宴と余興と神様達
中では宴が開催されていた。
「どっち!?」
ラグナロク開始か、トールたちの来訪か。
神話ではどちらも宴が開かれていて、話はそれからスタートだったはずだ。
広間ではあちこちにテーブルが置いてあり、どう見ても巨人に見えない身長190センチくらいの人々が談笑を止め私たちを見つめてくる。ってことは、神?
その中の一人がおもむろに口を開き。
「来客か? アース神族の者……いや、人間か」
違った。ウトガルザの方だった。
「レイル、意味が分からない」
北欧神話を知っているだけで実際には読んだことがないらしいルイファイスが眉根を寄せている。ウトガルザ知ってんのになんでアース神族知らないの?
「ここはウトガルザ、巨人族の都市。神でも巨人でも妖精でもない物が来て良い場所ではないのだよ」
「アース神族ってのは、早い話がオーディンたちの一族です」
厳密には違うが、気にしたら負けだ。
「ノルンに会いに来ましたら迷い込んでしまいました。直ぐに去りますので」
とりあえず、RPGの基本【話を合わせる】。最悪【ロール】すりゃいいし。
「待つがいい。拒絶はしない、ちょうど余興を行うところだったのだよ。参加したまえ」
「えぇぇ……」
お前さっき『来ていい場所じゃない』って言ったじゃんー。
それは置いておくにしても、正直ウトガルザで余興とかいやすぎる。内容はわかる、わかるのだが……。
「ウトガルザ・ロキ、聞きますがこれ事前知識とか……?」
「ないものはこの城に入れぬのだよ」
「どんなルールですか」
ふと気付くと兄さんがいない。既に閉まった扉を見上げ、何かをしている。
城の中はパーティー会場みたいな広間と、その奥に巨大な階段がある。階段の中央にある部屋が入りそうなくらい広い踊り場に椅子を置いて座っているのがウトガルザ・ロキ。
ウトガルザ・ロキは長い白髪が煌めく美青年だった。目は金色で、明らかに私がデザインしたウト・ロキだ。
紺色のローブのようなものを身にまとっているのだが、身長は目測二メートル。巨人の定義ってなんだっけ?
神々も巨大だから、とかならわかるが私たちは人間、比べるも微妙だ。もうちょい、せめて三メートルは欲しかった。
「レイル。この扉、一定以上のキーワードを【ロール】しないと開かないみたいだ」
扉を調べていた兄さんが微笑んでいた。ああ、困っている。困っている兄さんかっこいい。じゃなくて。
「……扉に書いていなかったかね?」
「書いてあるが、今気付いた」
「どうやって入ってきたのだ。」
ツッコまれてる! 素の会話を素のAIにツッコまれてる!
「ただの会話でキーワード全部言って、最後の『審判!』がトリガーになったんだな……」
「『北欧神話』とも書いてあるしな」
「知らなきゃ調べて出直せってことだったんですね……」
何とも言えない空気が流れる。
これは勝手に判断しちゃった審判AIが悪いんじゃないですかねえ?
そもそも、極白夜市ではAIが異様に発達しているのだ。
ステラの審判にするために研究者だちが心血を注いで開発したAIは今やあちこちの分野で幅広く活用されている。信じられるか? 元はゲームの為に開発されたAIが今や他国にまで広まってるんだぜ?
「で? 答えは?」
「ああ、わかりましたわかりました、参加いたしますよ」
「よかろう」
テメェが参加しろっつったんだろうがっ!
鷹揚に頷かれてちょっとイラっとした。
「ウトガルザ・ロキ、何をすればいいんだ?」
「ああ、私の事はルーズと呼んでくれ」
ロキと呼ばせないあたりがなあ……。
「簡単だ。余興は三つ。
飲み比べ、力比べ、最後に力試しだ」
あ、やっぱ?