215『由比ケ浜の戦い』
巡・型落ち魔法少女の通学日記
215『由比ケ浜の戦い』
それはエメ〇ンシャンプーの街頭インタビューのクルーだった!
右手にシャンプー、左手にマイク持った七三分けのオッサン、令和の倍はあるだろうカメラを担いだニイチャン。たぶんオープンリールのいかついレコーダー、それを斜め掛けにして毛虫のお化けみたいなマイクを突き出してくる音声さん、それに加えてディレクターとADのニイチャン。
基本は令和と変わらないロケのクルーだけど、装備がせいぜいトランジスターしか使ってないだろうアナログのごっつい機器。ADは肩に釣りのアイスボックスみたいなの掛けていて半開きの口からはシャンプーとリンスが覗いている。
「素敵なポニーテールとボブでいらっしゃいますが、ご姉妹でしょうか?」
「あら、どうしよう(#^〇^#)!」「うわぁ、えと(〃´∪`〃)」
反射的にブリッコかましてしまう、お祖母ちゃんとわたし。
場所が若宮大路なもんだから、道行く人たちが――あ、あのCM!――やっぱ美人に声かけるんだ!――お姉さんの方がきれい!――こっちにも声かけてぇ!――シャンプーちょうだい!――リンスとセットでぇ!――とか声には出さないけど好奇心と羨望のガン見やらチラ見やら。
「鎌倉へは観光ですか?」
こいつ、無駄に歯が白い。本職じゃなくてタレントか? それとも化物?
「いえ、宮之森からです、ご存知ですか大浜の奥の方の(^▽^)」「あっちの方です(^▭^)/」
「あ、先日ロケに行きました」
あ、そうだよ、お祖母ちゃんは、こないだ体験済みのはず? そうか、今日は聖子ちゃんカットに天地真理風に化けてるから分からないんだ!
「いやはや、湘南の街は美しい方が多いですねえ」
「あはは(^▽^)」「どうしましょう(^▢^)」
「髪質調べさせていただいてよろしいでしょうか?」
言いながら、例のヘアアイロンを近づけてくる。
「ちょっとよろしいかしら」
「え?」
お祖母ちゃんは、ヘアアイロン持ったリポーターの手首を掴んだ。意表を突かれて、軽くフリーズするリポーターのオッサン。
「たった今まで持ってたシャンプーはどこに行ったのかしら?」
右手のシャンプーが測定機に化けている。化物確定。
こいつら魔法少女なめすぎ!
「こいつら、ナースチャを狙ってる敵どもだよ!」
「くそ、放せ!」
「放すもんか」
ビシ!
嫌な音がしたかと思うと、リポーターは腕をお祖母ちゃんの手に残したまま跳び退った!
同時に、若宮大路の風景がグニャリと歪み、景色が左右に寄った真ん中に鈍色の亜空間が現れて広がっていく。
「グエェェェ」「グゴゴ」「グルル」「ゴゴゴ」「ゲルル」「ゲェェェ」
クルーたちは、人の形のまま化け物化してしまった!
「こいつら戦闘に特化したミュータントどもだ! 注意して戦いな!」
「う、うん」
お祖母ちゃん、前に立ってくれてはいるけど、わたしを擁護する姿勢じゃなくて、バディーといっしょにフォーメーションを組んだ格好だ。
「回り込め!」
言うと同時にリポーターに切り込む! 思わず右手で庇おうとするリポーターだけど、やつの右腕はすでに無い。
「グギィ!」
悲鳴を上げて飛びのいた背中を如意で叩きのめす!
パッカーーン!
ぶっ叩くと黒い分子に分解、霧のように拡散して消えていく。
ギエーーー! グエーーーー!
爬虫類みたいな声を上げて距離をとると、残り四体のミュータントはわたしとお祖母ちゃんを取り囲もうとする! ADミュータントが移動しながらボックスのシャンプーを仲間に投げる。
「させるかあ!」
一声吠えると、囲みこまれる寸前にADをボックスごとぶちのめす!
ギョエ!
ADはクーラーボックスで防御しようとするが、お祖母ちゃんは目前で宙返りしてロッドを取り出してADの脚を薙ぎ払う!
ギョエーーー!
脚を粉砕されながらもシャンプーのボトルを握るミュータント!
プシューーーーーーーッ!
シャンプーがすごい勢いでお祖母ちゃんの聖子ちゃんカットをかすめる!
ジュワ!
「お祖母ちゃん( "ºДº")!」
聖子ちゃんカットの頭頂部が蒸発してしまう!
セイッ!!
秒速で沸騰したお祖母ちゃんはロッドでADを薙ぎ払う! ADの体は上下に切断! 直後に焼けた鉄に水をかけたような音をさせて分子に分解、霧消していく!
負けてられるかあ!
如意を取り出し、ジャンプしながらトンボを切ると、ちょうど後ろから毛虫マイクを振りかぶってきた音声!
ブギャ!
背中を縦斬りにすると、勢いが強かったのか、こいつは瞬時に霧消!
「やったあ!」
ガッツポーズをとると「本性はマイクの方だよ!」とお祖母ちゃん!
「え?」
驚きながらもバク転からのジャンプ!
なんと毛虫マイクが目を剥いて飛びかかって来る!
シャーー!
毛虫の口が開いて――食われる!――思った瞬間、毛虫は開けた口のところから二つになって消えていく?
「間に合った!」
ペコさんが、宝剣を振り切った姿勢で笑顔を見せる。唇の端が引きつってるけど、見なかったことにして「ありがとう!」とお礼を言って、残ったディレクターを追う!
プシュ! プシュプシュプシュ!
シャンプーやリンスを撃ちながら逃げるので、真っ直ぐに追いかけられず、敵は由比ガ浜を超えて海に逃げてしまう!
「追うよ!」「「おお!」」
お祖母ちゃんを先頭に、わたしとペコさんが追う!
「キエーーーー!」
ザップーーーン!
奇声を上げて海に飛び込むミュータント!
くそ、海中の戦闘は未経験、お祖母ちゃん頼むよ!
と……お祖母ちゃんもペコさんも飛び込もうとはせず、逆にミュータントが飛び込んだポイントを大きく周って様子を見ているというか手をこまねいている。
なんで?
わたしよりもベテランのペコさん、化けるほどベテランのお祖母ちゃん、二人そろってどうして?
すると、二人は急上昇! したかと思うと……ドッカァァァァン!
大きな水柱が立った……。
「アキラが魚雷で片づけてくれたんだよ、飛び込んだら巻き込まれるところだった」
ちょっと疲れた感じで言うと頭に手をやるお祖母ちゃん。
聖子ちゃんカットの頭の上を吹き飛ばされてザビエルみたいになっている。
ああ…………(;'∀')
さすがに掛ける言葉が無い……。
「あ、わ、わたしはこれで(;'∀')」
ペコさんは申し訳ないという感じで宮之森の方へ飛んで帰ってしまった。
バサ
え?
なんと聖子ちゃんカットはウィッグで、取っ払った下からいつものお祖母ちゃんの髪が出てきた。
「髪は女の命だからね、ちゃんと防御はしているさ」
「やっぱりお祖母ちゃんはえらいね(^_^;)」
「それよりも、ナースチャが負担に思わないようにフォローしておいてやるんだよ」
「う、うん」
「ナースチャのことが無くても、やつらは襲ってくるからね。そうだろ?」
そうだ、ユリアたちが襲ってくるようになったのは、ナースチャがやってくるずっと前からだ。
ザザーーーーーーー
穏やかに波がうねっている。
けれど、浜辺や街の時間は停止していて、浜に着地しても砂を踏んだ感触はあるものの音がしない。
「……せっかく由比ケ浜に出てきたんだ、ちょっと海岸を散歩して帰ろうか」
「う、うん……」
返す言葉も思い浮かばずに、波打ち際を歩く。
ザザーー ザザーー ザザーー
波の音だけがする世界を黙って歩く。
もうちょっとで稲村ケ崎、折り返すのかと思ったら後ろで気配。
振り返ると、夏の羽織に袴姿のお爺さんが歩いてくる。このお爺さんは、ザク、ザクっとちゃんと音がする。近づいてくると、風に羽織や袴のハタハタ戦ぐ音もしている。
「ちょっと待っててね」
そう言うとお祖母ちゃんは、後ろに戻ってお爺さんと一言二言。
ていねいにお辞儀するお祖母ちゃん。お爺さんもカンカン帽を取って小さくお辞儀。
お爺さんは小さく微笑んで回れ右。
それから、お祖母ちゃんととりとめのない話をして家に帰ったよ。
☆彡 主な登場人物
時司 巡 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子 3年1組 クラスメート
辻本 たみ子 3年8組
高峰 秀夫 3年6組
吉本 佳奈子 3年4組 バレー部
横田 真知子 3年8組 リベラル系女子(MITAKA初代代表)
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
ナースチャ アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
ユリア ナースチャを狙う魔法少女
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 3年学年主任
先生たち 花園先生:1・2年の時の担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史・3年1組担任:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
妖・魔物 アキラ 戦艦石見 藍(アオ、高松塚の采女)
その他の生徒たち 滝沢 栗原 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人




