第10話 発芽炉の心臓
門を越えた瞬間、そこはファンタジーの様な世界が広がっていた。
表面には無数の茄子の蔓が生えており、ビルの様になっていて、そのひとつひとつが鼓動するたび、紫の種子が宙に漂った。
巨大な球状の空間の中央で、脈動する“発芽炉”が紫の光を放っている。
まるで一つの惑星“別の世界”のようだった。
「……これが、発芽炉……」
ルカが息を呑む。
その根元に——ひかりがいた。
蔓が彼女の背に繋がり、絡みついている。
瞳からは、もう感情は読み取れなくなっていた。
「来ちゃ……ダメだって、言ったのニ」
ひかりが微笑む。
「でも、来たよ。迎えに」
ルカが一歩踏み出す。
「私は、もうナスなんダよ? ルカ」
ひかりの声は静かだった。
「そんな事……」
その瞬間、発芽炉が轟音とともに震え、壁面から大量の“ナス兵”が生まれ落ちた。
「全員……戦闘開始……」
御園が叫ぶ。
乱戦が始まった。
「今、行くから!」
ルカは鎌を振るい、蔓を切り裂きながら前へ進む。
「……殲滅する……」
御園はスコップを振るい、次々と迫るナス兵を粉砕していく。
「ここまで来たら、出し惜しみは無しだ!除草剤・フルバースト!!」
ケイから、様々な除草剤が、ミサイルの様に発射され、青白い霧を一面に散布し、ナス兵が倒れる。
「今日こそ茄子フルコース!最後の晩餐よォォォォ!」
みつばの両腕が震え、包丁とフライパンが閃き、紫の果肉を撒き散らした。
「嘘だろ!?フライパンで切断している!?」
だが——。
ひかりが発芽炉の力を取り込み、巨大なレールガンの様な物を作り出した。
「コれで、おしマい……」
紫の光が放たれ、衝撃波が全員を吹き飛ばす。
「ぐっ……!」
御園がスコップを支えに立ち上がる。
「ひかり、やめろ! お前は、まだ人間だ!」
ルカが叫ぶ。
「違うよ。私はモウ、人間を超エた、ナスなの」
ひかりが顔を伏せた。
光を浴びた全員の肌が、紫に変色し始める、しかし、御園は一歩踏み出し、スコップを肩に担いだ。
「ひかり、決めるのはお前自身だ。ナスじゃなくて、お前が決めろ……」
「デモ……ナスが、私を必要トしテいる……」
「私だって、必要としている!だから、帰って来て!!」
ルカが言った。
その言葉に、ひかりの手が一瞬だけ止まった。
「……ナら、あの時、何デっ!!」
——発芽炉の蔓が彼女の体に深く刺さり締め付け、再び暴走を始める。
《発芽炉、完全覚醒まで残り30分》
「もう時間がない!」
ケイが叫ぶ。
「発芽炉を破壊するには、核を直接攻撃するしかない!」
彼は発芽炉の中心を指差した。
御園は頷き、スコップを握り直す。
「私が行く……」
「待って!御園、ひかりが……!」
ルカが手を伸ばす。
「……私は、発芽炉を破壊する……ルカは、どうする?」
「……私は、ひかりを助ける!!」
全力で駆け出した御園の後を、ルカが追う。
ナス兵が行く手を塞ぐたび、ケイとみつばが道を切り開く。
「御園、行けぇぇぇぇぇっ!!」
最後の一歩、彼女は跳躍した。
「……私は、死なない!」
スコップが、紫の光をまといながら振り下ろされる——




