201『雪国・1』
巡・型落ち魔法少女の通学日記
201『雪国・1』
「今度は川端ですよ!」
お早うの挨拶も無しにロコが叫ぶ。
「え、川端?」
お早うの「お」を呑み込んで、頭の中に寿川の川べりが浮かんだ。寿川はわたしにとっては時空の川で、毎日寿川を渡って昭和の宮高(宮之森高校)に通っている。先月は、川沿いでユリアに追われてるナースチャを助けて大立ち回りをやったとこだし。川端という単語はセンシティブでデンジャラスだ。
「夕べ、川端康成が自殺したんですよ!」
「え、ああ……」
人の苗字と分かって、センシティブとデンジャラスは削除されたけど生返事になる。川端ヤスナリ……言われてもピンとこない、誰だっけ?
「そうですよねぇ……ショックが大きいと、すぐには感情が付いてきませんからねぇ」
「あ、えと……」
「いやぁ、川端康成は三島由紀夫とも親交がありましたからねえ、やっぱり三島の死を引きずっていたのかもしれませんねえ……あ、テレビでやってますよ!」
ちょうど電気屋さんの前に来たところで、通勤通学途中の人がショーウィンドウのカラーテレビに食いついている。
テレビは急きょ番組を変更して、川端康成のニュースを流している。
ロコが言った通り、三島との関係と影響についてコメンテーターやら解説委員が固い表情で語っている。
『川端さんはノーベル文学賞をとられた方でしょ、三島もノーベル賞には何度も候補に挙がっていましたし』『そうです「金閣寺」はその域に達していましたからねえ』『いやあ、この二人の文豪の喪失は大きいです』『あ、現場の逗子のマンション前と繋がりました』『こちら、現場の……』
現場は逗子のマンション、ここからは少し距離はあるけど近所。
「うう、見ていたいですけど」
「行こうか、学校遅れちゃうね」
「はい、休み時間に演劇部のテレビ見せてもらいましょう」
「うん、ええと、川端康成の作品て……ナントカの踊り子だっけ?」
乏しい知識を絞り出して『踊り子』が付いていたのを思い出す。
「はい『伊豆の踊子』ですね。でも、極めつけは『雪国』でしょ。何と言ってもノーベル賞ですからね」
「雪国……」
「書き出しがいいんです。国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった……」
いい表現……思った瞬間、わたしはトンネルの中。
遠くで「グッチ……」とロコの声がして、それが瞬間で消滅すると、出口の先、白い夜の底が見えるばかリ。
テレポート?
わたしの力は芽生えたばかり、ロコの熱気と電気屋さんの前でテレビに見入っていた人たちの圧、そして、やっと名前が思い出せる程度の、でも『国境の長いトンネル』『夜の底が白くなった』の銘文に触発されて能力が発動、とんでもないところにワープしてしまった……?
☆彡 主な登場人物
時司 巡 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子 2年3組 クラスメート
辻本 たみ子 2年3組 副委員長
高峰 秀夫 2年3組 委員長
吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
ナースチャ アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
ユリア ナースチャを狙う魔法少女
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 2年学年主任
先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
妖・魔物 アキラ 戦艦石見 藍(アオ、高松塚の采女)
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人




