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作者: 朝日奈唯
掲載日:2011/11/09

まだまだひよっこですが、御一読下さい。


 ――いい加減にしなさい。

 ――どうせあんたには何も出来ないんだから。

 ――そんな子誰からも必要とされていないの。

 ――あんたはただ、全てさせてもらっているだけ。


 学校に行かせてもらって。

 部活に入らせてもらって。

 お洋服を買ってもらって。

 ご飯食べさせてもらって。


 そして、生きさせてもらってる?



ーーー



 紺色の絵の具の上に灰を散らしたような空と、朝日がもたらす橙色の光が混じり始める。夜と朝が交差するその光景は、お世辞にも綺麗とは言えない代物で。昨夜から続く自分の精神的不安を具現化しているかのようだった。

「……だから、嫌いなんだ」

 昨夜。いつものように私は母と喧嘩した。きっかけは本当に些細なこと。睨むかのように目を細めた私を見て、母が怒り出した。ただそれだけ。電灯の光が眩しかっただけなのに、母の耳には後付けの言い訳にしか聞こえなかったらしい。そしてその時言われたのだ、「あんたは全てさせてもらっているだけ」と。

 その言葉は正しい。けれど、私にとってその言葉はナイフだった。

 それってつまり、私は自分の意思で何もしていないと言っているようなものだから。私にとって、行動で意思が表せていないというのは、存在意義が無いことと同義だった。

 小さく溜め息をつき、ふと、目線を手元に下げる。

 ピンク色の、ぼろぼろの携帯。

 離れていても私と「誰か」を繋ぐ、糸。


 ピ、ピ、ツー…………


 無機質な音が零れ出す。無意識に手が動き、とある「誰か」の番号を押していたらしかった。

 慌ててその発信音を止める。彼女には頼りたくなかったから。

 けれど。私は気付いていた。

 音を切った時の表示が「呼出中」だったこと。つまり、私の一瞬の迷いが相手に伝わったということに。

 そして、ものの数秒で光りだす携帯にはその「誰か」の名前。迷わず通話ボタンを押した自分自身を嘲笑う。……どうせ、無意識にこれを待ち望んでいたんだから。



ーーー



 三分。

 電車が来るまでの三分が、私と彼女が話せる制限時間だった。

 恐る恐る携帯を耳元に当てると、彼女との糸を感じる。決して切りたくないその糸、優しいその糸に私は縋り付いた。

「ね、あの……あのさ」

『どうした?』

 少し眠そうな声。それもそのはず、今はまだ7時を回ってさえいないのだ。あいつはきっと起きたばかりに違いない。そう考えるととても申し訳なくなった。それでも、言葉を紡ぎ出す。

「あのね。どうやら私は、親に生きさせてもらっているだけらしいよ。自分のことは何一つできず、何の役に立つこともなく、無意味な存在として、ね」

 平常心を心掛け、自虐的に笑ってみせる。声の震えをごまかすように。

 けれど、そんな悪あがきがあいつに通じるわけが無かった。そして私も、そんなものが通じて欲しいとは思っていなかった。

『……馬鹿だな、お前』

 だから。素っ気なくて温かいその一言に感情が溢れ出す。その感情は頬を伝い、水滴となって零れ落ちた。

「そうでしょ、ほんと、馬鹿。母親(あの人)が言ったことは全て当たってるし。でも、それでも、なんていうか」

『いい、大人なんていうのは所詮そういう生き物だ。だから……』

 少し間を開けて、彼女はそっと呟く。

『――――』

 そして、三分は終わった。



ーーー



 三分というのは長いようで、ひどく短い。

 そのことに何とも言えないもどかしさを感じた。彼女とは、あと二時間もしないうちに学校で顔を合わせるというのに。

「……」

 電車の座席に座り、ぼんやりとさっきの会話を思い出す。ドアが開く直前、あいつが最後に言った言葉。

 ――自分を追いつめるな。

 ――存在を否定しないように。

 「そのままのお前が大好きな人もいるんだから」と、彼女は言った。

 この言葉がただの気休めにしかならないのは分かっている。世間知らずで甘ったるい考えだということも知っている。けれど、そんな言葉に救われてしまったということも、どうしようもない事実だった。

 どうしようもなく、好きだと思った。

 その言葉を信じたい、とも思った。


 窓の外ではいつの間にか太陽が上がり、白い雲と爽やかな水色の空が広がっていた。


実話を美化した物語でした。笑


一つの言葉で人は簡単に傷付く。

けれど、人を救うのもまた言葉なのだと思います。

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