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お金と審判とアルバイト

 ゲーム二日目、火曜日。

 ログインすると兄さんからメールが届いていた。


 オンステラの連絡方法は大分して三つ。


 【チャット】と【メール】と【掲示板】で、さらにそれらにも種類がある。


 チャットは【フレンド登録】しているプレイヤーと音声入力で会話ができる。一対一から複数人まで対応している、VRの恩恵をそのまま受けたような電話機能。


 メールはそのまま普通にメール。チャットと違い、相手がログインしていない時にも送れるが、リアルタイムでやりとりするにはそぐわない。


 掲示板は完全に複数人用で、不特定多数のプレイヤーとのやりとりに使用される。

 メニューから【掲示板広場】にとび、そこから見たいスレッドを選択、自由に書き込めるが参加者全員が見れる為注意が必要。

 掲示板にはもう一つあり、こちらは【Fクエスト】用だ。その名も【指令掲示板】。まだ実装はされていないので詳細は不明だが、付随していくつかの機能が用意されているらしい。


 話を戻す。


 メールの本文は【五時からログインする】とのこと。現在時刻は三時なので時間はまだまだある。


 ログイン時の開始場所は最初の街である【光の街】の【噴水広場】。要は最初のあの動物がいた広場ですね。

 他の街を【拠点登録】すればその街からも開始できるらしいが、今のところ情報はない。さすがに二日目でそこまでやれる廃人はいないようだ。


 ゲームではある【ステラ】だが、廃人は存在しない。

 語彙や情報が大量に必要になる【ステラ】では、社会と隔絶するのは敗北に繋がりかねない。なので、【ステラ】上級者は総じて社会の優等生だ。

 それは【オンステラ】でも同じなのだろう。


 みゃあん?


 ログインした状態で突っ立ったままの私になにを思ったのか、ラァンをはじめ【三獣士】が頭突きをしてきた。イルトの頭にククルが乗り、尻尾にラァンがしがみついている。


「ぐはあ」


 なんだ、この癒しは!


「私も参加したいです!」


 勢い込んで言うと、イルトが首を曲げて背中を指すような仕草をする。

 まだ子馬のはずだが、私が乗っても大丈夫なのだろうか?


「潰れちゃいますよ?」


 イルトは首を振った。

 大丈夫だ、と言っているようだが……。


 …………。


 意志疎通ができるからAIは優秀なのだろうし、それが大丈夫と言っているのだから大丈夫。

 よし。


 私はイルトの背に跨がってみた。


 嘶きながら走り出し、私は躊躇いながらも鬣を掴む。

 想像以上の早さだが、リアル乗馬のような痛みはない。さすがゲーム!

 イルトが苦にしている様子もなく、ククルとラァンも楽しそうに揺れている。問題があるとすれば、私が振り落とされそうになっていることくらいだろう。


「待って待ってごめん待って! 止まってイルト、落ちるぅぅっぅ!」


 走るのに夢中になっているらしいイルトは私の声が耳に入らないようだった。馬の耳に念仏とはよく言ったものである。意味は違うけどね。






 ぐったりとしながら柱に垂れる私の隣で、イルトはしょんぼりと全身で落ち込んでいた。


「これは、あれですね。鞍が必要です……!」


 手綱類は必要ないとしても、鞍がなければ落ちる! 間違いなく!


「だったらこれなんかどうだい? 嬢ちゃん!」


 私の独り言を聞きつけるNPCが手を振っている。というよりも話しかけられたのだと勘違いしたのだろう。


 灰色の短い髪と無精ひげが目立つおっちゃんは人当たりの良さそうな笑顔を浮かべている。たばこをくわえているが火はついていない、というNPCにしては力の入ったキャラだ。


 おっちゃんは、黒で統一された馬具をカウンターに置く。こんなものまで用意してんのかい、さすがはゲームの鬼畜兄弟と名高い極白夜製。黒いから極夜――つうか生糸のデザインだな、間違いない、絶対にそうだ。


 持ち込み無しで動物を仲間にした場合の初心者応援アイテムなのだろうか? ステータスを見てみると【落下を防止する】という基本的なものだから【所有プレイヤー以外の接触を防ぐ】や【馬具の破壊を無効にする】などと言った効果が付与されていた。


「鞍だけでいいんですけどねえ」

「ばら売りはしてないんでね」

「あ、そう。値段は?」

「10000Eだ」

「たっけえよ!」


 初心者設定じゃねえ!

 うん、よく考えたら付与効果、明らかに上級アイテムだもんね!


 今の所持金は初期値の1000E。他の露天を見ればいいのかもしれないが、何となくここで今買ってしまった方がいい気がする。


「うー、お金足りない。おっちゃん、負けてくださいな」

「こちとら商売だからなあ」


 あっさり断られるが、ここは【オンステラ】。ならば【言いくるめ】られればなんとでもなるはず。


「では、アルバイトをさせてくださいな。おっちゃんは店から離れられないけど、私は自由に街を歩けます。なので、出張販売してきますよ。……審判、いいですか?」


 私が確認すると、おっちゃんと私の間に銀色の球が現れる。表面は金属の板を何枚も貼り合わせた、といった外見をしていて、上半分に赤い宝石のような【目】が埋まっている。

 審判AIは上半分をくるくると回転させながら【目】を点滅させ。


――承認。審判として許可します――


「よし。

 売り上げが20000Eを越えたらバイト代として一式をください」

「越えなかったら?」

「罰金として30000E。借金になりますが、利子付きで返しますよ。当然、馬具は受け取りません。

 審判」


――承認。審判として許可します――


「審判がいいなら俺も依存はない。頼んだぜ、嬢ちゃん!」


 契約成立!


「俺はギンガだ、これからは【ご主人様】と呼んでくれ!」

「セクハラとして訴えます。審判。」


――承認。しんぱ「嘘だ嘘、ごめんごめん!」


 ったく、NPCのくせに。


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