水龍と風鳥
……公園。
上空に舞う巨大な鳥が一羽、それを見つめる右腕を龍と同化させた少年が一人いる。
「……あー、また逃げられた」
…それから数日後。
午前八時。
果実好樹高校、通学路。
「…ふぁあ」
……眠い、深夜の番組は見るもんじゃない。
以外と面白いのが結構やってて寝たくなくなる。
おかげで寝たのは、午前四時。
「やばいなぁ、授業まともに受けれるかな……」
一人呟いていると突然、背中に衝撃が走る、その勢いで私は前にころぶ。
「いった〜、なによもう」
私は後ろを向く、そこには前髪を眉までのばし、ビン底眼鏡をかけた少年がいた。
少年はちょっとビクついてる。
……へぇ〜、ビン底眼鏡ってまだあったんだ〜。
「す、すいませんでした!!」
少年は、そう言うと風のように走っていった。
「何?あの子?」
「おっはよ!!華!!」
「うわ!?あ、なんだ柚留か……」
「なんだ、って何そのりあくしょん?、なにか不満?」
「いや、別に…」
突然話しかけられたから、また水野君かなぁ、と思っただけで……。
「ふ〜ん、まっいいや、ところで華、風見君と知り合い?」
「風見君?」
「ほら、さっきの眼鏡のかけた…」
「え?あの子?全然、どうかしたの」
「知らない?風見君の事?」
私は首を横に振る。
「あの子、2―Gなんだけど……」
「2―Gって、あの不良の溜り場の?」
「そうそう、ほら、風見君、失礼だけどぱっと見いじめられそうな外見でしょ?でも全然そんな事が無くて不思議だって有名なの」
「へぇー」
確に、かなりオドオドしてたし、不良の格好の的になりそうだったなぁ……。
時間は飛んで昼休み。
んでもって購買部前。
私と柚留はお弁当を持って来ないのでパンを買いに来たのだが……。
「うわー、相変わらずすごいねぇ……」
お決まりだが、購買部の前は、人だかりですごいことになっている。
おおー、やきそばパンが宙を舞ってる、一番前では人がもみくちゃになってコロッケパンを争奪している。
「って、ぼーっとしてる場合じゃないって!!行くよ柚留!!」
「うん、狙いはカツサンド!!」
私たちは人の波をかきわけ、なんとかパンが見えるとこまでくる。
「あ!華!カツサンド二つ残ってる!!」
「よし、まかせなさい!!」
私は全力を尽して、カツサンドまで手の届く位置まで来た。
あと……少し……。
一個取った!!
よし、後一個……、手が届い……。
あれ?カツサンドが消えた?どこに……。
私は、まわりを見渡しカツサンドを探す。
あ、あったー。
私は少し宙を浮くカツサンドを掴む。
そこで、私は金髪、鼻ピアスの明らかな不良が私をにらみつけてるのに気付く……。
「なんだてめぇ……、これは俺のだろ!!」
「は、はい、その通りです!!すいませんでした!!」
私は近くにあった玉子サンドを取り、購買のおばちゃんにお代を払い、すぐさま人だかりを抜けた。
あぁー、恐かったー。
「華ー!!」
「あっ柚留、ごめんカツサンド一個しか買えなかった……あと玉子サンド」
「いいよ別に、それより今日は屋上で食べない?」
「いいねそれ、よし行こう!」
私たちはそのまま階段に向かう。
屋上につくと、フェンスに二人の男子がいた。
「あれ、誰かいるね」
私はその二人をよく見る。
げっ!さっきの不良じゃん!!それにもう一人は風見君!?
「ちょ、柚留!!隠れて!!」
「えっ、華?どうしたの?」
私は柚留と一緒に屋上への扉の影に隠れる。
なになに?もしかして恐喝かな。
「何してるの?鏑木さん。鈴村さんも」
突然の後ろの声に一瞬驚く。
柚留と一緒に振り向くと、
「「み、水野君!?」」
……柚留とハモちゃったよ、私。
ちなみに柚留は真っ赤になってる。
「水野君こそ、なんでここに!?」
「いや、ちょっと優に用が……って鈴村さん、顔赤いけど大丈夫?」
「えっ、あ、はい大丈……」
と、不意に水野君が柚留のおでこに、手をやる。
おお、柚留の顔がまさに、ゆでダコ状態に。
「ちょっと、熱いかな…一応、保険室行ったら?」
「は、はい!!」
そう言って柚留は階段を降りていく。
あっ、こけた。
……純だなぁ。
「で?水野君なんでここに?」
「だから優に用が……」
「おう、水野じゃねえか」
後ろから突然、あの不良が水野君に話しかける。
「って!おまえはさっきの横取り女!!」
「いや、はははっ……」
「鏑木さんとなんかあったの?竜助?」
「あん?水野、おまえの連れか?」
「うん、友達」
あっ、友達なんだ私。
「パン買う時にこの女が俺のカツサンドを取ろうとしてな、まあ、水野の連れなら別にどうこう言わねぇけどよ」
「へぇー、あ、優いる?」
「え?あ、ああ、風見ならフェンスのとこにいるぜ」
「ん、ありがとう」
「おう、それじゃな」
そう言って、竜助と呼ばれた不良は階段を降りていく。
「水野君、知り合いなの?」
「うん、優の友達でね、結構いい奴だよ」
「優って?」
「いやだから、優は風見優だよ」
「あ、風見君?」
え?ていうかさっきの不良が風見君の友達!?
「ていうか、さっき竜助が風見って呼んでたんだけど……あれ?風見君って、優と知り合い?」
「あいや、朝にちょっとね」
「ふーん、じゃ紹介してあげるよ、彼も神憑だし」
「え!?それ本当!?」
「うん、本当」
ってそんな普通に……。
いや、でも全然それっぽくないけどなぁー、意外だな。
そんなことを考えてたら、水野君がいつのまにか風見君の近くに行っていた。
「鏑木さ〜ん、こっち来なよ」
「えっ、うん」
私は彼等のもとに行く。
「あっ、お前は朝の……」
ん?お前?
「なんだ、戒の知り合いだったのか?」
戒!?水野君を呼び捨て!?
「うん、鏑木華さん、彼女には神憑のこととか話してあるんだ」
「はーん、華か、よろしくな」
華!?私も呼び捨て!?
「え、ちょっと待って、朝とっていうか、話しと雰囲気が違うんだけど」
「あ?ああ、あれ?演技だよ」
そう言うと彼は眼鏡をはずし私に投げる。
「その眼鏡、かけてみ?」
私は言われた通り、眼鏡をかける。
「…あの、普通にぼやけて見えるんですけど」
「そりゃそうさ、そのレンズ、牛乳ビンの底だしな」
……え?
「ギャグですか?」
「ちげー、ちげー、本当に、ビンの底」
え?馬鹿?
「なんで、そんなことを?」
「まあ、目立たないためのと、修行かな?」
逆に目立つと思うけど……。
「なんで目立ちたくないの?」
「優は人付き合いが苦手だからね」
「俺はあんまり人とのつながりを持ちたくないだけだ!!そんなことより用件はなんだよ、戒」
「ああ、ちょっと手伝ってほしい相手がいてね」
「……モデルはなんだ?」
う……なんか一気に雰囲気が変わったぞ。
「姑獲鳥なんだけど……」
「鳥型ね、だから俺か」
「頼める?」
「ま、この前の俺の相手はお前が倒してくれたし、全然問題ない」
「じゃ、放課後に……」
「あの〜」
そーっと手を挙げる私。
「ん、なに?鏑木さん」
「私も行っていい?」
「はぁ?何言ってんだお前?」
「いやー、今日は学校終わったら暇で…」
「おまっ、思念魔との戦いは遊びじゃねー…」
「いいよ、別に」
「なっ!戒!?」
「姑獲鳥は攻撃性は高くないし、俺達、二人いたらそこまで危なくないし」
「だからってお前!!」
「ほら、あんまり一般人巻き込んで戦ったことないでしょ?練習と思えば…」
「…はぁー、変な奴だなお前。人一人危険にして、なんも感じないのか?」
「俺は友人の願いはできるだけ叶えてあげたいから」
「…仕方ねえなぁ、これ一回きりだぞ?」
「だって、鏑木さん」
「うん、ありがとう」
……実際のところ、私も危ないとこに行きたくない。
けど、私は昔からこういう世界に少し憧れてた。
それに水野君が無事でいれるか、この目で見ないと……。
で、また時間は飛んで放課後、私は待ち合わせ場所である学校近くのコンビニ前にきていた。
そこには一足先についていた水野君がいた。
「風見君は?」
「そろそろ来ると……」
「おう、待たせたな」
私は風見君の声に反応して振り返り……少し目を疑った。
「え?風見君?」
「あん、なんだよ?わかんないか?」
今の彼は、誰が見ても風見君とは思わないだろう。
彼は髪を白くし、立たせている。
ビジュアル系バンドでもそんな髪はしない。
「その髪どうしたの?カラースプレーかなんかで染めたの?」
「逆だよ、こっちが地毛で、いつも黒く染めてんだよ。スプレーおとしてたら遅くなった」
「地毛!?」
「ああ、かっこいいだろ」
……なんとも言えない。
この若さで髪が真っ白なんて……、前に見たテレビで言ってたけど、あまりにショックが強いことが起きると髪が白くなるらしい……。
そっと水野君が私の耳元に小声で。
「……適当に誉めてあげて」
……その声は少し哀しい声だった。
「……うん、かっこいいのかな」
「かなってなんだよ、かなって」
「だって、私の趣味じゃないし」
「……ま、万人受けはしねえか」
「そ、それよりどうやって探すの?姑獲鳥って奴」
「あん?そんなもん勘だよ」
「勘!?」
「いや、正確に言うと、俺達神憑は、思念魔に対する感覚が鋭くなってるんだ。その範囲は人それぞれだけどね」
あ、そういう事か。
「俺が半径1kmで、戒は2kmってとこだ。感覚を研ぎ澄ませば……いたな」
って早っ!!
「うん、西に400m、意外と近いね」
「行くぞ、戒」
「ああ」
そう言うと二人はあさっての方向に走り出した。
……言ってる場合じゃない!
「ちょっと!二人とも待ってよ!?」
「はぁはぁ、ここに、いる、の?」
着いたのは近所の公園。
……つーか二人とも足速い……姿追うので精一杯だ。
「うん、間違いないんだけど…」
周囲には人どころか鳥すらいない。
「かっしいなー、なんでいねえんだよ」
「姑獲鳥の性質は変化だから、たぶんなにかしらに化けてるんだと思うんだけど…」
「それって生き物限定?」
「思念魔の能力は、人の記憶にある生物をモデルにしてるけど、忠実に再現してるわけじゃないからどうとも…」
「やっかいだね」
私は近くにあったブランコに腰掛けながら言う。
しかし、まだ四時にもなってないのに、人が一人もいないってさびれてるなー、この公園…。
「ん、ちょっと待って」
「どうしたの、鏑木さん?」
「こんなとこに、公園なんてあったけ?」
「「!!!?」」
私の言葉を聞いた途端、二人の表情が変わった。
「戒!これは!?」
「ああ、恐らくは…」
水野君は、例の水の剣をだす。
そして、おもむろに地面に突き刺す。
「ピィギィィィ!!」
突然、大きな鳥の鳴き声が聞こえる。
私は驚いて、ブランコから腰をあげる。
「なに!?この声!?」
「いいから!!この公園から離れるよ!!」
私は言われるがままに、二人と公園を出る。
「一体どうしたの!?」
「見てりゃあ、わかる」
次の瞬間、公園にあった遊具が形を歪める。
遊具は地面に溶け、そして、地面が巨大な鳥に姿を変える。
「公園が鳥に…!?」
「つーか、公園に擬態ってスケールでけぇな」
「この数日で巨大化してるとは思わなかったよ」
「こりぁ、骨が折れるな…やるぞ、戒!!」
「ああ…」
そう言って二人は精神を集中させる。
「「…解放…」」
二人の上空に、水と風が集まるのがわかる。
水と風は形をなしていく。
水は巨大な龍に、風は白き鳥になる。
龍は、水野君の腕と同化し、口にあの突撃槍を作り出す。
鳥は、風見君の前に降り、自らの体を柄に翼の装飾がついた白い巨大な剣にする。
「…行こう、龍神」
「…やるぜ、フレスベルク」
水野君は構えを、風見君は剣を取る。
姑獲鳥が翼を広げる。
「!?華!どっか物陰に隠れろ!!」
え?急に言われても…。
「ちっ、仕方ねぇな」
私がおろおろしてると、剣を引きずりながら風見君が私のとこに走ってくる。
その時、姑獲鳥が翼をその場で羽ばたかせ、突風を起こす。
風見君は私の前に来て、突風を巨大剣でガードする。
「破あああぁぁ!!!!」
水野君が鳥に突撃する。
鳥は一旦、羽ばたきをやめ両翼を前で固める。
水野君の槍が鳥の翼に当たる。
しかし、前回の蜘蛛のように貫く事はなく、その場で動きが止まる。
「くっ、翼を強化したのか…」
水野君の槍に勢いがなくなっていく。
「華、今の内にあそこの電柱にでも隠れてろ」
「う、うん」
私は電柱の影に隠れる。
「戒!!どけぇー!!」
風見君が剣を振り上げる。
水野君は真横に水を噴射し、その勢いでその場を離れる。
「おらぁー!!」
剣が振り下ろされる。
それと同時に、鳥が出した突風よりも凄まじい風が吹き荒れる。
鳥はそれにより後方に吹き飛ぶ。
風見君は、その機を逃さず鳥に斬りかかる。
鳥は、力の限り翼を羽ばたかせ、突風を起こす。
それにより今度は風見君が吹き飛ぶ。
鳥が上空に飛ぶ。
逃げる気だ。
「逃がすかー!!」
風見は剣の腹に乗る。
すると、剣の柄当たりにある翼の装飾が巨大化する。
「飛べ、フレスベルク!!」
風見君を乗せた剣が宙に浮き、次の瞬間風が舞い上がり、猛スピードで飛ぶ。
風見君は鳥の真上まで行き、そのまま剣を手に取り降り上げる。
「落ちろおぉぉ!!」
剣が無防備な鳥に降り下ろされる。
その衝撃で鳥が落ちてくる。
…そして、その下では、水野君が真上に構えを取る。
「…最大出力」
龍頭の後ろに凄まじい勢いで水が集まる。
「…激・水龍砲」
水が今までと比べ物にならないほどに爆発する。
水野君はまるでジェット機のようなスピードで上空に飛ぶ。
鳥は両翼でガードする。
槍は翼に当たる。
「つらぬけぇー!!!!」
『ピシッ』
翼にヒビが入る。
次の瞬間、水野君の槍が鳥を貫く。
塵になる鳥。
その後、ある程度の高さまで飛んだ水野君の勢いが止まる。
空を飛ぶ→推力がなくなる→重力の影響を受ける=自由落下。
「あ、しまった、水のストックがない…」
落ちる水野君。
え?このままだと水野君死んじゃう?
と思ってたら風見君が水野君のとこに近付いてく。
「助け、いるか?」
「…頼む」
「…貸し一個な」
…数分後。
「ふぅ、助かったよ優」
「たくっ、後を考えろよ」
「悪い」
そう言って水野君は苦笑している。
「本当、ハラハラしたよ」
「ごめんね、心配かけっちゃって」
「さて、思念魔も倒したし、帰っかな」
「今日はありがとう、優…」
『ぐぅ〜』
風見君のお腹から音がする。
「…腹減った、戒、貸し返せ」
「…何がいい?」
「とんこつチャーシューラーメン、大盛り、ネギ多め、玉子もつけろ」
「はいはい、あ、鏑木さんも来る?おごってあげるよ」
「いいの?」
「うん、心配かけたおわびってことで」
「…じぁあお言葉に甘えて」
……今日はついてる、水野君にラーメンおごってもらえるから……
…餃子もつけてくれるかな?…
続く
おまけ 柚留の日記
今日は本当に良い日だ、
水野君と話せたし、
おでこさわってもらったし、
心配してもらったし、
でもあの後保険室行ったら、本当に熱があって早退させられた。
ああ、皆勤賞が…。
…ま、いいや。
…明日も水野君と話せますように…
レギュラー三人目、風見 優登場。彼のフレスベルクというのは、風の神様で世界中の風をおさめてる…というのがゲーム、デビ〇チル〇レンにあった説明文、詳しい事は知りません。あしからず。