210『例の宝剣を返しにいったんだけど』
巡・型落ち魔法少女の通学日記
210『例の宝剣を返しにいったんだけど』
二か月ぶりの近鉄飛鳥駅。
今度は失敗しないように、改札を出たところに建っている『飛鳥駅』の看板の裏に現れる。三月に来た時は高松塚古墳を目指す列のど真ん中に出現してしまい、ちょっとした騒ぎになったからね。
「……でもないようよ」
同行してくれているペコさんが斜め前を示すと、小学校二年ぐらいと幼稚園ぐらいの姉妹が目を丸くしている。
「笑顔よ、笑顔」
「こんにちは、いいお天気ね~(^▽^)/」
姉妹に声をかけると「ヨシコ、サチコ、こっち!」という女の人の声がして、愛想笑いをして、お姉ちゃんが妹を庇うようにして行ってしまった(^_^;)。
駅からは相変わらず、万博顔負けというくらいのファンが丘の高松塚を目指している。
令和だったら、こういうのに並ぶのはお年寄りばかりなんだろうけど、昭和47年は若い人や、今みたく家族連れの姿も多い。
「いやあ、付いて来てもらってよかったです。自分ひとりだったら、さっきの子たち、泣くかひきつけ起こすかしてたかも」
「いやあ、わたしの我がままでついて来てるんだから気にしないで」
ペコさんは、ちょっと不思議な人だ。
最初の頃は志忠屋のバイトのおねえさんだと思っていた。五回に一回くらいは店に居なくて、それはシフトの関係だと思っていたんだけど、度々、わたしのピンチの時に現れて助けてくれれた。その時のペコさんは、バイトの時と違って、まるで女忍者。それも、下っ端のくノ一とかじゃなくて、上忍とはいかなくても中忍、実行部隊のお目付け役的で、アイ・マイ・ミーの三人をビシッと指揮している。
タキさんは「あいつ009や」とか「ララ・クロフトかも」とかいいかげんなことを言う。本人は「別の時代に通ってるのはグッチだけじゃないかもよ」と意味深なことを言ってはぐらかす。
その角を曲がったら発掘現場というところで声がした
――後ろの道に入って――
忘れもしない青さんの声。
青さんと言うのは高松塚古墳の壁画に描かれてる青い官女服の女の人。
ちなみに、両手でラクロスのスティックみたいなのを捧げ持っていて、それを如意っていうんだけど、その如意を「じゃあ、記念に(⌒∇⌒)」的な気楽さでくれた。これが、わたしのメインウェポンになっているのはみなさんもご存知のとおり。
見学者の人たちが左に曲がるところを、わたしたちは右側の林に。
気づくと、そこは最初に青さんに会ったところ……と思ったら、正面の木の陰から青さんが現れた。
「こんにちは、どうやら願いを叶えてくださったようですね(^▽^)」
「あ、分かります?」
「はい、風呂敷で包んでくださってるけど、形と言いお持ちになった具合といい、あの宝剣ですものねぇ」
「あ、そか(^_^;)」
さっき女の子が怯えたのは、突然現れただけじゃなくて、この宝剣のせいかもしれない。
「あ、こちらは、いつもお世話になってるペコさんという方で……すみません、お知らせもせずにお連れして……」
「ペコです、勝手に付いてきました」
「いいえ、いいのですよ。メグリさんはお供とふたりと登録してありますから」
「あ、それは恐縮です。では、まず宝剣をお返しいたします」
「はい、では、検めさせていただきます」
風呂敷を解くと、シャランと剣を抜き放つ青さん。
ナヨっとした官女さんかと思ったら、剣を抜く姿もサマになり、柄のところから剣先まで検める目の鋭さと言い、ひょっとしたら単なる官女じゃなくて護衛を兼ねている女剣士なのかもしれない。
「たしかに、我が主の宝剣。取り返していただいて本当にありがとうございます」
「は、はい。ご期待に応えられてわたしも嬉しいです……」
静かな表情だけど、なんだか熱のこもった目で圧倒されそう……。
「高松塚古墳、大した人気ですね」
ペコさんが繋いでくれる。
「はい、よい時代に発見されたと、我が主も喜んでおられます」
「あの、葬られているお方はどなたなんでしょう?」
わたしも調子に乗って聞いてみる。まあ、一般人と言うか女子高生の平均的な関心の持ち方って感じ。
「それは……(-_-;)」
軽い気持ちで聞いたんだけど、正面から受け止めて当惑する青さん。
「むかし、NHKの番組で『わたしの秘密』って番組があったの」
ペコさんが斜め上に話題を振る。
「「わたしの秘密?」」
「はい、正体を隠したゲストが出てきてね、それを出演者がいろいろ質問をして、その正体を当てるって番組」
「ほお」「なんだか面白そう」
「その『わたしの秘密』に上皇陛下のお姉さまがゲストに出られたことがあるの」
「え、ほんと!?」
上皇陛下と言えば平成時代の天皇陛下で、引退される時のお言葉がテレビで流されたのを覚えている。
「ええ、昭和時代だったから、御所に昭和天皇や皇族の方々もお集まりになって番組をご覧になって楽しまれたわ」
「上皇様にお姉さんがいたなんて初めて聞いた」
「うん、戦時中にお嫁に行かれたからね……正体が分かった時は、スタジオもお茶の間も皇居も暖かい空気で盛り上がったわ」
「へえ、そうなんだ!」
「昭和とはそういう時代なのですねえ……」
「はい」
ちょっとシミジミした青さんは、フト顔を上げ、林の奥に耳を傾けて、こう言った。
「ペコさん」
「はい?」
「主がお顔を見たいと仰せです、よろしいでしょうか?」
「はい、光栄です」
え、なに、この展開?
「では、こちらの方へ。メグリさんは、少しの間、ここでお待ちください」
「ごめん、ちょっとだけ待っててね」
そう言って二人は林の奥に進んでいき、わたしはしばらく待たされた。
十分ちょっとしてペコさんは戻ってきた。
「やあ、お待たせ」
「おかえり……っていうか、手に持ってるのは……」
「アハハ、なんでかわたしが預かることになっちゃった」
ペコさんは、さっき青さんに返したばかりの宝剣を持っていた。
なんだか、女子剣道部のエースが部活の帰りに竹刀を持っているようで、とても自然だ。
「もうひとつ、いい?」
「うん、なに?」
「高松塚古墳は向こうなのに、なんで反対側の林の奥に行くわけ?」
「ああ、あっちは騒がしくて落ち着かないからねえ」
「え、あ、そうなんだ」
「それと、ナースチャのことも、しっかり守ってやってくれって。言われるまでも無いけどね」
「う、うん、そうだね」
林の入り口まで戻って、二人で深々とお辞儀をして家に帰った。
今度は、無事に戻り橋のたもとに着いたよ(^_^;)。
☆彡 主な登場人物
時司 巡 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子 2年3組 クラスメート
辻本 たみ子 2年3組 副委員長
高峰 秀夫 2年3組 委員長
吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
ナースチャ アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
ユリア ナースチャを狙う魔法少女
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 2年学年主任
先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
妖・魔物 アキラ 戦艦石見 藍(アオ、高松塚の采女)
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人




