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魔力と魔術


目を閉じる。休息は必要だ。

私をここに連れてきたあの狐の魔物は私をここに放り込んだ後、何処かに行っている。徐々に魔物としての本能が強くなってきているのだろうか?

巣を守るのではなく、巣の外で率先して狩りをするように段々と生態が変わって行っているのかもしれない。そうして戦い続け、生き残った魔物は更に強くなっていく。

喉の渇きは、冷たい岩肌に滲み出る水分を舌で舐めとって潤して。

準備が整う前に喰われてしまっては困るし、なによりも取れる手段は多い方が良い。


「魔力、魔術」


口で小さくつぶやくことで、知識を開く。

知識は私の中で本の形をとって、魂の中へと広がっていく………知識とは言うが実際は魂に刻まれた記憶なのだろう。この世界には存在しないものやこと、法則と言った知識が記されているので記憶だろうが知識だろうがどっちの呼び名でもいい。

使える限り便利に使うだけである。


「魔術の、属性………オリジナルの魔術」


記述を発見した。

この世界において、魔術には基本となる四つの属性が存在している。火、水、風、土―――女神が降臨した際に付き従った四人の天使によって色を付けられたとされる魔力だ。真偽のほどはさておき。

それに加えて魔力だまりの原因でもある、大気に満ちる、色の無い魔力………空属性。この五つが、現在発見されている魔力の属性の種類。

魔術として扱う場合、全て基本の四属性の影響を受けたモノとなる。逆に言えば魔術として扱わず、魔力そのものとして運用する場合は空属性の魔力を操っているとも言える。

具体的に言えば、魔力をただ搔き集めて投げつけるだけの場合は空属性、魔術として魔力を精製し、火球を生み出して放り投げれば火属性。要は変換の工程を組み込んでいるかどうかの違いである。

空属性の魔力は単体ではそこまでの破壊能力はなく、多少物質に干渉することが出来る程度。基本的に空属性の魔力そのものとしては使うことはない。だって、空属性とはつまり身に宿した魔力そのものなのだから。


「だけど、この世界に存在する魔術は、四種類だけじゃない」


そも第一に、魔術とは魔力を変換して属性を与える技術である。

魔法はこの世界には無く、全ては科学的に体系化された、魔力を操る技術―――そういう意味で、魔術という名前が与えられている。

これは魔物も操るというか、元は魔物が扱っていたものを人間も同じことが出来る様に研究を重ねたという方が正しい。魔物の方が先に使っていたのだ、なら天使が属性をうんぬんってやっぱりただの創作じゃないの?………まあそれはさておき。

本来ならば、魔物が操っていたその魔術。しかし、大多数の魔物は単一の属性の魔術しか使わない。即ち、基本の四属性のみを操るのだ。

それだって豊富な魔力を持つ魔物が使えば恐ろしい脅威となるが、それに対して人間はその四属性の魔力を上手い事かけ合わせて、新しい属性の魔力を生み出すという、殆どの魔物が行えない高度な技術を運用している。

例えば、水と土の魔力をかけ合わせて鉄の魔術を生み出したり、水と風を用いて氷を作りだしたり。火と土を合わせて溶岩を作ったりもできる。そう言ったものが、オリジナルの魔術………固有魔術と呼ばれるものだ。

どうやって魔力を配分しているのかは個人次第で、更に言えば魔術属性の適性は個人で大きく異なるという点から、時間と実証を重ねることで似たような魔術は再現できても、当人が作り出したその魔術と全く同じものを他人が再現するのはほぼ不可能だと言われている。

更に言えば、固有魔術そのものは発想次第でいくらでも作れるが、戦いに使えるレベルの練度を保つとすれば人間の一生の中で極められる固有魔術は一種類が限度だろう。

魔物の死骸を食べて、魔力を直感的に理解したからだろうか。胸に手を当てて、集中すれば私自身の魔術適性を感じ取ることが出来る。


「大きなものは水と土。それから、風が少し、火は殆どダメ。………あ」


ああ、そう言えばもう一種類だけ魔力の種類があったな。聖なる魔力とかいう役に立たないヤツが。

意識を向ければ、聖なる魔力が反応する。あの声の主は全く聖なる魔力が使えなかったというが、頑張れば私は励起させることはできそうだった―――やらないけど。

私はこの魔力を一切信用していない。二度と使うことはないだろう。

いや………声の主が聖なる魔力を使えなかったのは、私の意識がなかったから?もっと正確に言えば、この身体の中に二つの意識が入っていたあの状況では、私たち二人の意識が同じ方向を向いていなければ、聖なる魔力が発現することはなかったのではないだろうか。

声の主が私の身体から出ていったとき、確かに私たちは憎しみあい、それが故に同じことを考えていた。

この身体から出たい/この身体から出ていけ、と。

では、あくまでも仮定ではあるけれど、私の意識が起きていなかったあの状況では、声の主がどれだけ聖なる魔力を使おうとも、絶対に使えない状況だったということになる。


「あいつが、私の意識に手を伸ばしてれば話は別だったのかもしれないけど」


―――それは、あいつが選んだことだ。自分だけの幸福を、自分勝手な人生を、あいつ自身が選んだから、今私たちはこうなっている。

私はあの声の主を憎み、絶対に殺してやると。あいつもまた私の事を憎んでいるだろう。今現在、どこにいるのかは知らないが。

この手で殺すまでは野垂れ死ぬなとも思っているが、死んだら死んだでせいせいするかもしれない。けれど分かっていることは、多分………あいつが死んだところで、私の心の奥底に、魂の中に空いた空洞は埋まらないし、その中で燃え続ける憎悪という熱は消えないのだろうということだ。

その辺りで私は聖なる魔力への意識を止めた。改めて思う、これは要らない。


「私に必要なものは、何?」


答えは簡単だ。

目を閉じて、その必要なモノを手に入れるための魔術を考える。幸いにして、発想の種となる知識は豊富に持っていた。

後は、私が私として生きていた僅かな時間の中で得た経験を落としこむだけ。何が欲しい、何が必要、何が一番―――私の力として相応しい?

人間の一生の中で極められる固有魔術は通常一つ。私の場合は更に急ピッチで生み出し、ぶっつけ本番で使用することになるだろうから、もっと条件は厳しい。だから、考える、深く考える。

魔術の動かし方を、その利点を、考えうる欠点を。

………理論を、配分する魔力の量を、構築される魔術の想定を頭蓋の中で眠る妄想から確かに実像を描く現実へと繋ぐように、その隙間に決して齟齬の出ないように。



―――ああ、私の魂を染める、流れる黒色。それこそが、私の固有魔術の源流だ。



「大丈夫。これで、殺す」


この現状を、運命を打破するための、二本目の刃が、揃った。


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