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別離と憎悪と大いなる苦難

書いてたら元じゃなくて偽じゃない?と思ったので若干タイトル修正しました。


「(ちょっと!?どうにかしなさいよ!!アンタのせいなのよ?!)」

「だ、まれ………お前だッ!お前のせいだ………!!!」

「(聖女の力に覚醒しなかったアンタが悪いのよ!!こんなはずじゃなかったのに!!)」

「お前が、私の人生を無茶苦茶にしたんだ………!!」


息遣いはどんどん近づいてくる。そして、回り込んできたその息遣いの主が、私の眼前に立つ。


「ひっ?!」


人の様な姿の、けれど決定的に人とは違う化け物だった。

身体つきこそは人のようだが、瞳は赤く、そしてなによりその頭蓋の上部は異様に膨れ上がり、醜い花弁のようなものが生えている。その花弁の中心には、濁った緑色の結晶が埋められていた。

………人の死体に寄生するタイプの魔物だ。

その腕が私の方へと伸ばされる。指先は鋭く尖っており、きっと私の身体なんて簡単に裂いてしまうだろう。

私と、そして私の中の声はその現実を前に醜く罵り合う。


「(ふざけんな、ふざけんな!!こんな死に方嫌だ!!出せよ、私を出せ!!)」

「こっちの、セリフだ………出ていけ、私の中から………出ていけ!!!」


誰がお前なんて受け入れた?誰がお前なんて―――。

邪魔者。この手で殺してやりたいと強く憎悪する、全ての元凶。

お前が出ていきたいというのならさっさと出ていけ………私の中に本当に聖女の力があるというのなら、魔物よりも先にこの声を消してくれ!!


「出ていけぇぇ!!!!」


その瞬間に、私の視界が真っ白に染まる。

それと同時に、頭の中の声が叫んだ。


「(な、なに?!なんなの―――)」


現実の視界と脳内を同時に白く染める、スタングレネードのような明滅。


「ナ………ンァォヨ?!」


それが済んだ後、私の頭の中はようやく静かになっていた。

代わりに、私に手を伸ばしていた魔物が驚愕した様子で、私を見ていた。

魔物が持つ紅い瞳―――伸ばした鋭い爪を持つ腕は、中ほどまで炭化していた。

直観的に理解した。恐らくは声の言っていた聖女の力。それで、私は脳内の声を追い出した………というより、この死体に寄生する魔物の中に、押し付けたのだ。白翼の聖女云々はさておいて、私の中には確かに聖なる魔力は宿っていたらしい。

でも、だからどうしたというのか。状況は、最悪のままじゃないか。


「ァ、ハ、ハ、ハ!!」


軋んだ声で、笑い声もどきを上げる魔物。

そうだ、私はここで死ぬ直前で………代わりに、こんな状況を招いた元凶の方は、自由な体を手に入れた。

ねえ、女神様。私は再度あなたに問いかけます。


………私は、何の罪を犯したのですか?


「コ、ロぃテ―――ッ?!?!」


目線を上げた魔物、いや。声の主は、その死体の顔を引きつらせて私の背後を見る。

再び聞こえる息遣い。声の主のそれとは違う、生物的な気配がゆっくりと近づいて、代わりに声の主の足は後ずさっていく。

視界の中に入ってきたのは、黒い毛並みの怪物だった。四本の尻尾を持つ、中型の魔物。


「ヒ、ィ?!」


ああ、これは………魔物としての格が違うのか。

死体に寄生する、そんな魔物は魔物のなかでも最底辺の部類だ。それに対して、この狐の様な中型の魔物は最上位とは言わないまでも中級程度の力量の魔物である。

魔物としての本能が、逃げることを声の主に選択させた。


「ニ、ィゲ!!?」


脱兎のごとく逃げ出した声の主。

私はそれを、虚ろな目で見送った。見送る事しか、出来なかった。

森の出口の方へと消えていった声の主を注意深く見つめていた狐の魔物が、いよいよ私の方へと視線を向ける。口を開けば、その中からは真っ赤な舌と、そこに埋め込まれた灰色の結晶が見えた。

自在に動くその尻尾で私の手に刺さっていた錆びた剣を叩き折ると、私を尻尾で抱える………私は、折れた刀身が刺さったままの手の痛みで叫びを発した。

助けてくれたなんて、そんな甘い考えをするつもりはない。しんしんと降り積もる雪が示すように、今の季節は冬の入りであり、そして。

魔物は、元となった生物に近しい生態を持つこともあるという。だとすれば、私は冬の間の非常食ということだ。


「がっ?!」


推測があっている証拠だろう。この魔物が巣としている洞窟の中に私は乱雑に放り込まれる。

周囲には、他の弱い魔物や動物の死骸が散乱していた。


「ク、ソ………クソ、クソ………!!!」


なんで、こうなるの?

女神様とやらは、本当に私の事が嫌いらしい。そうでないのだとすれば、とっくに女神なんて存在は死んでいて、この世界は壊れてしまっているということだ。じゃないと、私にだけ降りかかるこの不幸に、説明がつかないじゃないか。

もう、女神なんて信じない。私は決して祈らない。

ぐちゃぐちゃに染められた私の魂は穢れに穢れ切ってしまったのだろう。この肉体と同じように。

声は消えて、代わりに知識だけが魂に残る。得たものと失ったものの差は、あまりにも酷い。それでも、それでもだ。


「生き延びて、やる………!!」


こんな完全に終わった状況でも、壊れてしまった人生でも。

このままで終わってたまるか、このまま報いを受けさせずに死ねるか―――どんな手を使っても、何をしても、生き延びて、強くなって、生きて生きて生きて―――。

必ず、この憎悪を思い知らせてやる。


「は、グゥ!!」


気が付けば、私は付近に転がっている魔物の死骸に噛みついていた。

血が足りない、このままでは力が出ない。というかその前に失血死で死ぬ。腕は、動く。あの狐の魔物が剣を叩き折ってくれたから、痛みを我慢すれば両手が使える。

聖女の力なんて信用しない。聖なる魔力なんてクソの役にも立たない。


「ふ、う………フゥ………!!」


あの声の主の唯一の役に立つ道具(・・)である知識を、深く参照する。

舐める様に、ゆっくりと魔物の死骸を口の中に含みつつ、ぼろ布を剣の破片で引き裂いて紐を作る。それを両足に巻き付けて止血をした。

本来ならば私自身にそんな知識も機転もない。だが、あの声の主が残した知識を使えばこういったことも出来るようになった。

もっと、もっと深く潜れば―――この状況を打開する手段が、あるかもしれない。

荒い息で、口の周りを血塗れにしながら、私は魔物の死骸を食い漁る。そして、魔物に関しての知識―――設定?

それを見つけだした。あの女が勘違いした、白翼の聖女という小説における世界観の説明だ。私としてはここが小説の世界だというのはただの妄想でしかないと考えている。ただ、似ているだけの別の世界だろうと、そう思っている。

それでも共通している事柄は確かにあるようだった。ならば、魔物についての知識は何かに使えるかもしれない。

………死肉を喰らう事をやめずに、私は目を閉じて知識に没頭した。



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