれている。これらの名前は「神さま」と呼ばれる人たちが日本の事を知った後に決めたらしい。
今この少年がいる元東京だったこの地は現在朱雀の国の領土になっている。
ちなみに「神さまのお誕生日」という名前も神さま達本人が決めたことだ。
ーーー俺が神さまだったとしたら「神さまのお誕生日」なんてふざけた名前頼まれてもお断りだけどな。
そんな事をぼんやりと考えながら少年が歩いていると5人組の男が俯いている青髪の少女を取り囲んでいるのが目の端に映った。周りを見てみると、周囲の人は気づいている様だがそのまま歩き去ったり、遠巻きに見ているだけで誰も助けようとはしていない。
その時少年は気付くべきだった。青髪なんていう普通の日本人にはありえない様な髪の色を見た時に。
数日前に編入試験を受け、今日合格が決まり、勉強のストレスから解放されて上機嫌だった少年は普段なら絶対に湧かないような正義感に身を委ねて、助けてやるかーと思った。いや思ってしまった。
少女の方に近づいていくと、さっきまで男達の間から見えている少女の服装が目についた。その少女は高校のものだろうと思われる制服を着ていた。その制服に既視感を覚え、少年は一瞬立ち止まった。
そしてその行動が彼を救った。
ドスンッ!と少年の目の前に少年より大きなアスファルトの塊が落ちてきた。立ち止まらなかったら潰されていただろう。チラッと少女の方を見ると道路が大きく抉れていた。
ーーん?男たちが見当たらない。一体どこにい……
ドサドサドサッ!
少年の耳に不吉な音が聞こえてきたので、おそるおそる後ろを振り返ると、さっきまで少女を取り囲んでいた男たちが全員地面に倒れこみ痙攣していた。
ーーーさっきのはまさかあいつらが落下した音か?あーなんかピクピクしてるし、死んでないよな?
と現実逃避気味に少年が男たちから目をそらし前を向くと、さっきまで俯いていた少女が顔を上げていた。
空の青のように美しい青い髪を肩口で切りそろえており、凛とした横顔からは気品が感じられる。夏服の襟からは白く透き通った肌が覗いていて、水晶のような青い眼に悠里は吸い込まれそうだった。
少年が少女に見惚れていると、その少女と目があった。
その少女は不機嫌そうに少年を睨みつけており、笑えば可愛いのにという少年の感想はもちろん頭の中で思っただけで言葉になる事はなかったが、思った瞬間眼光の鋭さが5割り増しというサービスを提供されたので首を180度回し、少年は全力で目をそらした。
あれ以上見つめ合っていたら恋より先に涙が生まれると、少年は本気で思った。
その体勢を続けていると、首から変な音が鳴り始めたので仕方なく前に戻す。少女はすでにこちらに背を向け歩き出していた。
ほっと安堵のため息を吐き、少年もそこを立ち去ろうとすると、少女が立っていた場所に手帳の様なものが落ちている事に気がついた。
さっきまで湧いていた正義感はほとんどなくなってしまっていたが、少しだけ残っていたモノをかき集めて、落とし物は交番に届けないとなとまたため息をつきながらそれを拾い上げた。それに目をやると、とある学校の生徒手帳の様だった。
そこには「蒼乃 可憐」という名前とさっきの少女と同じ顔のやはり鋭い目つきをした顔写真。
そして学校名が書いてあった。
学校名に目を通した少年は制服に既視感を覚えた理由に思い当たり、本日3度目にしてより深くため息をついた後、天を仰いだ。彼の頭の中には、彼が合格した学校のパンフレットのモデルの生徒が来ていた制服と、「能力者」という単語が、ぽつぽつと浮かんだ。
見上げた空は、憎らしくなるぐらい青かった。
これからよろしくおねがいします