勝利と拠点と借金地獄
デッキたちが消えていく。私は大きく伸びをしながら晴れやかな笑顔を浮かべた。
「あー、楽しい」
「じゃあ公式戦出ろよ……」
「出れるものなら出てますよ。
さてルーズ、私たちの勝ちですよ」
「……見事だ」
ルーズは膝と手を地面につき全身で項垂れている。
「ここまで一方的に【ロール】されたのは初めてなのだよ……」
「だろうな。俺たちにしてみりゃ北欧神話でここまでこいつに対抗した奴は初めて見たぞ」
ルイファイスの言っていることはあながち大げさなわけではなく。
自分のデッキについて知識が特化しているのは当然、広く深い知識がなければ相手の【ロール】の邪魔はできないのだが、ステラのカードは山ほどある。
よって、自然と相手の【ロール】は邪魔をしない……というより【できない】のが普通となっている。
【ヴァルキュリヤ】で邪魔をしようとしただけ大したものなのだ。
「君たちを認めよう。君たちがこの城を訪れ、住み、活用することを許可しよう」
「え、っと?」
意味を量り損ねていると、ルーズはうっすらと笑った。
初めて見る自然な笑顔は、子供のように無邪気でもあり大人のようにどこか妖艶でもあった。
「君たちの拠点にしろ、と言っているのだよ」
今日のご飯は焼き魚。春なので定番のサンマではないが、ぶっちゃけ買ってきたみりん干しなのだが、ご飯と合っておいしい。
嫌いなものは特にない父さんだが、魚は骨を苦手にしているので最近売り出された【完全骨なし魚】を選んでみた。なんかディスってるみたく聞こえる。
上機嫌な私に上機嫌な父さんが弾んだ声で聞いてきた。
「どこまで進んだ?」
「拠点ゲットしました」
「……早いな」
しかしハマると恐ろしいな。ゲームの中でオフステラができるとは思わなかった。
「今日、初めてステラ対戦が確認されたが……」
「あ、たぶん私です」
「…………。どうだった?」
「んー……現実でやるより楽しかった。です」
「そうか。報告しておく」
どうせなら報告しておいてもらいたいことがもう一つあるのだが。
拠点登録は光の街の北地区で行う必要がある、とルーズに言われたので戻ったのだが。
教えてもらった場所に行ってみたら【最後の砦】というあんまりな名前の【総ギルド本部】だった。
【ギルド長】と名乗るプレイヤーと、何故か審判AIを使わずに細々とした登録をしていく。
「拠点登録するにはギルド登録が必要で、ギルド登録するには拠点候補が必要だ。君たちはどちらも満たしているので登録はできる」
「はいな」
ギルド長、というかコートの説明によると、【拠点登録】は【ダンジョン】を攻略し、そこのボスMOBに承認される必要があるそうで。
ただ攻略するだけで自動承認、というわけではないらしい。私たちは幸運だったのだろう。
「では登録します。拠点は【ウトガルザの城】で」
「ギルド名は?」
「【黄金の林檎】」
コートとルイファイスがすっこけた。
「「…………」」
「北欧神話の! 神々の食物のこと! です!」
神話でよく出てくる【黄金の林檎】。ギリシャ神話でエリスが贈った災いの種の話は有名だ。
「さすがに誤解を招くな。【北欧の黄林】で。審判」
結局兄さん命名。このギルドにはルイファイスも所属することになるけど、ファイは北欧神話関係ないデッキなのは無視の方向で。
「今は審判ではなく私が判断しているのだが……まあいい。
ギルド名【北欧の黄林】、登録完了」
コートが指を動かしているのを見て操作をしている。本人にしか見えないようなのでギルド長専用ページとかなのだろう。
「設定確認。これであのダンジョンは君たち【北欧の黄林】の拠点として登録された。ギルマスは誰にする?」
「レイルで」
止める間もなく即答する兄さん。最年少なのだがいいのだろうか?
とはいえ兄さんの言葉に異論を唱える必要はない。私は黙って聞いていた。
「サブマスは?」
「ルイス」
「承認。よし、完了だ」
メニューを開くと、新たな項目が付け足されていた。後でチェックしておこう。
「じゃー、結構遊んだしログアウトするか?」
「そうだな」
「夕飯作んないとですしね」
家事をしているのは私だけだが。
ログアウトしようとメニューを出すと、コートがさらりと、本当に何でもない事のように。
「管理料は一ヶ月に100万Eだ。三十日後までに払わなければ剥奪する」
「「「…………」」」
…………え?
「ぼったくりもいいとこです」
父さんは声を上げて笑っていた。
ゲーム二日目。
ダンジョン初クリアにして拠点ゲットにギルド設立、そして怒涛の借金地獄にて幕を閉じた。