表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/21

第7話「一騎打ち、破りしは最強」

「用意、始め!」


 広い空間に響いた声と同時に俺の周囲の兵士達が一斉に襲いかかってくる。神眼とウィズの処理能力を最大限発揮して全ての攻撃をいなし、的確に反撃を入れて相手をダウンさせる。

 今行われてるのは兵士達のチームワークを鍛えるための訓練だ。どうしていきなりこんな事になっているのか気になる方もいるだろう。


 俺が数分の内に倒した10人の兵士達は未だ痛むであろう身体を動かし修練場から出る。そして彼らと入れ替わりに少しだけ違う装備をした10人がフィールドに入ってくる。

 こんな事をもうずっと前から続けて既にこいつらで500人に登る。


 さて、どうして俺が修練場で国の兵士達に訓練をしているのか。その経緯を話さねばなるまい。

 時は、一週間前に遡る。




 ロックさんと分かれた俺は次の目標として城に乗り込むことに決めた。と、言っても手荒な真似をして話し合いの前に逆賊扱いされるのもたまったものではない。


 つまり、定期的に行われている兵士の募集を利用してやろうと考えた。幸いにも兵士達の試験は城で行われているようなので、思い立ったが吉日と言わんばかりに俺は目的の地に向かった。


 他にも十数人いた応募者と共に城内にある修練場で試験官を待つ。日本にいた時も試験を受けるのは嫌いだった。どんな事をするのだろうか。

 程なくして現れた壮年の兵士が告げた試験内容はこうだ。


【試合形式で腕を見せてもらう】と。


 シンプルでとても分かりやすく、且つ俺が望んでいたものだった。どの異世界物でもこんな時の選択肢はほぼ二つに一つだ。

 一つは圧倒的な力を見せつけ地位を獲得すること。もう一つは爪を隠して陰ながら好きなように動くというものだ。

 今回、俺が選ぶのは前者寄りの方法だ。力は見せつけるが、動くべき時、動きたい時には縛られるつもりはない。そもそも今の俺を縛れる奴がどれくらい居るのか気になるものだが。


黒河誠 Lv.96(95up)

 種族:人間 性別:男

 年齢:18歳


 HP:36,000/36,000

 MP:1,974,000/1,974,000

 筋力:2,980

 体力:974

 魔力:51,560

 精神力:106,000

 敏捷力:2,120

 スキル

  神眼

  ウィズ

  完全限界突破

 称号

  創造神の友

  世界の超越者

  人外の領域

  大物喰らい

  階段飛ばし

  眼を開く者


 こんな頭おかしいステータスのやつ他にいるのか?……いるんだろうなぁ……。


 そんなこんなで始まった試験、しばらく他の奴らの闘いをぼーっと眺めてるうちに俺の番が来た。

 相手を務める可哀想な志願兵は俺より少し若いくらいの男だ。彼には悪いが今回は諦めて貰おう、そうしよう。


「それでは……始め!」


 試合用に借りた木剣を構えた状態で発せられた開戦の声、高速で振り降ろされる木剣も、能力のおかげでとてもスローに見える。

 そこそこの鋭さの一太刀を剣を斜に構える事で受け流し、その勢いを地面に向ける。単純な技ゆえに愛用してるこの受け流し、どうやらこの国では一般的な剣術ではないらしく意識の死角を突かれたかのように志願兵は勢いのまま前につまづいた。

 このまま決めてしまってもいいが、それではつまらん。敢えて距離を取り、正眼に構える。体勢を整えた志願兵は俺の行動を挑発と取ったか顔を赤くし突撃してくる。


「うおおぉおぉ!!」

「甘い」


 鋭い水平切りを読んでいた俺は身体を低く沈め足払いをする。蹴りの勢いのまま立ち上がり丁度倒れ始めた相手の胴に垂直に逆袈裟を入れた。


「ごふっ……?!」


 悶絶し地面に倒れた相手の首元に木剣を突きつけ宣言する。


「まあ、頑張れ」


 俺が言い終わると同時に「そこまで!」の声が響いた。


「おいお前、名前は?」


 木剣を戻し壁に背中を預けてた俺に話しかけてきたのは先程出てきた試験官だった。あれだけ圧倒的に勝てば少しは気を引けるかと思っていたが、上手くいったようだ。


「マコトだ、マコト・クロカワ」

「そうか、マコトか。お前、随分と腕が立つようだがあれで本気か?」

「まさか、本気を出したらあんな剣すぐ折れちまうよ」

「……ちょっと待っててくれ」


 そう言ってどこかに行った兵を待つこと10分、戻ってきた彼の後ろには一目見て高価なものだと分かる装備をしたおっさんがいた。


「待たせたな、マコト。団長、彼がそうです」

「君がマコト君か。話によるとかなり腕が立つと聞いたが?」

「まあ、そこそこには。あんたは?」

「ああすまない、俺はここの騎士団長をやってるクロウだ。よろしく」

「そうか、よろしくなクロウ」


 手を差し出し握手をする。騎士団長がどの程度のものかと神眼でステータスを覗くとLv70となかなかの高レベル、スキルも一流と言っていい感じだ。だがステータスの数値を俺のと比べると体力だけ俺よりも少し高かったが、他の数値は軒並み低かった。

 比べるのが俺なのは分が悪いとは思うけどな。強いて言うならサウスで絡んできたテッドとクロウが戦えば瞬殺できるくらいではある。

 俺もまだステータス全てを引き出せるわけではないしな。


「なあマコト、一ついいか?」

「なんだ?」

「俺と戦え」

「は?」


 あれよあれよと言ううちに俺とクロウの試合がセッティングされた。

 試合形式は真剣で寸止め、万が一怪我してもこの場には特別なフィールドがあり死には至らないとのことだ。


「両者、用意はいいですか?」

「ああ、俺はいいぜ」


 用意もクソもねぇんだけど……少なくとも新月丸は危な過ぎる。だが使う。死なないって事だし問題ないか。


「俺もいいよ、いつでも始めてくれ」


 今のステータスでどれだけ戦えるか判断するいい機会なのでとりあえず神眼の使用はやめておく。


「…………開始!」


 5メートル先にあったクロウの姿が次の瞬間にはすぐそこにあった。


「うおっ?!」


 咄嗟に後ろに跳ぶ俺の鼻先を剣閃が掠めた。神速の一撃が避けられた事に少し驚きの表情を浮かべつつ、クロウは追撃を開始する。

 手の甲を上に向け手首に柄頭を合わせて剣を水平に構える。一瞬身体が沈んだかと思ったらその体勢のままこちらに突撃をして来た。真っ直ぐに貫かれた剣は、しかし俺には当たらなかった。前方に回転しながら跳躍し、突きを躱す。

 ここまでの攻防でクロウが相当の使い手であると理解した。縛りを解き、神眼の下位スキルである『行動予知視』を使う。

 このレベルの使い手に行動予測は通じない、予知で先の先を取る事にした。


「クロウ、ちょっとだけ本気を出すぞ」


 納めていた刀に手をかけ鯉口を切る。クロウの再三の攻勢に合わせて妄想技を発動する。


「『凪』」


 無音のカウンターを放つ、峰打ちだった。

 その場に倒れたクロウを横目にキンとわざと音を立てて新月丸を納刀する。周囲で観ていた奴らは皆無言だった。


 間もなくして気絶から目覚めたクロウは俺を見上げて一言。


「まだ本気じゃなかったし」





 それから何だかんだあって騎士団所属としてここで兵を鍛えてるわけだ。ちなみに本気を出したクロウとも戦ってみたが無事勝利を収めた。

 そしてこの1週間のうちに残りのステータスも身体に適応し俺は文字通り化物野郎となったわけだ。


 さて、そんな回想をしているうちに兵士達との訓練も終わり休憩に入った。兵の総数は1000人だったがまだ新兵らしい、確かにお世辞にも強いとはいえない連中だったが。

 国の防衛には多くの精鋭たちが駆り出されるらしい。俺には関係……無いこともないのか、半年後の事もあるしな。


「おいマコト、お前に客だ。災難なこったな」

「クロウ……いきなり災難とはなんだよ。だが、俺に客?わざわざ俺の所に来るような知り合いはいないんだが……案内してくれ」

「おう」


 先を歩くクロウに着いて俺は客とやらの元へ向かう。


「ここだ」


 立派な扉の前でクロウは立ち止まりその扉を開く。開けてもらったので中に入ると、正面の椅子に化物がいた。

 別に見た目がとかそういう訳ではない。ただ、身体から放つ気配が普通では無かった。本気のクロウも軽く凌ぐ強い圧力に俺は驚きつつ─────席に座った。


「俺がマコトだ、どちらさんだ?」

「丁寧にありがたいな。俺は……ギドラだ。周りには最強と呼ばれている」

「最凶?それは凄いな。それで、その最凶さんが俺みたいな有象無象に何のようだ?」


 神眼で覗いたそいつの情報に警戒しつつ問を掛ける。正直魔力と精神以外劣ってるんだが。


「いや、クロウがやられたって聞いたからな。俺ともちょっと()ってくれや」

「………………またか」


 やってきました修練場、今度の相手は最凶さん。最強なのは分かるけどあえて最凶と呼ぶぞ俺は。


「あの、試合形式は?」

「殺さなきゃなんでもあり、つまりこの場じゃ何してもいい。死なねぇからな。相手を行動不能にしたら勝ちだ」

「はぁ、まあ分かりましたよ」


 10mほど離れて相対する。ギドラの得物はツーハンドソード、腰にはショートソードも下がっていやがる。

 初めから神眼の縛りはなしだ。流石に手を抜いて勝てる気もしない。

 なにせ、Lv126(・・・・・)だからな、俺よりも30上とくれば手も抜いてられない、そしてここで勝てば俺の立場は上がる気がする。


「さて、どう勝つかな……」


 適当に考えをまとめ、戦法を決める。手加減なしでぶっ潰す。


「始め!」

「堕ちよ!『ヘヴィエリア』!!」


 詠唱と同時にわずかながらMPが減り俺以外の空間全体(と言っても戦闘領域だけだが)に凄まじい重圧を発生させる。

 まさに天翔る勢いで駆け出していたギドラも突然の重圧に地へ堕ちかける、だが咄嗟に剣から離した片手で地面を打ち身体を持ち上げる。この魔法だけで勝てるとも思っていなかったし、次の魔法だ。


『時破』(ブレイクタイム)


 瞬間、世界はその時を止める。ギドラでさえもだ。

 チート魔法もいい所だが俺の妄想だ、文句は言わせないぞ、絶対にだ。

 さて、このまま時を止めていても仕方が無い。そういうわけで次の段階へ行こう。


「囲め刃『円剣』(サークルソード)


 どこぞの吸血鬼やメイドの如く、ギドラの周囲には幾本もの鋭い刃が浮かんでいた。

 俺は右手を頭上に上げ、指を鳴らした。


 再び動き出した世界の中、突然周囲に現れた無数の刃にギドラは何を思っただろうか。時が動くと同時に高速で動き出した刃は全てギドラに牙を剥く。


「チッ、オーラバーストォ!」


 ギドラが叫ぶと同時に強い衝撃波が弾け、俺の円剣を無効化する。そして散らばる刃の中から俺へと駆ける一陣の風、無論ギドラだ。薄く光を纏った身体で俺へとタックルをする。

 当然の如く、その攻撃を読んでいた俺はインパクトの瞬間に後ろに跳びダメージを逃がす。と、同時に足元に仕掛けていた魔法を発動する。


「『プリズムマイン』」


 魔力によって形成された無数の紐がギドラの周囲に浮かび上がり彼を完全に取り囲む。

 そして、音が消えた。

 その多重層結界の中で起こる100回に及ぶ連鎖爆発、しかしその爆発は3秒のうちに終わる。もちろん失敗した訳ではなくそういう効果だ。


「さて、どんな具合だ?」


 神眼で檻の中を見透す。ダメージは大きいようだがまだ動けるようだ。伊達に最強と呼ばれていない。


「うぅらあぁ!!」


 檻が横一文字に切り開かれ中から出てくるギドラ。口元には笑みが浮かび目にはギラギラした光が宿っていた。完全に戦いに酔ってる顔だった。


「結構強い魔法だと思ったんですけどね、今の」

「本気で防御体勢になったが、それでこのダメージを受けるのは釈然としないな。それで全力か?」

「いや、このまま魔法を連発してもいいけど、剣も見たいだろう?俺のは刀だけど」


 ウィズ、身体の制御を任せる。お前の力見せてくれ。

 《了解、マスター。ですが、最近私に話しかけな過ぎではないですか?》

 ついこの間助けてもらったし、あまり頼るのもな、と思ったんだ。この状況じゃ説得力はないが。

 《全くです。とはいえマスター、貴方に勝利を捧げましょう。お待ちあれ》


「さて、怪我をしてたから、なんて言い訳は聞かんぞ」


 答えすら聞かず俺の体は前へ出る。一瞬で距離を詰めた俺は勢いのまま刀を振り抜く。いや、動かしてるのはウィズだが。

 一撃目は躱されたがその時には刀は鞘に収まっており、神速の居合が繰り出された。


「虚空」


 ギドラが咄嗟に斬撃の軌跡に置いた盾替わりの大剣も難無く切り裂き、その凶刃は相対するモノを両断した。


「……そこまで!」


 ウィズによって制御された俺の身体はその性能を遺憾無く発揮し、強大なる敵を打ち砕いた。別に死んじゃいないが。


「はぁ、疲れた」


 俺がそう呟くと仰向けに倒れてたギドラは何となく非難するような目を向けて「あれだけやって疲れたで済ますのは無いだろ」と言ってた。


「俺、ここの王様に聞きたいことがあるんだけどギドラかクロウ、紹介してくれないか?」


 何言ってんだコイツ、と言った顔をされたがギドラが明日紹介してやると言ってくれたのでその日はゆっくり休む事にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ