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巡(めぐり) 型落ち魔法少女の通学日記  作者: 武者走走九郎or大橋むつお
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093『お婆さんが付いてきた』

めぐり・型落ち魔法少女の通学日記


093『お婆さんが付いてきた』   





 令和の時代から昭和の宮之森高校に通って一年。



 だいぶ慣れて来たけど、土日とかが、ちょっと癪。


 だって、昭和の学校は土曜日にも授業があるし、令和が日曜でも向こうはウィークデイで学校に行かなきゃならない。


 4月14日の昨日は日曜だったけど、昭和46年の宮之森は水曜だから学校に行った。


 家からは寿川に沿って100mの戻り橋を渡るんだ。


 100mだから1分ちょっと、たいてい人に合うこともなく橋を渡る。


 でもね、4月になって三軒隣に〇〇というお家が引っ越してきて、そこのお婆さんの朝の散歩とかち合うようになってきた。


 引っ越しのご挨拶は両隣だけで済まされたようで、うちには来なかった。


 まあ、それはいいんだけどね。


 ほぼ毎日出くわすもんだから、シカトもできず、コクンと目礼してすれ違う。お婆ちゃんも笑顔で「おはよう」と返してくれる。


 目礼に対して、声に出しての「おはよう」は、こっちが一点負けてる感じ。


 それで、昨日は、小声だけども「お早うございます」と挨拶した。


 すると、お婆さんは、いつもの倍くらいに笑顔になった。


『ああ、よかった』という気持ちと『あ、まずった』という二つの気持ちが湧いてきた。


 よかったと思ったのは、ご近所で挨拶もしないでいてはきまりが悪いから。まずったと思ったのは、お婆さんにボケの気配が見えたので、関わると面倒なことになるかもと思ったから。


 モヤモヤした気持ちで『M』の標石しるべいしを蹴る。


『M』の標石は、わたし専用の『戻り橋』を出現させるためのスイッチ。この橋を渡ると昭和の宮之森。渡り終わったら昭和側の『G』の石を蹴る。

 橋は、わたしが橋に踏み込むと令和からは見えなくなるんだけど、念のためにロックするのが『G』の標石。


 橋を渡り終えて、五六歩行ったところで『G』の石を蹴っていないことに気付いた。


 振り返ると、お婆さんがついて来ている!


「おやぁ……あら……あらぁ……」


 お婆さんは、軽いパニックを起こしてキョロキョロあたりを見回している。


 わたしは魔法少女の孫で、未登録だけどいちおう魔法少女。


 昭和の学校に通うにあたって、日に一回だけ魔法が使えるようになっている。


 日に一回じゃ足りないかもと思ったけど、じっさいに魔法を使ったのは数えるほどでしかない。魔法を使うと、前後のつじつまを合わせるのが結構たいへんだしね。


 でも今こそは魔法を使う時だ!


――お婆さんを令和に戻せ!――


 そう念ずると、お婆さんの姿は一秒もせずに掻き消えた。



 でも……なにか違和感。



 戻って確認しよう!


 そう思って『G』の石を蹴ろうとしたら、後ろで「あらぁ……」という声がして、振り返ると川筋の医院の屋上にお婆さん!


 ヤバイ、ミスった!


 どうしよう、今日の分の魔法は使ってしまった!


 これは、訳を言って医院の屋上に上がらせてもらって令和まで送り届けなきゃ……


 でも、どう説明して屋上に? 


 すみません、間違って令和からお婆さんついて来てしまってぇ、戻そうと思って魔法使ったら、ここの屋上に……(^_^;)


 なんて言えるかぁ!


 オロオロしていると、医院の向こうの通りからわたしと同じ宮之森の制服が現れた。


「こまってるみたいね(^▭^)」


「え……あ……御神楽さん!?」


「巫女服じゃ目立つから、あなたのコピーした」


「そ、そうなんだ……」


 二十代半ばって感じの御神楽さん、ちょっとJKの制服はきびしい……けど、それはおくびにも出さずに説明。


「実は……」


 屋上を指さして「付いてきちゃって……」と説明すると分かってくれて、ドンと胸を叩いた。


「まかせておいて」


 そう言うと、瞬間で屋上にテレポして、一言二言お婆さんにヒソヒソ話。


――じゃあね――と口の形で言うと、お婆さんといっしょに消えてしまった!


 

 一時間目が終わってボンヤリしてると佳奈子が「お客さんだよ」と廊下を指さす。


 あ、御神楽さん。


「お婆さんは無事に送り届けたから」


「あ、どうもすみません」


「いいわよ、式場のお仲間なんだし。久々にきたら学校も楽しそうだし」


 御神楽さんの制服は、朝よりもしっくりしてて、現役の生徒と変わらない。


 クラス章が実在しない9組なのはご愛敬。


「でもね、魔法少女でもないのにこっちに来たから、ちょっと影響が出るかも……ま、またなんかあったら言ってちょうだい」


「は、はい、お世話になりました!」


「じゃね」


 パタパタパタ……


 そう言うと、元気よく階段を下りて行く御神楽さん、降りる音は踊り場の当たりで消えた。

 



 

☆彡 主な登場人物


時司ときつかさ めぐり   高校2年生

時司 こたえ         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

滝川                志忠屋のマスター

ペコさん              志忠屋のバイト

猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)

宮田 博子ロコ         2年3組 クラスメート

辻本 たみ子            2年3組 副委員長

高峰 秀夫             2年3組 委員長

吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部

横田 真知子            2年3組 リベラル系女子

加藤 高明(10円男)       留年してる同級生

藤田 勲              2年学年主任

先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)

須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫

時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        

その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)

灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

 

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