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神憑  作者: 光風霽月
13/17

鬼の頭3

「……やれやれ……仕方ない、死んで己を怨め」

男は蕾を睨んで言った。

「……解放」

男の体が脈打つ。

額から二本の角が生え、肌が赤銅色に染まっていく。

男は上の衣服を破る。

すると、額に三つ、胸には大きめのが三つ、スッと切れ目が入り、その切れ目が開く。

そこには緋い眼があった。

さらに男に元々あった両眼は、黒眼の部分が緋くなる。

男が息を吐くと蒸気が上がった。

「……暴れるぞ、酒天童子」

三人の顔が驚きと焦りが入り混じった表情になる。

「……ちっ!一気に圧力が増しやがった……」

悪態をつきながら優がゆっくりと立ち上がる。

「……すっかり陽治さんの話を忘れてたよ」

「…まったくです」

戒と蕾はそう言って武器を構え直す。

男は切断された右腕を拾うと、それを切断面に当てる。

すると、男の右腕がグジュグジュと音をたてながらくっついていった。

「再生能力……」

「……まあな」

男はくっついた右腕を動かしながら言った。

「それに切断面がきれいだったしな」

戒を横目で見た後、右手の指を親指から小指まで順番に動かす。

「……じゃあもう一回斬ってやらぁ……」

男の後ろで優は双剣を逆手に構え、左右同時に男に向けて振るう。

それぞれの刃から真空の見えない刃が男に襲いかかる。

男と真空の刃の距離が1メートル弱に近付いた時、男は刃の方に向かい、右腕を地面に振るう。

突如、地面が爆発し、土煙が舞う。

すると男は右腕をまた振るい、土煙を吹き飛ばす。

優は眼を見開いて驚く。

「……ぐ、風圧で消し飛ばしたのか!?」

そんな優には見向きもせず、男は蕾の雷に焼かれた長刀を拾う。

「……まだ使えるか」

そう言った瞬間、蕾が男の目の前に音も無く一瞬でで立つ。

「……雷鳴輪」

蕾の突剣から凄まじい雷が円を描きながら、男に飛ぶ。

男は左腕を前に出し、雷を防ぐ、すると、雷光と爆風が辺り一帯に広がる。

「……なるほど、中々の威力だ」

爆風の中から男が何食わぬ顔で出てくる。

その左手は焼け焦げているが、それ以外はほとんど無傷である。

「他の奴なら倒せたかもな」

「……タフですね」

「……まあな」

蕾は一気に男に詰め寄り、突剣で斬りつける。

男は長刀で防御する。

「っ!!」

「白髪の奴に比べるとさらに軽い」

蕾は片手を男の腹に着ける。

「纏雷!!!!」

着けた片手から強烈な電流を流れる。

「……それがどうした」

男は動じずに空いた左手を引き、蕾の腹に掌底を叩き込む。

「がっ……!!!!」

蕾は口からおびただしい量の血を吐きながら吹き飛ぶ。

その時、

「破ああぁぁぁぁ!!!!」

「うおおぉぉぉぉ!!!!」

男の左右側面から、戒は槍を、優は双剣を構えながら突っ込んでくる。

戒は槍を装着した右腕肩の後ろで水を爆発するように噴射させ、自身を加速させながら男に槍を突き出す。

それと同時に優は双剣を交差させるように男に斬りかかる。

しかし、男は左手で戒の槍の穂先をつかみ、右手で持つ長刀を優の双剣の交差地点に突き出し、二人の攻撃を止める。

「覇あああああぁぁ!!!!」

戒の咆哮と同時に噴射する水の勢いが一気に上がる。

男の手が勢いに負け、槍の穂先が男の顔に向かう。

「くっ……!」

男は槍の向く方向を無理矢理自分の前にずらす。

瞬間、男の視界の端に透明な鋭い物が映る。

男は反射的に首をのけぞらせる。

それと同時に男の鼻先を水の刃がかすめる。

刃が来た方向を見ると、刃は戒の龍の角から伸びていた。

「よそ見してんじゃねえぇぇ!!!!」

はっと男は優を見ると、優は双剣を男の長刀から離し、双剣を重ねながら、自分の頭上に構える。

双剣は風に包まれ、一瞬で大剣に姿を変える。

優はそのまま振り下ろす。

男はとっさに長刀を水平に構え、大剣を防ぐ。

「っつ!」

金属を叩く衝撃音とともに男の体勢がわずかにぐらつく。

それを見てすかさず、戒が男の脇腹を槍で狙う。

男がそれに気付くと、一瞬男の体が脈打つ。

すると、男の両肩に切れ目が入り、開く、そこには緋く大きな眼があり、それぞれが戒と優を見る。

瞬間、長刀の上に乗る大剣が跳ねのけられ、戒の槍が上から踏みつけられる。

「なっ!?」

「なんだ!?」

二人が驚きの顔を浮かべると同時に、優に向かって長刀が斜め下から振り上げられる。

優は反射的に大剣を前に出すが、それごと吹き飛ばされる。

「優っ!?」

戒は優が吹き飛ばされた方に顔を向ける。

その顔を追うように、男の蹴りが戒の脇腹に凄まじい衝撃とともに入る。

骨の軋み砕ける音が戒の耳を抜けた後に、戒は地面を擦るように転がっていく。

男は息を蒸気を伴った息を深く吐く。

男の両肩の眼がゆっくりと閉じ、切れ目がなくなる。

(………凄まじいの一言ですね)

血を地面に吐きだす蕾。

剣を支えにして、立とうとする。

(こんなにも力に差があったなんて……)

「てんめぇぇぇ!!!!」

優の声が轟く。

見ると男に向かって再び突っ込んでいく。

(優は、まだ大丈夫……戒は?)

視線をずらし戒を見る。

地面にうつ伏せに倒れ、口からはとめどなく血が流れ、目は虚ろいでいる。

蕾は呼び掛けようとして、すぐに止めた。

(…………無意味ですね、ダメージが深すぎる)

神憑は常人よりも生命力は高い。

しかし、今の戒はその神憑の許容限度ギリギリのダメージを負っている。

(早く、あの男を倒さなければ……)

蕾の頭に最悪の状況が浮かび上がる。

と同時に、すぐ近くに優が吹っ飛ばされてくる。

「くそが……!!」

「……優」

蕾は優に顔を向けて呼ぶ。

「……んだよ……!?」

「まだいけますか?」

「……決まってんだろ……!」

言葉とは裏腹に、その体は見るからに満身創痍で、とてもそうには思えない。

「……私に任せてください」

蕾はゆっくりと立ち上がる。

「な、おい!」

「……私のとっておきを出します」

蕾はそう言うと、男に向かって歩き出す。

蕾は男の少し前で止まる。

「……殺すつもりで力を入れたんだが、」

男が口を開く。

「それほどダメージはないようだな」

「ええ、私は常に雷で壁を体の周りに創ってますから。まあ、あばらが三本ってところでしょう」

蕾は薄く微笑む。

「無駄な会話は結構なのでしょう?いかせてもらいます」

蕾は突剣を地面に突き刺す。

すると、突剣と蕾の両足のブーツが発光しだし、蕾を中心に、地面に発光が円形に広がり直径十mほどの円を描く。

さらに発光は上に伸び、ドームを形成していく。

ドームには時折バチバチと、電流が走るのが目に写る

「……これは」

男は冷静に周りを見回す。

突然、男の脇腹が裂ける。

「!?」

気付くと、正面に居た蕾が突剣を手に後ろに立っている。

と、次の瞬間、今度は右肩と左腕が血しぶきをあげる。

また気付くと、今度は男の右側に蕾が立っている。


「なんだぁ……!?」

遠くから優はただ驚愕していた。

「なにをしたんだ、蕾の奴…」


男は蕾の方を向き、フッと鼻で笑う。

すると、男の額と胸にある眼がギョロギョロと動きだし、一斉に蕾を見つめる。

男は体勢を瞬間的に半身にする。

それと同時に蕾は男の後方に立つ。

男の胸元がほんの少し裂ける。

蕾の顔に冷や汗が一筋、流れる。

蕾は振り返り、男の方を見る。

男も蕾を見る。

蕾が消える。

男は半身に体勢を変え、次に首だけのけぞらせ、さらに刀を逆手に持ち変え、自分の横に構える。

一瞬の金属音、そして男の正面に立つ蕾。

「……さすが、ですね……」

蕾は苦虫を噛んだような顔している。

「……雷を操る者、その奥技が一つ、神速」

男は顔色を変えず言った。

「電気を磁力に変え、その反発力、引力を使い、人の領域を遥かに越えた速さを出す。……しかし、俺があの時闘った奴と同じ技で使う、とはな」

男の言葉に蕾の表情が一変する。

「……今、なんと……!?」

「東北支部攻略時、俺が闘った雷を操る者も同じ技を使った、と言った。あれはお前の師か?」

「……やはり、貴方が!?」

「……さぁてな……だが、このまま闘っても俺には勝てない…………いや、それどころか……」

男が言いかけた時、男の頬が切れ、血が流れる。

男は流れた血に触れる。

(反応出来なかった……?)

「……許しません、絶対……!!」

蕾の表情は怒りに変わり、その体からは凄まじい殺気を放つ。

蕾の体が消え、次の瞬間、男の首筋から血が噴き出す。

しかし、男は動じることなく、静かに元々ある眼を閉じる。

(……速さが格段に上がった)

男の傷がみるみる塞がっていく、だがそれと同時に次々と傷が増える。

(これが最高の速度なのか、それともタガを外したのか……)

傷が増えていく中、男の体が脈打つ。

(だが、これでは半端だ……これ以上大した変化がないならば……)

男の両肩に蕾の斬撃とは違う切れ目が入る。

(お前は……酒天童子には……勝てない…………)

切れ目が開き、そこから先程と同じ緋く大きな眼が覗く。

男の手から長刀が落ちる。

次いで、両の手の甲、腹、顎にも一つずつ切れ目が入り、緋い眼を覗かせる。

すると、男の本来あるもの以外の全ての眼が右上空を向き、男の腕がその方向に向かって振るわれる。

男の右脇腹が裂ける。

その後方で土煙を上げ、地面を滑るようにして蕾が現れる。

男と同じく右脇腹を裂かれた状態で。

蕾は少しのうめき声を上げ、そっと脇腹を抑え、そして姿を消す。

(くっ……もう……ですか……しかし……)

刹那の時の中、蕾はその限界を越える、目に写らない速度をさらに上げ、男に斬撃を与え続ける。

だが、その攻撃もかする程度にしか当たらず、時折来る男の反撃に冷や汗をかくだけで、状況は蕾に不利になっていく一方。

地面には男のものではない血がポツポツと染み込んでいく。

(……足が限界、いつ壊れるか……血も足りなくなっていく……いつ止まるかわからない……なら……!)蕾は歯を食いしばる。


雷のドームの中に、蕾の姿が現れる。

男の眼がそれを写し、攻撃を加えようとするが、すぐに消える。

すると、別の場所にまた、蕾が現れる。

男の眼がまたそれを写すが、すぐに消える。

また現れる、今度は、二人の蕾。

男の眼が別々に向く。

しかし、すぐ消える。

また現れる、今度は四人。消えて現れるたびにその数は増していく。

男の開かれている全ての眼がそれぞれを見る。


(……もっと、もっと残像を残して……)

蕾はさらに上げた極限の速さを保ちつつ、何度も一瞬止まり、残像増やしていく。

(……人間は見えない物より見える物に注意を向ける、ほんの一瞬でいい、スキを作る……そして……)

男は向きを変えながら全方位に注意を向ける。

もはや男の周りには数十の蕾の残像が囲んでいる。

それらは間髪を入れず絶えず男に攻撃を加える。

しかし、男も反撃を加える。

そのたびに蕾の体には裂傷が増える。

蕾はそれを気にも止めず、男の右足に攻撃を加えた。

男の体が一瞬ぐらつく。

(今だ!!)

蕾は一気に男の後方に周りこむ。

蕾は男の頭に目標を定め、突撃をかける。

その時、蕾の目前の世界のスローモーションのように遅くなる。

(後もう少し、もう少しで……)

蕾と男の差が徐々に縮まる中、男の首に切れ目が入る。

(……え?)

切れ目が開き、緋い眼を覗かせる。

男の体が振り返り、蕾の視界に男の握られた拳が入った。

スローモーションのような世界が速さを取り戻し、蕾は自らが創ったドームを打ち破り、弾丸のように吹き飛んでいく。

途中、誰かが蕾の名前を呼んだが、そんなもので止まる訳がなく、やがて、進行方向にあった木に衝突し、叩き付けられるようにして、地面に転がる。




無数の水滴が蕾の体を叩く。

(……あ、め?)

蕾はゆっくりと眼を開ける。

(……生き、てる?)

瞬間、激痛が走る。

蕾は自分の体を確かめる。

左腕は奇妙に折れ曲がり、体中血にまみれ、足はボロボロ、そして右手には刀身の折れた突剣。

(……そうか、剣を盾にしたのか……だから生きてる)

先刻、瞬間の世界で蕾は反射的に剣を男の拳に合わせ、さらに左手を剣にそえて支えにしたのだった。

蕾の眼に涙が溢れる。

(……何故、何故自分を守った?あのまま行けば奴を……)

蕾は眼を閉じる。

(……ごめんなさい、戒、優……)

そこに足音が近付く。

「蕾!!生きてるか!?」

その声を聞き、蕾はばっと眼を開け、顔を、声のする方に上げる。

「……優?」

「無事か!」

優は蕾に駆け寄り、蕾の傷の具合を見る。

「かなりやられてるな、動け……ないよな、動かすぞ、我慢しろ」

「は……はい」

優は蕾の腕を自分の首にかけ、蕾の体を引き起こす。

「……優、あの男はどうしたのですか?」

「……ああ、戒が……」

(……戒?)

「それは一体……」

蕾が質問を投げ掛けようとした時、辺りに轟音が響きわたる。

それから数分して音が止む。

「……終わったのか?」

そう言って優は蕾を引きずりながら、歩き出す。




戦いの場に戻った優と蕾はその光景に驚愕した。

そこにいたのは雨に打たれる二体の異形。

右腕と左足を切り落とされ、水の槍によって木に串刺しにされた鬼。

それを見つめるもう一体。

蒼い鱗で出来た鎧で体中をつつみ、その背中には龍の尾のようなものがついており、頭部は龍の頭を模したものにつつまれている。

蕾は息を飲んだ。

少しの沈黙。

そして、強い雨の音の中、蕾はゆっくりと口を開く。

「…………大転生」




続く

最近検定試験等が続いて投稿出来ませんでした。(それだけが原因じゃありませんが……)完結、してませんね……。毎度ながらごめんなさい。プロットもあったもんじゃないです。駄目だぁ自分……。次こそは完結、の筈です……。

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