うしろのしょうめん
家に帰るまでの道すがら、どうしても流れてくるメロディがある。
“と~りゃんせ、と~りゃんせ”
わらべ歌の「とおりゃん」。
最近通っている場所から家に着くまで、延々と頭の中で歌が繰り返し流れる。
でもそれも気にしなければ、どうってことないものである。
ただ、夜の道を帰るのでたまたま印象に残っているだけだと、私は誤魔化した。
そして今日も私は、あそこに向かう。
でも今日は何か違う。
手に持った鉄の冷たさも、周りの生温い空気も。
何よりも。
“か~ごめ、か~ごめ”
歌が違うのだ。
でも今日で最後なのだから。
私は利き手に持った玄翁を振り下ろす。
森には打ち付ける甲高い音が響く。
“カーン、カーン”
打ち付ける度、心のもやが晴れるのがわかる。
止めとばかりに、最後に盛大叩きつけ、これで終わり。
詰めていた息を吐き、帰り支度をする。
未だに「かごめ」が聞こえてくるが気にしない。
急勾配の階段を降り始めたとき、
とんっ
「ぇ?」
背中を押された私は気がつくと一番したまで落ちていた。
体が動かないと思うと、じわじわと痛みが全身拡がっていく。
なのに頭の中では「かごめ」が流れる。
ああ、かごめも通りゃんせも後ろに気をつけろの歌だった。
“行きはよいよい、帰りは怖い”
“夜明けのば~んに、つ~るとか~めがす~べった”
動く視線で、階段上を見る。
“怖いながらも、とぉ~りゃんせ、とぉ~りゃんせ”
予想していたが、やはりあの人だった。
私がもっとも嫌いで、憎んで、大好きな人。
だから私はあなたを呪った。
人を呪あば、穴二つ。
“うしろのしょうめんがだ~あれ?”