第3話「草原出身、冒険者です」
問答無用に過剰成長した自分のステータスを凝視して文字通り空いた口が塞がらない俺。
レベル差を考慮に入れてもこの上がり方はおかしいと思うんだけど……
「あ、もしかして……」
レベルアップが経験値制だと考えて、ドラ〇エ方式じゃない……?昔やったゲームにあったはずだ、1回の戦闘中に得た経験値がそのレベルでの必要経験値で何度もレベルアップするのが……
普通に進めていたら適正レベルの敵としか戦わないせいでほとんど階段飛ばしは起きなかったが、序盤で出会った高経験値モンスターを運良く倒した時に、凄まじい勢いでレベルが上がった覚えがあるぞ……
「ウィズ、上手く言葉にはできないが、ここでのレベルアップはこんな方式で合ってるのか?」
《概ねはその通りです。それでも、マスター以外の者が同じ事をしてもここまで一気に成長することは無いでしょう》
その通りだ、俺の予想が正しいなら……
「ウィズ、完全限界突破の効果を表示してくれ」
《勘がいいですね、マスター。表示します》
『完全限界突破』:極限スキル
あらゆる限界を完全な形で突破する。通常の限界突破とは違い、限界突破後の上限すら破棄する。
ステータス上昇率、取得経験値を増加し、スキルの習得難度やレベルアップに必要な経験値を緩和する。
これは上がるよなぁ……ステータスの壊れっぷりにも驚きだよ。
「ウィズ、強いのは別にいいんだが、これバレたりしないよな?」
《マスターが力の制御さえ出来れば問題ありません。ですが、許可さえ出して下されば私がマスターの力を制御することも出来ます》
「頼む、割と全力で。せめてうっかり無関係者を殺さないようにしてくれ、よろしくな」
《了解しました》
レベルが上がった時から感じていた身体の奥底から湧き上がるような力の奔流が徐々に緩やかになっていき、今までと変わらない感覚に戻るまで俺は動けなかった。
急激に上昇したパラメータのおかげで、迂闊に動いて何かがあっても混乱して対応出来なそうだからだ。
足元にあった小石を拾い、黒騎士の死体に投げてみる。だが、小石は黒騎士の体の表面にぶつかっただけだ。
「少し、力を出したい」
そうウィズに告げ、50%ほど力を開放する。さっきと同じくらいの大きさの小石を拾い、また投げようと構える。
指で小石を握り潰して粉にしてしまった。正直、そんな予想はしてた。
少し大きめの石を探し、拾い上げる。指に軽く力を込めるがミシッという音を立てた以外は問題は無いそれを、黒騎士の死体に全力投球した。
ドパン!
俺に両断されたうちの片方の死体は、肉や血を周囲に飛び散らせつつ砕け散った。
顔面を引き攣らせつつ、ウィズに力の制御を頼んだ。これは地道に練習して感覚を掴まないと、ふとした拍子に大事故が起こるな。
《緊急と判断した場合には私が完全に身体の制御を司ることもできますが、どうでしょうか?》
「んー、ほんとに緊急な時なら、その状況を脱するまでの間その権利を許可するよ。それじゃあ、街に向かうか」
答えながら黒騎士の身に着けていた鞘を装備し、マップを確認しながら、一番近くの街へと足を向けた。
「なんていうか………荒れてるなぁ」
街の前に着いて初めに抱いた感想がそれだった。街の入口である門は錆が浮かび、門番であろう二人の男は酒を飲みながら笑い合っている。
「この感じだと街の中も凄そうだな……」
放っておいたら俺の疑問全てに答えを出してくれそうなウィズには悪いけど、自分の目で見たいものもあるから聞いた時以外は答えないで欲しいとお願いしてある。
気のせいか残念そうな調子で《了解しました》と言っていた。
「すまない、街に入りたいのだが」
門番に声を掛けると気性が荒そうだと思っていた方の男が俺に答えてくれた。
「悪いな兄ちゃん、この街にゃ旅人すら滅多に来ないから酒を飲んでたんだ。仕事はちゃんとするから怒るんじゃねぇぞ?俺は門番のガーレンだ」
そう言いガーレンはニカッと白い歯を見せて笑った。意外にも粗野な見た目とは裏腹に温和な人物らしい。少し、言葉に引っかかるところもあったが。
「それで、街に入るためにゃ身分を証明するものが必要なんだが……」
「残念なことに持ってないんだ」
「そうか…………まあそういう奴もいないことは無いからな……元々持っていないんだな?」
「あぁ、何とか入れたりしないか?」
もしダメならどうしようかな……とウィズに助けを求める事も考えに入れつつ交渉をする。口振りからすると何らかの救済措置があるとは思うのだけど。
「仮身分証を発行する事は出来るぞ、1週間しか使えないけどな。兄ちゃんはまだまだ若いみたいだし特別にタダで発行してやる。いくつか書類に書いて貰わなきゃいけねぇからこっちの方へ来てくれ」
必要な金まで工面してくれるガーレンさんマジイケメンじゃないか。やっぱり人間見た目よりも中身だな。
そんな事を思いながら俺は詰所の中で書類に必要事項を書き入れていく。
「あ……」
この世界の文字はどう書くんだろうか?教えてウィズ先生。
《文字を書く時は私がやりましょう、普段通りに書いて下されば共通語に変換して書記します》
流石ウィズ、何でも知ってる俺の相棒だな。文字は読めるのか、とも思ったが神眼の下位スキルである『文字翻訳』が発動し、問題なく読むことが出来た。
名前……クロカワ・マコトでよしと。
出身地……えっと……草原かな?草原にしよう。
犯罪歴……いや、無いよ。
これでよしと。
「ガーレンさん、書いたぞ。これで大丈夫か?」
「お、どれどれ……クロカワ・マコト?東方の名前か?」
「まあ、そんなとこだ」
「草原ってどういうことだ?」
「そういうことだ、細かい地名までは分からん。ただ見渡す限りの草原だよ」
「ううむ……まあいいか、犯罪はなし、と。あったらとっ捕まえてるけどな。じゃあ……『この文書に偽りは無い』と言ってくれ」
「この文書に偽りは無い」
………………何も起こらないぞ?
「おう、ご苦労さん。問題無いぞ」
「それは良かった。これでやっとひと休みできる……正式な身分証ってどうすれば手に入る?」
「まあ一番簡単なのは冒険者ギルドで冒険者として登録する事だな。ギルドメンバーのプレートは身分証になる」
「この街にもあるのか?」
「そりゃあるさ、都市に比べたら小さなもんだけどな。街に入ったら案内板もあるし、見てみるといい」
ギルドね、やっぱ定番だな。少し楽しみだ。少しだけ嫌な予感がするけど。
「それじゃ、ほら、これが仮身分証だ。失うなよ」
「そこまでうっかり屋じゃない、色々と助かった、ありがとう」
「おう、立派な剣持ってるからあまり心配しちゃいないが、見ての通りここはあまり治安が良くないから気を付けてくれ」
「自分の事くらい、自分で守るよ。そろそろ入らせてもらおうかな」
「分かった、人用のゲートを開けるから付いて来てくれ」
詰所から出て門の横まで行くと、確かに人が通れるくらいの鉄門扉があった。
見た感じ随分と丈夫そうだし、敢えてこれを壊すような真似をする必要も無いだろう。
扉を開いたガーレンがこちらを見てお決まりの台詞を聞かせてくれた。
「ようこそ、サウスへ」
ガーレンさんが言っていた案内板を確認し、冒険者ギルドへ向かう。途中で何度か喧嘩の現場を目撃したが、俺には関係ないので一切スルーした。勝手にやっててくれ。
5分ほど歩くと目当ての建物、冒険者ギルドに到着した。ここに来るまでに見た他の建物同様、あまり美しい見た目ではなくただそこにあるといった感じの平凡な見た目である。一つだけ違うところがあるとすれば、建物の上に描かれたエンブレムだろうか。
太陽をモチーフにしたような下地の中央に後ろを向いた冒険者の絵が描かれた独特なデザインだ。
何となく、巨大な存在にも臆せず立ち向かうといったイメージを抱かされるものだった。
「とりあえず登録しようかな」
小さく呟き、両開きの入口をくぐった。外の夕焼けに染まった空とは別の、どこか暖かい光が建物の中には満ちていた。
天井に目を向けると、光を放つクリスタルのような物が浮かんでいた。大方魔法でも利用しているのだろう。
「受付のカウンターは……っと、あったあった」
俺は受付嬢が立っているカウンターを見つけ、そこに歩み寄る。
「冒険者ギルドへようこそ、初めて見るお顔ですがどうされましたか?」
「すまない、冒険者の登録をしたいのだが」
「あぁ、新規の冒険者の方でしたか、失礼しました。登録でしたら今すぐ行えますが、いいでしょうか?」
「問題無い、よろしく頼む」
「承りました。それではあちらの窓口で登録の手続きを行ってください」
示された窓口へ向かい、書類を記入する。
内容はさっき街の入口で書いたものと同じで、書類を確認された後に手の平大程のサイズのプレートを渡された。
「これは?」
「最後に、こちらに血を一滴垂らして頂けば登録の完了です。こちらの針で指を刺して下さい」
「なるほど。……っ、これでいいですか?」
針で指を一刺しし、血を垂らす。不思議なことにプレートに血が染み込んでいき、全て消えると同時にプレートに文字が浮かんできた。
冒険者ギルド所属 マコト・クロカワ
冒険者ランクF
「はい、冒険者ギルドの一員として、どうぞ頑張ってください」