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兄と幼馴染と初ダンジョン

 北の門から街を抜け、目指すは東にある森の街。

 森なのか街なのかはっきりしてほしいが、想像するに木々が生い茂っているのだろう。


「木の洞に住んでみたいなあ」

兄ぃ(流也)なら住ませてくれんだろーよ。頼んでみれば?」

「落ち葉を掃くのが大変そうだし毛虫が多そうだが、楽しそうだな」


 こんな子供の夢物語を一蹴しないのがこの二人のいいところなのが、ルイファイスは流しているだけだし兄さんは天然なだけだ。


 フィールドが二つに分かれているのは前述したと思うが、今私たちが通っているのは【街道】の方。ここはMOBの発生が少なく、街と街を直接繋いでいる血道。毛細血管と言うべき道も存在していて、その先や道の周囲にあるのが【ダンジョン】だ。

 これは数百は存在すると言われている(らしい)のだが、この一つ一つに固定のMOBが設定されている。

 ダンジョンのMOBを倒せば確率でそれに関連する【騎士】カードを落とすので、マニア心を持ったプレイヤーにはたまらないだろう。


 クエストは街で発生するが、ダンジョンに関連するものも多いらしい。

 私たちはとりあえず森の街に行き、そこで情報収集とクエスト消化をしようと計画を立てた。


「ところでダンジョンってどれですか?」


 見渡しても特にそれらしいものはない。

 湖があったり、何故かわからないが花壇があったり、木が一本だけ生えてたりとちょっとカオス。


 が。


「ああ、あそこら辺の、全部ダンジョンだ」

「えっ?」


 ルイファイスが指差したのは無駄に澄んだ湖とか中央に一本だけ花があるだけの花壇とかリンゴの木とか。


「近寄るとダンジョンが選択出来て、更に近寄ると入れる」

「別マップなのか。昔のRPG。」

「同マップにしたらこのシステムじゃやってらんないだろ」


 うん、確かに。


 納得するが、そうなるとちょっとダンジョンに寄ってみたくなるというのが子供心。寄り道の心得だ。


「兄さん、私喉が渇きました。泉に行ってもいいですか?」

「ああ、もちろんだ」

「フリーダムだなこの兄妹。もちろんだ、じゃねえよ」


 言いつつも反対しないでくれるルイファイスは実はいい奴だと思う。私と同族とはとても思えない。


 私たちは主道から外れた脇道に入り、その奥にあった泉のダンジョンに足を踏み入れた。






 そのダンジョンは言うならば【光指す花畑の一画】だった。


「「おおー」」

「水ー!」



 私は駈け出し泉の水を掬った。さすがに飲めはしないので手の中の水は吸い込まれるように消えていく。隣ではルイファイスが花を引き抜こうとして惨敗していた。そこまでリアルにはできなかったようだ。


「綺麗だな」

「ですー!」


 中央に巨大な木と、それに寄り添うように綺麗な水を湛えた小さな泉が、その周囲に花畑が、更に囲むように森が広がっている。私たちが入ってきた道だけが薄暗い森に続いていた。


 全体的に陰っているのだが、木々の間から光が射しこむ、という演出なのか暗いわけではない。時々影が出来ているくらいで、一言でいえば【幻想的】。


「私、ここに家を建てます」

「花を潰さないようにな」


 真面目な顔をして宣言する私と生真面目に注意する兄さん。ルイファイスが額を抑えていた。角が邪魔そう。


「でもここ、これだけですか? MOBいませんし、ダンジョンじゃない感じがするんですが?」

「お前、掲示板とかチェックしてんのか?」

「いいえ」

「いっそ清々しく答えるなっ!

 中にはこういうところもあるんだよ。制作陣の趣味だって言われてる」

「ほーう?」


 制作陣の趣味、ねえ?


 【騎士】たちはカードに戻すこともでき、アイテムボックスに仕舞うことで身軽に移動できるようになっている。

 兄さんとルイファイス、それに私もカードに戻していたのだが、その中からラァンとククルを選んで実体化させる。


「ククル、おいで!」

 ほーう?


 奇しくも私と同じ音で鳴きながら、白いフクロウが私の頭にとまる。


 命名【猫のひげ】

 対象【ラァン】

 説明【猫の鋭い感覚を更に強化させる】

 効果【目に見えない物を見つける】


 送信。


――承認。審判として許可します――


 よし。


 ぐ、と手を握るとルイファイスが手元を覗き込んでくる。だが、私専用である画面が見えるはずもなく怪訝そうな顔をするばかりだ。


「ククルの能力でラァンに探索能力をつけました。

 ラァン、頼みますよ!」

 にゃああん!


 元気な声が返ってくる。


 うろうろとあちこちを回っていたラァンを見守っていると、やがてこちらを振り返って鳴いた。

 見てみると森の一部がフィールド化していて進めるようになっている。


「すげえな。反則臭ぇ……」


 うるさい、実力だ。


「制作陣に、あの極白夜の制作陣に、こんな高尚な趣味持ってる奴いないですから」

「断定かよ……!」


 だって、いないでしょう?


 私は意気揚々と森の隙間に潜り込んだ。


「ルウ、行くぞー」

「わかってる」


 泉の近くに佇んでいた兄さんが小走りで来る。


 はぐれないように気を付けながら、森を進んでいくと子供ほどの大きさの葉っぱに手足を付けたようなモンスターがわらわらと集まってきた。おお、和む。


「かわいいですねー」

「阿呆、エンカウントだ!」


 え? ああ、そう言えばこれゲームだった。


 私を庇うようにラァンが前に出る。全身の毛を逆立てて威嚇する子猫に、葉を震わせて威嚇するモンスター。

 その間に降り立った巨狼は両者の奮闘なんのその、前肢で葉っぱたちを踏みにじっていった。


「さすが……強い……」

 みぃ! みー、みぃぃ!


 鳴きまくるラァンを抱き上げると、フェンリルは優雅に私の腕に鼻を寄せ。

 その鼻に猫パンチが飛んだ。


「……」

「…………」

「………………ラァン! 自殺行為でしょっ!」


 慌てる私に、しかしフェンリルは騒がず怒らず大人の余裕でラァンの顔をぺろぺろと舐める。


「………………」

「…………」

「……大丈夫そうですね」


 負けじとフェンリルの顔を舐め始めたラァンを巨狼の背に乗せ、何事もなかったかのように奥へと向かった。




 泉があったマップの出入り口を北とすると、森の隙間があったのは南東の位置。そこから真っ直ぐに進むと何故か泉に出た。


「……あれ? 戻ってきました?」

「いや、違う。別の泉だ」


 断定した兄さんは泉の底を覗き込んでいる。


「目印でもつけたのか?」

「地面に干渉できないのにどうやってだ?

 目印なら元からある」


 覗いてみると、水底に石が沈んでいた。しかも、文字が刻まれている。

 どう見ても石版だった。


「入口のところにもあった」

「言えよ!」


 即座に飛ぶルイファイスの叱責。


「ええと……【矛盾の象徴、無限の実体。其は分たれし三つの存在。絡めしものは――ここから先はかすれて読めない】」


 ちなみに【――】以降も原文のままだ。


「……どいう意味?」

「さあ?」

「さあな。三つの存在なら三つのヒントがあるんだろう」


 なるほど確かに。

 ちなみに最初の石版には何が書かれていたのだろう?


「【我は何?】とだけ書かれてあった」

「なんか怖ぇな、その一文。」


 大いに同感。なんか不気味だ。

 とはいえ……。


「なんだろう……? なんか覚えがあるんですよね……?」

「奇遇だな、俺もだ」

「何だろうな?」


 三人揃って首を傾げる。

 沈黙が流れる中、フェンリルだけが呑気に耳を掻いていた。


「……まあいい。その内思い出すだろ。行こうぜ」

「道無いですよ?」

「何のためにラァン出してんだよ」


 ツッコまれ、思い出す。

 心得たもので、ラァンは鼻を鳴らしながら周囲を探索してくれる。その後ろでフェンリルがお座りしているのがかわいい。見守っていてくれてるようだ。


 みゃ。


 指された場所からは森の更に奥にいけるようだ。さすがラァン、かわいいかわいい。


 でも、なんだかなあ、この光景、見たことあるんだよなあ……。




 進み、見つけ、探すを更に二回ほど繰り返し、私たちは元の泉に戻ってきていた。

 エンカウントでは花や木の実やキノコが襲ってきたのだがフェンリルが一掃した。出番がないヘルとヨルムンガンドがちょっとかわいそう。


 さらに見つけた二つの泉だが、やはり石版が沈んでいた。文字はそれぞれ。


【視えぬものにして存在するもの。視えるものにして存在しないもの。視えぬもとにして存在しないもの。其は分たれし三つの概念。繋がりしとき――】

【其がある故に彼らがある。それらは交わり、しかし永久に一つにはならない。其は分たれし三つの乙女。生まれし理由は――】


 ちなみに【――】の以下は【ここから先はかすれていて読めない】だ。


 これは謎解きですねえ。

 最初の文章は、


【矛盾の象徴、無限の実体】


 そして、


【視えぬものにして存在するもの。視えるものにして存在しないもの。視えぬもとにして存在しないもの】


 んで、


【其がある故に彼らがある。それらは交わり、しかし永久に一つにはならない】


 訳すと……。


【矛盾≒無限といえる存在】

【一つは見えないけど存在してて、一つは見えるけど存在しない、一つは見えないし存在もしない】

【一つがあるから他の二つが存在出来て、三つで一つだけど同じものではないよ】


 以上。

 ふむ?

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