風鳥と鵺
…2―B教室。
いやー、昨日はびっくりしたなー。
どっからどう見ても女な雨宮さんが…まさかねー。
しかし、雨宮さん、昨日の話からすると制服は男子の着てくるってことだよね、どんな感じなのか…。
『ガラッ』
教室の扉が開く。
「おはよう」
入ってきたのは、下ろせば腰まで届く金に近い茶髪を後ろで結わき、男子の制服に身を包んだ雨宮…さん?
…いや、まあ、クラスのみんなが『誰?』って目になってるくらい印象が変わってるから、私も一瞬わかんなくって。
そこに水野君と平君が入ってくる。
「おはよう蕾、今日は男の格好なんだね」
「あ、戒、うん、まあ学校くらいはね」
「おい戒、こいつ誰だ?」
「え?蕾だよ、転校してきた」
「あん?」
「ほら、雨宮蕾」
「ああ」
頷く平君。
と、そこでクラスが動く。
ある者は机からずりおち、
ある者は驚きの表情を浮かべ、
ある者は「惚れてたのに…」と沈み込み、
ある者は顔を赤らめたり、
と、なかなかに多種多様なリアクションをとるクラスメイト達。
「う〜ん、ここまで普通にリアクションしてくれるとは…」
正直予想外、な顔をする雨宮さん。
うん、まあ、面白かったかな。
「おっはよう!!」
テンション高めな高枝登場。
「よう、何そんなとこで話してんだよ水野&迅、ってあれ?そいつ…」
雨宮さんを指して言葉を止める高枝。
「…あ!てめぇ!かま転校生!!」
「かまって…ひどいなー、僕は普通だよ」
「うっせ!てめぇのせいで俺の人生に男に告白したという汚点がついたんだぞ!!」
「ふ…、汚点だらけの男がよく言う」
「この野郎は…いっぺんやるかこの!!」
「……ほう、その場合、俺は容赦なくお前を無機物に変えるが?」
小動物なら、そのまま圧死してしまいそうな殺気をだす平君。
次の瞬間、音も無く土下座する高枝の姿があった。
昼休み、屋上。
「え〜!!雨宮さんって、あのレインズコーポレーションの…!!」
「うん、社長令息、あ、令嬢もありかな♪」
ちなみに、レインズコーポレーションとは、日本の五指に入る外資系の大企業。
「へー、それは俺も初耳」
「え、じゃあ雨宮さん、お金持ち?」
「え〜、そんなことありませんよ、ただ総資産が二十兆円あるかないかくらいで」
うわっ、金持ち特有の嫌味。
「そっか、だから蕾、女の格好してる時、お嬢様ぽかったんだね」
「まあ、あれは姉さん達の真似だから」
「うるせえよ!!てめぇら!!人が寝てる側で!!」
水野君の後ろから怒鳴りつける男子が一人。
「あ、優、いたの?」
「いたのじゃねえ!!お前が俺を気付かねえはずねえだろ!!」
「ははっ、ごめんごめん」
「たくっ」
「あ!ところでさ、戒、優」
「ん?」
「あ?」
「二人とも、協会に登録しない?」
「協会?」
「昨日もそんなこと言ってたけど、なんなの?雨宮さん」
「うん、この際だから説明するけど、神憑協会、まあ言ってみれば神憑のギルドだね、この神憑協会は世界各地にあるんだけど、僕が所属しているのは東西神憑協会、これはごく一般的な協会で、世界中の神憑が所属している、希望すれば思念魔の討伐依頼なんかも受けれて、少ないけど報酬もあるんだ」
「ふーん、でもよ、それに入ってなんか得あんのか?」
「特にないよ」
「っておい、ないのかよ」
「ははっ、冗談だよ、でも各地の神憑と交流したり協力したりってくらいだからね、まあサークルみたいなもんかな、通常は」
「通常は?」
「…実は今ピンチでね、昨日の二人、神憑を倒しに派遣されたって言ってたでしょ」
「ああ」
「そういえば言ってたね」
「今、世界各地で魔憑が神憑を戦いを仕掛けている」
「なんでだ?」
「理由は分かっていない、でもそのせいで仲間はどんどんやられている、それを防ぐためにも今は少しでも繋がりが欲しいんだ、だから戒、優」
「協会に入れって?」
雨宮さんが頷く。
「優、別にいいよね」
「悪い条件はねえんだろ、いいぜ」
「…ありがとう、二人とも」
「ところでさ、雨宮さん」
「ん?なに?華さん」
「その協会ってどこにあるの?」
「ここからだと結構近いよ、二人に用事がないんだったら今日にでも登録に行くけど…」
「私も行っていい?」
「またかお前は!?」
「まあまあ優、いいよね蕾」
「うん、協会には普通の人も来るし、構わないよ」
「やった」
「ちっ」
「戒も優も用事は?」
「今日は何もないよ」
「俺もねえな」
「じゃあ、放課後に校門で待ち合わせしよう」
…放課後。
「あっ、華、一緒に…」
「ごめん!今日も用事が…」
「え、そう…」
「本っ当に、ごめん!」
「うん、それじゃあ…」
「鏑木さん、準備できた?」
「水野く…!?」
「あ、水野君、できたよ」
「じゃあ行こう」
「うん、柚留、バイバイ」
「じゃあね、鈴村さん」
「……さよなら」
私達は、校門に向かった。
「…なんで、水野君と…」
…校門。
「遅いなぁ、二人とも」
「うん、そろそろじゃないかな」
「よう、待ったか?」
「あ、風見く……またその髪型?」
「あんだよ、文句あんのか?」
その髪型とは白髪のツンツン頭の事。(三話参照)
「いや、でも私はいつもの黒髪で下ろしてる方が好きかな」
「うるせえな、ポリシーだよ、つーかこれが俺の普通だ」
「お待たせしました」
「あ、雨宮さ……なんで女装?」
「え?いけませんか?」
「いや、いけなくないけど、私は男の格好の方がいいと思うよ?」
「そうですか?でも秋は基本的に女性の服を着るのが私のポリシーなので」
…いまさらだけど、水野君の友達って変わり者多いなー…って、そうなると私もか?
「さて、全員そろったことだし行きま………んー、なんでこんな時に…」
「どうかしたの?水野君」
「はぁ…どうもこうもねえよ、南東に900ってとこか?」
「ええ、恐らく虎袁でしょう」
「虎袁って、昨日のいけすかねえ猿顔野郎か?」
「ええ、猿顔のくせにキザを気取ってるあの馬鹿猿です」
そこまで言うほど猿顔じゃなかったけど、てゆうか普通に格好よか…って。
「敵ですか?」
「うん」
「華さんには悪いですけど、とりあえず駅前のアトラスとゆう店で待っててください」
「え?あの…」
「うっし、んじゃ行くか」
三人は同じ方向に走っていった。
…えと、とりあえず私もアトラスって店に行こう。
…河川敷。
「…来たか」
そこには夜鳥虎袁が一人でいた。
「あれ?昨日の二人は?」
「盃璽と遊伽里の事か?あいつらは別の地域に移された」
「へー、なんで?」
「あいつらがこの町に派遣されたのは、レベルに合っていると思われたからだ。
この二人で充分だとゆうことでな。
しかし、実力者の雨宮蕾がこの町に来たことでその予想が外れた」
「で、貴方が代わりって事ですか?」
「ああ」
「しかし、随分自信があんなー、一人で三人相手すんのか?」
「ふ、さすがにそれは無理だな、俺と蕾の実力はほぼ互角だ、
それに無名とは言えお前ら二人もなかなかやると見た、それでだ…」
虎袁は河に目をやる、と同時に河から蛇のような奴が二体現れ、それぞれ戒と蕾に絡み付く。
「な!?」
「く!?」
二人は抵抗する暇もなく河に引きずり込まれた。
「戒!!蕾!!」
「…蛟、と言う奴らしい、体よく二体いたから丁度良かった、
まああの二人なら四、五分で倒せるだろう、しかし五分もあれば…」
「…俺を倒せるってか?」
「ああ、たぶん、お前が一番倒しやすい」
「…上等じゃねえか、やれるもんならやってみろ!!」
優は虎袁に向かって走りだす。
「……解放!!」
「…解放」
…河、水中。
その頃、戒と蕾は、蛟によって河底まで引きずり込まれ、さらにそのまま川下にまで流されていた。
(く、どうしましょう?水中の場合、私の一撃で終わりに出来ますが…)
蕾は戒を見る。
(このまま雷を放ったら戒にまでダメージが…)
(……なーんて事、考えてるんだろうなー、蕾は。
んー、そうなると、俺がまず河から出るしかないか…)
戒は水の剣(槍)を出し、腕が動く範囲にある蛟の体に刺す。
戒に絡み付いている蛟は痛みにより、唸りながら力を緩める。
(よし、緩んだ、…解放…)
戒は突撃槍を上に向け、水を下方に噴射、その勢いで絡み付いている蛟ごと、水上にあがる。
(…さすが、では私は遠慮なく)
蕾の足に雷のブーツが装着される。
(…響雷〔きょうらい〕)
…水上。
河から上がった戒は、そのまま絡み付いた蛟と一緒に陸に揚がる。
「けほっ、ふう、さっきの場所から随分流されたなー」
辺りを見回す戒。
その時、蛟が戒に噛みつこうとする、が、龍の角から水の刃が発生し、蛟を八つ裂きにする。
「…水龍刃」
八つ裂きになった蛟が塵になってゆく。
と、同時に、河が轟音とともに光を放つ。
音に驚いた戒は河の方に向く。
河には、大量の魚と一緒に、もう一匹の蛟が浮かんでいた。
数秒後、蕾が髪をかきあげながら河から上がってくる。
「…蕾、少しやりすぎじゃ…」
「…ですかね、まあ気にしてもしょうがありませんし、今は優の所に急ぎましょう、恐らく今の優の実力では虎袁には…」
「…正直、ここまで持つとはな」
そこには剣を支えに立つ、血まみれの優がいた。
「うるせえ…、まだ終わりじゃ、ねえ!!」
大剣を引きずりながら虎袁に突っ込む。
「うらぁ!!」
大剣を虎袁に向かって振り上げる、しかし虎袁の姿はそこにはなく、優の下方にて前回よりもさらに鋭い大爪で優の腹部を狙う。
「ちぃぃ!」
優は体をひねり、直撃を避ける。
「…甘い」
虎袁の腰から生えている蛇の牙が、優の肩をえぐる。
優はひるみながらも、なんとか距離を取る。
「…やはり、お前を選んだのは正解だったな」
「…なんだと!?」
「何故、お前が倒しやすいと言ったかわかるか?」
「んなもん知るか!!」
大剣に風が集約される。
「ぶっ飛べ!!大旋!!!!」
大剣を虎袁に向けて振るう。
大剣から竜巻が発生する、が。
「すぐに激情して大技を出す、冷静さが足りない証拠だな」
「な!?」
優の真後ろに立つ虎袁。
「お前が倒しやすいと言った理由の一つだ」
「うるせえ!!」
体を回し、大剣を虎袁の頭目がけて繰り出す。
虎袁はしゃがみながら優の足を払う。
体勢を崩す優に、大爪の一撃を放つ。
優はなんとか大剣で防御しようとするが、間に合わず直撃をくらい、後方に吹き飛ぶ。
「がっ!?」
優の腹部が血でにじむ。
「そして、理由はもう一つ、大剣だ、これが大きい」
「…あぁ!?」
「大剣はその性質上、振り上げる、振り下ろす、薙払うの三つの攻撃のみ、しかも一つ一つのためが長い、理由としては大型で重いからだ。風で形成されてあるから多少は軽いだろう、が、大型の武器の利点である破壊力は重量がなければ発生しない、恐らく、体格の小さいお前はある程度の重量を無意識に創ってしまった、自分の力を補うためにな」
「……へ、へへ」
「…何がおかしい」
「お前の言った理由、まず冷静さが足りないだったな、とりあえずそれは保留だ。…で、もう一つだ」
優は地面に大剣を突き刺す。
「…ようは大剣がいけないんだろ、なら形を変えりゃいい」
大剣は白き鳥に変わる。
「……何をする気だ?」
「へ、…解放!!」
鳥は竜巻に姿を変え、やがて二つに別れる。
二つの竜巻は優の両手に収まろうとする。
「…ぐ!!うおおぉぉ!!!!」
(…ばかな、まさか…)
竜巻はやがて形を成してゆく。
(解放の形状を変えるだと!?)
(…俺はあいつを殺したくて大きな力が欲しかった、仇を取るために。…その願いでお前は大剣になってくれた。けど、違う力も必要なんだ、だから…)
「応えろ!!フレスベルク!!」
…優の両手には、一対の白く鋭き刃が握られていた。
「…双剣!?」
(いや、驚くべきは形状を変えた事だ、そんな事をやった神憑など…)
「行くぞぉぉ!!!!」
優は高く飛び、虎袁に双剣を振り下ろす。
「ちっ!」
虎袁は両手の大爪で双剣を受け止める。
優はすぐさま大爪から剣を離し、双剣で乱舞する。
「おらおらおらおらおらぁぁ!!!!」
(……右、左上、右下、左、上、く、滅茶苦茶だが…速い!!)
「うらぁー!!」
渾身の力を込め右手の剣を虎袁の頭上に振り下ろす。
それを再び両手の大爪で受ける。
「もういっちょおぉぉ!!!!」
優は左手の剣を逆手にし、一気に振り上げる。
「くっ!!」
虎袁は腰から生えた蛇の牙で左の剣をなんとか受ける。
「優ー!」
優の後方から戒と雷が走ってくる。
(く、これでは勝ち目がない…)
虎袁は右の剣を弾き返し、体当てで優を押し飛ばす。
距離が取れたところで、閃光玉を地面に叩き付ける。
「…勝負、預けたぞ!!」
光が辺りを包む。
光が消えると、そこに虎袁の姿はなかった。
「…ちっ、逃がしたか」
「しかし、虎袁をしりぞけるとは…」
「あれ?優、その武器は?」
「あ?ああ、フレスベルクが形を変えてくれたんだ、これのおかげで助かった」
「形を変えた!?」
「なんだよ蕾、別に驚く事じゃ…」
「驚きますよ!!そんな事やった人なんて…」
「へぇー、いねえのか?」
「…ええ」
「ふ、へへ、そうかそうか、よし、んじゃ、華んとこ、い、く、か」
優は立ち上がろうとするが、よろけて倒れる。
「あれ?力が入んね」
「ちょ、優、おなか…」
「あん?腹?」
優は自分の腹部に手をやる。
『ぐちゃ』
「……う、うおぉー!?血!?血が!?」
「ら、蕾!救急車!」
「え、ええ、携帯、携帯」
『ドクドク』
「血!!血!!止ま!?死!?」
「優、落ち着いて!」
「血〜〜〜!!!!!!??」
…喫茶アトラス。
はぁ、いつもながら遅いなー。
『ピーポー、ピーポー』
あれ?救急車?どっかで事故でもあったのかな。
「お連れさん遅いですね」
「えと、もう少しで来ると思います。あ、マスター、カフェオレおかわり」
「あいよ」
…ここのカフェオレ、おいしいなー…
続く
え〜と、虎猿の思念魔が鵺です。
いや、まあ、作中に説明入れようと思ったんですけど、何となくね…、なんかすんません。
ついでに、盃璽のはインキュバス、遊伽理のはサキュバスです。