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巡(めぐり) 型落ち魔法少女の通学日記  作者: 武者走走九郎or大橋むつお
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211『今年の芸術鑑賞は「平家女護島(へいけにょごのしま)」』

めぐり・型落ち魔法少女の通学日記


211『今年の芸術鑑賞は「平家女護島へいけにょごのしま」』 





 中間テストも終わって、ちょっと一息の5月22日、今日は年に一度の芸術鑑賞だ。



 一年の時は体育館で能と狂言、二年の時も体育館で落語を聴いた。


 二年とも体育館で、中身も古典芸能だったし、しょうじき退屈だった。能なんて、始まって5分もしないうちに寝ちゃったし(^_^;)。落語も『ナンチャラ仏壇』てやつで、人情噺って言うんだろうか、辛気くさかったことしか覚えていない。


 昭和の学校は、芸術=古典芸能と思い込んでるみたい。学校で、こんなのを強制的に観せたら、かえって嫌いになって社会に出てから敬遠してしまうんじゃないかと思う。



 そして、三回目の今年は、大浜市民会館を借り切って、ミュージカル! だったらよかったんだけど、今年は古典芸能の極めつけの歌舞伎だよ(-_-;)。


「あ、涼しいですよ!」


 ロコが小学生みたいな声をあげる。


 そう、今年は市民会館なものだから、ちゃんと冷房が効いている。令和は温暖化だとかウルサイけど、昭和47年だって、梅雨の寸前で、けっこう蒸し暑い。まあ、これだけで今年は当たり。開幕5分で寝てしまっても、寝汗をかくってこともないだろ。快適なお昼寝はできそう。


 でもって、今日はペコさんが生徒に化けて付いて来ている。


「ちょっと情報が入ってね……」


 それしか言わないけど、分かってる。


 ユリアは宝剣を落っことしてウクライナに行っちゃったけど、ソ連が諦めたわけじゃない。ううん、ユリアも――任務に命かけてます!――ってところがあるから、戻ってきていても不思議じゃない。


 まして、今日は市民会館。結界も張られてないしね、開演中は真っ暗闇だし。


「用心に越したことは無い!」


 意気込むペコさんは制服姿も板について本物の女子高生みたい……っていうか、ペコさんの実年齢は知らないし、けっこう謎の人なんだ。


「あれも、ちゃんと装備してるし」


 左耳を指さすと、例の宝剣が格納されてる。わたしも思わず右耳の如意を確認してしまった(^_^;)。



 今日の演目は『平家女護島へいけにょごのしま』という。



 開演のブザーが鳴って緞帳が上がると、離れ小島の岩場と掘っ立て小屋。


 ああ、鬼界ヶ島なんだ……と分かる私はチョー優秀。と言いたいけど、事前に調べた。


 というのも、ナースチャが「調べてから観たい!」と宣言したから。やっぱり、ロシアのお姫さま、何事にも真摯に取り組まれる。五分とかからずにMSスマホ(魔法少女スマホ)で検索して、レポート用紙に要約して書き写す。


「わあ、すごいですね!」


 そこへロコも加わったものだから、さらに熱が入った。ロコは自分が気にかかったものはスクラップブックにとっておいたり、イラストを付けたり独自にまとめるのが趣味。合格発表の日に、日本初飛行のジャンボジェットが学校の上空を飛ぶことを調べてカメラ用意する子だからね。

 だから、とてもいいものができあがって、文化委員長が「使わせて!」と全校生徒分刷って前日に配った。

 まあ学校のルーチン行事、生徒全員が読むわけないんだけど、それでも一割ぐらいはしっかり読んでくれて、半分近くはザっとでも目を通している。


 開幕前の観客席は去年や一昨年のそれとはちがう。十円男とかの男子の一部は冷房が心地よくて始まる前から寝てるけど、ほぼほぼ初めて観る歌舞伎に関心を持っているみたい。


 軽やかなお囃子にのって、花道に汐汲み娘の千鳥が汐汲みの桶を両てんびんにして現れる。


 歌舞伎だから女形おやま、みんなから「おお……」と軽いどよめき。


 舞台の風景に気をとられていたら、いきなり後ろから現れたことの驚き。それと、女形の中村小雀さんの「ほんとに男!?」と思わせる化けっぷり。信じられないけど、喉ぼとけも出てなかったし。


 人間は体を捻った時に体の線が強調されるんだけど、それを自然に演技に組み込んで、ナースチャなんか何べんもプリントと小雀さんを見ていた。


 ああ、見たこと思ったこと全部書いてると果てしないから、要約するね。


 鬼界ヶ島というのは、九州の南の島の流刑地で、ここに鹿ケ谷の陰謀とかで平家を倒そうとした坊主の俊寛たち三人が島流しになってる。平清盛の時代だから1000年くらいのむかし。


 いちおう無期限の流刑だから、清盛が死ぬとか平家が滅びるとかしないと帰れない。まあ、当時平家は盤石だと思われてたから、もう男たちは達観して島の生活に馴染みまくってるわけ。


 そこで、成経っていちばん若いのが汐汲みの千鳥といい仲になるわけ。死ぬまで、いや死んでも島を出られないのなら、彼女も居た方がいいし家庭だって持ちたいと思う。まして若い成経はそう思うよ。俊寛ともう一人も応援するしね。


 そんなある日、本土の方から船に乗って平家の役人たちがやってくる。


 役人たちは「このたび、おまえたち流人はご赦免になって、都に帰れることになった」と告げる。まあ、最初は二人だけの御赦免で「そんな殺生な(-_-;)」なんだけど、あとで別の使いがやって来て三人とも都に帰れることになる。


 しかし、ここで問題。せっかく結婚して島に根を下ろそうとしていた成経、自分は島を出られるけど、千鳥は連れていくことができない。島を出られるのは罪人の三人だけと決まっているのだ。


 ざっと結論を言うと、俊寛は役人の瀬尾を殺して(殺すだけの理由はあるんだけどね、都に残してきた妻が亡くなったこととか、瀬尾ってのがいやな奴だったり)再び罪人になって、自分の分を千鳥に譲ってやる。


 めでたしめでたしなんだけど、みんなが船で島を離れていく、島に残るのは自分一人。その寂寥感に俊寛は岩場に上り、沖に消えていく船にワナワナと手を振る。


 すると、岩場を取り囲んでいた地面や小屋やらがあっという間に消えていって海に変わる、岩場で手を振る俊寛だけが舞台に際立ち、周囲は海ばっかし。この変化を黒子さんや裏方さんたちが人力だけで、ほぼ瞬間でやっちゃう。主役の俊寛は瞬間のモジリか!? って思うくらいに早くてスペクタクルだった!


 まあ、芸術鑑賞も三年目にしてアタリ!


 そして心配していたユリアたちの襲撃も無くてメデタシメデタシなんだけど、ちょっと後日談の予感。


 というか、そっちの方が本編?


 とりあえずは乞うご期待。


 


☆彡 主な登場人物


時司ときつかさ めぐり   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる

時司 こたえ         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉のすぐりになる

滝川                志忠屋のマスター

ペコさん              志忠屋のバイト

猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)

宮田 博子ロコ         3年1組 クラスメート

辻本 たみ子            3年8組 

高峰 秀夫             3年6組 

吉本 佳奈子            3年4組 バレー部

横田 真知子            3年8組 リベラル系女子(MITAKA初代代表)

加藤 高明(10円男)       留年してる同級生

ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)

ユリア               ナースチャを狙う魔法少女

安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目

藤田 勲              3年学年主任

先生たち              花園先生:1・2年の時の担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史・3年1組担任:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)

須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている

早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん

時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  

妖・魔物              アキラ  戦艦石見アリヨール  藍(アオ、高松塚の采女)    

その他の生徒たち          滝沢 栗原 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)

灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

 

  


 


 

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