1話 のんびりと……。
ーー異世界来てしまった俺が最初に感動した事。
それは、異世界の海はとても……それこそ、俺が前の世界に住んでいた田舎で見ていた海なんかより比べ物にならないほどに美しい、という事だ。人工ゴミ一つさえない。
そして、その次に感動した事がある……それは。
「すげぇな……こりゃ」
今、俺は浜辺から少し離れた小さな街の繁華街に来ていた。……意外と、探しゃあるもんなんだな。街って。
異世界らしく、多種多様な魚や魚介類、更には見たことのない虫(?)の様なものまで店には並んでいた。
が、それよりも俺の目を引いた物は、この街の住人達の容姿だった。これが、俺の異世界感動ナンバー2である。
ーーーー龍を想わせる尻尾やエラの様な物が付いた男性。
ーーーー薄い、妖精の様な透けている羽を背中に付けている女性。
ーーーー細長い黄色と黒色の尻尾を振りながら、俺のそばを駆けていく少年。
ーーーー公園のベンチに座ったまま眠っている、頭に真っ白くて長い耳を持つ少女。
……などなど。この一部の住人達に共通している事は、実在しているしていないにかかわらず、何らか動物の特徴を身に纏っている、という事だ。
ーーいわゆる、獣人である。
流石はファンタジーな異世界だ。獣人が存在しているとは。
……まさか、人種差別とかはあるのだろうか?テンプレファンタジー小説でたまにある、亜人だなんだというくだりはこの世界にはあるのか……?見た感じなさそうだが。
とりあえず、フラフラして行き着いた公園のベンチに俺は腰を下ろすことにした。そして一息。
「疲れた……」
いや、全く疲れてないけどさ。言いたくなっただけ。
見ると、先ほどのウサ耳少女はすでに居なくなっていた。おそらく、目が覚めて帰ったんだろうな。
「……ふあぁぁ……ふ」
暖かい日差しが降り注ぐ公園内。思わず欠伸がこぼれて……うおぉ!すごく眠い!!
俺はすさまじい眠気に押し負けて、瞼の質量に身を委ねた……その刹那。
「すいませーん!そこの人ー!」
……やけに甲高いソプラノボイスで目が覚めた。まだ眠い、と宣う身体に鞭を打ち、重い瞼を引っ張り上げて周りの様子を伺ってみる。
すると公園……ではなく眼前には、仁王立ちで俺の顔を覗く少女の顔が。
あの美しい海にも負けない澄み切った蒼眼が印象的な整っている顔立ちだった。てか、かなり近い。
「あ、起きましたか!?突然起こしてすいません!」
ぱぁっ、と嬉しそうな顔を浮かべた、と思いきやいきなりぺこりと頭を下げる少女。
蒼いロングヘアがふわりと靡く。……可愛いアホ毛も一緒だった。
「あ、あぁ、大丈夫だ。……それよりどうしたんだ?」
「はい!……あの、ここらへんで、赤い髪の少女と紫の髪の女の子の二人組を見ませんでしたか!?」
んー……赤と紫か……あ、もしかして。
「その子達なら、さっきあっち……あの石像があるところに居たな。ついさっきだったから走れば」
「ありがとうございます!!恩に着ます!!」
よほど彼女は急いでいたのか、それとも俺から一刻も離れたかったのか(……前者であって欲しい)。まるで風の如く、俺の指差した方角へ走り去っていった。
「何だったんだ一体……」
一人残された俺は、ベンチに全身でもたれ、深く嘆息をついた。ふと、微風が公園を通り過ぎる。
ーー今日という日は、まだ始まったばかりだ。