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姉弟探偵

作者: バオール

 私は高校、大学に通いながら、天職ともいえる仕事をしていたけど、体力と気力が持たなかったので、地元の建設会社の事務職に就職した。だけど会社は一族経営で空気が悪く、私も体を狙われたりと、嫌な気分になったので辞めた。どうせ給料も少ないし、胸を張って仕事をするのも疲れた。

 通り雨に濡れた自転車に乗り、この会社で最後の帰宅をした。帰り道にある豆腐屋で足を止めて、夕飯の湯豆腐を購入した。木綿豆腐と絹ごし豆腐があった。この二つは作り方の違いだけではなく、豆乳の濃さが違うそうだ。私は濃い方の絹ごし豆腐を買った。

 家に戻ると、義理の弟が待っていた。学校にも行けずに、家にこもりっきりの義理の弟は、私の買ってきた豆腐を見て、ニッコリと微笑んだ。家の中は綺麗に整頓されていて、隅々まで掃除が行き届いている。さながら主夫と言った感じだろうか、弟は鍋に昆布を置いて、水をはった。水道水はカルキ臭いのが移るのが嫌なので、安いミネラルウォーターを注いでいる。昆布も安物だ。鍋の水面に煮え玉が湧き上がったので、昆布を出して、瞬時に塩を振り入れた。切り分けた豆腐を沈めて、蓋をして数分待った。待っている間に葱をみじん切りにして、小鉢に醤油と鰹節と葱を入れた。

 私たちは小食なので湯豆腐とご飯だけで夕食も事足りる。炊き立てのご飯をよそって、鍋敷きに鍋をおいて、炬燵で食べた。湯気が飛び出し、ほどよい暖かさが口にはいり、喉と胃まで温めてくれた。薬味の味も食欲をそそり、炊き立てのご飯の甘さと熱さが体に移るようだった。

「仕事、辞めたんだ」

「そうなんだ」

「また、やるの? 昔の仕事」

「分からない」

 私たちが交わした会話は少なく、その日は呼吸音の会話を続けた。義理の弟は布団を敷いてくれて、力なくうな垂れる私の寝床を作ってくれた。

「寝たほうが良いよ」

「ありがとう」


 寝ている間も、時は流れた。私の気力は回復しないで、体力も停滞したままだった。どこで嗅ぎつけたのか、昔の雇い主が私の家を尋ねてきた時も、居留守を使いたかったけど、ずっと扉を叩くので仕方なくあけた。

「元気ではないみたいだな」

 白髪混じりで頭で、昔はモテていたであろう顔をしている。枯れることのない、自信に満ちていて、繁華街で喧嘩をした時も負け知らずだった。四十歳はとっくに過ぎていたはずだ。

「何のようですか?」

「暇なら、俺の仕事を手伝わないか? 実は困った仕事が来ているんだ」

「幽霊絡み?」

「そうなんだよ」


 私は義理の弟と一緒に電車で、その場所へ向った。小さなトンネルで、上にはお墓があった。変なところにトンネルを作るものね。すぐ側には海岸があり、潮風が私たちを優しくなでてくれた。周囲を歩き回ったけど、幽霊は見つけることが出来なかった。

「見えないわね」

「そうなんだ」

 私と血が繋がっていないので、弟には霊能力は無かった。気楽そうに、近くの店で海苔を買って、そのままで食べていた。半分もらったけど、塩味が効いていて美味しかった。


 私は義理の弟を置いて、依頼主の家を訪ねた。トンネルを歩いているときに夫をなくしてしまった未亡人だった。突然死してしまったのを、幽霊の仕業では無いかと思い、探偵事務所に依頼をしてきたそうだ。

「私には見えませんでした。おそらく幽霊の仕業ではありませんよ」

「そんなことは……ありません!」

 未亡人は頑なだった。嘘をついて幽霊を除霊したフリをするのも手の一つだけど、そういうことを昔やって痛い目にあった。良心が咎めるのもあるけど、私は嘘を吐きたく無かった。

「嘘霊能力者」

「ではありませんよ。嘘つきだったら、除霊代として色々せしめますよ」

「嘘よ……」

 逆に聞きたいのですが、なぜ幽霊のせいにしたいんですか?


 その後も、未亡人は色々な霊能力者に尋ねたそうだ。私は暇だったので色々調べてみたけど、以前にもあのトンネルで事故死があったそうだ。ただ、それは車に轢かれた事故だ。轢いた人間は分かっていないけど、彼の恋人は誰か分かった。依頼した未亡人だった。

 彼女は、昔の恋人が仕返しに来たと思って、どうにかして縁を断ち切ろうとしたのかも知れなかった。数ヵ月後、私が再び探偵事務所で働き始めて、幽霊騒動の調査を行った帰りだった。未亡人が目の前に立ち、私に包丁を持って走ってきた。義理の弟と一緒に行動していて良かった。弟は引き篭もりだけど、格闘技の心得があった。未亡人を優しく投げ飛ばし、路面に押し付けた。

「私は正直に言いましたよ」

 未亡人は霊能力者に全財産を奪われたそうだ。


 私は警察に未亡人を突き出して、探偵事務所へ戻ると社長が眠りこけていた。机の上に、地元名物の饅頭があったので、お茶にすることにした。義理の弟がお湯を沸かしてくれて、湯冷めの茶器で冷ましてから、緑茶を入れてくれた。饅頭は乾燥していたけど、緑茶と一緒に食べると十分美味しかった。

「戻ってきたのか」

「つい、さっきです」

「どうだ。楽しいか」

「そうですね。色々ありますが、悪くないです」

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