憂慮
30分くらいで書いたから誤字はすまんw流してネ♪
「ご主人素敵よねぇ、警察官なんて」
「うんうんホントそう思う、正義の味方、ボディガードがいつも一緒に居てくれるなんて羨ましいわぁ」
「聞いて聞いてぇ!ウチのなんて最近お腹出てきちゃってぇ、休みの日なんて家でゴロゴロしてるだけなんだもん。それに掃除、洗濯も率先してやってくれるなんて、ホント…ウチのに講習受けさせたいくらいだわぁ」
「いやいやぁ、そんな風に言われちゃうとなぁ。僕は僕なりに妻の負担を少しでも軽くできれは、と勝手にやってることなんで。ハハハ…」
可愛い花柄のトレイに載せたダージリンティを片手に、手狭いリビングに集まった主婦同士の会話、俺は外行き用、作り笑い専用の微笑を浮かべると照れた表情を浮かべながら薄く頭を掻いていった。ママ友達がお土産に、と持ってきたケーキはそのどれもが掘っ立て小屋のような交番内、その奥の狭くて暗い座敷で食う弁当よりも高く、その価値観の違いに戸惑いが広がっていく。
「旦那さんが警察官だなんてホント羨ましい… あ~ぁ…私、結婚相手間違えちゃったかなぁ」
そう言った見た目だけ華やかな化粧の濃い女はきっと俺という「個」ではなく「警察官」という職種、国家公務員であるそのステータスに惹かれたんだろう。一人一人が座るテーブルの前にまるで雇われ執事のような物腰で背後から優しくティーカップを差し出すと、俺はやっと自分の座るべき椅子をひいて理解ある夫を演じる微笑のまま腰掛けた。
「う~ん…安心感はあるかな… やっぱり…フフフ」
そう言われた妻もまんざらではないのか、方々から褒め称えるママ友相手に微妙に表情を変えていく。
しかし、俺は見逃さなかった。その女共から発せられる極少量の放射能にも似た明らかな優越感と嫉妬、そして偽善に浸った女独特の波動を。
(フ…結婚して2年近く経つのにまだ子供できないんだ?…どっちかに問題あるのよね、どっちかに)
(なにあの壁紙のセンス… ダサ… もう少しマトモなのなかったわけぇ?…ププ)
(え?… キッチンなんてウチより狭いじゃない…公務員でこのレベルなんだ…ふぅ~ん)
「できた旦那さん持つとホント幸せでしょォ?…あたしも数年前に戻りた~い」
できた旦那とは、とどのつまり金を人より多く稼ぎ、妻の言いなりになることだ、ということを俺は最近になって知った。
突然、見慣れたリビングが大きくぶれながら歪んだかと思った瞬間、視界が一気に暗転し体ごと深いトンネルに落ちていく。無と有、現実と夢の狭間の空間で俺はしばらく宙に漂っていた。
うっすらと冷え込んだ空気と護送車の屋根に叩き付ける激しい雨音に俺の瞼が細く開いていった。一瞬、そこがどこで自分がどうしてこんな所に居るのか解らず戸惑ったが、次第に熱を持った痛みが這うような速度で右足を席捲していく感覚と共に、記憶の結晶が一気に寄り集まってくるのを感じた。
今になってまだあの頃の幸せ、いや、正確には「幸せごっこ」をしていた夢を見るとは。そういう意味では俺もまだまだ過ぎ去った甘い現世に未練があったということなのだろう。
時刻を見ると朝の5時40分を少し回ったところだった。
運転席、わずかに動かした右足に激痛が走ったが、それを承知で俺は用意しておいたレトルト食品、冷えたカレーのルーをアルミパッケージごと、まるで飲み物のように口に運んでいった。冷え切り固まった動物性脂と妙に柔らかい野菜と芋は流動食を思わせていく。鯖の味噌煮の缶詰めも車内だからか普段、独りで家で食うのとは違いそれなりに美味く感じる。様々な種類が混ざり合ったドライフルーツが指先から床にこぼれるのも厭わず連続で口の中に放り込んでいった。満腹感で膨れた腹めがけ、最後に大きめのチョコバーを咥えながら窓の外を見ると厚い雨雲からわずかに射した朝の日照りのなか、土砂降りの豪雨に泥水が跳ねているのが見えた。
健康福祉センターか… なにが健康だよ… クク…笑わせやがる… 痛っ!…っっっ!!!
ゆっくりした動作で太ももの付け根部分、パンツを半分引き下げ恐る恐る傷口を覗いて見ると、どうやら出血は完全に止まってはいるものの、赤黒く腫れた銃創が酩酊した頭で俺がやった適当な縫合を押し広げる具合に盛り上がっているのが解った。その傷口部分の皮膚とズボンが直接的に触れ合うのがたまらなく痛く、俺は昨日の深夜寝れず、立て続けに打った座薬と極少量の局部麻酔を注射した後、消毒液をぶっ掛け、医療リュックから包帯を出すとグルグルと無造作に厚めに巻いていった。その後すぐ、3錠の鎮痛剤と、同じく3錠の抗生剤を口内に放り込むと向精神薬と共に缶ビールで胃袋まで流し込んだ。医療に詳しくもない俺に出来ることはこのくらいで、後は全て時という名の名医が解決してくれるだろう。
こういった銃創で怖いのは実は痛みや出血などではない。その後にくる感染症や諸々の臓器に掛かる負担、合併症だ、という事を俺は警察官学校の頃から学んでいた。
抗生剤、いわゆる抗生物質にも、対する細菌により色々とあり主に5系統からチョイスしなければならないらしく、本当はヤバいことなのだろうが朝、昼、晩と違う種類を飲んでいる。いつかどれかにはビンゴするだろう。俺の体内に対する多剤耐性菌の発生が心配だったがそんなことをイチイチ考えてる暇はない。
ん…?
豪雨で灰色がかった駐車場、ひときわ大きく存在感のある茶褐色、健康福祉センターの建物から一人の女がこちらに駆け寄ってくるのがバックミラー越しに見え、俺はチョコバーを咥えたままナンブ拳銃と特殊警棒を握り締めた。長谷川の家を奇襲してからヘルメットや重い防具は外してはいるものの、女一人相手にそう警戒する必要もないだろう。
女は初め、後ろの方から護送車の横の窓を舐めるよう立ち歩いてきたが、運転席に座る俺の姿に気づくや、前方に周り込み大仰に手を振ってきた。土砂降りのなか、薄いピンクのセーターは濡れすさみ、内側のキャミソールははだけていたが、栗色のショートヘアが妙に似合うイイ女だという事はすぐ分かった。しかし、いずれにしろ警戒するに越したことはない。俺はすぐにエンジンをかけアイドリング状態にすると、もう一度隠れてる奴等、敵になる存在は居ないか、広い駐車場、周囲をくまなく目で追っていった。豪雨に彩られた広大な駐車場には見るからに置き去りにされた数台の車以外、およそ人影は見えはしない。薄くパワーウィンドウを開けるとチョコバーをかじりながら俺は女の居る下に向かって低く言った。
「なんだ…お前」
俺より少し若い感じの女はすぐに前方から運転席、トラックほどある高さの窓枠にしがみつくよう小顔を上げると雨音に負けない声で小刻みにジャンプしながら俺に叫んでいく。間近で見るとスタイルからも表情からも久しぶりに見るイイ女、ということが解った。
「乗せてっ!一緒に連れてって!!…お願いっ!!」
薬と酒に感覚が麻痺していた時の愉快な俺なら即刻撃ち殺していただろう。だが、その時の俺は人を殺める行為より、その美女といって差し支えない一人の女の動向に興味を持っていた。こうして見る限り、夜を生業にした職業に就いてる女独特の妖艶な水気色が漂っている。小さな耳にしている高価そうなピアスから雨の雫が滴り落ちていく。
「お前…あの建物から出てきたな…福祉センターの… 一人じゃないんだろ?」
片手に持ったナンブ拳銃で建物の方角を指し示しながら俺はそう言った。
「ううん…今はもうみんな、全員死んでしまって私ひとりなの… あ、それって…ピストル?」
「嘘をついてもすぐ解るんだぞ… おおかた中の男どもからでも言われて俺を誘い出そうと…」
俺が喋り終わらないうちに、その女は意思の強そうな瞳を見開くとまくし立てるよう言い張った。
「ないっ!…絶対そんなことない!… 信じてっ!おびき寄せる…とか… 誘い出す…とか… 私一人なのっ!ホントに!!…ね?お願い…乗せて乗せてっ!… どこでもいいから…連れてって!」
俺を車外に降ろす、ということを画策してない以上、女の言う道理は一通り当たっている。
チッ… やっかいだな…
そう心のどこかで思いつつも、独りでの行動生活にも飽きが生じてきた矢先だった。あの日から50日近く、いま生きている人間はみんな何かしらの武器を所持していなければ生存することは難しい。
俺の最終目的は小野寺…。そう、小野寺署長を殺めることにより達成される。あとはこの無秩序に歪んだ現世に未練もなければ用もない。
「まぁ…乗せてやってもいいが… お前に…なにがある?」
「え?…なにがって… なんもないけど…」
「ならダメだ… 他を当たりな…」
「あ、あるよ… ほら…この体… ダメ?…」
女はそう言いながら大雨のなか、自らのスレンダーな肉体を仰け反らせていったが、全くサマになっておらず俺は苦笑した。なるほど、女は体が武器か…。だが美女とは言え、こんな世の中だ。油断はできない。
「な、なによ…笑うとこじゃないでしょ」
「クク…まぁいい… それよりなんか変な物もってねぇだろうな?… 両手を上げて万歳したままグルっと周れ…」
「う…うん…」
戸惑いを露わにしつつも俺の言いなり、従順にセーターを着た華奢な身体を回していく女の姿に俺の答えはすでに出ていた。
「よし…クク… 乗せてやる… あぁ…護送車の周りに張り巡されてる鉄条網、それ触るなよ… 一瞬であの世行きだからな…今はゴムタイヤが絶縁体になってはいるが、そんな濡れた手で触ったら人間トースターの出来上がりだ…」
「えっ!?…嘘っ!ヤダっ!…もうちょっとで触るとこだったし… 先に言ってよね!!…もぅ!」
蛇腹式のドアを開けてやると女は少しだけ頬を膨らませ怒った仕草で乗り込んできたが、そのめまぐるしく変わる表情、そして大きな瞳もまたその女の魅力と言えた。
「ね?…なんかさ、着替えない着替え… あ、これでいいや…貸してね。え?これって警察の?」
「おい…それは俺の…」
「いいじゃん別に…少しの間だけだからさ」
突然セーターとキャミを一緒に脱ぎだし、下着姿になった女の体を直視できず、俺は外の灰色にくすぶった景色に視線を這わせた。
「おい…。後ろに間仕切りされた部屋がある…そこで着替えろ」
「あ。いま見てたでしょ?…もしかしてぇ」
「馬鹿を言え… さっさとしねぇと外に放り出すぞ」
「もぅ…そんなピストルぶんぶんさせてぇ…怖いんだからぁ… はい…着替え終了っ!…と」
警察官が下に着る白地のYシャツはどう見てもその線の細い女には大きすぎ、手先など外部に露出しないガバガバ感が妙な色気を醸し出していた。
「クス…ホントだ… おっきいねこれ… キャは…ハハハ」
濡れた髪、そう小さく笑いながら自分の姿を客観視する女の様子が捨てられた子猫のようで、なんとも形容しずらい情緒をこの狭い空間に作り出していった。
「ね?お兄さんさ、もしかして警察官だったりするぅ?」
「だとしたら?…」
「やっぱそぅか!…そっかそっかぁ… なんかこういう車だしそんな感じしたからさ」
「元…だ。今は警察官でもなんでもない… むしろその逆、犯罪者だな…クク」
女はそんな俺のセリフにも動じず履き慣れないユルユルのスラックスを履いていく。そんな様子を見るにつけ、ある意味、肝がすわってる女とも言えた。
「なぁ?お前…あそこにずっと居たのか?」
「あそこって…福祉センター?…ううん、10日位前に来たんだけど…もぅちょっと前かな?…」
「何もなかったのか?物資は…」
「ん~とね、8人くらい?中高年のオジサン達居たんだけどぉ… なんか夜中にね…20人以上居たのかなあれ… 私くらい若いギャングみたいな人達が大勢きて…」
「やられたのか…?」
「うん… そこに居たオジサン達優しくってね…私を屋上のボイラー室に隠してくれて… それで…」
「それで?…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
女はそう言いながらいつの間にか泣いていた。どこか明るく愛嬌ある顔立ちに似合わない涙が水晶のように光った瞳から溢れては、透き通った肌をした小顔を流れ落ちていく。
「そ…それでね… グス… それで昨日…この車、なんか大きいバスみたいのここに停まったの屋上から見えたから… グス…ン」
「おい、泣くな。もう一度聞くが、中に居た奴らは全員死んでいる…ってことでイイんだな?」
「う…うん、多分… 私は怖くて一昨日初めて一階まで降りたんだけど… ここを襲ったギャングみたいな子達も何人か死んでるみたいだった…」
「そうか…そいつらが来た後ってことは… 役立ちそうな物はもう何もないってことだな… チッ…」
「ねぇ!?そんなに道具とか食料が大事なわけっ!?…みんなみんな、おかしいよっ!!」
女はキッと見開いた瞳でこっちを睨んでいたが、チョコバーを齧りながら俺は静かに言った。
「あぁ…大事だ、少なくとも腹の足しにもならねぇクソみてぇな偽善心よりはなぁ… っっ!?痛っ!…っっ!!」
アクセルシートに乗った右の足先が車体の何かにぶつかった途端、走るような激痛が右足を襲った。
「っっっ!!!…」
「え?…なに?怪我してるの?… ね?ちょっと見せて…」
「いや、いい…大丈夫だ…」
「よくないっ!…そんな痛そうな顔してっ!…いいから早く見せなさいよねっ!」
「お前…」
俺は反射的に拳銃を女の方に向けたが、それに臆するでもなく彼女は身を乗り出してくる。
「いいから見せて… 私…これでも一応、看護師なんだから…」
「なんだと?…」
ホステスか何かの水商売だとばかり思ってた予想が大きく外れ、俺は自分でも解る驚きの声をあげた。
「看護師よ看護師… 直接的な医療行為に従事してた訳じゃないけど、先生たちがしてるの傍で見てたんだもん。信じらんない?信じらんないなら信じなくっていいけど…見たところ医療用具も揃ってるみたいだし…」
半ば強引に運転席に押しかけてくると、Yシャツに隠された思ったより大きめの胸を俺の体に当てながら右足の太ももを覗いていく。瞬間、女のシャンプーの香りだろうか?なんとも言えぬ甘い匂いが運転席に立ち込め俺の鼻腔を刺激していった。
「もしかして、だけど…銃創?… なによこれ… 縫合がメチャクチャじゃない… 自分で弾を摘出したんでしょ?…化膿しかかってる…熱は?ねぇ?熱はある?…」
「いいから俺から離れ…」
俺が答える前に女の少し濡れた小さな額が俺の額にチョコンと当てられ、咄嗟に片腕で加減することなく彼女を横側に払いのけた。
「キャっ!!…いったァい!!」
俺が思ってた以上に軽い女の体は入口ドア付近、ステンレス製の手すりまで吹っ飛んでいき、したたかに背中を打ち付ける鈍い音が響いた。
「い… イイと言ってるんだ… 余計なことはするな…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
女は立ち上がるとしばらく何も言わずに俺を見ていたが、この澱んだ空気感を変えたいのか努めて明るい口調で話し始めた。
「じゃぁさ、痛くなってからでイイからなんかあったら言ってよね… 私に…私に出来ることなんてこれぐらいだから… ね?奥の部屋行ってもイイ?…護送車なんて乗ったことないし私…」
「あ…あぁ… だが滅多なもん触るなよ…なかには爆発する物もあるからな…」
「はぁ~い…」
「それと…」
「ん?…なんだろ?」
女は不思議そうなキョトンとした大きな瞳でもう一度そう言う俺の方を振り返った。栗色のショートヘアもようやく乾きだしたのか、艶めきながら美形の表情を緩やかに撫でていく。
「それと… アレだ… す、すまなかったな…突き飛ばしたりして」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
女の無言が作り出す不自然な間に飲み込まれそうになりながら、俺は下を向くと呟くように言った。
「悪かった… そう言ってるんだ…」
「クス…」
女は細い小首をかしげたまま、薄い唇を優し気に引き締めると、それに答えることなく背を向け護送車の奥の扉に消えていく。俺はそれをバックミラー越しに眺めながら大きく長いため息をひとつつくとタバコに火を付け、さっきより勢いの増した豪雨に跳ねる外の景色を俯瞰した。
まったく… ひどい拾いモンをしちまったな… まぁ…飽きれば捨ててしまえば事足りる…か…
そう思う一方で、こんな廃れた世の中であっても他人に対し誠心誠意、懇親的になれる女の優しさに、確かに今の俺には持ち合わせていない、心のどこかで恐怖に似たものを感じていた…。
さぁこっからが大変なのよねストーリー構成ってw
ムーンライト「私の学校生活」更新間近!??
向こうはホンワカしてます合わせてどぅぞ!!