218『ナースチャもカチューシャ!』
巡・型落ち魔法少女の通学日記
218『ナースチャもカチューシャ!』
なんとナースチャもカチューシャ!
「あらあ、お互い気が合うわねえ(^▽^)」
満面の笑みを浮かべて上履きに履き替えて、ちょうどロッカーにローファーを仕舞っているわたしの傍に寄ってきた。
「ちょっと付き合って」
耳もとで囁くと、保健室の方へ廊下を進んでいく。「あ、またあとでね(^_^;)」とロコには言って、ナースチャの後に続く。
「こっちよ」
「え、志忠屋に行くの?」
ナースチャが指差したのは東側の階段と保健室の間にある倉庫の部屋。最近は使わないけど、志忠屋にワープするときに使っていたテレポ部屋。
「ううん、ちょっとね……(*´∇`*)」
張り付いたようなな笑顔で部屋に入ると、ナースチャはこの世の終りというような顔に変わった。
「たいへんな人が来ることになった(;;゜□゜;;)!」
「え、だれ? っていうか、ちょ、落ち着いて!」
わたしの肩をゆすぶる手を、とりあえず離す。
「あ、ごめん」
「なにがあったの?」
「これよこれ!」
と言って、ナースチャは自分のとわたしのカチューシャを指さした。
「え、カチューシャ?」
「そうよ、カチューシャがやってくるのよ!」
「え? え?」
話が見えなくて「え?」を重ねてしまう。
「そのカチューシャ、晴天さんが持ってきてくれたんでしょ?」
「あ、うん、ク〇ネコの宅配に化けて」
「ああ、やっぱ慎重なんだ、そうだよね……そうだよね……」
「え、で、だから?」
「カチューシャ! あ、カチューシャっていうのは愛称なの、ロシアでよくある。メグリのことはみんなグッチって呼ぶでしょ、博子はロコだし、アナスターシアはナースチャだし、そんな感じ」
「あ、ああ……」
「Екатерина II Алексеевна!」
「日本語的に言ってくれるかなあ(^_^;)」
「えと……エカテリーナ2世アレクセーエヴナ! わたしのヒイヒイお祖母さん!」
「え、ああ、ご先祖様的な?」
日本は四代もさかのぼればご先祖さまだ。
「ああ、うん。ロシアをあんな大国にした張本人というか功労者で、日本で言えば徳川家康みたいな」
「立派な人なんでしょ? 名前、聞き覚えあるし」
「あ、うん。ピヨートル大帝と並ぶような人。あちこちに銅像立ってるし。そのカチューシャがね、やってくるのよ! それも、この昭和の日本にわたしが居るのを嗅ぎつけたって話しで!」
「え、それってぇ……」
「わたしにロマノフ朝を再興しろとか、きっと、そんな命令しにくるのよ。ヒイヒイ孫なんて、家来も同然だからね。自分はナースチャの後ろであーだこーだって命令するつもりなのよ!」
「で、いつやって来るのよ? って前に、それと、このカチューシャは?」
「ああ、これはエカテリーナに敬意を表すため」
「え、嫌な人なのに敬意?」
「いちおう、ロシアの女帝だからねぇ……」
なんか腰砕けになってパイプ椅子に座り込んでしまう。なんか、三蔵法師に金輪を付けられた孫悟空みたい。
「敬意って、わたしも?」
ナースチャの横に腰掛ける。寄り添っているように見えるかもだけど、正直怖い。
「内緒だけど、魔力除けの意味もある。ヒイヒイお祖母ちゃんは特級魔法使いでもあるし、即死魔法とか石化されたりとかは防げるみたい」
「そうなんだ……で、そのヒイヒイお祖母ちゃんは、いつやって来るの?」
テレポ部屋の会話は悪魔でも神さまでも盗み聞きされないんだけど、思わずヒソヒソ話になる。
「分からない、道を歩いていて出くわすか、先触れとかがあって、逃げられない状況作って姿を現すか。たぶん無いとは思うけど、志忠屋にお客として現れるか」
「志忠屋はタキさんいるし、猫又もペコさんも……」
「うん。でも、タキさん『儂もかなわんかもしれん』と言ってたし」
「ああ……」
晴天も宅配に化けてやってきたもんなあ。
「とりあえず、そういうことだから、気を付けてね……ごめん、時間取らせて」
「ううん……そろそろ教室行こうか?」
「う、うん」
教室に行くとオソロのカチューシャなんで注目されたらどうしようと思ったけど、地味な紺色になっていたので、ロコにウフフと笑われるだけで済んだ。
チャイムが鳴って、担任の吉村先生が入って来る。
「ええ、今日から転校生が入ってきます。仲良くやってください、どうぞ……」
吉村先生らしい簡単な前振りで転校生が入って来る。
え、外人さん?
それは、大柄な白人の女の子、いっしゅんナースチャのヒイヒイお祖母ちゃんだったらどうしようかと思ったけど、その子はドイツとかイギリス系の感じがした。
「今日からいっしょに勉強させていただきます、ゾフィー・アウグステ・フリーデリケです、よろしくお願いいたします」
笑顔で自己紹介すると、片足を少し引いてお辞儀、優雅な所作に、自然な拍手が起こって、二秒ほどでみんなに笑顔を返した。
「席は、真ん中の一番後ろに座りなさい」
「はい、先生」
シャキッと応えると、アルカイックスマイルをたたえながら席に着く。
よかった、取り越し苦労だった(^_^;)。
☆彡 主な登場人物
時司 巡 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子 3年1組 クラスメート
辻本 たみ子 3年8組
高峰 秀夫 3年6組
吉本 佳奈子 3年4組 バレー部
横田 真知子 3年8組 リベラル系女子(MITAKA初代代表)
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
ナースチャ アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
ユリア ナースチャを狙う魔法少女
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 3年学年主任
先生たち 花園先生:1・2年の時の担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史・3年1組担任:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
妖・魔物 アキラ 戦艦石見 藍(アオ、高松塚の采女)
その他の生徒たち 滝沢 栗原 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人




