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まだまだひよっこですが、御一読下さい。
――いい加減にしなさい。
――どうせあんたには何も出来ないんだから。
――そんな子誰からも必要とされていないの。
――あんたはただ、全てさせてもらっているだけ。
学校に行かせてもらって。
部活に入らせてもらって。
お洋服を買ってもらって。
ご飯食べさせてもらって。
そして、生きさせてもらってる?
ーーー
紺色の絵の具の上に灰を散らしたような空と、朝日がもたらす橙色の光が混じり始める。夜と朝が交差するその光景は、お世辞にも綺麗とは言えない代物で。昨夜から続く自分の精神的不安を具現化しているかのようだった。
「……だから、嫌いなんだ」
昨夜。いつものように私は母と喧嘩した。きっかけは本当に些細なこと。睨むかのように目を細めた私を見て、母が怒り出した。ただそれだけ。電灯の光が眩しかっただけなのに、母の耳には後付けの言い訳にしか聞こえなかったらしい。そしてその時言われたのだ、「あんたは全てさせてもらっているだけ」と。
その言葉は正しい。けれど、私にとってその言葉はナイフだった。
それってつまり、私は自分の意思で何もしていないと言っているようなものだから。私にとって、行動で意思が表せていないというのは、存在意義が無いことと同義だった。
小さく溜め息をつき、ふと、目線を手元に下げる。
ピンク色の、ぼろぼろの携帯。
離れていても私と「誰か」を繋ぐ、糸。
ピ、ピ、ツー…………
無機質な音が零れ出す。無意識に手が動き、とある「誰か」の番号を押していたらしかった。
慌ててその発信音を止める。彼女には頼りたくなかったから。
けれど。私は気付いていた。
音を切った時の表示が「呼出中」だったこと。つまり、私の一瞬の迷いが相手に伝わったということに。
そして、ものの数秒で光りだす携帯にはその「誰か」の名前。迷わず通話ボタンを押した自分自身を嘲笑う。……どうせ、無意識にこれを待ち望んでいたんだから。
ーーー
三分。
電車が来るまでの三分が、私と彼女が話せる制限時間だった。
恐る恐る携帯を耳元に当てると、彼女との糸を感じる。決して切りたくないその糸、優しいその糸に私は縋り付いた。
「ね、あの……あのさ」
『どうした?』
少し眠そうな声。それもそのはず、今はまだ7時を回ってさえいないのだ。あいつはきっと起きたばかりに違いない。そう考えるととても申し訳なくなった。それでも、言葉を紡ぎ出す。
「あのね。どうやら私は、親に生きさせてもらっているだけらしいよ。自分のことは何一つできず、何の役に立つこともなく、無意味な存在として、ね」
平常心を心掛け、自虐的に笑ってみせる。声の震えをごまかすように。
けれど、そんな悪あがきがあいつに通じるわけが無かった。そして私も、そんなものが通じて欲しいとは思っていなかった。
『……馬鹿だな、お前』
だから。素っ気なくて温かいその一言に感情が溢れ出す。その感情は頬を伝い、水滴となって零れ落ちた。
「そうでしょ、ほんと、馬鹿。母親(あの人)が言ったことは全て当たってるし。でも、それでも、なんていうか」
『いい、大人なんていうのは所詮そういう生き物だ。だから……』
少し間を開けて、彼女はそっと呟く。
『――――』
そして、三分は終わった。
ーーー
三分というのは長いようで、ひどく短い。
そのことに何とも言えないもどかしさを感じた。彼女とは、あと二時間もしないうちに学校で顔を合わせるというのに。
「……」
電車の座席に座り、ぼんやりとさっきの会話を思い出す。ドアが開く直前、あいつが最後に言った言葉。
――自分を追いつめるな。
――存在を否定しないように。
「そのままのお前が大好きな人もいるんだから」と、彼女は言った。
この言葉がただの気休めにしかならないのは分かっている。世間知らずで甘ったるい考えだということも知っている。けれど、そんな言葉に救われてしまったということも、どうしようもない事実だった。
どうしようもなく、好きだと思った。
その言葉を信じたい、とも思った。
窓の外ではいつの間にか太陽が上がり、白い雲と爽やかな水色の空が広がっていた。
実話を美化した物語でした。笑
一つの言葉で人は簡単に傷付く。
けれど、人を救うのもまた言葉なのだと思います。




