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無自覚と反則技とレアカード

 ギンガから受け取ったアイテムボックスを手に、私は街に繰り出していた。

 アイテムボックスは腕輪型で、宝石部分に手を乗せるとリストが現れる、という優れ物。

 リング部分は銀色の細い線が幾重にも絡み合ったデザイン。大きめな宝石はカットが丁寧に施され、十分装飾品としても売れそうだ。驚くことにギンガが自ら創ったらしい。

 すさまじくほしいのだが、値段は10万E。無理、とても買えない。


 さてさて、今回の任務ですが。

 20000E売ったら馬具ゲット、売れなければ借金地獄。という極端なもの。


 リストを見るとカードからアイテムなど様々なものが入っている。

 カードは【騎士】と補助カードを指すのだが、アイテムはそれ以外の全て、という実に大ざっぱなものだ。


 【食料】や【ライト】などの消耗品、【防具】や【武器】、【装飾品】などのRPGお馴染みのアイテムを把握しながら広場を抜けて街の東に出る。


 光の街は動物広場を中心に東西南北に道が伸び、その左右に店が連なっている。めちゃくちゃ長い十字架をイメージしてもらえば正確に伝わるだろう。

 北にはギルドが経営する店が、西にはNPCの露天・店が、東にはプレイヤーの露天・店が、南にはそれ以外の建物がごっちゃになってそれぞれ存在している。


 北のギルド街を抜けると街から出る唯一の門があり、そこからしかフィールドには出られない。


 ちなみにフィールドには【街道】と【ダンジョン】に分かれているのだが、それは後にして。


 今はカードとアイテムを売りさばこう。


 向かうは東、プレイヤー街だ。


 ギンガのいる西のNPC街で商売をしてもあまり効果はないし、北のギルド街ではフィールドに行こうとするプレイヤーしかいない。理由としてはまだギルドを設立したプレイヤーがいない、というものがあるのだが……まだ二日目ですからね。


「ギンガ店出張販売ですー!」


 帽子を脱いで振り回し、声を張り上げ、ちらほらといるプレイヤーの注意を引く。

 どのプレイヤーも【三騎士】たちを引き連れているが、ただの動物にしか見えない猫馬フクロウを連れている私はそれなりに目立っていることだろう。


 さて、ここでククルの出番です。


「5000E以上の買い物をしてくれた先着50名に高性能補助カードをプレゼントいたします! たくさん買い物してくれたお客様にはさらにサービスしますよー!」


 一分間に二枚までという条件はついているが、一人の客を捌くのに五分はかかる。問題はない。


 果たして狙い通り、ちらほらといた客たちは吸い寄せられるように私の前に並んだ。

 いつの世も最後にものを言うのはレアカードなのです。







 ギンガに腕輪型アイテムボックスを渡し、馬具を交換する。

 イルトに装備させてみると全体のステータスが上がっていた。


 馬具は四つで、頭、体、足、首の装備品扱いになった。

 【宵闇のハミ】【宵闇の鞍】【宵闇の蹄鉄】【宵闇の手綱】で、宵闇で統一されている。


 四つ全て装備することで効果を発揮し、【落下を防止する】【所有プレイヤー以外の接触を防ぐ】【馬具の破壊を無効にする】【速度を上げる】の効果を持つ。そして、全てに【ATK+3】が付与されていた。

 さらに、【条件を満たした場合、効果を二倍にする】というものまであるのだが、条件がかかれていない。


 【?】を浮かべてギンガを見ると、笑いながら説明してくれた。


「宵闇シリーズは元々のATKが3以下のカードの場合、効果を二倍にするんだ。ATKなら全部+3だから……+24だな。

 ま、さすがに3以下のカードは持ち込まねえよな」


 はっはっは、と笑うギンガだが、私は流れる冷や汗で背中がびっしょり濡れた妄想に襲われていた。最終的なATKが26って、それ中級です。


「おっちゃん……」

「ギンガなギンガ。気に入ってんだ、間違えないでくれ。

 そいと、これはおまけな。審判、所有権移せ」


 ギンガに放り投げるように渡されたのは見覚えのある腕輪。反射的に受け取ると、審判AIの声が流れる。


――承認。持ち主に【レイル】を設定――


 銀のリングと赤い宝石のそれは、ギンガに借りたあのアイテムボックス。


「俺の作品には全部盗難防止の効果つけてんだけど、所有者登録すれば譲渡できる。大事にしてくれよ」

「……いいんですか?」

「おう!」


 にか、と笑うギンガ。

 腕に填めてみると自然とサイズが合う。きらきらと光るそれに笑顔になっていくのがわかる。


「ありがとうございます!」

「どういたしまして。……というか。50万越えの売り上げ叩き出されて馬具だけってただの詐欺だ……」


 何故か、ギンガはNPCとは思えない何ともいえない笑みを浮かべていた。






 イルトの効果はATKの数値分だけ破壊を防ぐというもの。

 現在のイルトのATKは26。26回破壊されない、ってもう鉄壁って言って過言じゃないと思う。


 そんな防御力を手に入れた私たちだが、防げないものも時にはある。


 例えば、今完全なる無表情で私の前に座っている男の怒りの視線、とか。


「テストプレイヤーが率先してゲームバランスを破壊してどうする?」


 鼻歌を歌いながら広場に戻ったところ、血相を変えたコートに捕まりそのまま北地区にある建物に引きずり込まれて今に至る。

 怒りの雰囲気が伝わってきてろくに抵抗もできなかったが、店の中にいたルイファイスまで困ったような呆れたような表情を浮かべているので、結構ヤバイことなのだろう。


「言っている意味がわかりません」


 コートは机を殴りつけるように拳を置いた。


「レイル、とりあえず謝っとけ」


 ルイファイスが気の毒そうにコートの肩に手を置いている。今回は全面的にコートに肩入れするようだ。くっそう。


「何か問題が? プレイヤー街で販売しましたし、審判AIが何も言ってきてないのです、ルール違反はしていないはずです」

「ゲームバランスの問題だと言っているだろう、誰が基本ルールの話をした!」


 コートが切れた。

 珍しく青筋を浮かべて身を乗り出さんばかりの勢いだ。


「君が創った補助カードのせいで、RMTが発生するところだったんだぞ!」

「すみませんでした」


 私は即座に謝った。


 リアル・マネー・トレード。つまり、現実の通過での取引はさすがにやばい、まずい、問題だ。


「【守院梟】を騎士にしたと聞いたときにいやな予感はしたが……」


 おおう、そんな名前があったんですね。


「やっぱりククルはレアカードだったんですね」

「ああ……。何十もいる中から君がよりにもよって【衛視】カードを引くとは思わなかったからな……」

「他の人ならいいのですか?」

「少なくともこんなことにはならない、という予想だった」


 どういう意味だ?

 私は駄目で一般は大丈夫、ってどんな基準なんだよ。


 と、私は思ったものの、コートもルイファイスも別意見なようで。

 二人とも半眼で呆れかえっていた。


「ステラ専属のカードデザイナーという自覚は?」

「ありません」


 言い切るとコートの拳が降ってきた。

 頭を押さえて涙を抑える私に、ため息混じりの声が降ってくる。


「【カード作成】の【審判AI】は林檎主任が直々に開発したものを使っている」

「父親と殴り合ったようなもんだな」


 ルイファイスの補足に、私は机に突っ伏した。

 そのたとえはやめろ、本当に。


「【効果】は【名称】と【説明】にリンクしている。名で体を表し、正しい説明を付与しなければ【正しい効果】として発動しない」


 つまり?


「少しでも矛盾があれば発動すらしない。それを……失敗したのは【毎分】を理解していなかった一回だけ……。最早バグだ!」

「んだとこの!」


 思わず怒鳴り返すが、確かにカードデザイナーがたまたまとはいえカード作成能力を持つ、って、ゲームバランス的にバグか悪夢でしかない。たまたまだとはいえ、という部分が本当にどうしようもない。


「安定供給をするか配布しないかのどちらかを選べ。それ以外ならば、君を消さなければいけなくなる」

「言い方気をつけてくれません?」


 アカウント削除だとわかっていても言い方気をつけて。殺人予告にしか聞こえない。


「わかりましたよ。自分専用にします」


 渋々頷くと、コートは心底安堵したように息を吐いた。

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