第11話「保護と入国」
一週間ぶりです、おはこんにちばんわ。
何だかんだでPVは17,000とユニーク6,000も越えてるんですね。とても嬉しいです。
こんな拙作ですが、これからもよろしくお願いします。
現れた大虎に少し驚きつつ鑑定を使う。
リオン Lv.30 年齢:15
種族:人虎 性別:女
HP:2,000/5,000 MP:140/500
筋力:500 体力:300
魔力:50 精神力:10/150 敏捷力:800
状態:虎化、狂騒、衰弱
……?
「人虎……ワーウルフ的なアレか」
完全に獣化してるらしく、その上に疲弊の色も濃いときた。しかも妙な状態異常にもかかっているようだ。魔物と割り切りサッと殺すか助けるか、二つに一つだな。
「普通助ける。とりあえず眠らせるか」
一瞬のうちに虎の側面へと回り満月と新月の峰を叩き込む。吸血の副次効果であるマナドレインが発動し、虎を睡眠へ誘った。
「さて、この虎の状態は解けるのか……?」
神眼で覗いてみると極端に弱れば解除されるらしい。え?寝てるまま蹴れってか?鬼かよ。
どうしたものかと腕を組み指でリズムを刻む。
トン、トン、トン、トン、と一定のリズムを刻みながら思考する、残念ながら頭が飛び抜けていいわけでもないからそんなにすぐに妙案を思いつく訳では無い。
「んーーーーーん。まあ、『妄想技』でいいか。……『解除』」
解除とは名ばかりの強制消去魔法である。狂騒とかいうのも一緒に消してやった。
目前の虎の姿がどんどんと縮んでいき、それと同時に全身の毛が短くなり最終的には小柄な少女の姿を象った。
檸檬色の髪の毛に埋もれるように生えている虎耳、頬から伸びる左右対称の三本ヒゲ、唇の外に自己主張する牙、虎化した時に服が破けてしまったのかその体は一糸纏わぬあられもない姿だった。
手と足の指を見てみると爪は鋭く、獣の特徴を残しているようだった。
体に傷跡がないか確かめるがそこそこのサイズの胸があること以外には特に問題は見つからなかった。違う、これはセクハラじゃないんだ、信じてくれ。
「服か……とりあえずマント着せとこうか」
ウィズに頼み治癒魔法を女の子に施してもらう。
もう一度ステータスを確認すると虎の状態とは結構な違いが見て取れた。
リオン Lv.30 年齢:15
種族:人虎 性別:女
HP:1,000/1,000 MP:500/500
筋力:200 体力:200
魔力:50 精神力:150 敏捷力:200
状態:睡眠
こんな具合だった。主に身体的なステータスが下がっており他の内的な部分のステータスは変わっていなかった。
そこそこにレベルが高く、ステータスも結構上がっているが戦闘は虎化した方が圧倒的に強いだろう。
一度起こして事情を聞いておきたい。
「…………?ここは……?」
目を覚ました少女、リオンは周囲を見回し俺に気づく。
「よう、大丈夫か?俺はマコト、今しがたお前のことを保護したところだ。起きたばっかで悪いんだが話を聞かせてもらってもいいか?」
「…………?…………………えっと、はい……?」
人は混乱したらこうなるんだろうな、という状態を完全に表現して首をかしげる少女。目を覚ましたら見知らぬ男がいる上に突然話しかけてくるのだ、俺でも驚く。
さらに俺の格好と来たら忍者だ、困惑しないわけが無い。一旦落ち着いてもらうしかないだろう。
「お前が人虎だというのは分かってる。さっきまで虎だったからな。ふらふらしてたから眠らせて、魔法で元に戻したってわけだ。他に質問はあるか?」
「えっと……呪い……が、あれ?無くなってる?」
「呪い?」
「は、はい。狂騒の呪いが……」
「それ消したわ」
「えっ」
あれ呪いだったのね、細かく見てなかったし消せたから気にしてなかった。
「他は?」
「と、特に無いです」
「じゃあ俺から質問してもいい?」
「は、はい、どうぞ」
質問と回答をまとめるとこんな感じになった。
Q.なんで虎化してたの?
A.奴隷商人に連れられてる所を魔物の群れが襲撃して商人や他の奴隷が死亡、自分も殺されそうになった時に商人が奴隷にかけていた呪い、『狂騒』が発動して虎化した。ちなみに魔物の群れは虎化とともに暴走したリオンが全部屠ったっぽい。
Q.虎化してた時の意識はあるの?
A.うっすらとしかなく、狂騒のせいで自分の意思で動かすことも出来なかった。
Q.虎化は自由にできるの?
A.できる。むしろ戦闘の敵は部分的に虎化して戦うことも珍しくないらしい。
Q.この後俺アリアにいくんだけど、どうしたい?
A.ついていってもいいですか?
こんな感じだった。
そして今、俺が答える所だった。
「いいけど、一緒にいてどうするの?俺各地を回るつもりなんだけど」
「…………それも付いていきたいです……」
伏し目がちな感じで呟くリオン、本人が望むなら俺は構わないので許可を出すと嬉しそうな顔をしてた。これからの事はおいおい考えて行けばいいので、取り敢えずリオンの服を作ってやることにした。
聞いたところによると基本的に虎化させるのは腕と足で、袖も裾も両方短い服を着ていたらしい。
魔力で袖の長い服とスカートを作ってやった。パンツもサービスだ。破れてしまう、と言われたが舐めないで欲しい。
神眼で視たリオンの魔力と同調する様に服を構成したので虎化してる時は体と同化するという優れものだ。
考えようによっては常時素っ裸とも言えるが見た感じ服を着てるので誰もそんなことには気づかない、俺だけだ。
1人だけなら走ってアリアまで行く所だが、旅の連れができたので徒歩で行くことにした。
どちらにしろ二時間もしない道のりだ。のんびり行こう。
遠目にもアリアが見えても良さそうな辺りまで来たのだが行く先にはいっこうにそれらしき影は見えない。リオンは目的地が近いと聞いても不思議そうな顔だが、それとなく予想もついてるので気にせず前に進む。
というか俺は見ようと思えば見れる。
マップを見ても後10mでアリアに到着するというところまで俺達は来た。無論、眼前には荒野と空が広がっている。
一見して都市なんて大層なものは見当たらないが、こんな時は十中八九地下って相場が決まってる。
地面を睥睨し『透視』を発動する。
…………………………見つけた。
少し離れた地面に同化するように、偽装された入口が俺の眼に映った。しかしどうしたものか、鎖国中ということだし、穏便に入国できるのだろうか。
入口から5m程地下までハシゴがあり、その先の通路に申し訳程度に見張り番の男がふたり、都市の門らしきものの前に並び立っているのが見えるわけだが、通してくれるのだろうか。
透視の範囲を広げながら都市を地上から見渡すと、どういった技術か壁も天井も地面もしっかりと舗装されているのだ。しかもかなり広大な空間、ちょっとした洞窟なんて話にならないほどにスペースがある。天井の高さ自体もさることながら、深くまで層になっており文明レベルの高さを思い知らされた。
とりあえず入ってみようか、そう思い入口に視点を戻す。すると 先ほどまで談笑していた兵士達はその手に持っていた銃(ここで銃があると分かったのは僥倖だった)を構え入口のハシゴの方を警戒している。俺達の存在に気づいたのか、気づかれたのなら今更焦っても仕方ないとリオンを連れて入口まで歩く。
いよいよ焦りを顔に浮かべた兵士達が銃を構えながら、手元のデバイスを覗いている。そこに映っているのは俺とリオンの姿だ。そこらにカメラか何かあるのかは知らないが……魔石か、ちょっと注視すると微弱な魔力を放つ石がそこらに埋まっていた。あれがカメラの代わりになっているのだろう。
「リオン、ここに入口があるから俺が先に入る。危険がないのを確認したら呼ぶからそれまで少し待っていてくれ」
「えっと、分かりました」
軽く手を振り魔力で小さなナイフを生成する、テコ替わりに使うので刃は潰れている。
「少し離れとけよー」
軽くそう言い地面と扉の隙間にナイフを差し込む。そのまま手前に倒せば僅かな抵抗と共にその蓋は開いた。
ナイフを消し、両腰の短剣に手を添えつつ穴に飛び降りた。
「動くな!」
発された声を無視して、俺は前に歩き出す。
「くそ、撃えっ!」
俺が三歩目を踏んだと同時に発された掛け声と共に放たれる銃弾と、響く発砲音。リオンを先に入れていたら確実に蜂の巣だな。そう思いながら、10余メートルから飛来する数多の銃弾を抜き放っていた『満月』『太陽』で弾いていく。
神眼のおかげで弾がどこに着弾するかは分かる。後は並外れた敏捷性にものをいわせて斜めに刃を添えて行くだけだ。
周囲が遅くなったように知覚する今の状態で、自分だけがいつものスピードで動ける不思議な感覚を味わいながら数十発の弾丸を残らず弾いていく。二人の兵士が最後の1発をほぼ同時に放ち、その弾丸それぞれに鎬を当て、短剣を回す。
ベクトルが反転した二つの弾は元いた場所に吸い込まれていき、銃を破壊した。
基本的に中身が丈夫な機械はない。
「なっ?!」「うわっ!?」
兵士が驚きの声を上げるが構わずに高速で接近。
二人の間を駆け抜け──隠蔽と幻影の効果で俺が元いた場所に立ってるように兵士は見えている──後ろから腕を捻り上げ、同時に跪かせた。
「あ〜、と、驚かせて悪いんだが害意はない。ひとまず話を聞いてもらえないか?」
なるべく優しげに聞こえるよう気をつけて、呻き声を上げる兵士達に話しかける。
「くっ……なんだ貴様は!」「この場所に何の用だ!」
「えっと……冒険者やってますクロカワです。ここに来た目的は観光、かな?上にも連れがいるんだ、入れてもいいか?」
「……観光?」「仲間か、この通路まではとりあえず構わん。害意が無いなら話してくれ、詳しく話を聞こう」
ふたりを解放し、入口で待つリオンを中へ招く。おっかなびっくりとハシゴを降りるリオンのスカートから目線を外し兵士へと振り返る。
銃の残骸を見てしかめ面をし、通路の床へ降り立ったリオンと俺を訝しげに見てくる。そんなに見るな、照れるぞ(照れない)
「えっとそれじゃあ……入国許可の方貰える?」
「えっ」
「えっ?」
俺は何かおかしいことを言っただろうか。リオンが不思議なものを見るように俺へと顔を向けてきた。なんだよ、そんな目でこっち見んな。
「そんないきなり許可なんて出せるか、手続きが必要に決まってるだろ」
「そうだぞ、まずはこっちの詰所まで来い。まったく…………この詰所で入国審査を行う日が俺の生きてるうちに来るとはなぁ……」
「俺らの爺ちゃんだってそんな経験ないぜ?」
詰所に入るように俺らに言うと、二人で話しながら扉の手前の壁へと近寄る。先ほども見ていた手首につけたデバイスをタッチしながら、ふと呟く。
「開け」
次の瞬間壁と同化していた扉は開き、その中へ兵士は入っていった。突っ立ってても何なので俺とリオンもとっとと入室した。
中に入ると、カウンターの向こうに立った兵士達が待っていた。
「えっと……これか。まずはこの紙に名前と入国の目的を書いてくれ」
カウンターの裏側から紙を取り出しペンと共にこちらに差し出してきたので、クロカワ・マコトと名前を書き、入国の目的に観光と書く。
ふと、リオンの方を見ると名前を書いた後、困ったような顔でこちらを見つめていた。
「俺と一緒にいるんだから観光って書いとけよ、急に置いていったりはしないから」
「はい」
書き終わった紙を差し出すと、それを片方が確認している間に、薄い魔石の板を渡された。
「魔力照合板だ、お前らが都市の中で何かやらかしたらこれでお前らの居場所を見つける。安全措置だと思ってくれ。まずはクロカワ、お前から手を付いてくれ」
言われた通りに、差し出された魔力板に手を付く。魔力板が薄く光りそして消える。
「よし、一度返してくれ」
「おう」
魔力板を返すと兵士はそれに魔石を当てる。当てられた魔石が完全に魔力板の魔力を吸収したところでリオンに魔力板が渡された。その後も同じような工程を踏み、魔力照合は終わった。
「あー……金ってどうなってるんだ?」
「それに関しちゃ心配いらない、金の規格は変えてはいけないっていう決まりがあるんだよ。もちろん、世界全体でな」
「そりゃ安心だよ、これで手続きは終わりか?」
「ああ、終わりだ。お前の強さに関しちゃ俺らじゃどうにもできないし、特に問題を起こすつもりもないならそれもいい。ま、せいぜいこの都市の技術力を見て驚くんだな。お前がさっき壊した俺らの銃はもう3世代は前のものだし、零世代の物なんか普通の人間じゃ取り回せないような代物だ。他にも色々あるから楽しんでくんだな」
「丁寧にありがとう、銃は弁償しなくていいか?」
「どうせそろそろ新しいのに変えるつもりだったんだ。貴重な入国者との出会いってことでチャラにしてやるよ」
「ありがとさん」
そうしたやりとりを終え、俺らは都市の入り口に立った。
「さ、ようこそアリアへ」
扉が開くと同時にそんな声をかけられ俺とリオンは閉鎖機会都市アリアに入国した。
書いてる内に伸びちゃって元々書くつもりだったのを次に回すことにしました。
次回!馬鹿野郎 お前俺は銃好きだぞお前!
お楽しみに