六日目 1 求婚と過ち
「あなたと共に生きてみたい。どうか、俺の妻となってはくださらないか」
言ってわたしを見上げる瞳は漆黒。わたしの手を取る彼のそれは大きく、体躯もしかり。片膝をついているというのに、視線の高さがせいぜい頭一つ半ほどしか違わない。
彼は王。大陸にひしめく国々のうちの、一つを治める王。
そしてわたしは――
「巫女姫」
彫刻めいて形のよい唇がささやく。
わたしはたまらず目を伏せた。その拍子に服に付いた飾り玉がチリと音を立てる。
「あなたは間違われました」
そう呟いてしまってから、気付いて口をつぐむ。
わたしは何を言っているのだろう。今の時点で『正解』を言ってしまうのは規則違反だ。
「間違い? 巫女姫、それはどういう?」
もう一度呼ばれ、わたしは唇をかんだ。彼の手の中で拳を握り、渾身の力で振り払う。
「違うのです。リクハルド様、なぜわたしなのですか? あなたはわたしを選んではいけなかったのに!」
怪訝そうだった彼の面持ちに、不意に理解の色が広がった。目がわずかに見張られる。
「……では、まさか、あなたは」
まるで、大きな石がのどに詰まったよう。今まで感じたことのない違和感をこらえ、わたしはあごを引いた。
「わたしは巫女姫ではありません」
幾重もの規則違反。けれどそんなことより、彼の表情の変化を見たくなくて、わたしはきびすを返した。
神殿に向かって駆ける。
呼び止める声は、聞こえなかった。