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最後というより最期、力試し

 私たちとルーズ以外に誰もいないその広間で、私は前に、兄さんたちは後ろに下がる。


 どうやら分類としては大将戦。一対一での戦いのようだ。


「殴り合えばいいのです?」

「否だ。力は腕力のみではないのだよ。お前の戦術を私に見せてみろ」

「――【plural strategy】です?」


 頷くルーズ。

 なるほどそういうことですか。確かに額は頭でもある。知力でかかってこいってか。


 【plural strategy】のデッキ自体は各自が持っているスパコンに登録されている。持ち込む時はその中から騎士を選び、事前登録が必要だったのだが、オフステラをやる分には最初の登録だけでいいのだろう。

 だったら融通利かせろよ、と思わなくもないが、私の件については性悪コートとクソ根性野郎の陰謀故だ。


「構いませんよ、始めましょう」


 私とルーズが向かい合うと、それぞれの右隣に審判AIが現れる。


 【ロール】の際にどちらの審判AIが反応するかは明確にはされていない。何故二体必要なのかもわからないが、まあ、たぶん極白夜の仲の悪さに関連するんでしょう。


 ゲームの設定上だろう、左腰にカードホルダーが現れ、右手にデッキが生まれた。

 15枚を確認、設定されてるデッキだったのに安心しつつ、騎士三枚以外をホルダーにいれる。

 私の騎士【三姉妹】を、いつもある机の上に並べるように空中に置くと、宙に浮かんだまま登録されているキャラクターのホログラムが展開された。


 左手にコインが現れ、それを弾く。

 表が金、裏が銀。地面に落ちたそれの色は――。


「銀。私の先攻だ。

 【赤き実の木】【白き羽の鳥】【最後の時の笛】。【三聖士】――」

「【過去のウルズ】【現在のヴェルザンディ】【未来のスクルド】。【三姉妹】で――」


「「出陣」」


 私にとっては四年ぶりのステラが始まった。






 基本ルールは相手カードの全破壊。特例として【降伏】させること。

 ATKが上回るカードで攻撃(アタック)すれば相手カードは破壊されるが、失敗すればこちらが破壊される。

 アタックはATKが高いカードから順に、一ターンに一回のみ。二番目に高いカードは次の自分のターンまでATKできない、ということだ。


「【木】は25、【鳥】は55で【笛】が2だ」

「極端に低いの嫌ですねえ。【ウルズ】が50、【ヴェルザンディ】が40、【スクルド】が30です」


 この場合、有利なのはATKが一番高い【鳥】で、それをコントロールするルーズだ。


「【鳥】で【スクルド】にアタック」


 これが通常の戦闘。何もしなければ破壊され、ルーズのターンは終了するが、当然何もしないはずがない


 私はホルダーから補助カード【ヴァルキュリヤ】を取り出す。

 戦乙女と呼ばれる、戦士の魂を迎える翼を持ったオーディンの使いであるワルキューレ。


「仲間である【ヴァルキュリヤ】を招集することでATKを跳ね上げます。スクルドはワルキューレの一員であり、ヴァルキュリヤはワルキューレの複数形です。審判」

「ワルキューレは死者の魂を運ぶ者、仲間を助ける為には動かない。審判」

「ワルキューレの運んだ死者は戦士たち、【このスクルド】は騎士にして戦士。戦士の元にワルキューレは集います。審判!」

――承認。審判として、【スクルド】のATKを二倍にします――


「……ちっ」


 これがカードを使ったTRPG、【plural strategy】の戦い方。

 言いくるめ、説得する相手は対戦相手のプレイヤーではなく審判AIだ。

 相手プレイヤーが納得しなくても、審判のジャッジは絶対。それこそ、神の命のように。


「一度宣言したアタックは解除できません。――【白き羽の鳥】を迎撃!

 今度はこちらから行きます!」


 アタックに成功、もしくは失敗した時点で、相手にターンが移る。

 次は私がアタックする番だ。


「【ウルズ】で【笛】にアタック!」

「【赤き実の木】の能力発動。

 葉を散らし相手を拡散してアタックを一度だけ失敗させる。審判」

――承認。【ウルズ】のアタックを無効にします――


 破壊耐性だった。

 一度だけ、と言っているので【木】の能力はこれでなくなる。

 アタックには失敗したけど、残りはATK2の【笛】とATK25の【木】。しかも、【木】は能力を使い、ただのサンドバッグになっている。


 ともあれ、アタックに失敗したのでルーズにターンが移った。


「【木】で【ウルド】にアタック」

「え? 迎撃します」


 ATKは【木】の方が下だ。ちょうど半分の数値の【木】が敵うはずがないのに?


「【最後の時の笛】の発動条件が揃った。よって、レイルのターンだが私のターンに移行する」

「狙ってやがりましたか。【鳥】や【木】を破壊させたのはわざとですね」


 【笛】だけを残したかったようだ。嫌な予感がひしひしとする。


 アタックに失敗した時点で私のターンになっているが、アタックする前に【笛】の発動条件が揃ったことで強制的に【笛】の能力が発動することになる。その場合、どちらのターンでも【笛】のコントローラーにターンが移り、アタック終了時でももう一度アタックできる。ややこしい書き方だが、ぶっちゃけ言っていることは同じで単純だ。

 『発動条件が揃ったのでもう一度アタックします』と言い直してもいい。


「【笛】は最後の一枚となった時、破壊されていた騎士を全て復活させ、三枚のATKの合計値が三枚共に適用される」


 訳:全部のカードが25+55+2=82になるよん♪


「【鳥】で【ウルズ】にアタック!」

「何その効果。」


 私の呟きは茫然と不機嫌を足したような声色だったことだろう。


 さて、どうしよう?


 【ウルズ】が破壊され、残るは40の【ヴェルザンディ】と30の【スクルド】。

 で、相手は82の【笛】【鳥】【木】。


「うーん……アタックせずにターンを終了」


 何もできないよ。

 ルーズがにやりと笑っているが、82を相手に40と30で何が出来よう? 【ヴェルザンディ】のATKを二倍にしても届かないぞ。


「では。【木】で【ヴェルザンディ】にアタック」

「先ほど【木】の効果で葉が散らばりまくっています。【ヴェルザンディ】にお前の幹が届くことはありません。審判」

――承認。【木】のアタックを無効にします――


 先ほどと同じ組み合わせだから出来た荒業だ。やれやれ、【ヴェルザンディ】を狙ってくれて助かった。


 さて、アタック失敗、私の番です。もっともそれを待つまでもないのですが。


「【ウルズ】の発動条件が揃いました」

「なに?」

「【ヴェルザンディ】は【現在】の女神、そして【ウルズ】は過去の女神。【現在】は【時間】が立てば【過去】となる。

 よって、【ヴェルザンディ】がいる限り、ターンを経過すれば【ウルズ】は蘇ります。

 審判」

「待て待て待て! 北欧神話で死者を蘇らせることができるのは【ヘル】だけだ! 審判!」

「【過去】は【概念】。【概念】は忘れられることはあっても【死ぬ】ことはありません。審判」

――承認。【ウルズ】を復活します――


 ルーズは何も言えない。

 これは【ウルズ】に最初から設定される【能力】ではない。

 私が四年前に参加した公式戦で初披露した私の【ロール】だ。その場の誰も覆せず、【無限】にも分類されるという大会史上最悪の混乱を引き起こした。

 【悪夢の10分間】と後に語られることとなる、私も忘れられない出来事だ。


 何故悪夢か。

 それは続く次の【ロール】にも問題があった。


「新たな【過去】が現れた時、今までの【史実】は書き換えられます。

 【笛】の能力を書き換え、その存在をなかったことにします。

 【木】と【鳥】の復活を無効にし、【笛】の能力を無効にします。審判」

「か、過去は……」

「なんです?」


 沈黙。


――承認。審判として許可します。【木】と【鳥】を破壊、【笛】のATKを2にします――


「【ヴェルザンディ】で【笛】にアタック。」


「諦めろ、ルーズ。相手が悪かった」


 兄さんの気の毒そうな声と、ルイファイスの大きなため息が響き。

 それを待ってから二体の審判AIが宣言する。


――勝者【レイル】。【ステラ】を終了します――


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