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第5話「街との別れ、王都へ出発」

遅れてしまい申し訳ないです。

ブクマありがとうございます。

「起きてください、クロカワさん」


 その声と共に俺は目覚めた。

 掛けられる声はいつもの受付のものだ。寝る前に話した時よりかは活力がある感じがするし、彼女も仮眠したのかも知れない。


「……はい、おはようございます。……あぁ、素材の勘定終わったんですね」

「はい、もうギルドも閉まる時間ですが何とか終わったようです」


 そんなやりとりをする間に簡素なベッドから抜け出しカーテン代わりの幕を上げる。割とすぐ近くに立っていた役員さんは少し驚いたような顔をしたが、すぐに薄い微笑みを浮かべて俺を選別所───暫定的にそう名付けた、勝手に───に案内してくれた。


「結局、何体分あったんですか?」

「それを今からお教えするんですよ。焦らないでください」


 それはそうか、確かに少し焦っていたかもしれない。

 神眼を使えばどれだけ数があるかも分かるのだろうが今は敢えてそれをしない。どうせ数えてもらうんだし、無駄な手間だろう。


「では、集計の結果を……はい、ありがとうございます。……ああ、いえ、お疲れ様でした」


 受付さんは勘定係の人と二言、三言やりとりし紙を一枚持ってこちらに戻ってきた。あれに素材の数が書かれているのだろう。


「それでは、まず討伐証明のゴブリンの鼻の数からです。と、言ってもどうやらゴブリン単位で数えると全素材をしっかりと持ってきてくれたようですが。それにしても随分と沢山狩りましたね、317体です」

「多い方なのか?俺は基準が分からんから教えて欲しい」

「はい、正直に言って過去にこれほどの数のゴブリンを一度に狩った冒険者はいませんよ。多くても100体前後です」


 それは……ちょっとやり過ぎたかな?いや、問題ないに決まってる。だって魔物だし、うん。


「まあ、それはいいや。問題は無いでしょう?」

「確かに、無いですね。それで報酬なのですが……」

「素材も買取してもらっていいかな?」

「ええ、是非お願いします。ゴブリンとはいえこれだけの数があれば利益も馬鹿になりません」

「そっちの方も勘定できてるよね?」

「はい、依頼報酬も込みで30万ゴルですね」

「数だけ聞くと多く感じるけど、金の価値を教えて貰えるかな?」


 そう聞くと驚いたような顔をされた。それもそうだろう、常識知らずもいいとこだからな。それでもしっかりと教えてくれるのは親切だな。

 10ゴルはパン一個とほぼ同等の値段らしい。大体1ゴルあたり10円と考えていいだろう。そう考えると30万ゴルは300万円なんだが……


「こんなに多くいいのか?この半分ぐらいが妥当なんじゃないか?」

「知っての通りこの街は荒れておりますし、冒険者の数も少ないです。これだけの素材が持つ価値は適正価格だけでは計れませんよ」

「そう、ですか。それなら、いいんですけど。返しませんからね」


 そう言って軽く笑い合いながら受付に戻り、規格外の報酬を受け取りギルドを出た。とりあえず宿を取って、朝まで休もう。

 適当に歩いて辿りついた宿屋は受付以外は灯りも落ちていたが、入ってみると閉店の準備をしていた女将さんと目が合った。


「…………セーフ?」

「ギリギリ、ね。特別だからね、早く入んな」


 言われるままカウンターまで歩き、感謝の言葉を述べる。


「助かりました」

「なに、いいって事よ。坊主もこんな街で夜遅くまで歩いてたら危ないよ」

「自分の身くらい自分で守れますよ」


 そんなやりとりをしながら帳簿に名前を書き、宿代を払う。


「ご飯は食べたのかい?」

「そういえば……食べてないな」

「はぁ、余りもので良ければ上げるから食堂へおいで」


 宿屋の奥に進むと素朴な食堂があり、カウンター席に座るように言われた。


「少し待ってな」


 言われるまま席に座り待っていると食欲を刺激する何とも言えない香りが漂い、五分ほどすると料理が出てきた。


「ほら、お待たせ」


 カウンターから差し出された皿を受け取る。そこに盛られていたのは炒飯(チャーハン)だった。

 余りものと言っていたのは具だろうか、肉や野菜などが混ぜこまれてとても旨そうだ。


「いただきます」

「あいよ」


 木製のスプーンを手に取り炒飯を口に運ぶ。


「うまい、とてもうまいぞ」

「そりゃ良かった」


 とても美味だった。多く盛られていたはずの炒飯も数分の内に俺の胃の中に消えていった。ずっと動いていてお腹が空いていたのもあるが本当に一瞬のうちに食べてしまった。


「ごちそうさまでした」

「いい食べっぷりだったね、作ったこっちまで嬉しかったよ」


 そう言いニコリと微笑む女将さん。こちらも軽く笑い返すが、食事をしたせいか睡魔が襲ってきた。


「悪い、部屋、教えてもらえるか。凄い眠い」

「ああ、いいよ。ほら、この番号札の部屋だ。ゆっくり寝な」

「助かる」


 途切れそうな意識を全力で繋ぎ、階段を上がる。薄い明かりの中で自分の部屋を見つけ中に入る。

 ああ、もうダメだ。

 装備を外してベッドに倒れ込み、深い眠りに落ちた。






「んあ……朝……か?」

 《控えめに言って、真昼です》

「えー……寝すぎじゃね……?」


 盛大に寝坊した。随分疲れていたのだろうか?だが、寝坊した甲斐もあり、かなりスッキリしている気がする。体にも力がみなぎっている。

 なんだか、力が溢れてるような気もする。何かあっただろうか。


 《マスターが寝てる間にステータスの5割をマスターに適応させました。その範囲でなら自在に力をコントロールできるでしょう》

「お、そうなのか。ありがとう、ウィズ」

 《いえ、お気になさらずに》

「それはそうと、この先どうしようかな」


 力を使えるようになったみたいだし、自分の力を確かめつつもっと大きな都市に行ってみるかな。昨日戦ってる時に気づいたことだが、ステータスの上昇に伴い身体能力も大きく上がっていて、走る速度も今までとは桁外れだった。そのうえ疲労もしづらいのだから大したものだ。


「よし、あるかどうかは知らないけど首都に行くか」

 《あります、この街から早馬で1時間の距離です》

「この世界は24時間で1日って計算になるのか?俺の感覚ではそれで違和感が無いのだけれど」

 《マスターの世界と同じく、ピッタリではないですが24時間であっています。朝に1回、昼に1回、夕方に1回、夜に1回、6時12時16時20時にどの地域でもそこにある鐘が三回鳴ります》

「へー、あ。早馬って時速どれくらい?」

 《時速200kmくらいですね。マスターの元いた世界のものよりも少し早いのでは?》

「いや、俺の世界の早馬の基準知らないし……でも早いんじゃね?やっぱ異世界だし。200km/hとか頭おかしいだろ」


 ウィズから情報を教えてもらいながら昨晩捨てるように外した装備を付け直す。と、言っても黒剣くらいしか目立った装備はないのだが。


 女将さんに昼食を食べさせてもらい、宿を出た。とりあえず、ギルドにでも行って首都について聞いてみようか。


「すまん、首都?について教えてもらえるか?」

「あ、クロカワさん、こんにちは。首都……ですか?分かりました」


 首都の名前はアンビデクスといい、国民にも優しい国王が治める国らしい。だが、他国との交流では自国のために容赦なく、そして溝のできない交渉を行うとのこと。

 相当腕のある王様なんだろうな。そこらの学生だった俺には真似も出来なそうだ。


「それで、なぜ首都のことを?」

「いや、ちょっと気になることがあって。多分今日中にはここを出るよ」

「そ、そうですか。流石のフットワークですね」

「なんてったって冒険者ですから」

「あ……ふふ、そうでしたね。お気を付けてください」


 宿屋の女将さんにも礼を告げ、俺は街の出口、すなわち入口でもあるあの門へ向かった。


「おう、また狩りか? 」

「残念だったな。俺、アンビデクスに行くから」

「王都に?そりゃまた突然だな。足はあるのか?」

「これでも冒険者だよ、何とかするさ」

「そうか、まあせいぜい気を付けな」

「ああ、縁があったらまたな」




「ちょっと休憩するか」


 首都へ向かう道程の2/5ほどを1時間で走破した俺は軽く疲れていた。身体に馴染んだ力を確かめるように全速力で走ったり軽く走ったりとしていたら、疲れた。うん。


「残りは……うむ…… 疲れない程度に走って3時間か。絶対飽きるなこれ」

 《マスター、『妄想技』で何か移動用の技は無いんですか?》

「……………………」

 《マスター?》

「なんで気付かなかったんだ俺……いや、助かったよウィズ、ありがとう」


 それじゃ、始めますか。


()く早く『天翔』」


 俺だけではない、人ならば一度は妄想せずにはいられないことの一つ。空を飛ぶ事だ。もちろん、俺も妄想してきた。無理だと分かっていてなお、夢想するのを止められはしなかった。

 湧き上がる魔力をほんの少しだけ消費しながら宙へ浮かぶ。意識を前方に向けると同時に、俺は風になった。

 瞬く間に過ぎ去る景色、地面を蹴るだけでは得られない速度、耳元で鳴る風の音、どれもが初めて体感するものだった。

 その速度は全速力で駆けた時のものよりも早く、魔力の限り加速できる、そんな感じだった。


「いやっほおぉぉぉぉう!」


 この世界に来てから数度目の全能感、歓声を上げるのを抑える気にすらならなかった。




 どんどん速度を上げていくうちに、気付いたことがある。それは当たり前の物理法則、空気の壁だ。スピードが上がる度に身体に感じる抵抗感は大きくなり、魔力の消費も大きくなっていった。

 これは気分が悪い、というわけで対策を飛びながら考えた。

 5分ほどあれこれ考えた後の結論はこれだ。


 神眼で空気の流れを見切り、魔力で強引に追い風へと変える。


 物理法則はどうしたって?そんなもんクソ喰らえ、妄想の世界に物理法則なんて必要あるもんか。

 都合のいいように、自分の思うままに、それが妄想だ。ただのシュミレーションじゃない。


 改良を加えた『天翔』は空気抵抗をなくし、さらなるスピードを得ることに成功した。

 今や音の壁さえ超えて衝撃波を撒き散らしながら王都に向かう。

 流石に、地上付近でこんな事をしたら色々と危ないので今は高度を上げて進路を俯瞰するように飛んでいる。


(ウィズ、この調子だと後どれくらいで着く?)

 《ものの数分です。初めからこうしていたら既に到着していたと思います》

(これは手厳しい)


 そんなやりとりをしつつ、また少しスピードを上げていく。俺が目指す前方、遥か遠くに見えるその都市は刻一刻とその大きさを膨らませていく。

 もちろん俺が近づいているからだ。

 高度を大きく下げ地表すれすれまで降下する。速度も一気に下げ、駆け足程度の速さで目的地へ向かう。

 万が一目撃されてたら面倒が起こりそうだからだ。


「もういいか」


 200kmも離れていたはずの王都は今や目前にあり、俺も『天翔』を解き道を歩いている。神眼の索敵には魔物は感知されず、この周辺が今は安全だということを確認する。


「さて、どんな国かなアンビデクス」


 巨大な壁をまえにして、俺は創造神の言葉を思い出していた。

戦闘が無い日常編のような感じでしたが、どうだったでしょうか。

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