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恋する狼男

作者: 葉沢敬一
掲載日:2023/10/08

毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。

Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)

 ニホンオオカミが絶滅してどれくらい経つのだろう。私は手下の狼たちに遭うことも無く、同類に遭うことも無く人里離れた山奥で一人で暮らしている。


 私は狼男。仕事は彫刻家である。アクセサリーやちょっとした民芸品を里の人たちに売って、その金で細々と生きている。農家もやっているので、野菜や玉子、鶏の肉とかは自分の所で生産する。


 最近は人手が足りないのか、山の手入れとかしないせいで野生動物が増え、罠を掛けてジビエを頂くこともある。


 里の者は私が歳を取らないことを知っているが、暗黙の了解かなにかで黙っているようだ。まあ、関係は良好。仲良くやっている。もちろん戸籍は無い。


 それに不審を感じた役所の若い職員がやってきた。新卒で役所に入って、疑問を感じたんだろう。警察にも問い合わせず一人でやってきた。


「こんにちは、Nさんいますか?」

「はい? 私がNですが、どなた?」

「町役場のKといいます。ちょっと調べ物に」


 若い女の子が1人で訪問させるって役所は何考えているんだ? 私はあまりの不用心ぶりに呆れたが、話をちょっとしたところ私のことを老人だと思っていたらしい。予想より遙かに若いのでちょっと面食らったと言っていた。まあ、記録に出てくるのが明治時代くらいだろうしね。


 私は3代目Nだと言って置いた。記録に出てくるのは先代、先々代とかだろうと。女子職員はあんまり鋭くないのか納得してしまった。学校の成績は良かったかも知れないけど、直感が働くというタイプではないようだ。


 あるいは、「天然」か?

「書類の不備で戸籍登録されてないんですよね、Nさん」

 そんなこと言われてもね。たぶん、この娘は里の者たちに何も訊かずに直接来たんだろう。

 一通り訊いた後に、また来ますと言って帰って行った。


――はずなのだが……


 手下のカラスが帰り道車が崖から転落しているというのを教えに来た。町役場のライトバン。細い道で路肩が崩れているから運転が下手だと危ない。そもそも、ウチに来る里の者は、ジムニーで来たりする。


 急いで、山を下りていく。夕日が陰ってきて、怪我していた場合すぐに治療しないと死んでしまう。


 カラスはここだと教えてくれた。崩れている。見ると、数メートル下に横転している。消防に連絡。GPSで位置情報を知らせる。人間は便利な物を発明するな。


 持ってきたロープを木に掛けて山を下りる。竹藪をなぎ倒してライトバンが横倒しになっていた。竹林がクッションになったのだろう。


 天を向いているドアを私の怪力で外して、脇に放り投げる。娘はシートベルトとエアバッグに挟まれ軽傷のようだ。良かった。シートベルトを外して、気を失ってる娘を背負うと道路までロープを伝って登った。昔だったら死んでいたかもしれない事故。


「大丈夫か?」

「うーん」と言って目を覚ます。暗くなってきた。夜目が利く私は、娘の身体に怪我が無いことを確認すると、消防団の車を待った。


 30分くらいして、里の消防団の車が来た。県のレスキュー隊へも連絡済みだというが、それは不要だと説明する。


 とりあえず、彼女を連れて帰って貰うことにした。怪我無くて祝着。


 数日後、ご両親と共に挨拶に来たのだが、まあ、それはそれで良いんだが、それから娘は仕事でもないのにしょっちゅう私の家に来るようになって迷惑している。


 正体がばれるじゃないか。


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