208『ユリアに奇襲攻撃される』
巡・型落ち魔法少女の通学日記
208『ユリアに奇襲攻撃される』
戻り橋を渡りはじめると暦が気になった。連休からこっち、ちょっと曜日感覚がおかしい。
今日は5月13日……金曜日だっら縁起が悪い。
こないだは、ボールを拾おうとしてナースチャが狙撃されてしまった。ちょうどおニューの中間服を着ていたので尻餅をついただけで無事だった。ナースチャの制服は対魔法の特注品なんだ。
でも、狙撃した奴は、ソ連の魔法少女ユリア。次は何を仕掛けてくるか分からない。
よかった、金曜日じゃない……でも、仏滅(-_-;)。
「よし、気合い入れて行こう!」
スタスタと歩調を上げる!
イチ ニ サン シ…………ジュウ ジュウイチ ジュウニ……ジュウサン!?
いつもは15歩のところを13歩、ちょっと縁起悪い……と思った時には橋を渡り切ってしまっていた。
で……なぜか巨大な銀色の円柱の中に居る。円柱の中は壁面に沿って螺旋の階段があって、天辺のあたりに出入り口の鉄扉がある。
え、お母さんがやってる火星の実験施設?
いろいろ魔法少女の能力が芽生えてきている今日この頃。ワープだとかテレポだとかが使えるけど、まだ制御しきれてなくて、予想もしないところに出たりする。この二年音沙汰の無いお母さんに「文句の一つも……」という潜在意識で飛んでしまったか、わたし!?
でも、今はテレポもワープも念じてないけど。
「フフフフ……わたしが呼んだのよ」
「ゲ、ユリア!?」
鉄扉のところにユリア。
右手に高松塚の宝剣、左手にトカレフ……背中に背負ってるのはカラシニコフ。
わたしは丸腰……いや、右耳に如意があるけど、位置的にも装備的にもユリアが有利。
「アハハ、ユリアが有利。間抜けな感想だけど、的確で実感がこもってるから花丸をあげるわ」
「ここはどこなのよ、ソ連の火星旅行実験施設!?」
「我が祖国を高く評価してくれて嬉しいけど、ソ連には、まだそこまでの力は無いわ……ここは宮之森のガスタンクの中よ」
「ガ、ガスタンク!?」
思い出した。ガスタンクは茶筒の円筒形、一年の時、どこかの魔法少女がタンクの中で戦っているのを電車の中から見たんだ!
「今はガスは無いから戦っても爆発する心配はない。いくぞ!」
ユリアがダイブ! わたしはジャンプ!
カキーーン!
交差する瞬間、如意と宝剣が火花を散らす! 確かにガスは抜けている。少しでもガスが残っていたら、大爆発していただろう。
ダンダンダン! チュインチュチュイン!
トカレフが火を吐き、わたしは、その弾を如意で弾き返す。
「フン、やっぱり腕を上げたわね……今度はこれだ!」
ダダダダダ! ダダダダダダ!
カラシニコフが連射される! さすがに弾き返せなくて跳躍して躱す!
「フン、身のこなしもコタエ(お祖母ちゃん)に並ぶほどにはなったか。だが、カラシニコフは避けただけだ、弾き返す技量には達していないようだなあ!」
言い切ると同時に跳躍し、タンクの内壁を身軽に蹴って迫って来る!
タタタタタタ カカカカカカカ タタタタタタタ カカカカカカカカ
内壁を互いに走る!
わたしは軽やかにタタタタタタタ、ユリアはカカカカカカカ。
「フン、わたしの五割り増しはあるようね」
「技量か? スタミナか? どっちも、このユリアが勝ってるぞ!」
「どうかなぁ……」
「いまのわたしは、貴様より5%は速いぞ」
確かに、もう数十秒走ったら追いつかれてしまう。
「ちがう、体重よ!」
「なにぃ?」
「重い分、蹴りが強くなってしまうのよ、カカカカカカカカってね!」
「いいかげんなことを!」
タタタタタタタタタ
気にしているんだ、蹴りがわたしと同じになって遅れ始めてる。
「くそ!」
ドン! ドドン!
内壁を三回蹴って、わたしの横に出てくる。
「トリャー!」
ガキンガキン!
如意と宝剣がぶつかって火花を散らす!
「セイ!」 チュイン 「トリャー!」 ガキン! 「セイセイ!」 チュインチュイン! 「ドリャー!」 ガキンガガキン! ガガガガガガガガガ!
くそ、なんて馬力だ! このままじゃ押し込まれる!
「グゴォォォォォ!!」
ヤバイ、リミッター外してきやがったぁ!
ドゴン! ドゴゴン! ドッコーン!
早さはないけど、渾身の力で打ちかかってくる! あれは如意では弾き返せない! 視界の端に見えた内壁はユリアの蹴りを受けたところが凹んでいる。
タタタタタタ! ドゴゴン! ドッコーン! タタタタタタタ ドッコーン!
まずい、次は避けきれないかも!
ダンダンダンダンダンダン! ダンダンダンダンダンダン! ダンダンダンダンダンダン!
わたしのでもなくユリアのそれでもない弾着音がして、わたしとユリアは咄嗟に反対方向に逃げた!
「なに奴( ゜Д゜)!?」
「あ、トコさん( ゜Д゜)!」
ペコさんがM5をぶっぱなしながら階段を駆け下りてくる!
ユリアはジャンプを繰り返しながら回避する。しかし、上の鉄扉からは、M5の射撃姿勢のままアイ・マイ・ミーの三人も駆け下りてきて、ユリアは絶体絶命!
「ク、クソ!」
ユリアが一瞬の迷いを見せる。
今だ!!
渾身の力でジャンプし、一瞬の迷いを見せたユリアに如意の斬撃を食らわせる!
「小癪なあッ!」
カッキ―ン!
如意を弾き返そうと宝剣を大きく振りかぶるユリア! 刹那、横に躱す。ユリアは如意を押しつぶす勢いのまま後ろに飛び退る。
え?
手の中に残った宝剣に、ほんの一秒固まってしまう。その一秒でユリアは鉄扉まで跳躍して、あっという間に出て行ってしまった! アイ・マイ・ミーの三人が直にその後を追ってタンクを出て行った!
「だいじょうぶ!?」
ペコさんが着地しながら声をかけてくれる。
「あ、うん……でも、なにがなんだか……(;'∀')」
ユリアのターゲットはナースチャのはずだ。それを全力でわたしに襲い掛かってきたのは正直理解が追いつかない。
「ユリアのやつ、緊急招集がかかったみたいなの」
「緊急招集?」
「うん、クルスク方面」
「クルスク?」
「時間軸は違うんだけど、たぶん、ウクライナとの戦争ね。向こうもいろいろ錯綜してるみたい」
「そうなんだ」
「でも、宝剣は取り戻せたみたいね」
「あ、うん……」
確かに宝剣をタネにして逃げなければならないところまで追い込まれてはいたんだ。
それからアイ・マイ・ミーの三人も戻ってきたけど、やっぱり逃げられたみたいだった。
その日、昭和の宮之森はガスタンクの不具合で夕方までガスが止まってしまった。
☆彡 主な登場人物
時司 巡 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子 2年3組 クラスメート
辻本 たみ子 2年3組 副委員長
高峰 秀夫 2年3組 委員長
吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
ナースチャ アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
ユリア ナースチャを狙う魔法少女
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 2年学年主任
先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
妖・魔物 アキラ 戦艦石見 藍(アオ、高松塚の采女)
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人




