第5話 代償
第5話になります。
力を得ることは、
必ずしも救いではありません。
それは時に、
大切なものを奪う選択でもあります。
HYDRA CHRYSALIS -RE:GENESIS-
第5話 代償
炎が、迫る。
速い。
重い。
そして――
“止まらない”。
「チッ……!」
榊は水を振るう。
ぶつかる。
蒸気が爆ぜる。
視界が白く染まる。
だが、その中を――
炎は突っ切る。
「ぐっ!!」
肩をかすめる。
焼ける。
ただの火じゃない。
“貫く”。
「……クソが」
距離を取る。
だが詰められる。
速い。
水よりも。
「どうしました?」
スーツの男が言う。
余裕の声。
「その程度ですか」
「うるせぇよ……!」
榊は踏み込む。
水を集める。
圧縮する。
刃ではない。
“塊”。
「ぶっ飛べ!!」
叩きつける。
直撃。
炎が弾ける。
だが――
消えない。
「……なに?」
揺らぎながらも、再構築する。
「無駄です」
男は言う。
「それは“対抗”として作られたものですから」
「……作られた?」
その一瞬の隙。
炎が突っ込む。
直撃。
「がっ……!!」
吹き飛ばされる。
地面を転がる。
呼吸が乱れる。
体が熱い。
「……はぁ……はぁ……」
立ち上がる。
だが足が震える。
「……くそ……」
視界が揺れる。
「榊!!」
声が飛ぶ。
仲間だ。
下の階から、数人が駆け上がってくる。
「来るな!!」
叫ぶ。
だが遅い。
炎が動く。
標的を変える。
「っ――」
一人に向かう。
「やめろ!!」
榊が走る。
間に合わない。
炎が触れる。
「うああああああああ!!」
絶叫。
胸を貫く。
焼ける。
溶ける。
「……やめろ……」
倒れる。
動かない。
「……やめろよ……」
音が消える。
何も聞こえない。
ただ、目の前の現実だけが残る。
「……ふざけんな」
低い声。
震えている。
怒りか。
恐怖か。
その両方か。
「……ふざけんなよ」
拳を握る。
水が、勝手に集まる。
周囲から。
空気から。
地面から。
「……なんでだよ」
止まらない。
集まる。
膨張する。
「なんで俺なんだよ!!」
叫ぶ。
水が暴れる。
制御できない。
形を崩す。
波打つ。
「守れねぇじゃねぇかよ……!!」
目の前で死んだ。
助けられたはずだった。
力があるのに。
「……クソがぁぁぁぁ!!」
爆発する。
水が一気に解放される。
衝撃波。
周囲を吹き飛ばす。
炎も揺れる。
「……ほう」
スーツの男が呟く。
「これは……想定以上だ」
榊は立っている。
だが――
様子が違う。
目が、変わっている。
焦点が合っていない。
「……榊?」
仲間が呼ぶ。
反応がない。
水が、身体の周囲を漂う。
まるで――
“意思を持っている”ように。
『同期、進行』
声が響く。
今までよりも、はっきりと。
深く。
「……誰だよ」
榊が呟く。
だがそれは、自分に向けた言葉ではない。
『適応率、臨界』
水がさらに濃くなる。
圧縮される。
「……やめろ」
だが止まらない。
「……やめろって言ってんだろ!!」
その瞬間。
水が“形”を変える。
刃でもない。
球でもない。
それは――
“武器”だった。
見たことのない形。
だが直感で分かる。
「……これが」
息を吐く。
ゆっくりと。
「……俺の力か」
炎が動く。
再び襲いかかる。
だが――
榊は動かない。
構える。
ただ、それだけ。
「来いよ」
静かに言う。
炎が迫る。
だが次の瞬間。
水が撃ち出された。
圧縮。
解放。
貫通。
炎を突き破る。
「……なっ!?」
スーツの男の声が初めて揺れる。
炎が崩れる。
維持できない。
消える。
完全に。
静寂。
「……終わりか」
榊は呟く。
だがその目は――
まだ戻っていない。
遠くを見る。
海の方向を。
『観測、完了』
あの声。
だが今回は違う。
少しだけ――
“近い”。
「……お前か」
榊が言う。
答えはない。
だが確信する。
「……見てんじゃねぇよ」
小さく笑う。
だがその笑みは。
人間のものではなかった。
―――続く
第5話を読んでいただきありがとうございます。
主人公が“力の代償”と向き合う回になりました。
ここからさらに、
人としての選択が問われていきます。
次回もぜひ、よろしくお願いします。




