第6話「男の浪漫、最高の武器」
遅いよ僕……
誠に申し訳ない、キャラじゃなくて。
3つの国のうち1つが勇者召喚を行う、そして半年の内に攻勢に出るだろう。
そのような事を言われ、止めてくれ、と頼まれた。
今になって気になったことがひとつある。
俺をここに送ったあの創造神の他に、この世界の神が存在するのか?という事だ。
「それで、どうなんだウィズ?」
《存在しています。マスターは勇者にも特別な能力が与えられているのか、それを気にしているのですね》
「お、おう、よく分かったな」
《能力は与えられるでしょうが、その全てが神によるものではありません。この世界の神々も秩序を好み、自分たちの世界が壊れるような争いを望んではいません》
「なら、どうして勇者召喚を止めないんだ?」
《それもまた、神であるからです。彼等は世界に生きる者達の営みを尊重せずにはいられない。例外もありますが、戦争やその為の手段に干渉することはほぼありません。だから、神とは矛盾した存在なのです》
「なるほどなぁ……ん?でも全てがってことは中には神に力を与えられる勇者もいるのか?」
《存在しています。マスターは予想していたようですが、今回行われた勇者召喚は大規模な召喚で、勇者の数は40に登り、そのどれもがマスターと同年代、同じ国から呼ばれてます。その中には何かしらの神によって力を授けられた者がいます。細かいことは、マスターが実際に目にすれば私の力と合わせて把握が出来ます》
「40人ってことは十中八九クラス転移かよ……しかも日本人か……嫌な予感がしなくも無いが、俺はそいつら含め戦争をどうにかしなきゃいけないんだよな」
俺は……殺れるだろうか、それとも生かした方がいいのか。
迷っていても仕方が無い、この半年の内にどうするか決めてしまえばいいだろう。少なくとも、俺がやられるのは嫌だ。
それに、召喚術式の隷属状態の種類も気になる。強制的に命令に従わせることもできるのだろうが、深層心理での服従ならばもっと面倒だ。
勇者達はきっと自分達が間違ってるとも思わず、他国を攻めるだろう。そいつは気に入らない。
自分の間違いに、気付くことすらできないなんて悲し過ぎる。
今この世界に勇者として喚ばれている学生達は、一般人とは比べられないほど強い力を秘めているのだろう。その力を半年と言われている訓練の時間で、どれほど引き出せるか、そして使いこなせるようになるのか?
きっと勝てるだろう、ただでさえアホみたいに上がってしまったパラメータ、自重をしないチート能力を併せ持っているんだから、これで負けた日にゃ笑いも起きないよな。
というわけで必要なものを集めるために王都を巡る。現状、俺の力を活かすために欠かせない物がある。
分かるだろうか?妄想で技を撃つとき、考えるのは自分の動きだけではない。
必ずと言っていいほど、その時には武器を思い浮かべるはずだ。
刀、その浪漫を。
俺の妄想はほぼ全て刀をメインの武器としている。今のこの黒剣も両刃で相当の強さがあるが、これを元に、もしくはこれよりも強い刀が手に入れば……
思いついたら我慢が出来なくなった。早急に手に入れなければ、と思い王都を歩いているわけだ。
鍛冶屋、それも王都最高の店を探して路地に入る。人に聞いても良かったが、時間をかけたくも無かったのでウィズに場所を教えてもらった。
とても助かる、特に俺の妄想がもっと実現されるとなると昂らずにはいられない。
それに、刀にする理由は他にもある。なんてったって真剣で妄想技を使えば、よほどのことがない限り即死だ。だが、相手を殺さずに捉えたい時もある。そのための片刃だ。
峰を使う妄想技もあるしな。
「ここがそうか……」
《鍛冶師が堅物なことでも有名ですが、腕は王都どころか世界一です。マスターの望むモノも、かの人なら作ることが出来るでしょう》
「店主が堅物だと?聞いてないぞそんなん……」
仕方ない、当たって砕けろだ。
「たのもう!」
「うるせぇぞ!!」
………………。
た、確かに大声だったかもしれない。が問題はそこじゃない。
仕事中だったのだろうか、店頭の奥の鍛冶場らしき場所から聞こえてきた野太い男性の声は熱気に満ちていて、それ故か思わず黙ってしまった。
だが俺は何かに導かれるように熱い空気の流れ出るその鍛冶場に足を運んでしまった。
一応部屋を区切る枠である境界に踏み込んだ瞬間、一際強い熱風が体を打った。反射的に細めた目を開き、熱の発生源である炉と、その前で今しがた打ち終わったのであろう赤熱した刀を水に入れる男の姿を目にした。
その男は、小柄ながらがっしりとした体つきをしており、その身についた筋肉は俺のものを遥かに上回るだろう。
俺に気がついたのか、こちらを振り向く彼は……
「ドワーフ?」
「あん?文句あるのか小僧、というか勝手に入ってくんじゃねぇ」
ドワーフだった。
空想上の妖精とされる小柄で力持ち、鉱物に関わりの深いドワーフ。俺が今まで読んだ小説の中にも鍛冶師として名を馳せるドワーフは存在していた。世界一の名を得るだけのことはあり、店頭に飾ってあった刀剣も俺の持つ黒剣に届くかという業物だとひと目でわかった。能力込みだが。
この人物に刀を打ってもらえるかどうかで、この先の闘いにも影響が出るかもしれないし、慎重に交渉をしなきゃな。
「いえ、すみません。貴方の腕を見込んでお頼みしたいことが」「気持ち悪いからその敬語をやめろ」
「はい……世界一と名高い腕を見込んで頼みたいことがある、聞いてもらえるか?」
「聞くだけ聞いてやる、言ってみろ」
この性格なら、遠回しに言うだけ無駄だ、単刀直入に言ってやる。
「俺に最高の刀を打ってくれ、この剣を溶かしてもいい、金もあるだけ出す、頼む」
「ほう……わざわざ俺に頼みに来たってことは、それなりの腕はあるんだろうな?」
「……と、言うと?」
「まともに使えない奴に打つ剣はねえ、お前の腕を見せてみろ。ってわけだ、場所ならあるから見せてみな」
そういうわけで、店の裏にある訓練場に来た。とはいえあまり大きなものではなく、普通の教室くらいのスペースの中央に的となるカカシがあるだけだ。
「で、どうすれば認めてくれる?」
「生意気な小僧だな、お前に分かるか知らんがその人形は魔法で細工されていて壊れても直る上に強度もそんじょそこらの金属より硬い。触ってみな」
言われるままカカシに近寄りその頭を軽く叩いてみる。
確かに並の硬さでは無かった。感覚としては本当に鉄の塊のような印象を受けた。
「それで、こいつを斬ればいいのか?」
「その剣でなら斬れるかもしれねえが、お前は刀が欲しいと言ったな?ならこの刀を使ってやってみろ」
渡された刀は粗悪品ではないがこのジイサンのに比べたら随分と格が落ちた感じがする。そこらの人間じゃこれで両断する事は難しいかもしれないが……
「鞘、貸してくれ」
「鞘?ほらよ」
「助かる、少し離れてな」
ベルトに鞘を下げ納刀する。
足を開き、腰を落とす。正面にカカシを捉えてイメージを膨らませる。
抱くイメージは居合い、相対したモノを両断する事だけを妄想する。
「『虚空』」
鞘から抜き放たれた刀は光の線だけを軌道に残し、既に納刀されていた。
空気を切る音だけが響き、それ以外のものに変わりはない。
「化物じみた早さだったが、斬れなきゃ意味がねえぞ」
「俺の腕が見たかったんだろ?普通に斬ってもつまらんからな、まあ見てろ」
そう返し指を鳴らす、空気の僅かな振動がカカシに伝わり……
ドサッ
あまりに滑らかな断面を晒し、カカシは二つに分かれた。
「……」
「どうだ?認めてもらえるか?」
「……る」
「うん?」
「最ッ高の刀を打ってやる!出し惜しみはしねぇ!金もいらねぇ!俺の打てる限り最高の刀を!」
「……いいのか?」
「いいとも!小僧、名前は何だ!」
「マコト、クロカワマコトだ。おっさんは?」
「俺はロック=スミスだ、鍛冶場に戻る、ついて来い」
先程に比べると少し温度の下がった鍛冶場に戻るとロックの顔が引き締まり、その中に少しだけ子供のような無邪気な嬉しさを漂わせて炉に火を入れた。
武器鑑定のスキルがあるらしく、俺の剣をベースにして刀を作ることにしたらしい。
曰く「アホみてぇな強度の素材だが、これまたアホみてぇな火力で熱して打つと硬さと柔らかさを併せ持つ」らしい。
刀には簡単に折れない為に少しの柔らかさも必要らしい。
そんなこんなあって、翌日まで鍛冶は続いた。
「マコト、完成だ……」
「ようやくか……よくやってくれた、ロックさん」
「鞘も仕立ててある、全てがお前のためのユニークメイドだ。どうだ、試してみないか?」
「こいつがそうだ、銘はお前が決めろ」
黒塗りの鞘から伸びる柄を握り、一息に抜く。
ベースの黒剣よりもさらに深い漆黒の刀身、優美な反り、刃の鋭さ、まさに理想の刀だ。
握っている柄も驚くほど手に馴染み、既に自在に使えると確信できた。
銘……か。そうだな……。
「新月丸だ」
「しんげつまる……?」
「ああ、新月……光を映さない月のことさ」
「いい銘だ。新月丸、俺が今まで作った中で最高の出来だと断言できる。さあ、試してくれ」
この前と同じように斬ってもまた変わったものになるのだろうが、切れ味を試すためにはこのやり方が一番だ。
刃を持ち上げ、カカシの頭に合わせる。そのまま力を込めず、重力に従い腕を下ろす。
何の抵抗も感じさせず刃が通り、その人形は両断された。
「最高の刀だ。試したい技がある、直してくれ」
「あ、ああ……」
静かに納刀し、昨日と同じ構えをする。だが想う技は別のものだ。
「『桜散り』」
一割の魔力が消費され、妄想技が発動する。
抜けた気配を感じさせず鞘に戻った刃。ロックさんからはほぼ昨日と同じ事をしたと見えているはずだ。
「それで、今度は何をした?」
「今見せてやる」
刀を一瞬浮かせそのまま鞘に落とす。
キンッという音が響くと同時にカカシはその姿をバラバラに崩した。
「は?」
「刹那に幾度も斬撃を繰り出しただけだ、並どころか上質な武器でも負荷に耐え切れず自壊する技だから昨日は使えなかった。あれでも相当の負荷はかかったと思うけどな」
昨日からずっとそばの壁に立て掛けてた刀を抜いて軽く振り下ろすと、そう定められてたかのように持ち手から壊れてしまった。
「新月丸、理想の刀だ。今の技でさえ全く負担になっていない。さらに魔力の乗りもいい、間違いなく世界最強レベルだ」
「よく分からねぇが、俺もいい仕事が出来た。マコト、俺こそ感謝するぜ」
差し出された手を固く握り、俺達は笑い合った。
いいですよね刀、特に黒いのってなんでカッコイイんですかね。
そろそろ誠の戦いが始まる……かもしれない