表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神憑  作者: 光風霽月
9/17

球技大会 終了

只今、球技大会、女子ソフトボール、決勝戦。

現在一回裏、無死満塁。

なお、五回ゲームである。

「タイム!」

マウンドに上がった華は、真っ先に言った。

華は自分と守備位置を替わった投手、現三塁手のもとに行く。

「どうしたの?言っとくけど、私はもう投げないよ?」

「あ、そうじゃなくて…どうやって投げるんだっけ?」

「え?こう、よ」

と言いながら、腕を後方に一回、回す動作をとる。

「まー、上から投げなきゃいいんじゃない?」

「うん、わかった」

華は再び、マウンドに上がり、フォームを確認する。

(えーと、腕を後ろに一回転して……あれ?足はどうするの?)

「ちょっと貴方、早く投げてくださらない?」

バッターボックスからヤジを飛ばす、エースで四番、瀬条薫子。

「今更フォームを気にしても大して変わるわけないでしょう?素人が投げるボールなんてどれも同じ、楽々とホームランにできますの。さあ、とっとと投げなさい」

その言葉に少々むっとなる華。

(嫌味な先輩だなー、よし打てるもんなら打ってみろ!)

華はぎこちないフォームから、全力でボールを放つ。

次の瞬間、『ズバンッ』という音が響きわたる。

球を受け止めた捕手は、予想外の威力に涙目を浮かべている。

それを見ていた薫子は、表向きは平静を装っていたが、内心驚いていた。

(これは…軽く90kmはでてますわね、素人がなぜこんな球を…)

ふっ、と鼻で笑い、薫子は華に顔を向ける。

「なかなか、いい球ですわ」

「どういたしまして」

華は捕手から球を受取り、続けて第二球を投げる。

球は先程より少し速度が上がっている。

薫子はタイミングを合わせ、バットを球に当てる。

球は、華の顔面目がけて飛んでいく。

常人ならば当たるのは必至、もしくは意識的に避けるであろう、しかし、華は瞬間的に反応し、球を捕る。

『な!?』

薫子を含め、一斉にスタートしていたランナーがほぼ同時に驚き、動きが一瞬止まる。

そのうちに、華は捕った球をそのまま三塁に、三塁手は受け取った球を二塁に投げる、それを二塁手が受取る。

…ランナーは、バッターが打った球をバウンド無しに捕られた場合、もといたベースに戻らなければならない。

もし、ベースに戻る前に、そのベースを球を持った守備に踏まれた場合、そのランナーはアウトになる。

つまり、この場合は、三人がアウトになる、俗に言うトリプルプレーだ。

「あの球を捕るなんて…」

これはさすがに、驚きを隠せない薫子であった。


…攻守交代、二回表。

今度は薫子がマウンドに立つ。

薫子は先程の回と同じ様に、バッターを一人、三振させる。

そして、華の出番がきた。

「さっきはやってくれましたわね、ですが私の球を打てるというわけではありませんよ」

バッターボックスに立つ華に対し、自信ありげに薫子がそう言った。

「そんなのはやってみなくちゃわからないですよ」

またもむっとして、華が言った。

薫子は球を投げる。

華の球より少々速さは劣るが、的確にコーナーをつく球である。

それを見送りながら華は思った。

これなら打てる!と。

薫子は球を受取り、続けて投げる。

外角低め、華はタイミングを計り、バットを振る。

痛快な金属音とともに、球は薫子の横顔をすり抜け、校外まで飛んでいく。

しかし、判定はファール、ラインをぎりぎり外れていた。

2―Bメンバーは、惜っしいー、と口々に漏らす。

薫子はわなわなと震えながら、代わりの球を受取り、第三球を投げる。

先程より球威は落ち、しかもど真ん中に向かっていく。

さっきのがショックだったのか?

打ちごろの球に狙いを定め、バットを振る。

だが、今度は金属音は響かず、空を切る音だけがした。

華はなんで?と思いつつ、捕手の方を見る。

ど真ん中にいっていたと思われた球は、低めに構えられたグローブの中におさめられていた。

華はこの球を投げた投手の方に向いた。

「…まさか、素人相手に変化球を投げるとは、思ってもみませんでしたよ」

そう、薫子は落ちる球を投げたのだ。

「もう貴方の事は素人とは思いません、こんなお遊びのような試合で負けたら恥ですからね、本気でやらさせていただきますわ」

真面目な面持ちで言った。薫子は次のバッターを打ち取り、相手の攻撃を終わらせた。


…その後、試合は投手戦となった。

球技大会とは思えないレベルで両者は投げあい、試合は0対0のまま、四回裏へ。

華は一人目をキャッチャーフライ、二人目を三振にし、そして三人目、薫子が立つ。

一球目は難無くストライク、二球目はボール。

三球目、薫子はタイミングを合わせるがファール。

四球目は球がすっぽぬけ、デッドボールぎりぎりのボール。

それから、五、六、七、とファールが続く。

徐々にタイミングは合っていった。

八球目、球はバットの芯に当たり、飛んでいく、が突然、横からの強風が吹き、ラインから外れファール。

華はほっと息をつき、薫子は心の中で舌をついた。

(やばい、完全にスピードに慣れてる、このままじゃ次で…)

(…ふっ、所詮は直球のみ、どんなに速からろうと、慣れてしまえばこちらのものですわ)

(考えろ、考えろ、なにかあるはず、なにか…)

その時浮かんだのは、薫子のフォーム。

(そうだ!よく思い出せ、握りはどうだった?手首の返しは?)

数秒考えた後、華は深呼吸。

そして、投げる。

球は外角高め、球速はさっきより遅い。

(もらいましたわ!)

薫子がバットを振る。

バットと球が当たる瞬間、球はその半個分、下に落ちる。

打球は自然と詰まったものになり、華のもとへ、華は球を一塁に投げた。

今、落ちた?華と薫子は意図は違えど同じことを考えた。


五回表、状況は二回表とまったく同じになった。

1アウト、無塁。

マウンドには薫子、バッターボックスには華。

自然と周囲は、緊張に包まれていた。

まずは第一球、投げる。

球はど真ん中の直球、しかし華はそれを見送る。

続けて第二球、ストライクゾーンを少し外れ、ボール。

華はそれも見送る。

第三球、中心から右にずれた球、華はタイミングを合わせる。

だが、球は予想外にも、上に上がった。

華は驚いていて思わず、バットを振ってしまった。

2ストライク、1ボール。

ここにきて、選択肢が増えた。

真っ直ぐか、落ちるか、上がるか。

(どれ?どれがくるの?)

勝負は心理戦に入っていく。

(…先輩の考えを読むんだ。二回の決め球で使った落ちる球か、牽制で使っていた真っ直ぐか、それとも今の今で使った上がる球か……どれを……)

華の答えが決まらぬまま、薫子は第四球を、投げる。

(いや、先輩なら、たぶん…)

球は内角高め、バッター寄りにくる。

バットが振られる。

金属音が鳴り響き、球は右中間に飛んでいく、長打になる。

華は全速で走り、まずは一塁を踏む。

守備は球を追いかける。

二塁が踏まれる。

球を捕り、返球。

三塁を蹴る。

二塁手が返球を捕り、そのまま本塁へ。

華の目の前には、球を受け取った捕手。

華は前方へ飛ぶ。

捕手は、球を捕った手を華に振り下ろす。

華は地面に手をつき、強引に向きを変える。

捕手は手を地面に叩き付ける。

どこに!?捕手は後ろを振り返る。

…そこには本塁に手をつけた華がいた。

2―Bのベンチから歓声が沸く。

華はふぅ、と息をついた。

そこに一人の女が近付く。

「完全に読んでましたわね?私が直球を投げることを」

「…はい、先輩はプライド高そうだったんで、最後は力でねじふせようとするんじゃないかなって」

「ふふ、確かに当たってますわ、今回は私のくだらないプライドが敗因ということね、ですが、まだ終わってませんよ、勝負は最後のアウトを取るまでわかりません」

「そんなことは重々承知ですよ」



…場所は変わって体育館。

男子バスケ、決勝戦続行中。

残り時間三分、23対22、2―Bリード。

戒は3Pラインからシュート、ボールは綺麗にリングをくぐる。

「だぁー!!てめぇ!!それやめろ!!」

怒鳴る優。

だが、当の戒はそしらぬ顔で、自陣に(ディフィンスのため)戻る。

「く、あいつの3Pは驚異だな」

「ああ、野郎、五本打ってまだ一本も外してねぇ」

不良B、Cが口々に言う。

(ちっ、使わないつもりだったが……勝つためだ!)

「竜助!ボールよこせ!」

「おう」

ボールを受け取った優は、両手で相手リングに向かってぶん投げる。

自陣のゴール下から。

「!!!?なにしてんだお前!?」

「まあ見てろ」

投げられたボールはリングの奥の方に当たって、上空へ飛ぶ。

優は誰にも悟られないように、後ろ手で指を動かす。

すると、ボールは吸い寄せられるようにゴールリングを通る。

コート内の誰もが唖然とする、一部を除いては。

「戒、あれは…」

「うん、卑っ怯だねー、おもいっきり風の力だよね」

「素で能力使えるのがうらやましいです」

そこで戒はなにかを考える。

「そこの二人!オフェンスだぞ!」

高枝が激を飛ばす。

戒はその瞬間なにかを閃いた顔をした。

「蕾」

戒はそう言うと、蕾の耳元に行き、なにかを話す。

「どう?」

「いいんじゃないですか?」

蕾は微笑む。

と、その間に迅がダンクをかます。

「んじゃ、いってきます」

「いってらっしゃい」


竜助はボールを受け取ると、すぐさま優にパス、しかし受け取った優は一瞬動揺した。

戒がぴったりとついているからだ。

「…へ、どういうつもりだ?」

「得点源の大元はゆ…白鬼君だからね、時間もあんま残ってないから、全力で止めるつもり」

「はっ、甘いな」

そう言うと、優は二歩下がり、またも両手でボールを投げる。

しかも、戒が届かないよう、高く跳びながら。

そしてさっきと同じように、ボールはリングの奥に当たって、空中に高く上がり、吸い込まれるようにリングをくぐる。

「つこうがつくまいがさして変わりねえよ」

不敵な笑みを浮かべる優。

「そうかもしれないね」

戒は同じような笑みを浮かべる。

その時、試合時間は残り三十秒を切る。

2―Bは事実上、最後の攻撃。

これを決めれば勝利はほぼ確定、しかし、はずせば敗北必至である。

当然、2―Gはフルコートで当たってくる。

まずボールを受け取ったのは智成。

前には不良Aこと高橋が詰め寄る。

しかしここはバスケ部員、多少強引に当たってきたが、難無く抜ける。

智成は相手陣地前までくると迅にパス、だが、それを竜助が弾く。

こぼれ球を蕾が拾う。

が、不良B、Cが二人でつく。

蕾は不利と考え、戒にパス。

それに気付き、優が戒につく。

「入れさせねえぞ」

「うん、できるならね」

戒はゴールサイドに居た高枝にパス。

「な!?」

気付けば高枝の周りには誰もいない。

「亮、シュート」

「お、おう!」

高枝はシュートする。

ボールはリングに向かっていく。

(ああ、これはまさしく俺の輝く瞬間。これで俺はモテモ…)

と、高枝が妄想にひたっていた時、ボールはリングに当たって弾かれる。

石になる高枝。

あちゃー、と言ってる智成。

失敗した?と思う蕾。

だが、一つの影がボールを取り、そのままダンク。

「ふぅ、計算通り」

ダンクをしたのは戒だった。

そして、終了の笛が鳴り響く。

「試合終了、2―Bの勝ち」




そして表彰式後。

2―Bの教室は、ソフトとバスケの優勝の話で盛り上がっていた。

「しかし、高枝君が外すとこまで考えてたんですか?」

蕾は戒に話しかける。

「うん、亮はああいう場面は絶対失敗するからね」

戒は蕾にこう耳打ちしていた。

最後は亮に打たせる、と。

「亮には一回もパスしなかったから、フリーになると思って、亮に打たせたけど、元々優の気をそらせればよかったから、後は俺か迅が押し込む、迅は竜助にがっちり止められてたから俺がやったけどね」

「水野君!」

声の方には華と柚留がいた。

「あ、鏑木さん、鈴村さん、優勝おめでとう」

「あ、いや、水野君も雨宮さんも優勝おめでとう」

「ありがとう、なにか用?」

「その、柚留が…って柚留!?」

見ると柚留は茹でタコ状態。

「大丈夫!?」

「だだだだ大丈夫」

端から見たら絶対大丈夫じゃない。

柚留は深呼吸して自分を落ち着かせる。

「あの、水野君これ!」

そう言って、小さい紙袋を渡す。

「さよなら!」

柚留は脱兎の如く教室を出ていく。

「柚留!?……えっと、私も帰るね、バイバイ!」

華も柚留を追うように教室を出る。

後に残されたのは戒と蕾。

「……なんでしょう?」

「なんだろうね?」

戒は紙袋の中身を取り出す。

中に入ってたのは…。

「レモン?」

「レモンの砂糖づけだね」

戒は一つを取って食べる。

「うん、おいしい」




「ちょ、柚留待ってよ」

柚留は突然ピタッと止まって振り返る。

いきなり止まったので華は少しぶつかりそうになった。

「華、ありがとう」

「礼を言われるようなことは…」

「ううん、ありがとう」

華は少々照れる。

「…華」

「なに?」

「これからもずっと友達でいようね」

「……うん!」




……ずっと、ずっと……




続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ