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神憑  作者: 光風霽月
10/17

最強の最弱者

球技大会が終わった翌日。

振り替え休日を自宅で過ごしていた華の携帯にメールが届いた。

「ん?水野君からだ」

華はメールを開く。

『一応お知らせしときます。

今日から明日にかけて、優と蕾と一緒に青森に出かけてきます。

おみやげ、期待していてください。』

「へぇー、青森かぁ、いいなぁ」

その時、インターフォンの音が鳴った。

家族は皆出掛けているので、華はしぶしぶ玄関に向かう。

「誰だろう?」

華は玄関のドアを開ける。

「どなたさまで……!」

「よう!」

そこには高枝がいた。

「……何の用?」

華はさも嫌そうに言う。

「いやぁ、今日は水野と遊ぼうと思ったんだけど、あいつ、旅行行ったらしくてな、代わりに迅を誘ったんだけど、なんて言ったと思う?『くだらん、死ね』だぜ!?酷くね!?

で、他の奴も全員用事あるからって、断られて、仕方なく華を……」

「私も暇じゃないから、じゃ」

華はドアを閉めようとする、しかしドアの隙間に高枝が足を入れ、それを止める。

「待て待て!今の今まで家に居た奴が暇じゃないわけないだろ!?」

「私にだっていろいろあんの!!いいから足を引っ込めなさい!!」

「嘘つくなよ!!どうせ家で寝てるだけだろ!!」

「嘘じゃないわよ!!たまの休みは部屋掃除したり、洗濯したり、料理したり…」

「お前はそんなキャラじゃないだろ!!」

「うるさいわね!いい加減にしないと警察呼ぶよ!!」

「あのー…」

二人が言い争っていると、高枝の後ろから声がかけられる。

ちょうど、華の位置からはその人物が見える。

「あれ?柚留?」

「え!?柚留ちゃん!?」

高枝が振り返る。

「二人ともおはよう、かな」

微妙な時間帯なので、柚留は自信なく挨拶した。

「高枝君、華に用?」

「ああ、ちょっと暇だから華を遊びに誘おうと思ってな、でも用事があるから無理だって言うんだぜ?」

「え?そうなの?そっか、私も遊びに誘おうかと思ったんだけど…用事があるなら仕方な…」

「用事なんてないよ、柚留、どこ行く?」

何事もなかったかのようにに、華が柚留に言った。

「こらこら、お前さっきと言ってる事が…」

「ちょっと待ってて、今、支度するから」

「うん、わかった」

まるで高枝がいないかのごとく会話が進む。

(えー!!二日連続で俺の存在が消されたよ!?)

ショックを隠しきれない高枝には気にも止めず、華は自分の部屋に戻っていく。



十分後。

「よし、行こう、柚留」

外出着に着替えた華が家から出てきた。

「あの、華?」

「ん、なーに?」

「高枝君が……」

見ると凄い恨めしそうに、こちらを見ている。

「…はぁ、高枝も来る?」

哀れみを込めて華が言った。

「え!?いいの!?行く行くー!!」

ぱぁっと高枝の表情が明るくなった。

「…で、柚留、行くとこ決まってる?」

「うーん、それが決まってないんだ、どこにしよっか?」

「柚留ちゃん、俺に聞いて聞いて」

「…高枝君、どこがいい?」

「君と僕の愛の巣ラバッ!!!?」

言った瞬間、高枝の顔に華の綺麗な右ストレート。

高枝は半回転して地に伏す。

なお、神憑になったことにより、威力は五割増しです。

「そうだ!柚留、私、最近いい喫茶店見つけたんだ、とりあえずそこでいい?」

「う、うん」

こうして、華と柚留は歩きだす。

地に伏す高枝を残して。



…駅前の通り、よく見ないとわからない店、喫茶アトラス。

その入り口の扉を開けると、マスターこと零がカウンターの中に居た。

「お、華君、いらっしゃい、そちらは友達かい?」

「あ、マスター、はい、友達の柚留です」

「初めまして」

柚留は会釈をし、零もそれに答え、会釈する。

華と柚留はカウンター席に座る。

「ご注文は?」

「私はカフェオレ、アイスで。柚留は?」

「あ、私はアイスティーを」

「あいよ、アイスティーお待ち」

そう言ってアイスティーを柚留の前に出す。

「え、はやっ!?」

いつかの華のようなリアクションをとる柚留。

「いやー、丁度ね、飲もうと思って作ってたんだよ、これが」

「そうですか…」

「おっと、華君はカフェオレね、ちょっと待ってて」

柚留はアイスティーを一口飲む。

「わぁ!美味しい!」

「おっ、嬉しいねぇ、苦労して厳選したかいがあるよ」

零はにこやかな表情を浮かべた。

と、その時、店の入り口から高枝が入ってくる。

「え!?高枝!?」

華は驚いて思わず言った。

「え!?ってなんだ、え!?って」

「…なんでここがわかったのよ?」

「ふ、それは秘密だ、なぜならその方が格好いいからな!」

そう言いながら高枝は右手を人指し指と親指だけを広げ、顎につける。

「なんだよそれ…」

「おや、この子も華君の友達かい?」

零が高枝を見て聞く。

「はい…一応」

「おいおい、一応はないだろう?」

高枝は華の隣の席に座る。

「あ、マスター、俺ブレンド」

「あいよ」




十分後。

高枝が腹をおさえながら真っ青になっていた。

顔には冷や汗が流れている。

「ちょ、大丈夫?高枝」

華は心配そうに聞く。

「…ふ、大丈夫、恐らくは朝食った刺し身が当たっただけだ」

冷静を装いながら高枝が言う。

「……心配して損した、とりあえずトイレ行きなよ」

「…ふ、それもそうだな」

高枝は立ち上がり、零の方に向く。

「マスター!!トイレどこ!?」

「え、ああ、そこ…」

「サンキューマスター!!」

高枝は零がトイレの方向を指すやいなや、音速でもいってるのではないかというスピードでトイレに入っていく。

「面白いね、彼」

零の問いに華は、ははは…、冷めた笑いで答えた。

その時、華の表情が一瞬で険しくなる。

(…なんだろう?この感じ、なんか、うまく表せないけど…)

「どうかしたの?華」

柚留が心配して聞く。

「え?いや、なんでもないよ!」

華はそう言うと、零をちらっと見る。

零の表情も険しかったが、やがていつもの表情に戻る。

「あ!忘れてた!」

突然、思い出したかのように零が言った。

「いやー、しまった、今日はあの日だった、しまったしまった忘れてた、華君、柚留君、ちょっと店開けるけどいいかい?」

きょとんとする柚留。

しかし、華は零の目からなにかを感じとっていた。

「はい、私達ならかまいませんよ、柚留、いいよね?」

「え、うん」

それを聞くと、

「悪いね、できるだけすぐ戻るよ、あ、帰るなら勘定はまた今度でいいから」

と言い、零はすぐにカウンターから出て、店を出た。

「…あの日ってなんだろう?……気になるな」

うーん、と、悩む柚留。

一方の華は少し難しい顔をしていた。

(……そうか、今の感じがそうなんだ)



文字通りの駅前に、髪に金のメッシュを入れた男が立っていた。

「やっと着いた、たくっ」

男は舌打ちした。

「早いとこ神憑倒して、さっさと帰るか」

男は目を閉じ、集中する。

そしてすぐに目を開け、振り返る。

「…てめぇ、いつからいやがった!」

振り返った先には零が立っていた。

「ついさっきだよ」

「嘘つけ!こんな近くなら集中しなくてもすぐ気付くはずだ!」

「うるさいなぁ、怒鳴るなよ、たぶん俺の方が年上だぞ、敬意を払え」

「知るかそんなもん!!つかてめぇ敵だろ!?」

「うん、敵だねぃ」

いきりたつ男に対して、まったくもって落ち着いている零。

「だったら…!!」

「はいはい、そういらつくなって、ここじゃ人目につくから移動するぞ」

「はぁ!?」

「そっちも目立ちたくないだろう?」

「…わかった」

男はしぶしぶ了承した。



着いた場所はいつかの廃ビルの三階あたり。

広いフロア、窓はほとんど割れていて、天井は多数のぼろぼろの柱に支えられている。

「ここは人もあんまり近づかないから、おもいっきり暴れてもいいよ」

「てめぇ、何様…」

「はいはい、なんも言うな、いいからかかってきなさい」

その言葉に男は眉間に皺をよせる。

「解放!!」

そう言うと、男の背にはこうもりのような翼、腰には蠍のような尻尾が生え、手の爪も獣のように鋭くなる。

男は零に突っ込む。

距離が近付くと、男は爪を立たせ、零に突く。

零はそれをひょいっと避ける。

男は続け様に両手の爪を、零に向かって、振る、突くを繰り返す。

零は時に下がって避け、時に紙一重で避ける。

「てめぇ!!やる気あんのか!?」

「てめぇてめぇって、人を呼ぶときは貴方って言いなさい、っと」

零の背に柱がつく。

その時、男の蠍のような尻尾が零に矢のように襲いかかる。

「喰らえ!!」

零は尻尾を半身で避ける。

尻尾は柱に刺さる、すると柱はジュウッと音をたてて溶ける。

「おっ、中々強力な毒だねぃ」

「ちっ!!」

男は爪を振る。

零は飛び退いて避ける。

「次は当ててやる」

そう言って男は柱から尻尾を抜く。

「それは勘弁だな」

零は手を前に出し、広げる。

指の間には赤と緑の直径2cm程のビー玉が収まっている。

零は二つのビー玉をそのまま空中に放る。

「…解放」

その言葉を合図にビー玉が砕ける。

すると、砕けた空間に何かが形成されはじめる。

赤のビー玉の方にはとかげ、体には炎を纏い、吐く息は火。

緑の方には少女、しかし幽霊のようにおぼろげな実体。

二体とも宙に浮き、その大きさはどちらも人の赤ん坊程度。

「…それが、てめぇの、解放、か?」

男は少々戸惑いながら言った。

零は頷く。

「…く、くく、はははっ!」

男は笑い出す。

「…ふざけんな!!なめてんのか!!」

男は自分の手をおもいきり柱に叩きつける。

「俺は戦う相手をなめた事なんて一度もない」

零はそう言い、手を男に向ける。

「ショット」

言うと同時に火のとかげが男に対して火の球を吐き出す。

男は翼を前に出す。

火球は翼に当たり、男の体を煙が覆う。

男は翼をはばたかせ、煙を吹き飛ばす。

「効かねえな」

零はその言葉を気にせず、

「ショット」

と言い続ける。

その言葉に反応し火のとかげも火球を吐き出し続ける。

火球は全て、男の翼によって止められる。

「効かねえ効かねえ効かねえ効かねえ効かねえ効かねえ……効かねえつってるだろうが!!!!」

男は翼を前に出した状態で零に突っ込む。

零はそれを見ると

「チャージ」

と呟く。

すると幽霊のような少女が、火のとかげの目の前の空間に手をかざす。

男と零の距離が1mに達したその時、

「エアバースト!!」

零が叫ぶ。

火のとかげは息を深く吸い込み、男に向かって火を吐く。

「効かねえって……!!」

「言えるかな?」

火が男に当たる直前、火は突然爆発し、巨大な火炎になる。

「な!?」

男はとっさにもう片方の翼も前に出し、さらに両腕で自分の頭を覆うように防御する。

男に火炎が当たると、男の体は後方に吹き飛ぶ。

火炎が晴れると、男の姿が現れる。

翼はぼろぼろ、全身の所々に火傷を負っている。

「ぐっ、てめぇ、なにしやがった!!」

「…火が君に当たる、その直前の空間の酸素濃度を上げたんだ、火は酸素を糧に燃え上がるからね」

「…ぐ」

男はがくっと膝を折る。

「……このままじゃ終われねえ」

そう言うと男は目を瞑り集中、そして、かっと目を開く。

「大転生!!」

ドクン、男の体が脈打つ。

翼は再生され二倍の大きさに、尾は長くなり先端はより鋭くなる。

男の体は変化を始め、獣のそれになり、体格も翼に比例して大きく、そして頭は獅子の頭に変貌する。

男は唸り声をあげる。

「大転生、か」

零が呟くと同時に、男だった怪物が爪を振るう。

先程とは威力も速さも桁違いの振り、零は後ろに跳ぶが、風圧だけで零の服が破れる。

「ひゅー、やるね」

怪物は次に尻尾を振る、その尻尾は所々に針が生えており、恐らくは毒がついている。

零は瞬時に伏せて避ける、が、怪物が腕を零に対して振り上げる。

零の体が浮く、怪物は零に牙を剥きながら襲いかかる。

「ハイブロウ!」

零が言うと、幽霊の少女が零に向けて手をかざす。

すると零に向かって突風が起こる。

突風は零の体を吹き飛ばし、怪物の攻撃から遠ざける。

零は柱にぶつかり、怪物は着地し、零の方に向き直る。

「オレノカチダ」

唸るような声を零に発する。

しかし、零は問題がないように立ち上がり、両手を合わせながら前に出す。

両手を広げると、手の上には山のように積まれたビー玉があった。

「…マサカ…バカナ…!?」

怪物は後ずさる。

「…塵も積もれば山となる、ってね」

零は数十はある全てのビー玉を空中に放る。

「……解放」

ビー玉は次々と砕け、なにかを形成していく。

「グ!?ダガ、カズダケデオレニカテルワケガ……」

「どうかな、知ってるかぃ?蟻でも数がいりゃあ獅子を倒せるんだ」




…怪物は元の男の体に戻り、地に伏す。

男は顔を上げ、零を見る。

「……聞いた事がある、コモンクラスの思念神を数十従えた奴がいる、そいつの力はゴッドクラスに匹敵すると……てめぇが……」

そう言って、男は気を失った。

零はそれを見ると、携帯を取り出す。

「うん、壊れてなくてよかった」

零は携帯に入っている、ある番号に電話をかける。

「………あっ、もしもし?波弖那だけど、今F―144地点のビルで魔憑を一人倒した………うん、いつも通り、身元調べて、身寄りがなかったらガイアに送って………うん、蕾君達いないと大変だよ………うん、じゃあよろしく頼むよ」

電話を切り、零は伸びをする。

「う〜ん、帰るか」




喫茶店アトラスでは、暇を持て余す華と柚留がぼーっとしていた。

ちなみに高枝はいまだにトイレの中に居る。

「どのくらい経った〜?」

華はカウンターに寝そべった状態で柚留に聞く。

「……四十分くらいかな?」

柚留は自分の携帯を見て答えた。

その時、店の入り口から零が入ってくる。

二人は零の方に向く。

「おかえり、マスター」

「おかえりなさい」

「ただいま、待っててくれたのかい?」

そう言いながらカウンターに入る零。

「帰ってくれててもよかったのに」

「いや、それがねマスター…」

華が柚留を見る。

すると柚留が、

「あの、聞きたい事があるんですけど」

「ん?なんだい?」

零は柚留の質問を待つ。

「……あの日ってなんですか?」

零は聞かれて、少し悩んで、やがてにっこり笑った。




……企業秘密です……




続く

今回の主役は零ですね。

この話は零の戦いを早く書きたいがために作りました。

文章はいつもの事なんですが、どうもしっくりこない。

恐らく、前半が華中心で後半が零中心だから。ただ、どう直してよいかわからず、そのまま投稿してます。

…精進します。


大転生に関してですが、一種のリミット外しと考えてください。

後、今回の敵の思念魔はマンティコア、というのにしてるはずです。

資料が少ないので設定間違ってたら陳謝。

(今までのも含め)

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