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第四話 顔合わせ


「ぐっ、……」「ちっ、」「ピピィッ!?」


 車が大きく揺れるたび、誰かが何かしらのリアクションをとる。

 ――これは本当に車が通る道なのだろうか。

 舌を噛まないよう、歯をグッと噛みしめて外を見るが、スモークガラスの向こうは驚くほどの黒さで何も見えやしない。


「ひっ、……今、誰かいませんでした?」

 サラリーマン風の男が、情けない声をあげる。

「男だらけの時に、何言ってんすか!そういう話は女の子いないと盛り上がんないっすよ!」

 大柄の男が、知ったような口をきく。


「……うるせぇ!黙ってろキモオタあ!」

 助手席に座った刺青の男。リュウショウが火のついたままのタバコを投げ、後部座席はざわめき立つ。

「あぶなっ、」「火、火ぃぃ!?」「け、消さないと!」


 ――まったくイカれてる。

 走ってる車の中でする事じゃないだろ。

 俺は呆れてため息をつき、リュウショウの怒りを買った。

「テメー、人のことナメてんだろ!?あ?テメーも殺してやろうか!?」


 《も》?

 ――それじゃまるで、そういう経験があるみたいじゃないか。

 

 上半身を乗り出し、コチラに威勢よく食ってかかっていたリュウショウは、まるで失言をしたかのように口を押さえて座席に戻る。

 

 そして、それと同時に車はゆっくりと減速していく。


「着きましたよ。……はぁ、俺は車の掃除するからアンタら、全員さっさと出てくれ。リュウショウさんも――」

「――うるせぇ!いちいち指図すんな!」

 


 何もない。ただ少し広く森が切り開かれた場所で、車は停まった。

 俺は言われた通りさっさと車から降りて周りを見渡す。

 前には佐々木たちの乗っていた車が停まっているだけ。


 前の車から降りてきたタホが、何かを持って運んでいる。

「ピピぃ。あれにカメラとかの支給品が入ってるですぅ!さぁ取りに行くですよ」

 赤バンダナがそう言うと、オタク三人衆は小走りでタホの元へと向かった。

 

「テメーもさっさと取りに来い!」

 タホはもう、俺のことを先輩だなんて思っていないらしい。

 ――まぁ、俺も覚えていないのだが。


 地面に置かれた荷物を拾う。

 それはいわゆるドラムバッグで、肩から吊るせるよう長い持ち手も付いていた。

「あ、うん。キミそれ、中に入ってる……」

 サラリーマン風の男が、俺のすぐ隣に来て自分のバッグから何かを取り出して見せてくる。

「それは……?」

「ヘッドライト!着けないと暗いからね!分かるっしょ!普通わかるっしょ!」


 大柄の男が、バカにしたような顔でこっちを見ている。どうやらコイツは初心者に厳しいらしい。

 ――まぁ、どうでもいいが。


「はぁ、これだから――いでっ!?」

「いちいち騒いでんなよ!デブカスコラ!!」

 

 ドラムバッグを拾いながら、リュウショウが大柄の男に強く蹴りを入れる。

 まぁ、彼のさっきの態度は、多少ムカついたので同情はしないでおこう。


「えー?暴力とか引くんですけどー?」「つーかここマジ?佐々木さーん、いつものスタジオとかじゃダメなんですか?」「えー、虫とかマジで無理なんですけど……」


 女の声。

 それも若い。

 

 佐々木たちの乗ってきた車の方から聞こえた声に反応し、そちらへ顔を向けると、続々と車から人が降りてくる姿が見えた。


 その誰も彼もが、季節外れのダウンコートのようなものを着ていて、俺は目を丸くする。

 

 女性陣は綺麗系、可愛い系、がそろい、まさに『撮られる側』といった感じの雰囲気を醸し出している。


 オタク三人衆たちが、いつのまにか横一列に整列しており、俺もその末端に組み込まれた。

 女性陣は、そんな俺たちの正面に相対する形で並び始める。

 

「さぁ、男性陣、荷物は持ったか?そんじゃお楽しみの――ペア決めを始めようっ!いえーい!」


 クソゲームのゴミ司会者みたいな素振りで、佐々木が音頭を取り始める。

 

「まずは可哀想なリュウショウ。お前から選ばせてやるよ。……ちなみにぃ、多重債務者くんはラスト!選ぶ権利あげませぇぇん」

 佐々木は俺の方を見ながら、両手を空に向け、首をプラプラと揺らす。

 道化のような振る舞いに何か意味があるのだろうか?

 ――佐々木のやることだ、どうせ意味なんかない。

 

「ちっ、……いちいち鬱陶しい」

「ピピぃ。知り合いなんですか?」

 隣に並ぶ、赤バンダナが訊ねてきた。彼はその痛々しい口調を除けば、面倒見のいい、気のいい人なのだろう。

 

「ええ、まぁ腐れ縁ってやつ――」

「――ミリカちゃんと組みたい人ー?」

「はい!はーい!!!」


 赤バンダナは、自分から話しかけてきたくせに元気よく手を上げながら、女の元へと走っていった。


「えー?!ミリカってば、人気すぎてウケるぅ!みんなごめんねぇ」

 オタク三人衆に囲まれた、ピンク髪のツインテールが周りの女たちを煽るように手を合わせている。

 

 

 ――彼女が人気なのか。

 

 周りを見ると、背の高いキャバ嬢風の女とリュウショウが少し離れたところで何か話している。

 あの2人はペアとして確定したらしい。つまり、俺とペアになる可能性があるのは――。


「きたこれ!うひぃ!!ラッキー!!」

 大柄の男が、これでもかと喜び雄叫びを上げる。

 その側で、赤バンダナとサラリーマンは肩を落としている様子から見るに、じゃんけんか何かで負けたのだろう。

 「ミリカと組めて良かったね!」

 ピンク髪の《ミリカ》が、大柄の男に向けて拍手をしている。

 


 うまく言えないが、なんだか――とても嫌悪感を感じる光景だな。


 俺はため息をつきながらタバコを取り出し、火をつけようとすると、声をかけられた。

「ねぇ、それ、メンソール?」

 顔を挙げると、銀か白かは分からないが、派手に染めた髪の《ギャル》がライター片手に立っている。

 

「あー、あっちで並んでなくていいんすか?」

 恐らく年上だろうと踏んで、俺は敬語で訊ねる。

 

「どーせ私は選ばれないよ。それよりさ、一本ちょうだい。ここまで長くて切らしちゃったんだよね」

 ギャルはつまらなそうにそう言うと、魔女みたいに長い爪を揃えてコチラに向けてきた。

 俺は黙ってその指の間にタバコを差し込む。


「さんくす。ん……ほら、決まったみたいだよ」

 

 赤バンダナは丸顔の童顔と、サラリーマン風の男は地下アイドルっぽいツートンカラーの髪の女とペアになって話している。

 知らぬ間にすべての組み合わせが決まったらしい。

 つまり――俺の相手は。

 

「ね?言ったっしょ?私みたいなキャラは――人気ないんだよ」

 俺の思い過ごしでなければ、その言葉は、少しだけ寂しそうに聞こえた気がする。


 

「ういいぃ!!いい感じに組み分け終わったなぁ!?あとは簡単だ!そっからずっと道沿いに行けば『今夜の撮影現場』に着く!みんな頑張ってエロエロな映像撮ってきてくれよなぁ!ふううー!」


 佐々木のバカ丸出しな掛け声と共にリュウショウが歩き出し、その他のメンツもそれに続く。

 頭につけたライトのみであの暗闇を行くのは、なかなかに骨が折れそうだ。

 

「――ほんじゃ、生きてたらまた会おうな」


 最後尾を行く俺の肩を、佐々木が満面の笑みを浮かべながら叩いた。

 

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