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ラリナとキマイラ



周囲に展開した黒雫は、私がこの場を生き延びるために配置した、私の舞台である。

塔のように乱立した状態で金属形態にしたものや、その塔との間を中間形態の鎖で繋いだものなど、種類は多岐に渡る。結局、私は森の中で戦うことが一番慣れているから、黒雫を用いて森を参考に、更に戦いやすい舞台を整えたのである。

師匠との旅の間に訓練を積み、さらに師匠からアドバイスなども貰った結果、生み出した黒雫は手を放してもその状態が持続するまで練度を高めることが出来た。

もちろん、直接触れるか黒雫を介しての接触を行わない限りは追加の操作は出来ないが、構造が維持できないほど破壊されるか私が解除しない限りは、ああしていつまでも残り続ける。

旅を始める前までは寝ていても解除されない程度の実力しかなかったが、今では私自身から遠く離れ、意識すらしていなくても黒雫が解除されない。

少しずつではあるけど、私は強くなっている。


「………来いよ」


呟きを漏らすと同時、森の中から発せられている異音がひと際大きく響き、太い木の幹が私の方へと放り投げられる。

指揮官キマイラがその眼光鋭く私を睨みつけ、その背後から従えている他のキマイラが続々と姿を現した。

ガントレットをつけた腕でその木の幹を弾き飛ばす。私は視線をそらさずにその眼光を正面から見返すと、キマイラが低く唸った。


「どいつからだ?」


通じるかは分からないけど、キマイラたちに右腕を出し、手の甲を向けてこちら側に何度か引く。

人間に対してであれば明確に煽っていると分かるだろうけど、こいつらはそれを理解できるかな。


「―――ガアアアア!!!!!」

「なんだ、通じるのか」


意味は通じていなくても、煽られているということは分かるのだろう。

指揮官キマイラが吠え、それに追従するように配下のキマイラたちもまた咆哮を上げる。それでいい、私だけを見ろ。

逃げられた方が厄介だ。お前たちは全員ここで死ね。

………当然、私が生き残ることを考えるのならば、一体ずつ戦った方がいい。嬲られているふりをして時間を稼げばいずれ師匠とジョルジがやってきて、こいつらを仕留めてくれるだろう。

だけどそれじゃあ意味がない。私が欲しいのは力だ、私の尊厳をもう誰にも穢させないほど強く、そして邪魔するものを全て叩き潰せるだけの、そんな暴力だ。

そう、それは誰にも縛られることのない、私を取り巻き、めちゃくちゃにした運命すら壊せるほどの。

だから。戦略の過程で撤退はしても、逃げはしない。


「お前たちを、喰うよ」


柔らかい地面の土が硬く潰れるほどに踏み込み、加速する。

狙うは指揮官キマイラだ。大きく右腕を振りかぶって獅子の頭へと一直線に向かっていく。

直後、蛇の掠れるような鳴き声が聞こえた。


「ッ!」

「シャアアア!!!!!!」


伸縮自在の蛇の尻尾が三本、私の胴体を狙う。

身をよじり一撃を交わし、両腕で手刀を作って蛇の尻尾を二本、切り落とした。

切り落とされ、即座に濁る蛇の頭がそれでも口を開き、そこから覗いた蛇の牙から毒液が噴射される。

狙ってきたのは私の眼だった。顔を背け眼球への直撃を避ける。毒液がかすった頬から痛みが生まれ、触れずとも爛れているのが分かる。

粘液で受けるのを回避して正解だった。再生能力で頬の傷を修復すると、義足に力を込めて一旦距離を取る。退避場所は、黒雫の塔の上だ。


「足を狙わずに胴体を攻撃してきたか。私の足の事について情報共有がされてるな」


知性はないが、知能はある。群れを相手にするに、その性質は余りにも厄介だ。

指揮官キマイラは余裕そうな視線で私を見つめ、尻尾を斬られたキマイラが飢えた目で私を睨む。尻尾の蛇たちは既に再生が済んでいた。

まさに蜥蜴の尻尾切りか。いや蛇だけど。

比較的尻尾は強度が低い代わりに、再生速度が速いと考えられる。キマイラにとって尻尾は索敵器官であり、牽制の手段でもあるのだろう。


「ギィィィィィィ!!」

「………耳障りだ」


今度は胴体にある山羊の頭が吠えると同時、その口元に大量の魔力が込められる。

魔術の気配、この波長は先程感じたものと同じだ。即ち、火球を撃ちだす魔術だろう。

指揮官キマイラの付近に侍っている二体のキマイラは何もしておらず、その他の外周にて私を取り囲むキマイラたちが主となって魔術を生み出していた。

口の中で徐々に炎が生まれ、大きさを増していく。


「付き合ってなんてやるか、バーカ」


まだ、その火球を正面から受けることはできない。

私は塔から飛び降りると、敢えてキマイラたちの群れの()へと深くもぐりこんだ。


「―――ギイギギ………!!!」

「同士討ちは怖いだろう?魔術は威力が高いが、巻き込みの危険性も大きい」


余程の精度を持ち合わせていない限り、魔術は味方の近くでは撃てない。

これは師匠に言われたことだった。私の黒雫のような制御が容易い固有魔術であれば話は別だが、基本となる四属性の魔術、その中でも攻撃に特化していると言われる火や風は威力と範囲に重きを置いたものが多く、人間でも魔物でも連携が取れていないと巧く使えないそうだ。

魔術師を擁するパーティを相手にする場合には、そう言う判断も必要だと言われた。即ち、相手の懐に潜り込む捨て身の戦術だ。


「はあああああ!!!」


魔力が込められた火球が上空に放たれた瞬間、私は裂帛の気合と共に右腕を強く握り込み、一番近くに居た配下のキマイラの獅子の顔面を殴り飛ばす。

ズン、と重い感触が腕に伝わり、獅子の頭を張り飛ばしたが―――全く致命傷にはなっていない!

紅い瞳が私を見つめ、瞬間魔力の気配を感じて地面から跳ねる。

私が数瞬までいた足元の地面から魔力が膨れ上がり、形をなして、巨大な土の槍が現れた。

水と土の魔術属性は防御寄りだと言われているが、攻撃するための魔術がないわけではない。あれはその中の一種、”土槍(テルラスタ)”だろう。

………これで、キマイラたちは三つの属性を操ったことになる。火球の火、土槍の土、そして私の索敵を攪乱した風。

本当に、厄介だ。舌打ちをしながら、心の中で呟き、周囲に視線を走らせる。

私の直近にいるキマイラたちの総勢は十体。その十体のうち後方にいるものが私に対して魔術を放ったようだった。魔力の残滓がこびり付いているのでよくわかる。

そして、一番近いものは。


「ガアアアア!!!!!」


その獅子の前足を振るい、私へと襲い掛かってきていた。

鈍く輝くのは鋭い爪。その数、計六本だ。まともに受ければ胴体が泣き別れするだろう。

尻尾を伸ばし、黒雫の塔に巻き付けるとそれを起点に私の身体を少しだけ持ち上げる。獅子の前足は私の眼前を掠めたのを確認すると、私は逆立ちをするように地面へと腕を突き刺し、自慢の爪を血で彩ることが出来なかったそのキマイラの顔面へと、私の肉体の中で最も硬い部位である足の踵を突き刺した。

―――はっきりとした、鈍い感触。踏みつけるようにして上へと蹴り上げれば、ブチブチという音を立ててキマイラの顔面が縦に裂ける。

足の重さがなくなったところで両足を開脚し、回転。キマイラの顔面へと更に追撃を行った。

鋭く尖ったハイヒールは突きも斬るも思いのままだ。だがそれでも、今の私の威力では不意打ち以外では通用しずらい。

痛みに悶える獅子頭を援護するように尻尾の蛇が現れ、私の踵を食いちぎる。金属を叩き割る不協和音が響いた瞬間に、腕に力を込めて飛び上がり、再び私は塔の上へと退避する。

塔の上で右足を叩き付ける。鋭いヒールは中ほどで喰いちぎられ、破損していた。


「助走をつけた足の一撃や不意打ちなら、通用する。だけど」


決定打(・・・)が足りない。

魔物の厄介な点として、二つ目の心臓ともいえる魔核の位置がランダムであるということが挙げられる。

完全に種として定着したような、例えばゴブリンであれば殆どの場合、誤差程度の位置のずれしかないが、キマイラのような強力な個体はその個体ごとに魔核の位置が異なるのだ。

知っての通り、魔物は魔核を取り除いた上で致命傷を与えなければ、完全に殺すことはできない。しかし魔核の位置がランダムということは、有効な殺し方が個体ごとに変わってくるという事に繋がる。

頑丈な獅子の頭や、狙いにくい山羊の頭にある連中は正直に言えば、厄介すぎる。


「魔力の量は全然大丈夫、か」


既にキマイラたちが私に向けて魔術の照準を向けているのを肌で感じるため、手早く思考する。

魔力の量で言えば私はかなりのものなので、黒雫やこの舞台である塔を使い潰す勢いで使っても一時間程度は全力で戦い続けられるだろう。

だが、キマイラたちがもしも自爆覚悟で魔術を放てば、私は即座に命を散らすことになる。そうでなくとも致命傷を与えられない以上、こうした散発的な遊撃に徹してもいつかは魔力より先に体力的な限界が来るだろう。

………集中力が散漫になれば獅子の前足を受けて死ぬ。蛇の噛みつきを同時に食らえば身体がバラバラになる。そして私は、一度もしくじることなく攻撃を裁き続けられると思える程、自分を信じてはいない。

必要なのは、攻撃力だ。一つは手がある。だけどそれは連発できるようなものじゃない。

もう一つはまだものにしていない。だけど、ここで自身の力とする。そうしなければ、こいつらを倒せない。

踵の修復を済ませると、深く息を吸って、塔の上から身を投げた。


「行くよ」


このひと月の間に師匠から手ほどきされた、戦士としての戦い方。その基礎、その技術、その闘法を。

本当の戦いの中で身に着ける。









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― 新着の感想 ―
1対多、しかも頭が多いキマイラ、まだぎりぎり均衡を保っていますが、いつまで持つか。  出来れば1つくらい魔核食べたいですね。
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