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神憑  作者: 光風霽月
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鬼の頭4

「大転生? なんだよそれ?」

 蕾の呟きに優は二つの異形から目を離さず聞いた。

「……簡単に言うとリミット、箍をはずした状態をと言いましょうか。思念神と精神で同調し、かつ、大量の媒介を消費して思念神と一体化する、神憑として熟練した者がなれる形態です。あの龍面が戒だとするとたぶん大転生を行ったのでしょう、恐らくはこの大雨を使って」

 そう言って手を前にかざして雨を受ける。そのまま龍面の異形、戒に視線を向ける。不意に戒が顔を向け龍面が砕けて露わになった部分から二人の方を見た。瞬間、二人に強烈な悪寒が走った。

「ちょ、待った!」

 優はすかさず蕾の頭を押さえながら蕾ごと伏せる、そこから一拍おくれて二人の上半身が在った所を通って水の刃が走り、遅れて二人の背後に立っていた木々がまとめて伐り倒れされていく。

「なっ! なっ! なんだ!? え?」

 反射的に動いた優だったが、何が起こったか解らず戒を見る。戒は右腕を振りぬいた体勢でこちらを見据えている。その右腕の先、掌に埋め込まれた紅玉からは長大な水刃が伸びていた。

「おい戒っ! お前ってうおぅ!?」

 間髪入れず水刃が優を襲う。それを風のガードを作りかろうじて防ぐ。危なかったと優が安堵した瞬間、何時間合いを詰めたのか戒の拳が優の右拳が襲ってくる。それを下からボロボロの足が蹴り上げる。

「ぐぅぅ!!!!」

 気絶しそうな激痛を感じながら蕾はもう片方の足の先に電気を纏った力場を二重に張る。蕾は力場を思い切り蹴ると、足にさらなる激痛を感じながら優の体を抱えて跳び戒との距離を10メートル程離す。優は一瞬何が起こったか解らなかったが、すぐさま理解し蕾の体を抱え返し蕾ごと受身を取る。

「おい、大丈夫か?」

「……え、ええ」

「くそ、戒はどうしちまったんだよ!?」

「暴走ですよ」

「はぁ!?」

「私も実際に見るのは正直初めてなのですが、大転生は常に暴走と隣り合わせで、慣れた者でも最長で10分が限界だと聞いています。」

「ちょっと待て、それって」

 優が言いかけると同時に左右から水刃が走ってくる。優はすかさず蕾の前に立ち両手を水刃に向けて風の壁を作り止める。

「ちっくしょおっ!! 蕾! なんかあいつを止る方法は無いのか!!」

「現状では……不可能です」

 蕾は目を伏せる。

「不可能って!?」

「大転生を強制的に解除する方法は二つあって、一つは媒介を尽きさせる、もう一つはその大転生を行っている神憑を戦闘不能に追い込む。しかし、この大雨では媒介が尽きさせるのは無理、ましてや大転生状態の戒を戦闘不能にするなんて……」

「つっても俺もう風のストックが切れるしこのままじゃ」

 言って蕾を振り返ろうとしたと同時に、優が作った風の壁がフッと立ち消える。

(げっ!? 言ってるそばから!?)

 遮るものが無くなった水刃が容赦なく優に牙を向く。――死。優の頭にその言葉がよぎった、その時、

「はい、そこまで」

 凄まじい熱気とともに水刃が蒸発し、高温の蒸気が優の体を襲う。

「へ? ってあちゃあ!!!!!!」

「あ、悪い、そこまで予測できなかったわ」

 蕾の真後ろから聞こえた気の抜けた、良く言えば余裕がある声の方を優と蕾は誰かと向く。

「ってあんた」

「確か、先刻の」

 そこには緩やかに微笑む崎原陽治とその横に佇む黒いおさげの女。ただし陽治の髪は先に会った時の黒髪ではなく、燃え上がるような赤に近い山吹色であり、雨にあたっているにも関わらず炎のように揺らめいている。

「なんでここに、それにその頭」

「いやいや、さすがに危なそうなんで助けに来たのだよ」

 口調も敬語調だったものが多少砕けたものになっている。へらへらとする彼の横でおさげの女がため息を一つ吐く。

「陽治」

「わ、解ってるよ亜迦里ちゃん」

 呼ばれた陽治はあせりながら亜迦里にへつらうように顔を向ける。その頭上から二本の水刃が振り下ろされる。

「ちょ、避けろぉ!!」

 水刃に気づいた優が陽治に向かって叫ぶ。当の陽治は亜迦里になにやら弁明するように話しかけながら手を頭上に向ける。手に刃が触れた瞬間水刃は一瞬で消滅したように掻き消えた。

「な!?」

「ん? こんくらいなら蒸気も出ないか」

 唖然とする優を尻目にふむ、と陽治が頷く。するとまた亜迦里はため息をつく。

「それだと彼が滅却されます、フォローはしますので調節してください」

「はい! 解りました!!」

 調子良く返事をすると陽治は戒の前に進んでいく。すると亜迦里は自分の髪を止めていた紐を解き地面に手をかざす。

「……対象の位置を確認……距離、指定完了……形成は円、高さは周囲の樹木を考慮、発動による被害はほぼ皆無と判断……出力は状況に応じて変更……」

 呟きとともに彼女の髪が浮き上がり、次に周囲にある枝や小石が浮き、砂塵が走り、極めつけは雨の水滴までもが空中でふわふわと漂っている。それを見て今だ唖然とした表情で固まる優、そして彼女の起こしているであろう現象を目前に信じられないといった顔の蕾。

「そんな……まさかあれは」

 陽治が戒との間合いをこちらに影響が無い距離に詰めた、と亜迦里は判断すると地面にかざした手をゆっくりと上げ、陽治と戒の立つ方向にかざす。

「包囲、開始」

 言うと同時に目を見開き、かざした手を握り締める。それが合図のように向かい合う陽治と戒の背後に黒い点が突如として浮かび上がり、二つ黒点から二人を囲むように黒い線が走り円を形成する。形成が完了するや握り締めた手を開き空にかざすと続けて円から黒が噴出す。黒は暗く重い叫びのような音を上げながら垂直に空に向かって伸び、やがて周囲の木々の高さを越えた辺りで漸く止まった。

「完了」

 そうして出来たものに蕾と優は息を呑む。わずか数秒で出来たそれは天を衝く暗黒のようでいまだ発してくる音が威圧感を醸し出す。中に居るであろう二人の姿はまるで吸い込まれるような暗黒により目視することが出来ない。

「なんだよ、これ」

 もはや優の頭からは先刻まで死闘を繰り広げた鬼の圧力も、先程まで与えられていた仲間の殺気も薄らいでいた。あるのはただの驚嘆だけだ。

「これから起こる事象を予測して作った壁です。危ないですから近づかないようお願いします、しかし」

 亜迦里が淡々と説明する中、蕾が手の届く位置にあった石を掴み暗黒に向けて投げる。石が暗黒に触れると石は暗黒にのまれるかのように消滅した。

「やはり、これは」

「後数秒で終わりますから気にせずお待ちを」

 亜迦里が口を閉じると、黒い曇天が突如として晴れ、澄み渡る空から光の柱が暗黒の中へと伸びていった。

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