172『近ごろ化学の授業は化学実験室』
巡・型落ち魔法少女の通学日記
172『近ごろ化学の授業は化学実験室』
二学期の終り頃から化学の授業は化学実験室。
と言っても、とくに実験をするわけじゃなくて、ずっと座学なんだけどね。
なぜかというと寒さしのぎのためなんだ……聞いたわけじゃないんだけどね。
先生は、あと一年で定年という富永先生。
終戦までは満州の中学で教えていたというんだから寒さには強いはずなんだけどね。
化学実験室にはストーブが二つある、実験室の前と後ろ。実験室だから、ガス栓は実験テーブルに一つずつあるしね。
窓のカーテンは閉められていて、カーテンをめくるとすき間のできる『横滑り窓』にはゴムのパッキングがしてある。隅っこではスタンド付きの扇風機が首を振って空気をかき回してくれて部屋が均一に暖まるように工夫がされている。
「精神論言わないところがいいですね(^▽^)」
ロコがストーブにあたりながら先生を褒める。部屋の暖かさに文句は無いんだけど、ストーブが点いてると、とりあえず集まってしまう(^_^;)。
「だよね、小学校の頃さ『体中顔だと思えば寒くない!』とか言われなかった?」
たみ子が言うと「うんうん」とか「そうそう」とかの合いの手が入って、「顔が寒いんだからしょうがないよねえ」とか言って笑う。
「ほんとうに寒いところに居た人は、精神論じゃなくて、きちんと対策してるものなんだね」
富永先生は半年かけて満洲から引上げてきたらしい。笑顔がそのまま顔のしわになったような人だけども、抑留もされずに引き上げられたのは相当な工夫と苦労があったと思う。
「独身だったからなんでしょうね」
真知子がポツリと言って、「「ああ……」」とみんなが納得。
親はみんな戦争を体験している。それも学童疎開とかじゃなくて、リアルに兵隊だったり女子挺身隊だったり。中には引揚者の親も居て、そういう機微は21世紀生まれのわたしには想像つかないところで理解してるんだ。
「春になったら、一年のときみたいに花見にいきたいわね」
加奈子が水を向けてきて思い出した。
おたふくでパンとか買って、みんなで宮之森城址公園に行ったんだ。
「そうですね、こんどはちゃんとしたお弁当持っていきましょう!」
ガチャ
ロコが小学生みたいに手を挙げた時、準備室との境目のドアが開いた。
富永先生かと思ったら、実習助手のAさん(名前憶えてない)がぶっきらぼうな顔で宣言する。
「先生のご都合で自習。ここは閉めるから、教室に戻って。いいわね」
そういうと、前のストーブを切って、こっちにやってくる。なんか、消されるのヤなんで、自分たちで消して廊下に出る。
背中を丸めたり、ポケットに手を突っ込んで廊下を行く。
化学準備室から教室へは三年の廊下を通る。
「半分もいないわねえ……」
加奈子が微妙に棘のある言い方をする。
「ああ、もうすぐ卒業ですからねえ」
そうなんだ。去年もそうだったけど、三学期になると三年生は半分も来ない。授業もほとんど自習みたいだし。
ルーズというかファジーというか。
図書室か学食という選択肢もあったけど、それは、なんだかいけないような気がして、みんな真面目に教室に戻った。
☆彡 主な登場人物
時司 巡 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子 2年3組 クラスメート
辻本 たみ子 2年3組 副委員長 伯父:武藤頼政
高峰 秀夫 2年3組 委員長
吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 2年学年主任
先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 長瀬(保健部長) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
妖・魔物 アキラ
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん 伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人




