事情説明
今日は休日、そして私がいる所は水野君が住んでるアパート前である。
昨日、水野君に家に誘われた。
と言ってもあの現実離れした事の説明をしてくれるためだけど。
でも、なんで家?
まあ、約束だし、行かないのは変だし、というか別にやましいことはないわけだし……。
え〜と、何号室だっけ?携帯、携帯、水野戒っと、え〜666号室……は?
え、いや、ここ二階までしかないし、何故666?
「鏑木さん?」
「うわっ!?み、水野君!?」
なんでこの人は突然、ていうか気配消してる?
「こんなところで、どうしたの?」
「え、いや、あ、水野君こそ、どこか行ってたの?」
「ああ、ちょっと茶菓子を買いに」
「茶菓子?」
うわー、本当に666号室だよ。
二階なのに何故…。
「あの、水野君?」
「ん、なに?」
「ここ、二階なのになんで666号室なの?」
「え、ああ、大家さんの話だとなんでも前の住人が悪魔信奉者で、部屋番号を無理矢理変えたんだって」
「へ、へぇー……」
そんな危ない人、よく入居させたなー……。
ていうか、それ聞いてここに住む水野君もちょっと……。
「それじゃあどうぞ」
「おじゃましま〜す…」
わぁ、これが水野君の部屋かぁ……、タンスに本棚、中央にテーブル、窓には白いカーテン、部屋の隅にはわりかし新しいテレビ、……それだけだ。
片付いてるというか物がないというか…。
「適当に座って。今お茶煎れるから」
「あ、おかまいな…」
……えっ?お茶?熱いお茶ってこと?
夏は終わったけどまだ結構暑いのに……。
「はい、どうぞ」
そう言って彼は、湯飲みをテーブルの前に座ってる私に差し出す。
うわぁ…、湯気たってる……、飲みたくないなぁ……。
いや、この場合、飲まないのは失礼だ。
私は湯飲みを手に持ち、一口飲む。
……美味しい。
味わい、香り、そして微かに感じる甘み、心がほっとする味だ。
「あ、そうそう、さっき買ったやつ、羊羮なんだけど食べる?」
「あ、うん」
それから私は時を経つのを少し忘れた。
ああ、美味しいな、この羊羹。
お茶とよく合うなぁ。
日本人で良かった。
「さて、じゃあ話そうか、何から聞きたい?」
「……このお茶どこの?」
「お茶?一番摘みのやつを静岡に行った時にふんぱつして……って、聞きたいのそれじゃないでしょ」
はっ!!
「ごめん、あまりに美味しかったからつい……」
なにを聞いてるんだ私!!
なんのためにここに来たと……なんのためだっけ?
あ、そうそう、昨日のことだ。
「えと、じゃあ水野君が持ってた剣って何?」
「剣?あ〜、え〜と、あ!これのこと?」
そう言って、彼は右手を開いて挙げる。
そうすると、彼の手に水が集まって……剣になった!?
「そ、それそれ!!それなんなの!?」
「これ厳密に言うと、槍なんだけど、まあこの際いいか、これは俺に憑いてる龍神が俺と契約した証なんだ」
「龍神?昨日、君の腕にくっついた龍のこと?」
「そう、それ」
「で、なんなの?」
「神さ、正確には人の想いからできた神、俺達は思念神って呼んでる」
「しねんがみ?」
「そ、思念神。思念神はこの世界には干渉出来ないけど、人に憑くことによって力を人に与えることが出来る」
「え〜、まとめると、龍神がしねんがみでそれが水野君に憑いて、その証がその剣ってこと?」
「そゆこと」
「あ!それが昨日言ってたかみづきか!」
「うん、正解」
「へ〜、あ、じゃあ、あの蜘蛛は?」
「あれは思念魔」
「しねんま?」
「人の怒り、悲しみ、憎しみ、絶望、つまりは人の負の想いによって出来た魔そのもの。ちなみに昨日の蜘蛛のモデルはたぶん、女郎蜘蛛」
「え?モデルって?」
「これは思念神も一緒なんだけど、思念神、思念魔が形をなす時に必ず人の頭の中にある空想上の神や悪魔、生物をモデルにする。そして、モデルになったものの存在理由をそのまま自分の性質に置き換えるんだ。例えば俺の龍神は、海の守り神とされてる。だから水の武器を生成できるんだ」
「へぇー」
なんか話が難しくなってきた。
「そして、思念魔は、なぜかは証明されてないが、生まれたら必ずこの世界に害をなす。俺達はそれを阻止するために神憑になった…と思う」
「あれ?さっきも言ってたけど、俺達って、君みたいな人、沢山いるの?」
「うん、世界中にいると思うよ、思念魔もね、あ、この町には他に何人かいるよ」
「いるの!?」
「まあ、俺一人じゃこの町守るのきついしね」
「…う〜ん、なんかスケールがでかすぎない?」
「この世界はこういう世界になっちゃたんだ、俺や君が生まれる前から…」
水野君の話を聞いて分かった事は、水野君はずいぶんとややこしい世界にいるという事。
つまり、まあ、その、大変な訳だ。
私は一応の納得と満足感を手にしたので、今日のところは帰ることにした。
「今日はありがとうね」
「うん、あ、これよかったら、お土産」
そう言って紙袋をわたされる。
「中身は今日だしたお茶の葉と羊羮」
「え?でもこれ高いんじゃ…」
「いいよ、気に入ったんでしょ?」
「うん、じゃありがたくいただきます」
「ん、それじゃあね」
「また明日」
「ただいま〜」
あの後どこも寄り道もせずに家に真っ直ぐ帰ってきたのだが、
「ん?」
返事がない、私はそのままリビングに向かう。
「誰もいないの〜」
ちなみに私の家の家族構成は、父、母、私、弟の四人である。
どうでもいい話だが。
うーん、これと言ってやることもないし、寝ちゃおっかな……。
私は食卓に水野君のおみやげを置き、自分の部屋に直行、そのままベットにダイブした。
……ん〜今何時だ……携帯……あった、え〜と七時か。
もうさすがにみんな帰ってるだろう……。
私は多少の倦怠感を我慢し、リビングに向かう。
「お、姉ちゃんやっと起きたか」
ソファに座る弟に話しかけられる。
「おはよう、優樹……ん?」
私は目をこすり、弟の持ってる物に視線を向けた。
その先にあるのは……羊羮?!。
「あんた!!なに食べてるのよ!!」
「見ればわかんだろ、羊羮だよ」
「それは、私が……!!」
「はしたないわよ、華、女の子が大声だして…」
「そうだぞ、華」
と食卓に座る両親。
「ちょ、だって、父さん、母さ…」
私は、父母の手に持つ物に目をやる。
その先には……羊羮。
「なんで父さんも、母さんも、私がもらった羊羮食べてるのよ!!」
「あら、これ華のだったの?でももうない……」
私に視線を向けてる父母の目が、ひきつってる、恐らく私の顔が原因だろう。
なんとなく解る、なぜなら私の怒りゲージはMAX寸前だからだ。
「なんだよ姉ちゃん、羊羮くらいで、ガキだなぁ」
…MAX突破。
あの後、よく考えたらなんであんなに怒ったのか、自分でもわからない。
ただ、その後一週間、私に向けられる家族の視線が明らかに恐怖する目だった。
……まあ、お茶は無事だったし、あまり考えないようにしよう……
続く。
第二話は、設定説明でしたが、解りにくいでしょうか?