雷鳴の姫君
「……んー、よく寝た」
あれ、ここ何処だ?
私は辺りを見回す。
壁によりかかって寝てる水野君。私のすぐ隣ですやすやと寝息をたてている柚留。その数十センチ先で死んだように寝てる? 高枝。さらにその数センチ先でうつ伏せになって寝てる平君。
……あ、そうか。昨日、水野君の家で勉強会をして……。
……昨日、水野君の家で夜まで勉強会をしていて。
「だから、そのXを…」
「だから、そのXがわかんねえんだって」
その時は私と柚留はとりあえず一段落して、水野君が高枝をマンツーマンで教えてた。
「あきらめた方がいいぞ戒、馬鹿は死ぬまで馬鹿だからな」
平君が羊羹をつまみながら言った。
「な、どういう事だよ、迅」
「そんな簡単な数式も理解出来ない奴は、どう教えたって出来ないって事だ」
「こ、この、ちょっと勉強出来るからって〜!!」
高枝が拳を握りながら、プルプルと震えている。珍しく怒っているようだ。
「や、やめなよ二人とも」
そんな二人を見て柚留が仲裁に入る。……しかしこの二人、仲良いな。
「あれ?もうこんな時間だ」
水野君が時計を見て言った。私も時計を見る。只今、午後八時。
「みんな、そろそろ帰った方がいいんじゃない?」
「それもそうですね」
「じゃあ、帰りますか?」
「ちょっと待ったぁ!!」
突然、高枝が叫ぶ。
「なに?高枝」
別におかしい事はないと思うけど。
「おまえら……それでいいのか?」
「……なにが?」
「こんな中途半端でいいのか? と言っている」
「はあ?」
「お前ら、テストは合格ラインにいけばいいや、なんて思ってんだろ? どうせなら満点目指して勉強しないか?」
何を言い出してるんだろう? この馬鹿は。
「ふん、今だに簡単な数式を理解してない男が言うセリフじゃないな」
正論ですね、平君。
「うっせ!! まあつまり俺が言いたいのは……」
「……なによ?」
「みんなでこのまま泊まらない?」
何を言い出してるんだろう? この大馬鹿は。
「いいだろ、水野?」
「いや、別に泊まるのはいいけど…」
「理由があまり定まってないぞ」
水野君に次いで平君が抗議する。
「いいじゃ〜ん、お泊まり会みたいで楽しいじ〜ゃん、つーかお前は女子の手料理が食いたくないのか?」
…それが目的か。
「あのね〜、高枝…」
「あ、別に華は帰っていいよ」
「……どういう意味よ、それ」
「深い意味は特には……」
こいつ……私が料理出来ないと思ってるな。……上等じゃない。
「水野君! 冷蔵庫の中、何入ってる!?」
「え?一応、一通りの物は入ってるよ」
「よし、柚留! 手伝って!!」
「え、う、うん」
それから数時間は経過したと思う。水野君の家の白いテーブルの上に、(私が作った)色とりどりの料理が並ぶ。
「う、うんめぇー!!」
「うん、おいしいね」
「ふむ、確かにこれは美味いな」
「華の料理はプロ級だからね」
「や〜だ〜柚留、それは言いすぎだよ〜」
と、まんざらでもない私。
「それに、柚留が手伝ってくれたおかげだよ」
「あ、そういえば時間…」
と、再び時計を見る水野君。みんなも追って見る。……只今午後十一時。
「あららー、これは女の子が帰るには、ちょっと危ない時間だね」
やな笑みを浮かべて高枝が言う。……まさか、謀られた!? こいつ…。
「これはもうみんなで泊まった方が……」
「うん、確かにちょっと危ないね、俺が送ろうか?」
高枝が言いかけた瞬間、水野君が遮る。
「ちょ、水野!?」
「水野君、いいの?」
「うん」
「あ、あの」
なぜか柚留が申し訳なさそうに手を挙げている。
「柚留?」
「…私の家、今日誰もいないんだ。だからちょっと家に帰っても寂しいし、だから、あの、泊まっていいですか?」
おお、なんか柚留にしては大胆な事を。
「そういう事なら、うん、かまわないよ」
水野君、さらっと言うなあ。
「迅もすでに寝てるし」
あっ、本当だ、いつのまに……。食ったら眠くなるタイプ? と、ある視線に気付く。
柚留を、まるで獲物を見るかのように見つめる高枝。
……これは、やばい。
「……水野君」
「ん、何?」
「やっぱり私も泊まってく」
「そう?」
「うん」
……いくら水野君と平君がいるからって、高枝が何するかわからないし…。
「あ、でも困ったな、布団が一組しかないんだ。
俺は別にいらないけど…」
「あ、じゃあ俺と柚留ちゃ…」
「私と柚留が使っていい?」
「うん、いいよ」
……ああ、そんな感じで泊まったんだっけ。 ……ん、あれ? 今何時? 時計、時計。あった、えーと只今午前八時。
……午前八時!!??
「ちょ、みんな起きて!!」
『ん、う〜ん、Zzz…』
「いや、起きてよ!! みんな遅刻しちゃうよ!!」
「ふぁ〜あ」
高枝、起きたか!?
「あれ?柚留ちゃんが近くに居る、あ、これ夢か。じゃあ何やってもいいね」
こいつ、寝惚けたふりして柚留を襲う気か!?
「いただきま〜……」
「朝っぱらからくだらねえ事やってんじゃねえ」
「すべらっ!?」
高枝に対して平君の回し蹴りがクリーンヒット。
「たくっ……」
よし、平君は起きた。
次は……。
「柚留! 起きて!」
「ん〜……あ、華〜、おはよ〜」
「柚留、起きた!?」
「……おやすみ〜」
「いや、寝ちゃだめだって!! 起きろ〜!!」
くっ、柚留の完全覚醒まで二分もかかってしまった。
まあいい、最後は……。
「水野君!!起きて!!遅刻するよ!!」
「……ん、ふぁ〜あ、あ、鏑木さん、おはよう」
さすが水野君、目覚めがいい。
「よし、みんな学校行こう!!」
なんたって私の、無遅刻無欠席がかかってる。
「あの、華?」
「何、柚留」
「高枝君が……」
うん、気絶してるね。
「どうでもいいから、行こう」
それからみんなを先導して全速力で学校まで走り−−柚留は途中でばてて水野君におぶってもらっていたが−−現在我が教室2−Bに辿り着いた、と同時に始業のチャイムが鳴った。
……なんとか遅刻はまぬがれた。
「ほら、SHRやるぞ、席着け」
先生が教室に入って来る。
私はすぐに自分の席に座った。
「……え〜、突然だがうちのクラスに転校生が入る事になった」
その言葉に少々沸き立つ教室。……転校生か、どんな人だろう。
「雨宮、入って来い」
その言葉に答えて入って来る女性。腰まで届く金に近い茶髪、透き通るような白い肌、綺麗で整った容姿、……思わず見取れてしまった。
「雨宮蕾です、よろしくお願いします」
一瞬の沈黙の後、沸き上がる男子の声。
「こら!! 静かにしろ!!」
そこに遅れて水野君宅においてった高枝が教室入って来た。
「ひで〜じゃねえかよ、みんな、俺を置いて行く、な、ん、て……」
雨宮さんに釘付けになる高枝。
「……ああ、そうか、これは運命だったんですね。
そう、貴方とここで出会うための……」
また意味不明な事を……。
「さあ、僕と愛を育みましょう」
雨宮さんの手を握る。男子からのブーイングが起こる中、雨宮さん微笑んだ後、口を高枝の耳元にもっていく。
「…………」
なにか囁いたようだ。
……三十秒くらいたったかな、高枝が思案顔になってから。
『ピシッ!!』
うおぅ!! 高枝が石化にした!! いや、比喩表現ですけど、先生が不思議がってつねっても叩いても至近距離でチョーク投げても微動だにしない!!
「ごめんなさいね」
一体何を言ったのだろう?……気になるな。
「……あー、じゃあ、雨宮、空いてる席に座ってくれ」
「はい、先生」
雨宮さんは水野君のななめ後ろの空いてる席に向かって歩く。と、水野君の前で足を止める。
「お久しぶりね、戒」
「うん、久しぶり、蕾」
そこで再び沸き立つ教室。
……知り合い?しかも名前で呼び合うほどの……。
「静かにしろ!!」
先生の一喝で静まる教室。
「……あーおほん、雨宮、さっさと席に着け」
「はい、すみません、先生」
雨宮さんは水野君に微笑みかけた後、席に着いた。
その時、タイミングが良いのか悪いのか、スピーカーからチャイムの音が響いてきた。
「よし、SHR終わり、小テスト始めるぞ」
……はぁーなんとか出来た。とりあえず合格点はいったと思う。てゆうかさ、二日連続で一時間目が数学って、どうなのさ。
ふと、雨宮さんを見ると、質問攻めにあっている。転校生特有のイベントですな。
『なんで、ここの制服じゃないの?』
あ、言われてみると確かに違う。
「ええ、ちょっと手違いで、ここの制服が届くのが遅れてまして」
『どこから転校してきたの?』
「青森からです」
『水野君となんか関係あるんですか?』
……それは私も聞きたい。
「ええ、戒は恩人です」
……恩人?
その後、特に事件も問題もさして起こる事なく、いつの間にか放課後なっていた。
帰り支度をしていると柚留が近づいてきた。
「あっ、華、一緒に帰らない?」
「ごめん、ちょっと用事があるんだ」
「え、そう」
「本当ごめん」
私は屋上に向かう。階段を上がり、屋上の扉を開ける。やっぱりいた。すやすやとお昼寝をしている風見君が。
静かに風見君に歩いていき、手でメガホンの形を作って、
「風見君!! ちょっといい!!」
そう、風見君の耳元でおもいっきり叫ぶ。
「おおぅ!? なんだ!? 何が起きた!?」
飛び上がるように起きる風見君。
「いい? 風見君」
「え、あ、え?…なんだ華か…、なんだよ、人が気持ち良く寝てたのに」
ちょい不機嫌そうに言いながら、眼鏡をはずす。
「雨宮蕾って知ってる?」
「蕾? なんでお前が蕾の名前知ってんだよ?」
よし、やっぱり知ってた。てことは多分……。
「雨宮さんって神憑?」
「あん? そうだけど…だからなんで蕾を知ってんだよ?」
うん、勘が的中。
「今日、うちのクラスに転校してきたんだ」
「あ、そういう事か。通りで騒がしいと思ったら……」
「雨宮さんが水野君の事、恩人って言ってたんだけど、どういう関係なのか知ってる?」
「……恩人ね、どっちかっていうと、あいつが俺らの恩人だけどな」
「それって?」
「ありぁあ、二年前だったな……」
俺達中学の修学旅行で青森に行ったんだよ。
その二日目にスキー教室があってな。
「水野、風見、上級コース行かない?」
あいつの友達がそう言って誘って来たんだ。で、上級コースに行くことになって、リフトに乗ったんだよ。そしたら乗ってる途中で吹雪いてきてよ。
その吹雪が原因でリフトが止まって、しばらく待ってたらいきなり俺と水野だけ、なんかに落とされたんだ。
「……痛って〜、なんだよいきなり……」
「……どうやらあれが原因だね」
水野の目線に目をやると。
「……なんだあれ?」
「角が生えてるから、鬼の一種かな?でも多分、日本の奴じゃないね」
後で調べたが、ブラウニーって、奴だそうだ。
「つーか多くね?」
「うーん、目算でも、百はかたいかな?」
その約百体の鬼が、いきなり一斉にでけー雪玉投げてきやがったんだ。ま、解放してなんとか防いだけどな。
「さっき落とされたのはあれのせいか?」
「うん、そのようだね」
で、その後倒しにかかったんだが、……なにせ数が数だ、俺らのストックも切れ始めた。
そん時だ。
「だあ〜!! きりがねえ!!」
「本当だね、倒せるかな?」
「発雷!!」
掛け声とともに雷が飛んできて、一気に十体が消しとんだんだ。
「な、なんだ!?」
「貴方達、大丈夫ですか?」
「ええ、君は?」
「私、雨宮蕾と申します。失礼ですが、貴方はひょっとして水使いですか?」
「そうですけど」
「それは丁度いい、ではあの鬼達に水をばらまいてください、理由はわかりますね?」
「……そういう事ですか」
「で、その後、水野が鬼達に水をばらまいて、そこに蕾が雷を放って一掃したわけだ」
「え、ちょっと待って、それじぁあ、雨宮さんが水野君を恩人っていうのは変じゃない?」
「ああ、それはたぶん……」
その時、屋上の扉が開き、雨宮さんが神妙な面持ちで入ってきた。
「ここに居たんですか、優」
「おう、蕾、久しぶ……なんだその格好?」
「あ、これは、制服が届くのが遅れまして」
「いや、そうゆう事じゃ……」
「そんな事より、先程、思念魔を感知しました」
「あん? どこだよ?」
「北東に五キロの場所です」
「……相変わらず感知範囲がでけぇな」
「戒は既に向かいました、私達も行きま……そちらは?」
「ああ、鏑木華、一応神憑の事知ってる奴だ」
「あら、それは、初めまして、雨宮と言います」
「つーか、お前のクラスの奴だよ」
「え、そうでしたの? それは失礼しました」
「いえ、こちらこそ」
……おっとりしてそうなのに結構饒舌ですね。
「……なあ蕾、その喋りか……」
「おっと、こうしてる場合じゃありませんでした、先行きますよ、優」
そう言うと、彼女は屋上から飛び降り…飛び降りた!?
「え!?ちょ!?」
「……心配すんな、下見てみ?」
私はフェンス越しから彼女を見る。
彼女の両足に雷が集まり、やがてそれはブーツになる。すると彼女の足は壁に吸い付き、彼女はそのまま壁を駆け降りて行く。
「…どうなってるの」
「これがあいつの能力って事だよ、……解放……」
風見君は大剣を出し、剣の腹に乗る。
「飛べ! フレスベルク!!」
剣がふわりと浮く。
「ちょっと待ってよ!」
すかさず私は風見君の剣に飛び乗る。
「な!? なにしてんだよ!! 降りろ!!」
「いいじゃない! 連れてってよ!!」
「遊びじゃねえって前言ったろ!! 降、り、ろ!!」
「やだ!!」
「……あ〜もう!! 仕方ねえ!! あっち着いたらどっか隠れろよ!!」
「了解!!」
「飛ばすからしっかり捕まれよ」
「うん」
「……いくぜ!!」
言うとともに、剣の回りに風が吹き込み、次の瞬間、私達は空に舞う。
「うわー、本当に空飛んでる」
「おい、スピード上げるぞ」
「え?うひゃあ!?」
剣は物凄い速度を出す。
「ちょ、ちょっと、スピード落としてよ」
「飛ばすぞっつっただろ?いいからちゃんと捕まってろ」
くぅ〜、やっぱ乗んなきゃよかったかな。うわ、ってか高っ!! 落ちたら死……ん?
「……あのさ風見君、なんか下の方に、凄いスピードで進んでる物体が見えるんですけど」
ええ、そりゃこっからじゃ何なのかさっぱりなほど目に止まらない速さで。
「あん? ああ、たぶん蕾だろ」
「え!? 雨宮さん!? え、いや、人間であのスピードは……」
「ありえるんだよ、あいつならな」
「何? どういう意味?」
「蕾の能力について説明してやる、あいつの基本的な能力は雷、つまりは電気だ」
「う、うん」
「その電気を操り、強力な磁場を作れる。さっき壁にひっついたのはそれのおかげだ」
「ほ、ほう」
「で、今あいつが高速で移動できてる理由はそれの応用だそうだ、まあそこは俺もあまりうまく説明できねえが、言ってみればリニアモーターカーの原理を使ってるらしいぜ」
「へ、へぇーそうなんだ」
……危ない危ない、今のをちゃんと説明されたら、たぶん私の頭の許容範囲を越えてだろう。
てか、りにあもーたーかーって何?
「うわっ!?」
突然、剣が進むのを止める。
「何!?どうしたの!?」
「どうしたって、着いたんだよ」
剣はゆっくりと地上に降りていく。
それと同時に雨宮さんが土煙をあげながら私達の目の前に止まる。
「ほぼ同時ね、優…あら?その娘はさっきの…」
「連れてけって、うるせえからよ、ほら華、さっさと降りろ」
「う、うん」
着いたとこは今は使われていない廃ビル。
「…なんか、いかにもって感じ…」
『破ああぁぁぁ!!!!』
上の方から水野君の声が響いてくる。
「戒は既に戦ってるようですね、私達も行きましょう」
「おう、華、危ねえから上ってくんなよ」
「え、ちょ…」
風見君は空を、雨宮さんは壁を駆け上がって、水野君の声のした階層へ向かって行く。
私も追いたいけど……仕方ないか。
廃墟と化したビル、その五階のフロア。
戒の腕の龍が水流を起こし、襲いかかる人達を押し戻す。
「はあ、はあ、参ったな」
戒の目の前には、老若男女、様々な人々。
そして、その中心にいるのは二人の美男子美少女。
「ふふん、さすがは正義の味方、一般人には直接攻撃出来ないようだな」
「さっさと諦めた方が楽ですよ〜」
(洗脳系…厄介だなぁ、水のストックもそろそろ切れるし…どうしよ?)
戒の考えがまとまる前に美男子の方が指を鳴らす。
「お前ら、やれ」
「やっちゃってくださ〜い♪」
指の音を合図に再び操られている人達が戒に襲いかかってくる。
その時、窓を突き破り、大剣に乗った優と蕾が飛び込んでくる。
「空圧!!」
掛け声とともに起こる突風、それにより襲いくる人達が吹き飛ぶ。
「戒、大丈夫か?」
「うん、なんとか」
「それにしてもなんだぁ?こいつら?」
「あの二人に操られてるみたいなんだ」
そう言って戒は男女を指差す。
「何者だ、お前ら?」
「ふっ、何者だと?よくぞ聞いてくれた」
「私達はぁ、この街の神憑を倒しに派遣された魔憑で〜す♪」
「俺の名は我城盃璽」
「私の名前はぁ、島園時遊伽里」
「人呼んで、魔魅の悪魔とは俺達の事だ」
「よろしくねぇ〜☆」
と、まるでテレビのヒーローのようにポーズを決める二人。
それを見て優は顔を引きつらせ、
「……戒、こんな馬鹿そうなのに苦戦してたんか、お前は」
「操られている人達が壁になって、へたに攻撃ができないんだよね」
「ふふん、そういう事さ、さあお前達、やつらに襲いかかれ」
「行っちゃってくださ〜い♪」
「ちっ、仕方ねえ、とりあえず俺がもう一回……」
構えを取ろうとした優を遮り、蕾が前に出る。
「私に任せてください」
そう言うと手を前に向ける。
「発雷」
蕾の手から雷がほとばしり、襲いかかる人達に当たる。それによりばたはたと倒れていく人達。
「へ?」
「え?」
予想外の出来事だったのか、唖然とする敵二人。
「うおおぅ!?何やってん−−」
「なるほど、電気って便利だね」
優の驚きの声を無視し一人納得する戒。
「はぁ!?どういう意味だよ!?」
「簡単な事ですよ、例え操られていようとも人は人、軽い電流でも流せば体の機能が麻痺します。あら?まさか優、私が一般人に本気で攻撃するとでも思ったんですか?」
蕾が饒舌に話しながら優を見やる。
「……はは、冗談に決まってんじゃん?俺がそんなこと思うわけないだろ、はは……」
優は伏し目がちに言い訳の言葉を吐く。
(思ってたんだ)
(思ってましたね)
「よ、よっしゃあ!後はそこの馬鹿二人倒して、さっさと終わりにするぜ!!」
((ごまかした))
一方、現状に苦渋の表情を示していた男が一人。
(くっ、まさかこんなことになるとは…だが)
「これで終わりと思うなよ!遊伽里、解放だ」
最後の手段とばかりに美少年、盃璽は相方の美少女に指示を出す、が、
「えぇ〜、やだ、疲れるもん」
およそ戦闘の場にいるとは考えられない声のトーンで断った。
盃璽は一瞬固まったが気を取り直し、
「言ってる場合か!さっさとやる!」
「は〜い」
二人は目を閉じ意識を集中させる。
「「……解放……」」
その言葉とともに、二人の頭上に妖艶なる悪魔が現れ、二人の体に入っていく、二人の背中からは黒い悪魔の翼が生え、眼の色が金色になる。
それを見た優は一言。
「……武器はないのか?」
「あはは、直接攻撃苦手なんで〜」
「いいからかかって来な」
「言われなくても!」
「待って」
優が突っ込もうとした時、蕾が制止する。
「今日は私に任せて」
「何言って…」
「うん、任せたよ」
「おい、戒!」
「いいから」
「……解放……」
蕾の頭上に雷が集まる。雷は形を作り、雷をまといし一角を持つ黒馬になっていく。黒馬は地に降り立ち、蕾に頭を差し出す。蕾が黒馬の角を触ると、黒馬は雷に戻り、一瞬の内に突剣に姿を変える。
「行きましょう、麒麟」
蕾が解放し、一人で向かってくると踏むと、盃璽が不敵な笑みを浮かべる。
「ふふん、好都合だ、遊伽里、俺に任せろ」
「え〜、私が解放した意味ないじゃん」
「ぐ……それは……あ、もしもの時のためだ、な」
「…ぶ〜」
(…ふ、しかし一人だけ、しかも女とはラッキーだ、俺の能力は女限定だが決まればエリートクラスでさえも操、れ、る、!?)
勝機を確信した彼の目の前に蕾が目と鼻の先の距離に現れる。蕾は剣に雷を集約させている。
「雷鳴輪」
(え、ちょ待…)
剣から凄まじい雷が円を描いてほとばしる。それを盃璽はとっさの判断で横に飛んで避ける。避けられた雷はそのまま直進し、壁に当たり、当たった壁は消し炭消と化した。
「あら?外してしまいました、なかなか速いですね」
盃璽は、消滅した壁を見て、驚きの色を隠せない。
(いやいやいやいや、えー!!なんだよそりゃ!?当たったら負けっつうか消し飛ぶ、いやそれよりもあの間合いを一瞬で…)
あからさまに動揺する盃璽。そこに間髪入れず蕾が接近し、手を盃璽に向ける。
「発雷!」
掛け声とともに手から雷が迸り、盃璽に飛ぶ。盃璽はまた横に飛んで避ける。
(く、こうなったら捨て身で…)
盃璽は翼を広げ、自身が持つ最高のスピードで蕾に突っ込む。蕾はいきなりの事で少し動きが遅れる。それを逃さず、蕾の肩をがっしりと掴み、蕾と目を合わす。
「ふ、決まりだ、くらえ、魅了!!」
盃璽の眼が妖しく光を発せられる。
(決まった!!これで−−)
「……何かしました?」
キョトンとする蕾。
「……あれ?」
(効いてない……!? いや、そんな馬鹿な!!)
「くそ、もう一回、魅了!!」
再び盃璽の眼が妖しく光る、が、
「あの、眩しいんですけど」
「あれ!? この!! 魅了!! 魅了!! 魅了!!!!」
連続で発せられる妖しい光。しかし、蕾にはまったく変化はない。
「あの、もういいですか?」
蕾は右手に雷を集約させ、盃璽に触れる。
「え、いや、ちょ待っ−−!!」
「纏雷」
「あばばばばばば!!!!!!」
−−一分後。
黒こげとなった、盃璽。
(ううぅ……遊伽里、後は任せ……)
「あ〜知ってますぅ、あそこの宇治金時おいし〜んですよね♪」
「うん、同感だね、でもあそこの裏メニューがまた絶品でね」
「え〜☆なんですかそれ?教えてください♪」
ボロボロの彼の目に飛込んだのは、戒と甘味処の話を楽しそうにしてる遊伽里だった。
(……そりゃ……ねえ……だろ……)
心の中でつっこみ、それを最後に彼は意識を失った。
……遅いな……大丈夫かなみんな、負けるとかは…ない、よね、でももしかしたら…。
「鏑木さ〜ん」
私は声のする方に向く。
そこにいたのは、いつもの笑顔の水野君、黒こげの人をひきずっている風見君、剣を持つ雨宮さん、そして見知らぬ顔の女の子。
「誰?その娘?」
「え?今回の敵」
「どーも♪」
「……え?だって今までのは普通に化け物みたいな奴だったのに……」
「あー、彼女と、後その黒こげの人、魔憑なんだ」
「まづき?」
「うん、魔憑」
「えっと、神憑の敵版?」
「そうなの?」
と、雨宮さんに聞く、水野君。
「……そうなのって、知りませんでしたの?」
「うん」
「俺も知らん」
風見君も水野君と同じように首肯している。
「…え〜と、協会の事は知ってますよね?」
「なんの協会ですか?」
「神憑関連の」
「え、そういうのあるの?知ってる?優」
「いや、俺も……」
「…まさか知らないとは…」
と、その時。
突然、雨宮さんに鋭い爪を入れた男、その爪を剣で受け止める雨宮さん。
「相変わらずだね、バカ猿」
「お前も相変わらずだな、かま野郎」
雨宮さんは、襲ってきた男を弾き飛ばす。
「遊伽里!!引き上げるぞ!!」
「でも、盃璽が〜」
「ちっ」
舌打ちした次の瞬間、彼は一気に風見君のとこに行き、爪の一撃を放つ。風見君は瞬時に大剣で防御する。彼は攻撃を止め、その場で飛び、腰に巻いてあった鞭で黒こげになった人を巻き上げる。
「大丈夫か?盃璽」
「……なんとか」
「よし」
彼はそのまま球状の物を投げる。球状の物が地面に触れた時、凄まじい閃光が辺りを包む。
閃光がおさまった後、あの女の子と、黒こげの人、そして突然現れた人(たぶん敵)の姿がなくなっていた。
「何者だ?蕾」
「夜鳥虎袁、僕の幼馴染み」
「え?僕?」
「あ、いや、これは、その……」
「てゆうか、さっきの人、かま野郎って……」
「え、はは、それは……」
「もしかして……」
「男!? 本当ですか!? 虎袁さん!!」
盃璽は自分を助けた男におぶられながら質問する。
「ああ、正真正銘、奴は男だ」
「だから俺の能力がきかなかなかったのか…」
「つまりあの場にいた奴は男のみ、お前にまったく勝ち目はなかったんだよ、ま、逆に言えば遊伽里がやれば勝てたかも知れなかったが…」
「あ〜!!」
「どうした、遊伽里?」
「あの人に裏メニューの頼み方聞くの忘れた〜(悲)」
「…どっちにしろ、結果は同じだったかもな」
「…はい」
前を水野君と風見君、その後ろに私と雨宮さんが歩いている。
「なんで女装してるんですか?もしかして本当におかま?」
「いやまあ、僕、姉が三人いるんですよ、小さい頃に姉達によく女の子の格好させらてて、それで女の人の服着るのに抵抗なくなって、まあ似合う服なら男物でも女物でも着ようって考えで、あ、別におかまじゃありませんよ」
「でも、なんで女言葉?」
「だってやでしょ?こんな女らしい格好して男言葉って」
「うん確かに…でも学校に女の制服って、まさかこのまま着てくつもりですか?」
「まさか、これはただ単に面白いから」
「面白い?」
「それは次の日のお楽しみ」
彼はそう言って髪をなびかせて微笑む。
…うん、まあ楽しみにしておこう…
後日談
「そういえば風見君、雨宮さんはなんで水野君の事を恩人って言ったの?」
「え?ああ、あれはあの後な、蕾が急に腹下してな、でトイレに急いで行ったんだが紙が切れてて、たまたま戒がポケットティッシュ持ってて…」
「ちょっと待った!!もういい…」
「ん、まあここまで言えばわかるしな、じゃな」
「うん…」
…聞かなきゃよかった…
続く
おまけ
高枝の不幸シーン1と2
シーン1
水野宅にて。
…深夜二時。
ぐっすりと眠りについている五人の中でゆっくりと立ち上がる一人の男。
(ふっふっふっ、よう寝とるよう寝とる)
高枝亮。
(つめが甘いな華、お前が柚留ちゃんのそばにいようが、周りに水野や迅がいようが、眠りについたらできまい)
高枝はかな〜り変態な笑みを浮かべる。
(んじゃま、いっただっきま〜す!!)
高枝が華と柚留の布団に襲いかかろうとした時。
「……ん、んん、水野君だ〜いすき☆、むにゃむにゃ…」
「…え?」
柚留の寝言を聞いて高枝の動きが止まる。
その高枝の後ろにゆっくりと立ち上がる男。
(殺気!?)
高枝が振り返った瞬間、彼の頭に強烈な一撃が入る。
崩れ落ちる高枝。
一撃を放った男こと平迅が一言。
「…くだらねえことやってんじゃねえ…」
彼はそのまま後ろに倒れ、眠りにつく。
シーン2
果実好樹高校、廊下。
朝の八時半。
(はあ、ショックだ…まさか柚留ちゃんまで水野の事が好きだったなんて…)
うつむいて歩く高枝。
(いや、どうせ柚留ちゃんは俺と付き合ってくれそうな感じじゃなかったし、そうだ、新しい恋を見つけよう、きっと昨日のはそのきっかけだ、よし、そうと決まったらあいつらに置いてった事を愚痴ろう)
そして高枝は教室の扉を開ける。
「ひでーじゃねえかよ、みんな、俺を置いて行く、な、ん、て…」
そこにいたのは、金に近い茶髪を持つ可憐な女性。
「…ああ、そうか、これは運命だったんですね、そう、貴方とここで出会うための…」
(そう、ここに在った、俺の新しい恋、周りの声なんて気にするものか)
「さあ、僕と愛を育みましょう」
高枝は女性の手を取る。
すると彼女は口を高枝の耳に持って行く。
「…すいません、僕、男なんですよ(小声)」
「は?何を言ってるんですか、そんな冗談で僕が諦めるとでも…(小声)」
「いや、ごほん、女の人がこんな低い声出せますか?(おもいっきり低い声)」
…そして十秒後、事実を受け入れた彼は、現実から逃げるため、自分の体を無機物に変えていく。
了
今回のサブタイトルは蕾の通り名の一つです。彼は各地で活躍してるので、通り名はかなりあります。まあ複数あるのは、通り名が定着してない証拠ですが…。