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神憑  作者: 光風霽月
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鬼の頭5

 光の柱はそのまま十秒ほど降り注ぎ、やがて止まった。

 優はもう開いた口がふさがらなかった。

 鬼の男は化け物だ。大転生の戒はそれすら凌ぐ化け物だ。なら、あれらはなんなんだ? 叫びをあげる暗黒の壁を一瞬にして創った女、そして、恐らく空から光の柱を呼んだ崎原陽治という男は。

 ――神?

 その言葉が唐突に頭をよぎり、阿呆かとすぐさまかぶりを振った。

「なんなんだ、あの二人」

「……高天原」

 後ろで蕾が優の疑問に答えるように呟いた。

「なんだよそれ」

「私も話に聞いただけですが、日本神話に登場する神々の神憑のみで構成されたギルド、高天原のトップ3は三柱神をそれぞれ思念神として有し、その力は少なくとも日本の頂点に位置すると」

「そう言われるのは光栄です」

 亜迦里はそう言うと壁に向けていた手を下ろす。すると、暗黒の壁は霧のように霧散し、中にいた戒と陽治の姿をあらわにした。

「戒!」

 すかさず優は戒に駆け寄り、戒の状態を確かめる。服がボロボロで、露出している肌は所々軽い火傷を負っているが、呼吸は安定しており、命に別状は無いようにみえる。しかし、ふと疑問に思う。大転生前の戒は鬼の攻撃で瀕死に近いほど重症だった筈だ。

 優が神妙な面持ちで思案してると陽治は慌てて駆け寄る。

「だ、大丈夫だからね。予想以上にあの外装が耐久力が高かったから少し出力強めにしたけど、ちゃんと加減したからね」

「あ、いや、そうじゃなくて戒があの男にやられた傷とかが」

「ん? ああ、それかー。大転生は一時的に細胞がフルに活性化してそれまでに負ったダメージが全部治るんだよ、まあリスクはあんだけどね」

「リスク?」

「ま、命に直接は関係しないから安心して、それよりさ」

 陽治は怪訝そうな優の体まじまじと見た後、次いで蕾の方を見て、ふむ、と頷く。

「うん、とりあえず君達は傷を治そうか、色々聞きたい事があるだろうけどそっちが優先だ」







 その後、髪の色を初めて会った時の黒に戻した陽治は、いい医者がいると言って携帯電話を取り出し、その医者とおぼしき者と電話をし始め、数分が過ぎていた。

「あれ? あの女は?」

 とりあえず木に寄りかかりながら休んでいた優はふと亜迦里がいつの間にか消えていた事に気付くと、同じく木の股に腰掛けるように身を預けていた蕾が、ああ、と呟きそれに答えた。

「それならさっき森の方に入っていきましたよ、なんでも捜し物だとか」

「ふぅん」

「――うん、忙しいところ悪いね」

 話が終わったのか、陽治は通話を切り二人に向き直る。

「すぐに来るって、たぶん10分くらい」

 二人はその言葉に疑問符を浮かべた。ここは山の中だし、そもそもそれは医者が直接来るということなのか? そんな考えが二人の頭に巡る。







 そうしておよそ10分が経過した頃、先程から空を見渡していた陽治が何かを見つけたように言った。

「あ、来た」

 つられて優と蕾も陽治が見つめる方向を向く。何かが凄まじい速度でこちらに飛んでくるのが見える。

「……あー、ありゃなんだ蕾」

「えっと、ソリ、……ですかね?」

 飛んできたのはクリスマスにトナカイが引くサンタクロースを乗せたイメージが真っ先に浮かぶもの、ソリ、空を飛ぶソリだ。ただ、乗っているのはサンタではなく白髪の白衣を来た男で、ソリを引いているのはトナカイではなく翼の生えた蛇だった。

 ソリは優達に気付いたのか、若干旋回してこちらに向き直り、そのまま滑るように急降下してきた。

 そして優の真横を凄まじい勢いで通りすぎ、土煙をあげながら進行方向にある木に激突して止まった。

『キュー……』

『……もう少し普通に降りれないのか、全く』

 弱々しい奇妙な鳴き声に次いで、渋く落ち着いた異国の言葉が響く。

 やがて服の埃をはたきながら土煙の中から黒いトランクを手に提げて白衣の男が出てきた。先程確認したとおり白髪であり優と蕾は老人だと思っていたが、予想は外れてかなり若く見える。肌の色と輪郭から欧米系の人間、年は外国人のため少々判別しにくいが恐らくは三十代前半に思えた。

「やぁドクター、久しぶり」

「陽治か? 確かに直接会うのは久しぶりだな」

 気さくに話し掛ける陽治に気付くとドクターと呼ばれた男は鞄を地面に下ろして流暢な日本語で答えた。

「まあ、特別感慨深いものでもないだろ、さっさと仕事を済ませたい、患者は?」

「ああ、この二人と、まあ念のため、あそこで寝てる少年、それと」

 陽治は優と蕾、続けて戒指した後、一本の大木を指した。

それは鬼の男が戒によって串刺しにされた木だった。

「あそこで磔にされてる奴」

 陽治の言葉に優と蕾は表情を変える。

「何言ってんだよお前!?」

「何故あいつを!?」

「いや、個人的に聞きたい事があってね。それに君たちも何かあるんじゃないか? 結構無謀な戦いを挑んだと思うが、そるはそれなりの理由があるためだろう? もしも仇討ちだったとしたら真意やら聞きたい事もある筈だよ。それとももう聞きたい事は全部聞いたのかい?」

 言われて蕾は奴に仲間がいる事を思いだしハッとする。

「それは……」

「冷静になりなよ、死んだ人間はもう口が聞けないんだから」

「いや、つかあれ生きてんのかよ」

 優は訝しげに鬼の男を見る。心臓には未だ戒が具現化した水の槍が刺さっており、四肢は無く、先程からピクリとも動かない。

「ゴッドクラスの、特に肉体強化型の生命力を甘くみない方がいいよ? 腕がもげるようが足がもげようが頭を潰さない限り襲い掛かってきた奴もいた。恐らく今は回復の為の休眠状態なんじゃないかな?」

「そんなゾンビみたいな奴なのかよ、あいつ」

「無駄話は結構だ。さっさと怪我を診せろ」

 二人の会話に不機嫌そうにドクターが割り込んだかと思うと、いきなり優の腕を引っ張り上げた。

「ったああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

「ふむ、とりあえず右腕は骨折だな」

「て、てめえ何を!?」

「うるさい黙れ、さて他は」

 優の言葉は意に介さずドクターは優の体の至るところを触っていく。

「ち、やっ、お、いいいいぃぃぃ!!!!????」

「左腕はまあ問題ない、足も大丈夫だろう、肋骨は何本かやられてるな、内蔵もかなり傷めてる、脇腹に直接打撃を食らったか。 後はちらほら擦り傷があるが特に目立ったのはないな、うむ、次」

 ドクターは優の体から手を放すと今度は蕾の左腕を触る。

「え、待、いいぃぃぅぅぅぅ」

「こいつは酷いな、骨がグシャグシャだ、あっちの白髪が腹に食らったのとは段違いの一撃を直に受けたな? それに右手の指も親指以外全て骨折、全身に裂傷、ああ、お前も肋骨がいってるな、それに」

 ドクターは呟きながらしゃがみ、蕾の足を触る。

「これは酷いな。足に過大な負荷をかけたように見えるが、何か技でも使ったのか?」

「あ、あ、は、はいぃぃぃ!!」

「筋肉の損傷が激しい、骨も所々ガタがきている、まだ治らん事も無いが、今後はその技、あまり無茶して使うなよ? 歩けなくなるどころか切断しなきゃならんかもしれないからな」

「う……わかりました」

「まあおまえら二人はとりあえず他の二人を診るまで安静にしてろ。――で、あっちの磔は……ナタリア!」

 ドクターはちらりと鬼の男を見て直ぐ様ソリの方に呼び掛ける。

 すると、勢いよく羽付きの蛇が起き上がる、それと同時に蛇の体が縮んでいき、やがて白い、僧衣に似た服を纏った褐色の少女が姿を現した。

 少女は先程ぶつけた頭をさすりながらドクターに駆け寄り、異国の言葉で話し掛ける。

『なんですかドクター!』

『あそこの槍が刺さってる男を地面に下ろして対思念魔用の鎮静剤を注射しとけ。ああ、動かないと思うが一応注意しとけ』

『了解ですっ!』

 少女は元気良く敬礼するとドクターが持っていた鞄を開き、液体の入った小瓶と注射器を取出し、直ぐ様男に駆け寄っていった。ドクターはその様子を確認すると戒の元に歩いていく。

「ドクター、あの子は?」

 少女を見やりながら陽治が尋ねた。

 ドクターはやれやれと目の前の戒を触診しながらそれに答える。

「ああ、じいさんの後継だ」

「じいさん引退したの?」

「寄る年波には勝てないそうだ。それよりこいつも戦ったのか? 軽い火傷はあるが特に悪いところは無いぞ」

「ああ、大転生したんだよ。暴走したから俺が止めただけどさ。火傷はその時のだね」

「そうか、じゃあほとんど問題無しだな――明日は悲惨だが」

「ええ、可哀想に」

 ドクターは戒に哀れむような視線を投げ掛け、陽治に至っては両手を合わせてる。

「おい、戒は本当に大丈夫なのか?」

 二人の異様な反応に優は思わず陽治に訊ねる。

「大丈夫、命には別状ないから。ね? ドクター」

「ああ、命にはな」

「命にはって」

「うるさい黙れ」

 優を一蹴するようにそう吐き捨てるとドクターは鞄を持ち上げると鬼の男のところに向かう。すでに男はナタリアの手により槍を抜かれて地面に下ろされていた。

『ドクター! 言われた通りぶちこんどいたよ!』

 ナタリアは満面の笑みを浮かべながら男の首元を指差した。見ると頸動脈に先程取り出していた注射器が刺さっている。

『また随分なところに……ところで空気抜きはしたのか?』

『くうきぬき?』

『ああ、また忘れたのか。ま、こいつなら大丈夫だろう』

 ドクターは腰を傾け男の首から注射器を抜き取ると男の体を観察する。

「こいつの手足は?」

「ここです」

 後ろからかけられた声に反応してドクターが振り向くと姿を消していた亜迦里が周囲に男の斬り裂かれた手足をふわふわと浮かべながら立っていた。

「なんだ、お前もいたのか」

「ええ、治療に入り用かと思い、彼の手足を探していました」

「それはご苦労、ついでで悪いがそれらを元あった位置に置いてくれ」

「わかりました」

 亜迦里は頷くと同時に手を軽くかざし、男の手足を切断部分に下ろしいく。

 ドクターはそれを確認すると、しゃがんで男を触診し、続いてカバンから糸や針といった、縫合手術に必要そうな道具を出していく。

「どんな感じだい?」

 陽治が訪ねるとドクターは手術の用意をしながら鼻で笑う。

「手足の切断面はおろか穴の開いた腹まで見事に血が止まっているな、おまけにに貫かれて潰れた臓器がもう再生を始めている。生命維持力は相当とみえるな」

「治せそうかな?」

「愚問だな、むしろこいつの場合は何もしなくてもいいくらいだ」

 答えながらドクターは針に糸をつけ、そのまま目にも止まらぬ速さで男の手足を繋げていく。

「先程お前が言ったようにゴッドクラスの肉体強化型は生命力が異常だからな、身体が千切れれば単純にくっつければいいし、」

 喋りながら、ものの数秒で縫合を終えるとドクターはさらに注射器と先程とは別の液体の入ったビンを取出し、ビンの中に入った液体を注射器で吸い出してそれを男の首に注射した。

「身体が消し飛んだのであれば栄養剤でもぶちこめば勝手に治る、ま、程度はあるがな」

 注射を終えると同時にすぐさま男の空いた腹部が気味の悪い音をたてながらみるみるうちに塞がっていく。

「うわ……」

 陽治はあからさまに嫌そうな表情を浮かべながらも、男に近づいて指でつつく。

「まぁこれで死にはしないだろうけど、起きたら襲い掛かってくるかね」

「先刻ナタリアに打たせた鎮静剤が効いていれば解放は出来ない筈だ。心配なら亜迦里に重力場でも張らせとけ」

 そう陽治に言いながらドクターは道具を手早く片付けて立ち上がると、優と蕾に視線を向ける。

「さて、待たせたな」

「お、おう」

「あ、はい」

正直ものの数分しか経っていないのであまり待った感覚はないのだが、突然の問いかけに反射的に返事をする二人。その返事を聞くやドクターは二人に歩みより話を始める。

「まず傷の具合から言っておくが、白髪の方は全治二週間、長髪の方は全治三ヶ月ってとこだな」

言葉を聞いて二人は目を見開く。

「たったそんだけか?」

「確かに神憑は普通の人と比べて傷の治りは早いですけど、それはいくらなんでも……さすがにこの状態がそんな短期間で」

「まあ、方法を選ばなけれ1日で完治できるがな」

「「……は?」」

 優と蕾はさらに目を見開き、思わず声が漏れた。正に空いた口が塞がらない状態だった。

「いやいやいやいや、ありえねえにも程があるだろ」

 手を振るジェスチャーを交えながら否定をする優にドクターがため息をつく。

「呆けた事を、見本なら近くにあるだろう」

 やれやれと言った感じのドクターの呟きを聞き、蕾がハッとする。

「……そうか、大転生」

「そう、擬似的に大転生の状態にしてやれば1日で治る。 その方法は知っているから希望するならやってやる……まあ、俺が普通に施術すれば先程言った期間できっちり治るが、さて――」

 ドクターは二人に向き直りる。

「どちらが良い?」

 その言葉は発したドクターの眼差しは恐ろしく鋭く見えた。


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