第2話 適応
第2話になります。
異常は、偶然では終わりません。
世界が変わった理由も、
そして“選ばれた存在”の意味も、
少しずつ明らかになっていきます。
HYDRA CHRYSALIS -RE:GENESIS-
第2話 適応
「……あれに触れて、無事だったのはお前だけだ」
低い声だった。
男は黙っていた。
目の前には、簡易的な検査室。
白い壁。
無機質な光。
「名前は」
「……まだ言う必要あるか?」
男は視線を逸らす。
「確認だ」
ため息をつく。
「……榊」
「フルネーム」
「榊 恒一」
静寂。
「榊。お前は“例外”だ」
その言葉に、わずかに眉が動く。
「昨日の件は、すでに記録されている」
モニターに映像が流れる。
水が跳ねる。
隊員が溶ける。
そして――
榊だけが、無事だった場面。
「……気分悪ぃな」
「事実だ」
研究員は淡々と言う。
「通常、あの“水”に触れた時点で、人体は崩壊する」
「だが、お前は違う」
沈黙。
「……たまたまだろ」
「違う」
即答だった。
「水が、お前を“認識”している」
その言葉に、空気が変わる。
「……は?」
「ただの物質ではない。あれはすでに“選別”を始めている」
「選別……?」
「適応できるかどうか」
榊は笑う。
「ふざけんなよ」
だが、その笑いは弱い。
「昨日、お前は“声”を聞いたはずだ」
一瞬。
動きが止まる。
「……」
「否定はしないか」
研究員は目を細める。
「内容は」
「……覚えてねぇよ」
嘘だった。
確かに聞こえた。
『適応個体、確認』
あの声。
頭の奥に残っている。
「……なあ」
榊が口を開く。
「もしそれが本当なら」
研究員を見る。
「俺は何なんだ?」
少しの間。
沈黙が流れる。
「……まだ分からない」
だが、続ける。
「だが一つ言える」
「お前はもう、“普通の人間ではない”」
その言葉は、重かった。
―――
夜。
榊は一人、外に出ていた。
風が冷たい。
遠くでサイレンが鳴っている。
「……クソが」
ポケットに手を突っ込む。
考えたくない。
だが、考えてしまう。
「適応個体……か」
空を見る。
雲の隙間から、わずかに月が見える。
その時。
足元の水たまりが、揺れた。
「……っ?」
見る。
風はない。
なのに、水が動く。
ゆっくりと。
意志を持つように。
「やめろよ……」
後ずさる。
だが、水は近づく。
逃げるわけでもなく。
ただ、寄ってくる。
「……来るな」
その瞬間。
水が止まる。
完全に。
まるで命令を聞いたように。
「……は?」
呼吸が乱れる。
心臓が速い。
「なんだよ……これ」
ゆっくりと手を伸ばす。
触れる。
冷たい。
だが、危険はない。
むしろ――
“馴染む”
そんな感覚。
「……っ」
頭の中に、また声が響く。
『適応、進行中』
低く。
静かに。
確実
第2話を読んでいただきありがとうございます。
主人公の“異常”が、少しずつ明らかになってきました。
ここから物語はさらに動き出します。
次回もぜひ、読んでいただけたら嬉しいです。




