俺はこの山のボスだから
アンマンマンさま『たぬき祭り』参加作品です
最近、山の中にへんな道ができやがった。
青っぽくて固いその道の上を、白くてまぶしい目をした速いやつらがビュンビュン通っていきやがる。
許せねェんだ、俺は、そいつらを。
ここは俺の山だ。勝手に俺がそう思ってるだけだが、こういう気概は必要なもんだろう。やる気と責任感に直結するからな。
俺はこの山のボスだ。誰もそう思ってはないだろうが、こういう矜持は必要なもんだろう。自分が強くなったような気分に勝手になれる。俺がこの山を守るんだ。
光る目をしたやつらに殺される仲間が続出している。
いつもの獣道をトコトコ歩いていると、いつの間にか青っぽくて固いへんな道の上に出る。そこへやって来た光る目にびっくりして、仲間は立ち止まる。
たぬきは怖がりなんだ。
「なななな……なに、アレ?」と目が離せなくなって、体は動かなくなって、そのまま光る目の攻撃にやられちまう。
その上を何回も踏まれて、遂にはぺっちゃんこになっちまうんだ。
ここ数日で三匹もの仲間が殺された。
俺はとっくに堪忍袋の緒が切れてたが、重い腰をあげたのはようやくのことだった。
決闘の時刻は昼間を選んだ。
たぬきは夜行性だが、俺は違う。
この牙でやつらを吹っ飛ばし、ここを通り道にしたことを後悔させてやる。
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新しくできた国道をよく利用するようになった。
いつもは通退勤に便利なのでそれに使っているが、今日は天気のいい休日なので、妻と子どもを乗せてのドライブだ。
これまでおおきく迂回しないといけなかった山の中をショートカットできるようになったのは便利だし、何より山の空気が気持ちいい。
「小鳥さんがいっぱいいるよ!」
半分開けた窓から顔を少しだけ出して、幼い娘がはしゃぐ。
「夏になったらカブトムシとかいそうだなぁ」
お兄ちゃんもワクワクしている。連れて来てよかった。
「あなた。帰りはこの道、真っ暗じゃない?」
妻が心配してくれる。
「たぬきとか轢いたりしないでよ。かわいそうだから」
「うん。何度か轢きそうになったことはある」
私は車のハンドルを握りながら、妻の心配にほっこりしながら答えた。
「だからそれ以降、必ずハイビームにした上、ゆっくり走るようにしてるよ。対向車は結構来るけど、忘れずにロービームに落とす癖もおかげでついた」
「じゃあ、一度もたぬきを轢いたことはないのね?」
妻が頼もしそうに私を見る。
「ああ。ロービームで走ってて気づかずに轢いちゃってる人は多いから、なんとかハイビーム走行を呼びかけたいところなんだけどね」
「あれっ?」
娘が何かに気づいた。
「パパ……。あれ、なぁに?」
走る車の前方、アスファルトの道路の上に、何やら牛ほども大きさのある黒っぽい動物が立っていて、私たちが来るのを待ち構えていたように身を低くした。
「あっ……!」
息子が叫んだ。
「でかいイノシシだ!」
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来た。
早速来やがった。
昼間は目が白く光らないから怖れるに足らん。こうして見るとただのマヌケな顔をした白い生き物だ。
中に人間を乗せてやがる。変わった生き物だな。
俺はまっすぐそいつに向かって突進を開始した。すぐにトップスピードに乗った。
ビビったのか、そいつは走るスピードを落とし、情けない大声で鳴いた。
俺はこの山のボスだから、コイツを絶対に許さねェ。
そいつが完全に停止した。
怖がりで体が動かなくなったたぬきのように。
中の人間どもがうるさく喚いてやがる。
俺はそいつの巨大な顎に牙を入れると、思いきり振り上げ、突進の勢いを使ってぶん投げてやった。
高い崖の上から谷へと落ちていくそいつを見送りながら、俺は己の矜持を強くした。
俺はこの山のボスだから、これからも仲間を守り続けて行かねばならん。